(公社)日本コンクリート工学会では,「コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針-2013-」を,同指針2009の小改訂として刊行している。2009年の大改訂から13年が経過し,この間の新たな知見を加え,この度,「コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針 2022」を刊行した。この指針は,ひび割れに関心のあるすべての方が,ひび割れ発見から,調査,原因推定,評価,判定,補修・補強を体系化して行える指針である。本稿では同指針の内容を解説する。
プレキャストコンクリートは,強度発現を促進して早期に脱型等を行えるようにするため,蒸気養生を用いて製造されるが,過度にコンクリート温度が高くなると遅延エトリンガイト生成(DEF)による劣化が懸念される。本研究では,蒸気養生設備の実態調査および実際の製造を再現した条件で実験を行い,DEFを抑制するための温度管理方法を検討した。実験の結果より,蒸気を制御するための雰囲気温度の測定位置ならびに蒸気吹出口の仕様や位置に関する留意点を示した。また,部材が厚くマスコンクリートとしての検討が必要な場合には,製造条件によっては,DEFが生じうるコンクリート温度の目安である70℃を超えるおそれがあることを示した。
塩害を受けた鉄筋コンクリート構造物の補修には,セメントなどの無機系材料に鉄筋防錆性能を有した材料を添加した補修材料が広く用いられている。補修材料として多用途で用いられているエポキシ樹脂などの有機系材料を塩害対策材料として活用した例は少なく,この活用が可能となれば,多様な用途において塩害対策を講じることができる。本稿では,有機系材料であるエポキシ樹脂に塩分吸着剤を添加した補修材料「塩分吸着型エポキシ樹脂」について,その性能,および塩害を受けた鉄筋コンクリート構造物に対して適用した事例について報告する。
近年,桟橋工事における生産性向上を目的として,プレキャスト(PCa)施工が注目されている。一般にPCa施工は,現地近郊の陸上ヤードにおいて桟橋上部工のPCa部材を製作し,鋼管杭打設後に起重機船によって架設,接続部に現場打ちコンクリートを打設して構築される(以下,サイトPCa)。これに対して著者らは,全てのPCa部材を工場製作し,現地へ陸上輸送にて搬入後,プレストレスで部材同士をPC圧着するユニット式プレキャスト桟橋工法を提案している(以下,本工法)。本稿では,工法概要および部材接合部の耐荷性能について示した後,従来の現場打ち・サイトPCa・本工法を対象に,生産性およびCO2排出量の比較結果について紹介する。
本建物は,北海道において32か月(2回の厳冬期を含む)の短工期で施工中の大スパンの鉄骨屋根を有するスタジアムである。本稿では,大屋根を支える鉄筋コンクリート造のガーダー架構の施工について報告する。柱および梁にプレキャストコンクリートを積極的に採用することで生産性を大幅に向上し,スライド型枠の適用などとともに工程の短縮を図った。また,高炉セメントC種を使用したコンクリートを大断面部材に適用することで,温度ひび割れに配慮するとともに,普通ポルトランドセメントを使用したコンクリートと比較して約19000tのCO2排出量の削減を実現した。