口腔衛生学会雑誌
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最新号
令和6年4月
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 高野 綾子, 柴田 佐都子, 沖津 佳子, 濃野 要, 葭原 明弘
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 2 号 p. 92-98
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

     病院歯科の歯科衛生士による定期的な口腔衛生管理に要する時間を測定し,処置時間との関連要因を確認することを目的とした.患者1人当たりの予約時間を45分としている歯科衛生士8名と担当患者223名を分析対象とした.時間を測定した口腔衛生管理関連の項目は,口腔内観察,歯周組織検査,Plaque Control Record (PCR),刷掃指導,処置時間に含めた歯石除去,歯面清掃,歯周ポケット洗浄/貼薬であった.患者関連の調査項目は年齢,性別,現在歯とインプラント処置歯,歯周ポケット4mm以上とBleeding on probing (BOP)の部位数,動揺と分岐部病変を有する各歯数および口腔乾燥,急性症状,既往歴,歯周組織検査の有無とした.統計解析は従属変数を処置時間,統制変数を歯科衛生士の実務経験年数,独立変数を患者の年齢,性別,口腔状態,急性症状,既往歴および歯周組織検査の有無として重回帰分析を行った.その結果,処置時間は対象歯数(標準化係数,β=0.371),BOP部位数(β=0.240)とPCR部位数(β=0.146)が増え,既往歴(β=0.144)があると有意に増加し,急性症状(β=-0.122)があると有意に減少することが示された.口腔衛生管理時間の有効利用や患者の負担軽減のため,歯科衛生士は事前に対象歯数,BOP,PCR,既往歴を確認することが必要である.

  • 諏訪間 加奈, 藤井 香那, 髙橋 純子, 葭原 明弘
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 2 号 p. 99-107
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

     日本歯科医師会による「標準的な成人歯科健診プログラム・保健指導マニュアル」(生活歯援プログラム)は,受診者を類型化し,必要な情報提供や支援をし,行動変容の目標設定を専門家と受診者とが共同で行う参加型の指導である.生活歯援プログラムを評価した先行研究において,歯科保健指導の方法による違いを評価するものは見当たらなかった.本研究では,生活歯援プログラムに準じた個別指導を含む歯科保健指導方法と口腔保健行動変容との関連について評価した.対象を胎内市役所職員200名とし,歯科保健指導の4群(個別指導群,集団指導群,情報提供群,対照群)に分類した.個別指導群は生活歯援プログラムに準じた個別指導を実施し,集団指導群は歯科医師による30分の講話を1回実施した.情報提供群は,パンフレット配布と月1回の状況伺いを実施し,対照群は指導を実施しなかった.口腔保健行動の把握には,生活支援プログラム質問紙による調査を,ベースライン時と調査開始3か月後に行った.分析では,従属変数を調査開始3か月後に変容の認められた口腔保健行動とし,独立変数を歯科保健指導方法の4群としてロジスティック回帰分析を行った.

     その結果,対照群に比較して,個別指導群でのみ歯間ブラシ・フロス使用について望ましい行動変容がみられた.生活歯援プログラムに準じた個別指導は,集団指導および情報提供よりも行動変容の効果が高い可能性が示された.

  • 白木 光, 星野 行孝, 濱嵜 朋子, 樋口 行人, 安細 敏弘
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 2 号 p. 108-115
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

     近年,口腔保健行動に影響する因子として,パーソナリティやスマートフォン依存(以下,スマホ依存)などが指摘されている.しかし,それらの因果関係について詳細に検討した報告は認められない.そこで,本研究ではベイジアンネットワークを用いて口腔保健行動とスマホ依存ならびにパーソナリティの因果関係を検討することを目的に横断研究を実施した.調査対象は大学生463名であり,自記式質問紙を用いて口腔保健行動,スマホ依存およびパーソナリティを評価した.口腔保健行動の評価には,1日に歯を磨く頻度,就寝前の歯磨き忘れ,1日に間食をとる頻度,歯磨き指導の経験の有無および歯科定期健診の有無を用いた.スマホ依存の評価には,Smartphone Addiction Scale-Short Version日本語版を用いた.パーソナリティの評価には,Ten Item Personality Inventory日本語版を用い,Big Five(開放性,勤勉性,外向性,協調性,神経症傾向)について評価した.統計解析として,性別,年齢,口腔保健行動,スマホ依存およびBig Fiveを変数とするベイジアンネットワークを用いて変数間の因果関係を評価した.本研究の結果,パーソナリティのうち,神経症傾向の高さおよび勤勉性の低さがスマホ依存を介して間食頻度と就寝前の歯磨き忘れの増加へ影響を与えていることがわかった.

  • 曽根 一華, 福井 誠, 土井 登紀子, 下村 学, 岡本 好史, 松本 侯, 松山 美和, 吉岡 昌美, 日野出 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 2 号 p. 116-124
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,歯科健診データを用いて,誤嚥性肺炎を含めた後期高齢者の肺炎発症に関わる口腔保健関連因子を調べることである.対象者は,平成27年からの5年間に後期高齢者歯科健診プログラムを受診した75,80,85および90歳の徳島市住民3,747名である.解析には,各対象者から得られたアンケート調査と歯科健診結果をデータとして使用した.1年以内の肺炎発症の有無を横断的分析のアウトカムとし,高齢者の全身状態および口腔状態との関連性について調べた.また,平成27年に受診した677名については縦断的分析を行った.

     横断研究における二項ロジスティック回帰分析では,肺炎発症に関わる口腔保健関連因子として,「飲み物がむせる」「口の渇き」「年に1回以上の定期歯科健診を受けていない」の項目との間に有意な関連性が認められた.また,縦断研究ではKaplan-Meier分析において,誤嚥性肺炎の発症に関連する因子として,「プラーク・食渣が中程度・多量」「4mm以上の歯周ポケットあり」の項目との間に有意な関連性を認めた.Cox比例ハザード分析により,感染性肺炎の発症に関連する因子として,「口の渇き」の項目との間に有意な関連性が認められた.

     これらの結果より,後期高齢者歯科健診受診者の肺炎発症に関わる口腔保健関連因子として,定期歯科健診に加えて,飲み物がむせることや口の渇きなどの口腔機能低下も関与することが示唆された.

  • 皆川 久美子, 葭原 明弘, 宮本 茜, 諏訪間 加奈, 岩崎 正則, 竹原 祥子, 小川 祐司
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 74 巻 2 号 p. 125-134
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    【目的】慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は,蛋白尿や腎機能低下から腎不全さらには透析へ至る疾患である.歯の喪失も腎機能に影響を与える可能性が指摘されているが,腎機能と歯周病・残存歯数の関連をみた先行研究では対象者がCKD患者あるいは透析患者が主である.そのため,本研究の目的は,40歳以上の地域住民における現在歯数と軽度以上腎機能低下との関連を明らかにすることとした.

    【方法】40歳以上の地域住民を対象に実施された魚沼コホート研究のベースライン調査において,身体検査値,血液検査値のデータのすべてが揃っている5,477名(男性2,666名・女性2,811名)を解析対象とした.

     現在歯数を独立変数,腎機能低下の有無を従属変数,および年齢,性別,HbA1c,BMI,収縮期血圧,LDLコレステロール,喫煙,CKDの家族歴を共変量とし,ロジスティック回帰分析を用いて解析した.

    【結果】5,477人中,軽度以上腎機能低下と定義されたのは1,642人(30.0%)であった.ロジスティック回帰分析の結果,現在歯数19本以下の者は,20本以上の者と比較して,腎機能が低下していた者の割合が有意に高かった(オッズ比=1.23,95%信頼区間=1.08–1.39,p<0.001).

    【結論】地域住民の属性や関連要因を調整した状況下で,現在歯数と軽度以上の腎機能低下との間に有意な関連が認められた.

報告
  • 阿部 智美, 石黒 梓, 玉木 裕子, 荒川 浩久
    原稿種別: 報告
    2024 年 74 巻 2 号 p. 135-141
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

     2017年に小・中学校,2018年に高等学校の学習指導要領が改訂されたことから,口腔保健に関する記載内容の変化について検証することを目的とし調査を実施した.そのうえで,改訂前に行われた同様の調査と比較し,口腔関連の記載内容の変化について検証を行った.

     改訂された小・中学校,高等学校の学習指導要領の口腔関連記載内容において,小学校5・6年生用と高等学校の解説以外では変化はみられなかった.教科書記載内容についても,次に示す教科書を除き変化はみられなかった.小学校5・6年生用は,むし歯についての追加が5冊中4冊でみられた.中学校用は4冊すべてで,歯肉の健康に関する項目が追加されていた.高等学校用においては,歯周病の原因と進行についての記載が3冊すべての教科書から削除されていたが,歯周病の予防については改訂前から記載がなかった.「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」では「学校教育等多様な経路を活用していくことが重要」と示されていることから,小・中学校,高等学校での歯科口腔保健に関する教育の整備が課題である.

     今後,さらに学習指導要領および教科書への口腔保健に関する記載内容が充実し口腔に関する授業が活発に行われることで,学齢期から口腔の健康を守ることができ,成人期や高齢期になってもQOLを維持向上させることができると考える.

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