日本作物学会紀事
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67 巻, 4 号
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  • 中元 朋実
    1998 年 67 巻 4 号 p. 443-451
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    バイオポアは植物の根の枯死・分解後に土壌中に残される管状の穴や土壌動物の活動によって形成される穴などをいう.バイオポアは透水や通気など土壌中の物質移動に影響を与えるだけでなく, 作物の根が機械的な抵抗を受けることなく伸長することのできる通路となっている.土壌圧縮, 灌漑, 耕起法, 作付体系などの問題に関連してバイオポアの量や連続性が研究されている.ミミズや前作物の根によって形成されたバイオポアが後作物の根系の発達や地上部の生育の促進をもたらす場合のあることが知られているが, バイオポア内部での根の生態については未解明の問題が多い.耕地ではバイオポアの形成を通じて土壌の物理的な肥沃度を維持・向上させることが期待されるが, 一方では溶脱の促進など環境への影響について解明をすすめる必要がある.
  • 山本 晴彦, 古賀 大三, 早川 誠而, 大方 保祐, 倉崎 友和, 遠山 宏一
    1998 年 67 巻 4 号 p. 452-456
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    キチンの土壌への施用がイネ個体群の物質生産に及ぼす影響を明らかにするため, 乾物生産特性および子実生産特性について検討した.1994年および1996年はキチン施用量(50gm-2, 100gm-2, 200gm-2および500gm-2)が増加するにつれて玄米重が増加する傾向が認められ, キチン500g区は化成肥料区とほぼ同等の玄米重が得られた.1995年はコブノメイガが大発生し葉色が濃いキチン500g区と化成肥料区においては葉が食害を受けたため, 玄米重はすべてのキチン施用区と化成肥料区では差異が認められなかった.1996年の収量構成要素の調査結果から1m2当たりの籾数が増加するにつれて玄米量が増加する傾向が認められた.登熟歩合は無施用区とすべてのキチン施用区では約90%であったが, 化成肥料区は低かった.これは, 化成肥料区では全生育期間を通じてLAIが高く, 出穂後は多粒による穂の遮光も加わることにより受光態勢が悪化しCGRが低下したことが原因と考えられた.これに対して, キチン500g区ではLAIが最大約4.5で出穂後も受光態勢が良好でCGRが高く維持された結果, 化成肥料区の玄米重に匹敵する収量を得ることができたと考えられた.
  • 山内 稔
    1998 年 67 巻 4 号 p. 457-461
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    再生紙マルチを利用することにより水稲の無除草栽培が可能になり, これを利用した移植栽培技術が確立されている.本技術を直播栽培に発展させることにより省力化を期待できるため, 再生紙に一定間隔で穴をあけそこに不織布に包んだイネ種子を接着剤で固定し, これを代かきをした水田に敷設する点播表面播種方式が考案されたが, 構造が複雑であり量産化が難しく, また種子が土壌表面にあるため鳥害を受けやすかった.そこで再生紙に筋状に出芽のための切れ目を入れ, 土壌に密着する側にシードテープに封入した種子を固定する条播方式による苗立ちの可否を検討した.出芽は切れ目の形状に影響された.種子を2cmに1粒の間隔でシードテープに封入し, 幅5mmの間隔で平行に2本の切れ目を入れた再生紙に固定することにより, 苗立ち率60%, 苗立ち本数100本m-2となった.この結果は, 再生紙マルチ条播直播による苗立ちが可能であることを示している.
  • 佐藤 導謙, 沢口 敦史
    1998 年 67 巻 4 号 p. 462-466
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    冬期間積雪が多く土壌が凍結しない北海道中央部において, 生育期間の延長による多収化と, 早熟化による雨害の回避を図るため, 春播コムギの初冬播栽培を検討し, 安定的に越冬可能な播種期の設定を試みた.秋播コムギを含めた越冬性の品種間差に関する2ヶ年の試験では, 根雪前に出芽し1~2葉程度に生育した場合, 秋播コムギ2品種は播種量の61.0~100%が越冬したのに対し, 春播コムギ3品種は年次間差が大きく(0.4~54.9%), 越冬が不安定であった.一方, 根雪前に出芽しない場合, 播性にかかわらず比較的高い割合で越冬した(36.1~81.4%).春播コムギ品種「ハルユタカ」を用いた異なる3地点における3ヶ年(長沼3ヶ年, 士別1ヶ年, 比布2ヶ年)の播種期試験では, 初冬播において播種から出芽までに要する積算地温は平均140℃(長沼のみ), 同じく積算気温は平均115℃(3地点加重平均)であった.北海道中央部における過去の気象経過を勘案し, 春播コムギの初冬播における安定的に越冬可能な播種早限を, 平年の根雪始の約20~25日前と設定した.
  • 大段 秀記, 大門 弘幸
    1998 年 67 巻 4 号 p. 467-472
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    クロタラリアの水田転換畑への緑肥としての導入を検討するために, 大型コンテナポットを用いて異なる地下水位条件を設定し, その生育についてすでに導入が試みられているセスバニアと比較検討した.さらにそのすき込みが後作ホウレンソウの窒素吸収に及ぼす影響を重窒素標識肥料を用いて調査した.すき込み時の乾物生産量はクロタラリアがセスバニアよりもやや少なかった.両作物ともに高水位条件下では低水位条件下よりも生育量は減少したが, その程度には両作物間で大きな差異は認められなかった.後作ホウレンソウの収量ならびに窒素吸収量は, すき込みによって増大し, いずれの緑肥作物のすき込みにおいてもすき込み量の少なかった高水位区において多く, 両作物間で比較するとクロタラリアすき込み区でやや少なかった.施肥窒素の利用率はすき込みによって増大した.後作ホウレンソウの吸収窒素に占める土壌および緑肥由来の窒素の割合は86-92%と高かった.すき込み量が後作ホウレンソウの生長に及ぼす影響を1/5000aワグナーポットを用いて調査したところ, すき込み後30日における土壌の無機態窒素の生成量とホウレンソウの生育量とは必ずしも一致せず, すき込み試料からの生育阻害物質の放出が示唆された.
  • 鄭 紹輝, 川越 洋二
    1998 年 67 巻 4 号 p. 473-477
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    北部九州における夏アズキの春播き栽培では, 登熟は夏の高温・多湿条件下で進行するため, 子実は小粒で, 種皮が厚くて吸水性が悪いなど, 北海道産に比較して品質が劣ることが知られている.本研究は北部九州におけるアズキ子実の品質改善を目的に, 北海道で育成された夏アズキ8品種を用いて従来の春播きと夏に播種期を変えて2ヵ年栽培し, 子実の品質関連諸形質および生育諸特性について調査した.その結果, 1993年では春播きに比較して夏播きの場合に, 百粒重の増大, 種皮率および確実率の減少がみられ, その程度は8月播きで顕著であった.そこで, 1995年では7月13日から約10日おきに5回の播種を行った結果, 百粒重および種皮率は7月21日以降の播種, 種皮色は7月31日以降の播種で優れ, いずれの形質も北海道産とほぼ同程度であった.確実率は概して晩播ほど低くなったが, 品種間差異や年度間の変動が大きかった.なお, 7月31日以降の播種では莢が一斉に成熟し, 葉がほとんど黄化して落ちるため収穫作業が行いやすく, 収量は7月31日と8月12日播種で高かった.以上のことから, 北部九州においては, 夏アズキを7月下旬から8月中旬にかけて播種した方がよいと考えられた.
  • 進藤 久美子, 豊島 英親, 安井 明美
    1998 年 67 巻 4 号 p. 478-484
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    穂上位置による無機元素含有量の違いを, 試料として日本晴1株中の4つの穂に着粒していた玄米296粒を用いて検討した.乾重量を測定した玄米は, 硝酸-過塩素酸で湿式分解し, リン, カリウム, マグネシウム, カルシウム, 亜鉛の無機元素を誘導結合プラズマ発光分析法で測定した.無機元素は, 濃度(%またはμg/g)と1粒中の全量(μg/粒)を算出した.これら無機元素含有量は, Kruskal-Wallisの検定により穂による差が認められたので, 穂ごとに玄米を各枝梗の着粒位置から9種類に分類し, 穂上位置の差をKruskal-Wallisの検定で検討した.その結果, 4つの穂すべてで, 乾重量のほか, 濃度ではカリウムに, 1粒中の全量では, リンとマグネシウムに穂上位置による差が認められた.カリウム濃度は開花順序が遅くなるにしたがって高くなっており, 1粒中リン量とマグネシウム量は, 1次枝梗に着生した乾重量の大きな玄米では多く, 2次枝梗に着生した玄米では少なかった.
  • 尾形 武文, 松江 勇次
    1998 年 67 巻 4 号 p. 485-491
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    北部九州における良食味米生産を前提とした水稲湛水直播栽培法の確立のための基礎的知見を得る目的で, 直播適性の優れた品種を用いて水稲の苗立ち密度ならびに播種様式(すじ播, 点播, 散播)が水稲の生育, 収量および米の食味と理化学的特性に及ぼす影響を検討した.水稲湛水直播栽培でのm2当たり80本の苗立ち密度は, m2当たり20, 40, 100, 150, 200本の苗立ち密度に比較して耐倒伏性や収量が安定して優れていた.苗立ち密度が異なる場合, 食味総合評価と有意な相関のある理化学的特性はタンパク質含有率のみであり, m2当たり80本の苗立ち密度では精米中のタンパク質含有率は生産年や品種が異なっても安定して低く, 食味も優れていた.播種様式において, 耐倒伏性は点播が優れ, 散播は劣った.収量は点播やすじ播が優れたが散播は劣った.米の食味や理化学的特性は播種様式間で有意な差は認められなかった.これらの結果から, 良食味米生産を前提とした播種様式は倒伏による収量, 外観品質および食味の低下を考慮すると, 耐倒伏性が優れる点播が最も適し, 次にすじ播が適するが, 散播は適さないと考えられた.
  • 岡本 和之, 根本 博
    1998 年 67 巻 4 号 p. 492-497
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    主に米菓の原料として利用される陸稲の需要拡大を図るには, 品質や加工適性の優れた品種を育成する必要がある.特に, 餅生地の硬化性は製造時間の短縮につながる品質要因として重視されている.そこで, 陸稲糯品種における餅硬化性の簡易な検定法として, ラピッド・ビスコ・アナライザーを利用する方法を検討した.検定条件のうち, 内在するアミラーゼの活性を抑えるため添加する硫酸銅溶液の濃度を検討したところ, 400ppmで安定して各糊化特性を測定できた.また, 陸稲糯品種におけるラピッド・ビスコ・アナライザーの測定工程は, 餅硬化性に差のある陸稲2品種の比較から, 分析開始温度40℃, 温度勾配10℃/minの設定が最適であった.これらの検定条件を用いて, 陸稲主要11品種における餅硬化性とラピッド・ビスコ・アナライザーによって測定される糊化特性の関係を検討した.その結果, 糊化開始温度とピーク温度は餅硬化性との相関係数が他の特性値に比べて高く, 両温度を指標に餅硬化性を簡便に推定することができた.本法は精白粉3.5gと少量で分析できるため, 育種において餅硬化性の一次選抜に役立つ可能性が高いと考えられた.また, 日本在来の陸稲糯品種と育成品種を対象とした餅硬化性に関する品種の検索を実施したところ, 供試した136品種の中から従来の陸稲糯品種にはなかった高度の餅硬化性を示す陸稲品種「関東糯172号」を見出した.
  • 道山 弘康, 福井 篤, 林 久喜
    1998 年 67 巻 4 号 p. 498-504
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    普通ソバ品種しなの夏そば(夏型品種)および宮崎在来(秋型品種)を夏栽培および秋栽培して, 花房および小花房内の花の位置別に開花調査し, 開花の進行状況の差異を明らかにした.しなの夏そばの夏栽培および宮崎在来の秋栽培では開花数が個体あたり600~850個で, 開花期間が約1ヶ月であったのに対して, 宮崎在来の夏栽培では開花数が2600個以上で, 開花期間が役4ヶ月にもなった.また, しなの夏そばの秋栽培では開花数199個で, 開花期間は半月にしかならなかった.宮崎在来の夏栽培では開花数が多いにもかかわらず, 結実率が極端に低かったために, 一方, しなの夏そばの秋栽培は結実率が高かったものの, 開花数が少なかったために, いずれも痩果数が少なくなった.開花期間の長かった宮崎在来夏栽培では開花期間中3回の開花数の極大期であり, 秋栽培とほぼ同時期に開花終了した.その開花後期には(1)新しい花房の発生の継続, (2)開花終了花房に蕾の再発生, (3)休眠側芽の再生長が起こった.1花房内でみても, 1小花房内での開花数が多く, 上位節花房では小花房数も多いことによって, 開花数が多く, 開花期間が長かった.また, 花房間, 小花房間および小花房内の各花間の開花期間隔が長いことによって, 開花始後の開花数増加が秋栽培より緩やかであった.しなの夏そばの秋栽培では開花期間隔は夏栽培と同程度であったが, 花房数, 小花房数および小花房あたり花数が少ないことによって, 開花数が少なく, 開花期間が短くなった.
  • 福田 直子, 湯川 智行
    1998 年 67 巻 4 号 p. 505-509
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ソラマメの在来種を含む41品種を用いて積雪条件が異なる2ヵ年にわたり, 越冬前の生育特性と雪害程度を調査し, 品種の耐雪性との関連について検討した.雪害による枯死葉面積率と枯死株率をもとに供試品種は耐雪性強, 中, 弱の3品種群に分類できた.耐雪性強品種群は新潟市近郊の在来種とその突然変異品種の2品種, 耐雪性中品種群は原産地や育成地が西日本中心に分布する35品種, 耐雪性弱品種群は海外から導入された品種および鹿児島県の在来種の4品種であった.それぞれの品種群は原産地や育成地に共通性が認められ, 品種の耐雪性と育成環境との間に関連が示唆された.越冬前の生育特性と品種の耐雪性との間には密接な関係が認められた.耐雪性弱品種は花芽分化の時期が早く分化葉位が低いために越冬前に花芽の顕著な発育が認められたことから春播き型の品種であると考えられる.一方, 耐雪性強品種群は花芽分化の時期が遅く, 越冬前の花芽の発育ステージは初期段階であった.また耐雪性に関わる形態的特徴として, 耐雪性の強い品種は越冬前の草丈, 節間長, 茎葉生重が小さく, 茎葉乾物率が高い特性をもっていた.
  • 馬場 孝秀, 山口 修, 古庄 雅彦
    1998 年 67 巻 4 号 p. 510-515
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ビール大麦の収量および外観品質に係わる諸形質が年次でどう変動するかを主要4品種を用いて5ヵ年栽培し, 収量および外観品質に係わる諸形質について分散分析を行い, 品種間の相対的な差の変動を検討した.収量関連形質のうち, 穂数では品種×年次の交互作用は検出されなかった.しかし, 千粒重, 整粒歩合および整粒重では, 交互作用が検出され, 年次によって品種間の相対的な差が異なることが明らかとなった.また, その変動は, 降雨量や降雨時期によって影響を受けているとみられた.外観品質のうち, 検査等級は品種間差が有意でなく, 年次間差と交互作用が有意であり, その品種間差を評価することは困難であった.被害粒の発生は, 年次による品種間の相対的な差が異なり, その変動は, 降雨量, 降雨時期および寡照によって影響を受けていると考えられた.
  • 松江 勇次, 尾形 武文, 浜地 勇次
    1998 年 67 巻 4 号 p. 516-519
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    強稈で休眠性が浅い中生糯品種のサイワイモチと, 赤米の粳品種の対馬在来を交配し, 休眠性が浅い赤米の糯品種"つくし赤もち"を育成した.本品種の成熟期はサイワイモチより8日遅い晩生で, 長稈で, 草型は両親の中間型である.耐倒伏性はやや弱で, 穂発芽性は難, 脱粒性は難で, 休眠性は対馬在来より浅い.芒と穎の色は穂揃期に赤紫色を呈する.玄米は濃赤褐色である.収量はサイワイモチより低いが対馬在来より高い.もちの色は清色系淡黄ピンク色(淡い赤色)で, 食味はサイワイモチと同程度で優れる.アミログラム特性や硬化速度はもちの加工に適する値を示した.本品種は高付加価値を有した地域特産物米に適すると考えられる.玄米の色は遅植えや多肥で赤色の発現が劣り, 搗精歩合が高いともちの食味や赤色の発現が低下した.
  • 吉田 智彦
    1998 年 67 巻 4 号 p. 520-522
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    裸性の大麦品種は西日本で古くから栽培されているが, 六条種であり, 赤かび病や過湿などによる被害を受けやすい.そこで裸性品種の収量や品質の安定化を図るため二条種裸性品種のYNH-2とYNH-3を育成した.まず中間母本として(Hiproly/*2西海皮12号//ダイセンゴールド)の交配から羽系N107を, (羽系N107/羽系P20)の交配からNHS-1を育成した.裸性はHiproly由来である.大麦縞萎縮病抵抗性導入のために, 木石港-3由来の抵抗性を持つ大系R2264とNHS-1との交配を行ってYNH-2を育成した.ほぼ同様な育成経過でYNH-3を育成した.この両品種は早生で, 短稈で, 収量は二条種皮性の比較品種と同程度で, 粒のみかけの品質は良く, 大麦縞萎縮病抵抗性は極強である.YNH-2とYNH-3は裸性以外比較品種と実用上大差ない特性を有しており, 裸性品種の安定栽培に寄与し得る品種と考えられる.耐寒性は中~やや強で, このことは裸性でも耐寒性を有する品種の育成が可能なことを示しており, 必ずしも裸品種の耐寒性が劣ることはないと考えられる.
  • 齊藤 邦行, 磯部 祥子, 黒田 俊郎
    1998 年 67 巻 4 号 p. 523-528
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    有限伸育型ダイズ品種タチスズナリの莢と子実の発育過程を花房次位, 着生節位に着目して追跡した.個体全体でみると, 莢の伸長は開花始後16日間, 子実肥大はそれ以降14日間停滞し, これは開花始に比べ30日遅れた.花房次位別に比較すると, 最終莢長, 1粒重は開花の早い低次位花房ほど大きくなった.開花始は0・1次花房に比べ4・5次花房では21日遅れとなったが, 莢伸長始は10日遅れと短くなった.莢伸長速度は高次位花房ほど高く, 3次椏枝・3次花房で最大となった.一粒重の増加始は0・1次花房に比べ, 4・5次花房で6日遅れとなり, 花房次位による開花日の違いはさらに小さくなった.子実の乾物蓄積速度は開花の早い0・1次花房に比べ2次椏枝・2次花房で高くなり, 開花の早い低次位花房で必ずしも子実肥大が優勢に行われるとは限らなかった.低次位花房の莢伸長速度や乾物蓄積速度が低いことには, 栄養生長や高次位花房の開花などとの同化産物の競合が関係すると推察された.莢の伸長には停滞期がみられ, この期間に花器脱落が多く生じた.本研究の結果, 開花時期が花房次位により大きく異なるダイズでは, 莢伸長, 子実肥大を開始するまでには停滞がみられ, 発育が進にしたがい, 花器の生長は次位間で同調的に行われることが明らかとなった.このような特性を通じて, 子実の同時成熟性が保たれていると推察した.
  • 荒瀬 輝夫, 井上 直人
    1998 年 67 巻 4 号 p. 529-537
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ヤブマメの種子生産に関わると考えられるつるの生長を解析するため, ファイトマー(植物単位)概念に基づいて生育量, つるの分枝および伸長を分析した.種子生産特性の異なる4系統を150日間栽培し, 開花期にサンプリングした.分枝は4次まで発生が認められ, どの系統でも2次分枝において分枝数およびファイトマー数が最大であった.主茎のファイトマー数および1次分枝数に系統間差が見られた.分枝の複雑さを記述するため, エントロピーに基づく各次位の分枝発生位置選択の可塑性(H)と草型指数(H')を算出した.Hは2次分枝で最大となり, H'は高次の分枝ほど大きくなった.1次分枝のHおよびH'には, 系統間差が存在し, 両者の間に有意な正の相関が認められた.また, 分枝を地上と地際とに分け, ファイトマーの長さのレンジと, 一連のデータとして線形予測法を適用したときのF値に基づき伸長可塑性指数(PE)を算出した.地際1次分枝のPEには系統間差が見られ, 地上分枝と地際分枝のPEの大小関係は系統によって異なっていた.HおよびH'とPEとの間の相関は弱く, 分枝発生位置選択の可塑性とファイトマー伸長の可塑性とはそれぞれ別の生態生理的背景をもつと考えられた.
  • 山下 正隆, 武弓 利雄, 佐波 哲次
    1998 年 67 巻 4 号 p. 538-542
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    実生のチャの根は深くまで分布するが, 挿し木によるチャは浅根化の傾向が強い.このことから, 挿し木個体の根系を構成する基本的な根である不定根の伸長方向が, 根系分布と密接な関係を持つのではないかと考えられた.そこで, 我が国の品種, アッサム種, 中国種を用いて, 挿し木苗から生じた不定根(直径1mm以上)の伸長方向の変異について検討した.挿し木は1994年および1995年の6月に行い, いずれも翌年の3月に苗を掘り取って根を調査した.不定根の伸長方向は鉛直線に対してなす角度で表した.我が国の品種はいずれも不定根の伸長角度に変異の幅が小さく, そのほとんどが65~75゜の比較的大きな角度を示すことが明らかとなった.アッサム種, 中国種は不定根の伸長角度に変異が大きく, さらに, 平均伸長角度は我が国の品種に比べて約15゜小さかった.また, 我が国の品種に比べて, アッサム種, 中国種の多くは不定根の発生が少なかった.以上の結果から, 我が国の品種, アッサム種, 中国種間での不定根伸長方向の多様性が明らかとなった.また, アッサム種, 中国種は, 我が国の品種に比べて深い根系分布を持つ可能性を示唆した.
  • 新田 洋司, 山本 由徳, 永見 隆司
    1998 年 67 巻 4 号 p. 543-548
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    出現冠根数の異なる水稲5品種の主茎葉齢7.4~7.5の個体を用いて, 主茎と分げつ, および同一茎軸の部位間で冠根原基形成に関する諸形質を比較した.1)冠根原基数および出現冠根数は, 主茎>第2節分げつ>第3節分げつの順に多かった.この順序は, 形成"単位"数, 茎軸長, 辺周部維管束環側面積の大きい順序と同じだった.一方, 冠根原基基部直径は, 主茎, 第2節および第3節分げつの間で差はなかった.2)主茎, 第2節および第3節分げつのそれぞれの茎軸において, 頂端側から基部側までの各"単位"でプロットした辺周部維管束環側面積と冠根原基数との間には, 有意な正の相関関係が認められた.1次回帰式の傾きであらわされる冠根原基形成率は, 主茎よりも分げつで高く, 主茎の冠根原基形成率の高い品種では, 第2節分げつのそれも高かった.また, 冠根原基形成率は, 同一品種内の主茎と分げつの間の差よりも品種間差の方が大きかった.3)IR36を除く品種の主茎茎軸では, 頂端側茎軸より基部側茎軸で冠根原基形成率が高く, 冠根原基基部直径は細かった.分げつおよびIR36の主茎では, 頂端側・基部側茎軸で冠根原基形成率および冠根原基基部直径に差はなかった.したがって, IR36を除く品種の主茎では, 冠根原基形成の様相は茎軸の部位間で質的に異なり, 冠根原基基部直径と密接に関係していることが示唆された.
  • 王 英典, 黒田 栄喜, 平野 貢, 村田 孝雄
    1998 年 67 巻 4 号 p. 549-554
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    東北地方を対象に育成された水稲の穂重型品種, 奥羽316号およびふくひびきと大粒品種の奥羽327号は, 偏穂数型品種のひとめぼれに比べて1穂当たり籾数またはシンクサイズが50%以上大きいにも関わらず, 登熟歩合は奥羽316号では低かったもののふくひびきと奥羽327号では高かった.その結果, ふくひびきと奥羽327号では1穂当たり収量が60%以上高くなった.これらの品種では登熟期における茎葉重の減少程度が大きい傾向がみられ, このことが収量増加の一因と考えられた.一方, 登熟期における光合成同化分について, 乾物増加量および生長解析の結果から, 登熟期における1穂当たり光合成生産がふくひびきや奥羽327号ではひとめぼれや奥羽316号より大きいことが明らかになった.また, 登熟前期に実施した層別刈取りの結果は, ふくひびきや奥羽327号では陽当たりのよくない葉が少ないことを明らかにした.
  • 長菅 輝義, 窪田 文武, 平尾 健二, 名田 和義
    1998 年 67 巻 4 号 p. 555-560
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ネピアグラス(Pennisetum purpureum Schumach.)はバイオマス生産に優れ, 水利用効率が高い植物である.本研究では, 異なる環境下で生育中のネピアグラス(品種, メルケロン)の植物体各部位を切断し, それに伴う光合成, 蒸散速度の変化を基に本草種の水輸送と光合成について考察した.結果を以下に述べる.個葉の光合成, 蒸散速度の測定中にその葉身の基部を切断すると両者が上昇し, 特に, 水ストレス状態におかれた個葉では上昇効果が顕著であった.光合成速度の上昇は気孔および葉肉伝導度の両者の上昇によるものであった.植物体の地下部から地上部へと水輸送系に沿って順次切断すると, 根, 地下茎および測定葉の着生する節の下部まで切断しても光合成, 蒸散速度は変化しなかったが, 葉鞘を切断すると葉身切断時と同様な光合成, 蒸散速度の上昇反応が認められた.しかし, 遮光下で生育中の植物体では, 上述の現象とは異なり, さらに上流部である地下茎を切断することによって光合成, 蒸散速度の上昇反応が認められた.ネピアグラスの光合成, 蒸散速度は植物体内の水輸送に鋭敏に反応することや, 節部などが水輸送の調節・制御機能を持ち, しかもそれが生育環境に応じて変化することは, 本草種の優れた水利用効率を維持する要因の一つとなっているものと考えられた.
  • 高橋 亘, 松下 准城, 小林 孝子, 田中 修, 別府 敏夫
    1998 年 67 巻 4 号 p. 561-567
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    アズキ(品種丹波大納言)上胚軸切片に, Agrobacterium rhizogenesを感染させると, 植物ホルモン無添加の培地で, 不定芽と毛状根が形成された.形成した毛状根では, ミキモピンとrol遺伝子が検出されたが, 不定芽を育てて得た植物体では, ミキモピンもrol遺伝子も検出されなかった.それ故, アズキ上胚軸切片が植物ホルモン無添加の培地で不定芽を分化する能力を持つことになる.そこで, その可能性を検討すると, 上胚軸切片は, 植物ホルモンをまったく含まない培地上で不定芽を分化し, シュートとして発育させる能力を持っていた.この不定芽の分化は, 2μgL-1ペンジルアデニンと0.02μgL-1ナフタレン酢酸という低濃度の植物ホルモンにより, 促進された.上胚軸切片から分化した不定芽は, 茎が伸長しシュートとして成長した.また, 植物ホルモンを含む培地上で誘導されたカルスは, 植物ホルモンをまったく含まない培地に移されることが刺激となって, 多数の小葉を分化しながら増殖するカルスを形成した.特に, このカルスの形成率は, 不定芽を分化したカルスにおいて高かった.このカルスからのシュート形成は, ゲランガムを含む培地に, ナフタレン酢酸を添加すると促進された.このシュートや上胚軸切片から形成されたシュートは植物ホルモンを含まない培地に移植すると, 根を分化し, 試験管内で, 幼植物体として成長を続けた.本論文で得られた知見は, 今後, バイオテクノロジー的な手法を用いて, この品種の改良を進める上で, 有用である.
  • 水田 一枝, 阿部 薫, 尾崎 保夫
    1998 年 67 巻 4 号 p. 568-572
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    パピルス, マリーゴールド, アシ, ペパーミント, ソルガム, インパチェンス, ケナフの7種類の有用植物を, 富栄養化した溜池を想定した人工汚水を流入させた水路で育て, 各植物による窒素, リンの浄化能力や, 日射量の変化が浄化に及ぼす影響をみた.これらの植物は窒素, リンの浄化能力があり, 特にパピルス, ケナフ, ソルガムは, 窒素濃度約2.5mgL-1, リン濃度約0.5mgL-1の人工汚水(1日, 1m2当たり500L供給.滞留時間は12時間)中の窒素, リンを最高70~90%除去した.パピルス, ケナフ, ソルガムの除去速度は窒素が1.17, 1.07, 0.80gm-2d-1, リンが0.21, 0.16, 0.12gm-2d-1であった.また浄化能力は日射量の影響を受け, 遮光処理によって浄化能力は顕著に低下したが, 7日程度の遮光期間では, 浄化能力は遮光解除の1~3日後に元の80~90%に回復した.
  • 岩間 和人, 茂木 紀昭, 市川 伸次, 長谷川 利拡
    1998 年 67 巻 4 号 p. 573-580
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    1993年の水稲の作況指数は北海道全体で40を示し, 作況指数での比較が可能な1949年以来以来最低の値となった.本報告では, 道内の農業改良普及所, 道立の各農業試験場, 道農政部ならびに農林水産省北海道統計情報事務所によって収集された市町村単位のデータに基づき, 北海道全体での冷害の概況, これと気象条件および栽培品種との関係について解析した.水稲の作付けられた全道134市町村間では, 収量は1~382gm-2の, 作況指数も0~68の広い変異を示した.全体として, 道北地域での収量, 作況指数が最も高く, これに次いで道央地域が高く, 道南, 道東地域では極めて低かった.また, 各市町村における1993年の作況指数と平年における収量(平年収量)との間には高い正の相関関係が認められ(r=0.719***), 平年収量が低い市町村では1993年の作況指数が低かった.作況指数の差異は, 主として7月中旬から8月上旬の時期の日照時間ならびに最高気温の差異と密接に関係していたが, 最高気温に比べ日照時間の方が作況指数に対する影響の程度が相対的に大きかった.また, 基幹品種である「ゆきひかり」および「きらら397」は, 食味を第一の選抜目標として育成されたが, 旧品種に比べ耐冷性の点でも優れており, 1993年での被害を最小限にとどめたものと推察した.
  • 平 俊雄
    1998 年 67 巻 4 号 p. 581-582
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    米の食味と関係がある水温70℃での溶出固形物量とヨウ素呈色との関係を検討した.水温70℃における炊飯特性でのヨウ素吸収スペクトルの最大吸収波長は580から620nmであり, これはアミロースの最大吸収波長600から620nmに近かった.また, 600nmの波長での吸光度と溶出固形物量は正の有意な相関がみられた.
  • 平 俊雄
    1998 年 67 巻 4 号 p. 583-584
    発行日: 1998/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    米の食味に大きく関与している精米窒素含有率と水温別糊化特性との関係を検討した.精米窒素含有率と水温75℃, 80℃, 85℃, 90℃での粘度, 最高粘度およびブレークダウンとの間に高い負の相関が認められた.また, 精米窒素含有率による粘度の差は85℃の水温において最も大きかった.これらのことから, 水温85℃での粘度は精米窒素の影響による米の食味評価方法として利用できる可能性が示唆された.
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