日本非破壊検査協会では,関連する団体と連携をとり,日本非破壊検査協会規格(NDIS)を制定及び改正し,検査技術の標準化を図るとともにその普及を推進している。本稿は,2022年9月に改正したNDIS 3418:2022「コンクリート構造物の目視試験方法」を概説したものである。今回の改正は,コンクリート構造物の目視試験の標準形となるべく,関係各所に引用(参照)してもらう規格を目指した。具体的には,NDIS 3414(目視試験方法)との整合を考慮し,NDIS 3418の規格構成を見直すこととし,コンクリート構造物の目視試試験として特徴のある共通事項だけとした。
高強度コンクリートは,高層鉄筋コンクリート造建築物を中心に普及しているが,水結合材比が小さく粉体量が多いためコンクリートの粘性が高くなることから,圧送性や打込み・締固め性,左官仕上げ性などに関する施工性の課題が,以前より指摘されている。そこで,施工者を対象として,フレッシュコンクリートの性状に関連する施工性の課題および高強度コンクリートの単位水量の実態についてアンケート調査を行った。その結果,現在でも左官仕上げ性および圧送性の課題があることが明らかとなり,施工者は単位水量を185 kg/m3までであれば大きくしてフレッシュコンクリートの性状を改善した方がよいと考えていることがわかった。
本稿は,「S区間との境界となるRC区間の小口面に鋼製プレートを有する埋込み形式の複合梁」の部材剛性の評価方法について論じるものである。国内建築分野における現行の構造設計体制への適用を前提に,この種の複合梁の実験値を弾性域から非弾性域まで捕捉するために構築された評価モデルについて,これが与える解の妥当性を検証したうえでその性質を精査して明らかにすることを第一の目的としている。また第二の目的として,設計実務にて埋込み形式の複合梁全般に想定され得る課題を例示し,本評価モデルならびにその性質を活用した対応可能性についても触れ,この種の構造の構造設計の一層の洗練に寄与する知見の呈示を試みている。
チッピングによる目荒らしは,鉄骨ブレースや増し打ち壁を用いた耐震補強の接合面等,コンクリートの接合面に多く用いられている。著者らは,チッピングに代わる目荒らしとして,施工環境に配慮し,一律の形状で形成できる円柱状シアキーを開発した。円柱状シアキーは,湿式コアドリルを用いることで,施工時の騒音,振動,粉塵を抑制でき,更にせん断耐力の評価が可能で,施工後の管理が容易となる特徴を有する。本稿では,円柱状シアキーの施工現場における環境測定から,施工方法,耐力評価及び増し打ち壁補強工法への適用について報告する。
熊本天草幹線道路は,天草市の旧本渡市と熊本市近見町を結ぶ全長約70 kmの幹線道路である。平成6年12月に地域高規格道路として計画路線の指定を受け,県内の高速交通ネットワークの横軸として,また,天草地域と熊本都市圏を90分で結ぶ90分構想の達成に向け,国および熊本県で,整備に取り組んでいる。熊本県では,この熊本天草幹線道路の一部である本渡道路(天草市港町から天草市志柿町,約1.3 km)の整備を平成25年度から開始した。現在,天草上島と下島を繋ぐ道路が国道324号天草瀬戸大橋の1橋のみであることから,朝夕の時間帯を中心に橋の前後で慢性的な渋滞が発生している。バイパス機能を有する本渡道路の整備は,現在の国道324号の交通量を減少させ現道の円滑な交通を確保し,災害時等における代替路としての機能も発揮することで,本渡都市圏における産業・経済活動,防災機能の向上に寄与する。本稿では,本渡道路の終点となる天草未来大橋G6工区で取り組んだ施工上の課題とそれに対する工夫について報告する。
民族共生象徴空間の主要施設として整備された国立アイヌ民族博物館は,周囲の自然と一体となった建物形状とし,高床式様の特徴的な形となっている。片持ち架構,複雑な屋根形状,高い階高,大空間の諸室,開放的なロビー空間といった条件に対して,特徴的な建物形状を構造要素として利用しながら解決を図った。特に,ポロト湖を眺望できる2階のパノラミックロビーは,長大な片持ち架構,居住性への配慮,吹き抜けとの関係など構造的な課題が多かった部位であった。構造計画概要に加え,パノラミックロビーの構造計画と,その施工計画について紹介する。
日本コンクリート工学会では,2003年より英文論文集JACT(Journal of Advanced Concrete Technology)の発行を開始し,コンクリート工学分野で国際的にも高く評価される論文集となった。一方,昨今の国際的な研究競争は激化し,インパクトファクターによる数値的な格付けによって,JACTの相対的な位置づけが低下しつつあることも事実である。本稿では,JACTなどの英文論文集の現状に関するデータを示すとともに,編集委員会で実施したアンケート結果の概要を示し,JACTの現状と課題,そして今後の方向性について,編集委員会での議論を踏まえた内容を紹介する。