土木学会論文集D3(土木計画学)
Online ISSN : 2185-6540
ISSN-L : 2185-6540
72 巻, 5 号
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土木計画学研究・論文集 第33巻(特集)
  • 赤松 隆, 大澤 実, 長江 剛志, 山口 裕通
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_1-I_19
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    東日本大震災では,石油精製・輸送施設の損壊を背景に,東北地域は長期にわたる深刻なガソリン不足に直面し,地域全体の社会・経済活動が大きく低下した.本研究では,ガソリン販売統計と港湾間の移出入統計を用いて東北地域における発災後一ヵ月間のガソリン需給ギャップを分析し,ガソリン不足の主要因が供給(輸送)戦略の失敗であったことを示す.その上で,日本海側港湾を活用してガソリンを早期に大量供給する輸送戦略を提案し,それによりガソリン不足がいかに軽減されるかを示す.結果として,提案輸送戦略に必要な追加的陸上輸送費用は高々2~3億円程度である一方,経済損失軽減効果は1500~2500億円に上ることを明らかにする.また,ガソリン価格の操作により経済損失の軽減を図る戦略は大規模災害時には不適当であることも論ずる.
  • 羽鳥 剛史
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_21-I_39
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,社会基盤整備における公的討議の意義と課題について整理し,社会的意思決定における正統性を様々な討議過程を通じて担保するための理論的枠組みについて考察する.その際,討議システムの概念を導入し,公的討議が特定の公的討議を対象としたミクロ討議,討議システム全体を対象としたマクロ討議で構成されており,パブリック・インボルブメント等が,ミクロ討議とマクロ討議を接合させる役割を果たすことを指摘する.その上で,討議システムの枠組みを踏まえて,現実の討議の望ましさを評価するための基本的な考え方や実証分析の方法論,及びその課題や問題点について考察する.
  • 陳 鶴, 小田 佳代子, 谷口 守
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_41-I_50
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    持続可能性向上のために,人間の生活に伴う環境負荷量と自然環境の受容量,及びそれらのバランスを可視化することが重要である.本研究では,エコロジカル・フットプリント指標を用いて,過去における環境バランスの変化と将来における潜在的な改善可能性を可視化手法「メテオグラム」で明らかにした.この結果,1) 過去50年の環境バランスの達成状況が年々悪化しているを判別された;2) 環境バランスを回復したケースが見られた;3) 環境負荷削減策によっては環境バランスの達成の可能性が潜在していることが示された;4) 潜在的な可能性については都市間に大きな差が存在していることを明らかにした.
  • 柿本 竜治, 上野 靖晃, 吉田 護
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_51-I_63
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    「自然災害に対するリスク認知が高くても,そのリスクへの防護行動を取らない.」といった自然災害リスク認知のパラドックスの存在が指摘されている.自然災害リスク認知のパラドックスの存在は,自然災害リスクの認知を向上させるだけでは,そのリスクへの防護行動を促すことが難しいことを意味する.そこで,本研究では,既往研究の中に見られる自然災害リスク認知や減災意識と防護行動との乖離の要因を抽出し,自然災害リスク認知パラドックスの存在を確認する.そして,防護動機理論の枠組みを援用して,研究の視点や枠組みを整理することを通じて,個人の自発的な減災行動の包括的な理解を促すことを目的とする.また,同時に阿蘇市および南阿蘇村で実施された予防的避難の実行状況と自然災害への意識の分析から意識と行動の乖離の要因を探る.
  • 白柳 博章, 北村 幸定
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_65-I_72
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年,公共施設ストックの膨大な蓄積とともにその老朽化が進んだ結果,限られた財源の中でその維持管理について長期的な視点からの議論が不可欠となっている.しかし小規模事業体では下水道施設の更新や維持管理を定量的な観点からどのように進めていくかについての議論は進んでいない.
    そこで本研究では,統一した観点で数値比較を可能とした管の劣化確率の提案を行った上で,標準状態での管の劣化確率と比較することにより,調査時期や更新サイクルに関する更新ルールの提案を行うとともに.定量的に検証することを目的とする.そして小規模事業体の下水道管を対象として更新事業の評価を行ったところ,従来想定されてきた年数よりも長い期間で管を使用することができること,また更新事業の平準化が図られることを定量的に示すことができた.
  • 平野 隆一, 松行 美帆子
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_73-I_82
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年,開発途上国における自然災害後の復興計画策定において,ボトムアップ型のアプローチが注目を集めつつある.本論文では,2004年に発生したインド洋大津波災害被災地のインドネシア・アチェ州を対象に,ボトムアップ型の集落再建計画「ヴィレッジプラン」に焦点を当て,災害から約10年経過した現時点において,その計画の実現性を評価し,その実現性に影響を与える要因を明らかにすることを目的とした.アチェ州内の5集落におけるヒアリング,アンケート調査の結果,計画の実現性は集落ごとに異なり,その要因は,(1) 役所によるインフラ・公共施設の整備・維持管理,(2) 住民の集落の整備・維持管理に対する自律性であることが明らかとなった.また自律性を高めるためには,住民の計画への認識,集落での交流の活性化など,環境づくりが必要である.
  • 羽鳥 剛史, 関 克己, 小林 潔司, 湧川 勝巳
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_83-I_102
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    火山災害により危機的事態が発生した場合,危機管理を担当する意思決定者には通常モードとは異なる状況判断や意思決定基準を採用することが求められる.本研究では,火山災害に関わる危機管理の現状と課題を考察した上で,有珠山噴火の事例を踏まえて,火山災害時の危機管理問題が災害ステージの時間的展開に応じて変化することを指摘し,各ステージの意思決定問題について検討する.さらに,危機管理に関わる意思決定モードとして,通常時と非常時の2つの意思決定モードについて考察する.その上で,災害ステージの展開に対応して意思決定モードを変更するための高次の意思決定原則(メタ原則)について検討し,メタ原則の下,危機管理に関わる討議システムを基盤として意思決定モードの選択を正統化するための規範的枠組みについて考察を試みる.
  • 西川 貴則, 日比野 直彦, 森地 茂
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_103-I_110
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    頻繁に自然災害が発生する我が国において,災害廃棄物等の処理は,災害発生直後から取り組むべき重要な課題である.平時の廃棄物処理との違いは,仮置場や最終処分場の確保,リサイクル等の中間処理を災害対応の混乱時に進めることである.しかしながら,災害は,種類,規模,発生場所等が様々で,災害廃棄物等の処理を一律に行うことが難しく,災害発生後,対症療法的に対応しているのが現状である.本研究は,平成26年広島土砂災害と東日本大震災を対象として,災害廃棄物等の処理実態を分析することにより,特に発生頻度が高い中小規模災害の処理に関する課題と対応を明らかにすることを目的としている.分析結果から,計画の不断の見直し,現状把握と事前の備え,効率的な処理が重要であることを考察する.
  • 山崎 雅人, 小池 淳司, 曽根 好徳
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_111-I_121
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    全国47都道府県間動的応用一般均衡モデルを用いて,南海トラフ巨大地震による製油所被災の経済被害を推計した.本研究の特徴は応用一般均衡モデルにおける労働投入と資本ストック利用の間の代替の弾力性および地域間交易の代替の弾力性の値を,モデルによる東日本大震災の経済影響の再現を通しカリブレートした点にある.本研究で設定した製油所被災シナリオに基づく場合,日本の実質GDPの年間損失額は約22兆620億円と推計された.また製油所の被災が化学産業や自動車産業の生産額に与える影響を分析し,他産業への影響は当該産業の地域間交易の代替の弾力性の値により異なることが明らかとなった.今後は他産業やインフラの被災を総合的に考慮した南海トラフ巨大地震の被災シナリオを構築し,応用一般均衡モデルによる経済被害推計を行う.
  • 水田 哲夫, 松島 格也, 関 克己, 小林 潔司
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_123-I_138
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    災害応急対策における意思決定の正統性を評価するために,災害後に観測される新聞報道記事の内容を分析し,その全体像を把握するための方法論を提案する.オントロジーの概念を援用して観測される発言や記事の内容を概念化し,その内容を体系的に把握する.その上で,避難指示の発令や解除などの意思決定の場面において考慮すべき項目を整理し,過去に行われた災害応急対策における意思決定プロセスに関する正統性の評価や,今後想定される災害における有効な災害応急対策の立案に資する手法を提案する.2000年に発生した有珠山噴火を対象とした実証分析の結果から,マクロ討論における討論的代表性確保の観点からみた正統性が一定程度確保されていることを確認する.
  • 川崎 雅和, 萩原 亨, 高橋 清, 金田 安弘, 松岡 直基, 菅藤 学
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_139-I_147
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    北海道は冬期に暴風雪が発生する厳しい気象条件下にある.2013年3月に発達した低気圧により中標津町(北海道東部)において暴風雪となり複数名の方が亡くなった.翌年の2014年2月に類似した規模の低気圧でも暴風雪となったが,被害はほぼなかった.両年において暴風雪から道路を守る施設はほぼ同じである.地域のステークホルダーが暴風雪によるリスクを共有する関係を構築できたことが被害を小さくした理由と思われた.そこで.2014年2月の暴風雪時にステークホルダー間のリスク共有が実現していたことを実証するため,中標津町においてヒアリングとアンケート調査を行った.その結果,住民・行政・道路管理者など各々の立場における暴風雪時の危機意識の高まりと行動変容が,2014年2月の暴風雪被害軽減に繋がったことを示すことができた.
  • 大野 峻, 杉浦 聡志, 高木 朗義
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_149-I_158
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,破堤を確率事象として捉え,破堤による流量低減等の上下流の関係を考慮した流域全体のリスク評価手法を構築した.また,構築した評価手法を用いて,流域全体の氾濫リスクを最小にする整備戦略決定方法を提案した.さらに,提案した戦略決定方法を仮想氾濫原に適用し,その挙動を確認した.その結果,流域の土地利用等の条件によっては上流域に堤防高の低い堤防を整備する戦略が最大の便益を生じるケースがあることを示した.今後は提案した戦略決定方法を実河川に適用するため,破堤確率や洪水被害額等の算定方法の精緻化を図る.
  • 松中 亮治, 大庭 哲治, 中川 大, 岡本 真輝, 米山 一幸, 田中 博一
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_159-I_167
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年,コンパクトなまちづくりが注目されており,都市のコンパクト化の評価に際しては,地区特性とインフラ維持更新コストとの関係を定量的に示すことが重要である.本研究では,全国の3次メッシュを地区特性の違いにより分類し,道路インフラを対象に,地区特性とインフラ維持更新コストとの関係を分析した.その結果,人口あたり道路インフラ維持更新コストは地区特性の違いにより最大16.7倍の差があることを明らかにした.さらに,自然増減のみを考慮した場合と人口がコンパクトに集積した場合の,地区特性による分類ごとの人口割合を用いて将来の道路インフラ維持更新コストを推計した結果,人口がコンパクトに集積すれば,道路インフラ維持更新コストを削減できるものの,その削減率は0.2%であることを明らかにした.
  • 久保田 優斗, 寺部 慎太郎, 葛西 誠
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_169-I_176
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    社会基盤整備の計画段階で,市民の意見を計画に反映させながら進めていくパブリック・インボルブメントの考え方が定着してきている.パブリック・インボルブメントを有効に活用するためには,あらかじめ市民が社会基盤整備に関心を持っているという土壌が必要である.そこで本研究では,市民が日ごろ目にする報道媒体の一つである新聞に着目し,紙面上においてどういった記事が多く取り上げられているのかを独自に設計・作成したデータベースを用いて定量的に明らかにした.その結果,社会基盤関連の記事の割合は多くはなく,またその内容も社会基盤整備についてではなく経済記事や,事故の報道がほとんどであった.
  • 武藤 慎一, 森杉 壽芳, 松澤 晴季
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_177-I_190
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    2015年12月に開催されたCOP21において,わが国は「2030年度までに2013年度比マイナス26.0%の温室効果ガス(GHG)を削減する」との目標を表明した.これに対する有効な緩和策の実施が今後の課題といえる.また,局地的豪雨や台風の強大化などによる洪水被害等が多発しており,それは地球温暖化の影響が徐々に現れ始めたと言われている.今後は緩和策に加え,適応策を検討することも必要とされている.本研究は,こうした地球温暖化の緩和策および適応策の評価を行うために最適動学CGEモデルを構築した.本モデルを用い,高規格幹線道路整備を前提として,GHG削減目標を達成するための自動車燃料税増徴率を求めた.さらに適応策評価のために,資本損壊等の回復を内生化した洪水被害費用推計を行った.
  • 玉置 哲也, 多々納 裕一
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_191-I_200
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,災害時における交通ネットワークへの被害を考慮した各地域に波及する経済的影響を定量的に分析するため,経済均衡モデルにおける輸送コストを内生的に決定する手法を検討している.従来,交通ネットワーク変化による輸送コストの変化は外生的に与えられてきたが,実際には,各地域の経済活動状況によって派生的に地域間交易量が決定されるため,内生変数化することが望ましい.そこで,本研究では,交通均衡問題を制約条件として考えることで均衡制約条件付の数理計画問題としてとらえることで,輸送コストを内生化できる可能性について言及している.そして,実際に数値例を用いて交通ネットワークの途絶による地域への派生的影響を計算して数値解を得ることができた.
  • 佐藤 啓輔, 菊川 康彬, 小池 淳司
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_201-I_211
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    空間を扱う経済均衡モデルでは,地域間交易に関する基準均衡データとして地域間産業連関表における地域間交易額を活用する.本稿では,細分化された空間スケールを対象にした社会資本整備効果分析を念頭に,地域間産業連関表の地域間交易額を代替するデータとして,物流センサス,道路交通センサス,民間企業が整備している企業間取引データの特性を整理・比較し代替時の課題について整理した.その結果,地域間産業連関表が整備されている9ブロックレベルでは,地域間産業連関表の金額シェアと物流センサスの件数シェア,企業間取引有無の集計シェアがそれぞれ相関の高いデータであるが,市町村レベルまで細分化された空間スケールに適用する際には,両データともに課題があり各課題への対応が必要であることを示した.
  • 川端 祐一郎, 浅井 健司, 宮川 愛由, 藤井 聡
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_213-I_230
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    1970年代以降,心理学及び社会科学諸分野において,物語形式の思考や物語形式をもつ情報の提示によってもたらされる心理的・社会的な効果に関する実証的研究が行われている.本研究では,公共政策に関する合意形成の促進への応用を企図して,公共政策をめぐる情報を「物語性の強いシナリオ」によって与えることの効果と,受け手の認知的傾向としての「物語志向性」がこの効果に与える影響を検証する実験を行った.実験の結果,受け手の物語志向性とシナリオの物語性の組み合わせによって,情報に接触した際の態度の形成・変容に有意な差異が生ずることが明らかになった.また,「物語性」の定義とシナリオ作成方法を明確化したことで,公共政策をめぐるコミュニケーションの実践に物語型情報を応用するための手法に関し,具体性のある示唆が得られた.
  • 齋藤 宣弘, 寺部 慎太郎, 武藤 雅威, 葛西 誠
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_231-I_239
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    鉄道事業者は利用者の要望を汲み取るため,顧客満足度調査(CS調査)を実施してきた.従来のCS調査では,利用の蓄積等から形成される鉄道への印象,利用年数,サービスへの満足度等の個人の感覚的要素が満足度に与える影響について考慮されているとは言えず,サービスに対する現在の満足度のみに着目している.本研究ではこれらの要素が愛着に影響を与えると考え,鉄道利用者に対する意識調査を全2回実施した.意識構造分析の結果,鉄道施設への満足度が愛着に影響を及ぼして,さらにはそれが継続利用の促進に影響を及ぼすことが分かった.また同時に鉄道利用年数と,サービスに印象を持った経験も愛着に影響することが示された.このことから,鉄道事業者は利用者の愛着についても考慮する必要性があるといえる.
  • 福嶋 恭正, 内田 敬
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_241-I_249
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年の都市河川整備においては,治水や利水のみならず環境や親水利用に目を向けた取り組みがなされているが,沿川住民の評価が低く,水辺利用が進んでいない事例も見られる.
    本研究は,新興市街地内中小河川における水辺整備を事例とする.事業実施から数年を経た区間の沿川住民へのアンケート調査を実施することにより,利用実態や水辺整備事業に対する態度を把握する.これらにより,都市河川の水辺整備における円滑な事業遂行や合意形成に向けた具体的方策として,沿川住民から高い評価を得て利用促進が図られるための手法の検討を行う.本稿では,沿川住民の水辺利用や水辺整備事業への態度に影響を及ぼす潜在要因を明らかにするための総合的分析に向けて,各要因の関係性について個別分析を行い,影響が大きい潜在要因の候補を抽出するものである.
  • 南 貴大, 藤生 慎, 中山 晶一朗, 高山 純一, 近田 康夫
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_251-I_260
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年,橋梁の長寿命化の検討が行われるようになってきた.高度経済成長期に建設された橋梁は耐用年数を迎え,架け替えや長寿命化の検討が行われている.このような状況の中,地方自治体においても事後保全的な維持管理ではなく予防保全的な維持管理を行うため5年に1度の頻度で橋梁の定期点検が行われている.本研究では橋梁定期点検結果を用いて,健全度が低くなりやすい橋梁を明らかにするために,2期分の点検結果から劣化速度を算出し,劣化速度に影響を与えている環境要因について明らかにする.分析手法としては,数量化理論I類を用いて,各要因が劣化速度に与える影響の程度の把握を行い,分散分析によって各要因の影響がデータのばらつきによる変動ではないかの検討を行った.
  • 森 千鶴, 長田 哲平, 大森 宣暁, 森本 章倫
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_261-I_268
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    宇都宮においてLRT導入が計画されているが,未だに懐疑的な市民や無関心な若者などがいる.これらの人々には,まずLRTに興味を持ってもらう動機づけが必要である.そこで,VR・ウェブサイト・ARの3種類の情報発信ツールを用いてLRT導入によるまちづくりの市民PRを行った.そして,各ツールの体験前後でアンケート調査を実施し,各ツールの市民PRの効果と市民意識の変化を定量的に把握・比較した.その結果,各ツールを用いた市民PRは,LRT計画やそれに伴うまちづくりへの興味の向上効果があることが分かった.また,ARは視覚的イメージの醸成効果,将来の自身の交通行動をイメージさせる効果があることが分かった.さらに,PR対象の属性によって情報発信ツールを使い分けることで,より効果的な市民PRの可能性を示した.
  • 浅田 拓海, 田中 優太, CHAOWARAT Woramol, 有村 幹治
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_269-I_275
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年,建物個々の位置情報および各種建物属性情報を収録した都市計画基礎調査データの整備,更新が進んでおり,都市構造に関する分析の可能性が広がりつつある.本研究では,H17からH25までの札幌市の都市計画基礎調査データに生存時間分析を適用し,住宅寿命に影響を及ぼす建物属性の解明を試みた.まず,近年の住宅立地動向を調べたところ,市全体としては出現数の増加および除却数の減少が見られ,残存数は都心側では減少,外縁部では増加となり,居住地がスプロール傾向にあることが確認された.次に,建物属性情報を説明変数として比例ハザードモデルを適用したところ,非木造構造よりも木造構造の方が,また,実建蔽率が高いほど,地上階数が低いほど,住宅寿命が長くなることがわかった.
  • 田中 皓介, 藤井 聡
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    民主主義を採用するわが国では,世論に大きな影響を及ぼすマス・メディアの報道が,一定のバイアスが存在するか否かは極めて深刻な問題である.そのため,わが国の公共事業を含む公共政策についての報道に,そうしたバイアスが存在するか否かは,わが国の現実の公共事業,土木計画の在り様に決定的な影響を及ぼす.本研究では,日本の政策判断に間接的に一定の影響を持つアメリカ大統領の一般教書演説が,如何に報道されているかに着目し,公共事業を含む公共政策において,わが国のマス・メディアの報道が,如何なるバイアスを持っているのか,つまり如何なる形で事実からの乖離しているのかを分析した.その結果,イデオロギーによって報道のされやすさが大きく異なる様子が示唆された.
  • 猪原 暁, 渡邉 啓太, 杉本 賢二, 加藤 博和, 林 良嗣
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_283-I_291
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    巨大自然災害に対する防災・減災施策を講じる上で,地域のレジリエンス性(抵抗力,回復力)に関する情報を整備することが重要である.本研究では,災害によって死亡・負傷していない住民を対象に,発災以降の生存・生活環境変化の動向を踏まえ,被災者のQOL(生活の質:Quality of Life)の低下量を用いて,地域のレジリエンス性を定量評価する手法を構築した.想定されている南海トラフ地震に適用した結果,内陸部ではQOLは早期に回復するが,甚大な津波被害を被る沿岸部ではQOLの回復は遅くなることが明らかとなった.また,東日本大震災で行われた「くしの歯作戦」の方針を基に想定した道路復旧シナリオにより,広域幹線道路周辺地域から支援が進み,QOL回復に重要な役割を果たすことを示した.
  • 福田 大輔, 遠藤 壮一郎
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_293-I_303
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,自然災害と国の経済成長の関係性に関する実証分析を行った.具体的には,自然災害統計EM-DATとマクロ経済データWDIの各国統計情報を統合した国別パネルデータを用いて,自然災害の生起又はその規模が各国の経済全体あるいは産業部門別の経済成長に及ぼす影響を把握するための計量経済モデルを構築した.システム一般化積率法を用いたパラメータ推定の結果,自然災害はGDPに対して統計的に有意ではないものの概ね弱い正の影響があること,産業部門によって自然災害がその成長にもたらす影響の方向が有意に異なることなどが確認された.また,既存の理論研究より示唆される自然災害の生産性効果と本研究の推定結果とが矛盾していないことも確認された.
  • 熊谷 兼太郎, 永廣 迪, 小野 憲司
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_305-I_316
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究は,津波避難行動におけるグループ歩行の同調行動のモデルを検討した.まず,避難訓練の際に徒歩避難者の人流測定を行い,避難者はグループ歩行と単独歩行に分化し,グループ間で歩行速度に違いがあることが分かった.また,グループ歩行比率は東北地方太平洋沖地震の避難行動より大きく,今回の避難訓練データをそのまま実際の避難に適用するのは課題があることが分かった.次に,同調性を考慮したモデルを提案しグループ歩行の再現計算を行い,グループの形成,グループ間の速度差及びグループ歩行比率を概ね表現するとともに,パラメトリックスタディでは実際の避難行動のグループ歩行比率に近い値となることを示した.ただし,グループの歩行速度の絶対値がやや小さく,歩行速度のモデル化についてより詳細な検討が必要であることが分かった.
  • 氏家 晃仁, 福本 潤也
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_317-I_329
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    産業集積で生じる集積の経済が企業の生産性を高めるため,産業集積は大きな社会的関心を集めている.産業集積の形成を促す政策を立案したり,現象への理解を深める上で産業集積の実態把握を行うことが有益である.産業集積現象の実態把握手法に事業所が空間的に集中する領域を特定する集積領域検出手法がある.既存手法では集積領域は地理空間上で厳格に連結した領域であると仮定している.厳格な連結性を仮定して集積領域を検出すると,集積領域検出を通じた分析の結果が空間データの集計単位の設定に左右される可能性がある.本研究では統計物理学で用いられるポッツモデルに基づく厳格な連結性を仮定しない集積領域検出手法を提案する.1/2地域メッシュ単位の事業所数データを用いたケーススタディを通じて,本手法の有効性を示す.
  • 生富 直孝, 浅田 拓海, BOONMEE Chawis, 有村 幹治
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_331-I_339
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,地域の実情に即した津波避難計画の立案,また地域社会における関係主体間の円滑なリスクコミュニケーションの支援を目的に,避難訓練時のプローブデータを用いた避難行動シミュレーションの構築を行った.具体的には,2014年9月1日に室蘭市で実施された大規模地域避難訓練(室蘭シェイクアウト)において,GPSデバイスによる避難時の移動軌跡の観測及び避難に関する意識調査を行い,得られた結果をマルチエージェントモデルにおけるエージェントルールに組み込み,複数のシナリオ分析を行った.その結果,当該地区における避難行動の差異,また声掛け応答の有無で避難完了割合に13%の差が生じ,避難時における共助の重要性が評価された.
  • 塚井 誠人, 椎野 創介
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_341-I_352
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    合意形成の質を高めることを目的とした実証分析では,討議録などのテキスト情報の解析から有益な計画情報を抽出する試みが重ねられてきた.しかし従来手法では単語の共起情報に基づくクラスタリングによって全体のトピックを抽出することは可能だったが,1文書が複数のトピックを持つ場合や,文書内のトピックの推移を明らかにできる手法の開発は進んでいなかった.
    本論では,言語情報処理分野で開発が進められてきたトピックモデルの概要と特徴を整理するとともに,トピックモデルによる討議分析の可能性について検討する.Web上で公表されている各地の地域公共交通会議に関する討議録データベースを独自に収集してトピックモデルを適用したところ,各地域の課題に即したトピックと地域間で共通のトピックが得られ,モデルの有効性を確認できた.
  • 瀬木 俊輔, 小林 潔司
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_353-I_371
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究は,マクロな社会資本投資政策の便益の世代別帰着分布を評価可能な動学的応用一般均衡(DCGE)モデルを構築した.その上で,構築したモデルを我が国に適用し,社会資本投資政策と長寿命化政策について分析を行い以下のような知見を得た.社会資本投資には,その水準を増やすと将来世代の厚生が増加する一方で現在世代の厚生が減少するという世代間厚生のトレードオフの問題が生じる.起債による世代間所得移転はこの問題を効率的に緩和できるが,これは公債残高を一時的に増加させる.長寿命化政策は,現在世代を含む幅広い世代に対して便益をもたらし,損失を受ける世代への補償は現在世代の中だけで行うことが可能である.
  • 大平 悠季, 織田澤 利守
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_373-I_382
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年,ロンドン等で導入された混雑課金制度が交通混雑の解消に一定の成果を挙げている.一方,既存研究においては,課金方式や料金水準の設定の際に集積の経済を考慮することの必要性が指摘されている.対面形式のコミュニケーションを通じた相互作用は集積の経済の源泉の1つとされ,その質や頻度はコミュニケーションを行う主体間の社会的関連性(社会ネットワーク)にも大きく影響を受ける.こうした観点から,本研究では社会ネットワークを通じた相互作用を明示的に表現し,コミュニケーションに内在する相乗効果と交通混雑を同時に考慮できる理論モデルを構築する.提案モデルをポテンシャルゲームとして解釈することにより,社会ネットワーク構造に関する情報を用いずに実行可能な交通料金政策が,社会的最適状態を進化的に達成することを示す.
  • 浅田 拓海, 亀山 修一
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_383-I_392
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    地域景観研究では,局所的な箇所や区間が対象となる場合が多いが,地域の全体像を捉えるためには広域的,網羅的な分析が必要となる.本研究では,Googleストリートビューのパノラマ画像を用いた景観可視化手法を開発し,それによる道路景観の空間分布から地域景観分析を行った.富良野・美瑛観光圏を対象に,100m間隔の視点からパノラマ画像を取得し,そのフラクタル次元,空・緑の占有率から対象地域の景観を5つのクラスターに類型化した.さらに,デジタルマッピングにより各クラスターの地域内分布を容易に把握できることを示すとともに,それらの地域比較,多様性などの分析から,各地域の景観特性について明らかにした.
  • 宮川 愛由, 西 広樹, 小池 淳司, 福田 崚, 佐藤 啓輔, 藤井 聡
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_393-I_405
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    地方創生が叫ばれる現在,大型店舗が地域に与える影響に関する知見が重要となっている.しかし,筆者らが知る限り,消費者の大型店舗での買い物が,地域経済に与える影響に関して,国内においては実証的な知見が見当たらない.そこで,本研究では,消費者の買い物店舗の選択が地域経済に及ぼす影響の検証を目的として,京都市内の様々な経営形態の食料品小売店舗を対象に調査を行い,消費者の買い物支出の帰着先を分析した.分析の結果,買い物支出のうち京都市に帰着する割合が,大型店舗では地場スーパーや地元商店の半分程度であることが示された.本研究成果は,地域活性化に向けた望ましい消費者行動とは如何なるものかについての示唆を与えると同時に,大型店舗の進出による地域活性化への期待に疑義を唱えるものといえよう.
  • 羽鳥 剛史, 片岡 由香, 尾崎 誠
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_407-I_414
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年,地域社会の課題に対して,市民自身が自主的・自発的に取り組み,課題解決に貢献する様々な市民活動の事例が増えつつある.しかし,市民活動の中には,当初の理念や問題意識が薄れていき,その活動が長続きしない事例も少なからず見受けられる.本研究では,市民活動の持続可能性の規定要因を明らかにすることを目的として,一般市民を対象として,市民活動への参加状況やその活動期間の実態を調査した.それと同時に,市民活動の持続可能性に関わる要因として,地域愛着や文化資本等の諸項目を測定した.この調査の結果から,市民活動の持続可能性に寄与する心理要因やその心的プロセスについて検討し,市民の主体的かつ継続的な活動を支えるための方途について考察した.
  • 桑野 将司, 福山 敬, 井上 航
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_415-I_422
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    核家族化の進行やライフスタイルの多様化により,人のつながり,すなわちソーシャルネットワークの希薄化が懸念されている.本研究では,個人レベルでの支援者の有無だけでなく,他者間の人づきあいの程度など地域レベルでのソーシャルネットワークが,個人の生活安心感に及ぼす影響の把握を目的とする.具体的には,インターネット調査によって捕捉した支援者数分布等を用いて,分析対象地域全体のソーシャルネットワークを再現し,その特徴をネットワーク指標を用いて定量化する.そして,それらネットワーク指標や個人属性,地域特性を用いて,生活安心感に影響を及ぼす要因分析を行う.分析の結果,自動車の利用可能性や病床数などの個人属性や施設整備状況に加え,ソーシャルネットワーク特性が生活安心感に影響を及ぼしていることを明らかにした.
  • 今井 一貴, 佐藤 徹治, 神永 希, 杉本 達哉, 高森 秀司
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_423-I_434
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    わが国では多くの都市で人口減少が見込まれ,持続可能性を理念とするコンパクトシティが注目されている.コンパクトシティを形成する際,自然災害に脆弱な場所に集約させることはインフラ維持管理の効率化の視点から見て非効率であり,自然災害リスクの低減化の視点も重要である.本研究では水害リスクに着目し水害対策やコンパクトシティに向けての施策が将来時系列の都市内人口分布に及ぼす影響を評価可能な理論モデルの構築を行い,富山市を対象に実証モデルを構築し2010年~2040年における人口分布の推計を行った.また実証モデルを用い,富山市が実施している都心部等への人口誘導施策が人口分布に及ぼす影響を検証するとともに,水害リスクを軽減させると想定される規制・認知の施策オプションが人口分布に与える影響の分析を行った.
  • 辰巳 浩, 吉城 秀治, 堤 香代子
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_435-I_445
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    誰もが楽しく快適に回遊できる中心市街地の創出は,都心の活性化に向けて重要な検討事項である.とりわけ少子化対策が喫緊の課題となっている我が国においては,子連れであっても回遊しやすい中心市街地を整備していく必要がある.そこで本研究では,福岡市の天神地区を来街した人を対象として行ったアンケート調査を基に子連れ来街者と一般来街者の回遊行動の比較から,子連れ来街者の回遊特性を明らかにした.
    その結果,子連れ来街者と一般来街者では回遊行動の違いがみられ,来街手段から滞在時間,目的,地区で訪れるエリアまで異なっていることが明らかになった.また,子連れ来街者の方が回遊に対する満足度が低く,特に子供向けの娯楽や休憩施設の少なさに対する不満がみられ,その理由を明らかにしている.
  • 津村 優磨, 松中 亮治, 大庭 哲治, 中川 大
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_447-I_459
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究は,東京都市圏,中京都市圏,京阪神都市圏において近年整備された都市鉄道駅について,都市鉄道整備期における自動車分担率に着目した上で,駅周辺地域における交通環境負荷を経年的に分析した.
    その結果,整備期における自動車分担率が低い駅ほど,都市鉄道駅整備による交通環境負荷の抑制傾向が強まることを統計的に明らかにした.逆に,モータリゼーションの進展に伴って発展した自動車依存型の地域においては,都市鉄道駅が整備されたにも関わらず,交通環境負荷の増加傾向が経年的に強まることを示した.ただし既に自動車分担率の高い地域においても,開発率が高い既成都市域では,列車運行本数の多い都市鉄道駅を整備することで,一定の交通環境負荷の抑制傾向が得られることを示した.
  • 鈴木 雄, 日野 智, 中村 光太郎
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_461-I_471
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年,地域コミュニティーの衰退が問題となっている.本研究では,子縁による地域コミュニティー醸成に着目した.子縁とは,地域の子どもを通じた縁のことである.子どもと地域住民とのつながりも子縁であるし,子どもを通じてできた地域住民同士のつながりも子縁である.例えば,「地域の子どもと会話をする」や「子どもを通じて知り合った人と買い物に行く」などである.分析の結果,子縁の大きい住民ほど,「子縁による効果認識」や「住民との関わり」が強いことが示された.また,地域の子どもと話す機会があることが,地域課題解決への意識につながることが明らかとなった.子縁による地域コミュニティー関連要因の構造化により,子縁が「子縁による効果認識」や「資本の貸し借り」を生み,それが地域の課題解決意識につながることが示された.
  • 稲垣 和哉, 原 祐輔, 桑原 雅夫
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_473-I_485
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,中心市街地内の店舗の共起関係に基づいて,店舗の集積メカニズムを説明できる潜在的な属性を実証的に明らかにした.店舗をノード,店舗間の共起関係をリンクとした店舗の共起ネットワークで店舗集積を表現し,店舗の共起ネットワークを生み出した店舗の潜在的な属性を推定する手法を開発した.ケーススタディとして大阪市難波駅周辺を取り上げ,難波駅周辺における店舗集積を生み出した店舗の潜在的な属性を推定した.結果として,1) 属性間の関係,2) 属性の性質,3) 店舗と属性の関係といった,店舗の集積メカニズムの定量的な性質を把握することができた.
  • 小池 則満, 中嶋 浩人
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_487-I_494
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    近年南海トラフを震源とする巨大地震による津波発生が危惧され,津波避難誘導等の対策が推進されている.特に,沿岸地域に立地する宿泊施設では,従業員のみならず土地勘のない観光客を交えた津波避難を行う必要があるため対策が急務である.そこで本研究では,愛知県南知多町に立地する宿泊施設を対象に南知多町観光協会を通じて津波防災対策についてアンケート調査を行った.その結果,経営者の防災意識の差が実際の対策に影響していること,観光客向けの対策がネックになっていること,小規模な施設で事業継続が難しいと考えられていることを指摘し,観光地としての早期復興の視点も考慮した施策が求められることを明らかにした.
  • Zhenyu GAO, Masanobu KII, Atsuko NONOMURA, Kazuki NAKAMURA
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_495-I_503
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    Rapid urbanization in China releases huge development potential, meanwhile great challenges also been brought in residents' living and travelling. In this study, we focus on the variations of commuting and residential condition affected by urban expansion in past two decades. Objective remote sensing data is processed to redefine urban area. As deficiency of social survey in developing countries, Alonso's urban economic model is more simple and flexible to be applied. We developed the model by adding a house developer, which made it possible to measure residents' living. Five datasets of Harbin, China from 1994 to 2014 with five years intervals are tested to find some implications.
  • 山田 孝彦, 秀島 栄三, 長野 直之
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_505-I_514
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    豊明市では,現在の財政状況は健全であるが,近い将来には少子高齢化が進行し,老朽化した公共施設等の更新に向けた投資的経費の財源不足の懸念があることから,総合的かつ計画的な維持管理の実践に向け,いち早く公共施設等総合管理計画の策定の取組を開始した.具体的には,計画策定業務により計画の内容を検討すると同時に研究会を発足し,効率的な維持管理の実現性について検討を行った.
    本研究では,公共施設等総合管理計画の策定過程を観察し,考察を加え,庁内の合意形成がいかに図られるべきか,そのために全庁的にどのように取り組むべきかを検討した.結論として,策定業務と研究会を並行して進めることで各施設所管課の方針を汲み取ることと同時に所管課職員の効率的な維持管理に向けた意識改革を行えたことが有効であった.
  • 有村 幹治, 鎌田 周, 浅田 拓海
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_515-I_522
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,人の滞在場所が時間帯別に記録された「モバイル空間統計データ」と建物個々の詳細な立地情報が収録された「都市計画基礎調査データ」の2つのマイクロジオデータを統合的に用いることで,都市内の建物用途の変更および再配置や集積が滞在人口に与える影響について分析を行った.まず,各時間帯に帯広市内に滞在する人の居住地を集計した結果,その約20%が十勝圏居住者であることなどがわかった.さらに,1kmメッシュ毎に集計した入込人口を目的変数,メッシュ内の用途別建物棟数・延床面積を説明変数として重回帰分析を行い,平日においては,宿泊施設などがある地区ほど,入込人口が増加することを明らかにした.
  • 片岡 由香, 羽鳥 剛史, 羽藤 英二
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_523-I_532
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    多くの地方都市において,地域の存立を維持していく上で,いかにしてまちづくりの担い手を育成するかが課題となっている.そうした背景の下,愛媛県松山市では,公民学の連携によって地域の課題を解決しながら,若者の地域定着を目指す仕組みとして,平成26年11月よりまちづくり実践学習プログラム「アーバンデザインスクール」の取り組みを開始した.本研究では,このスクールの活動内容と活動プロセスに着目し,まちづくり実践学習がどの様な形で地域連携や現実のまちづくりと関わったかを分析し,その実態と課題を明らかにすることを目的とする.その上で,現実のまちづくりに展開可能なまちづくり実践学習のあり方について考察する.
  • 松井 祐樹, 日比野 直彦, 森地 茂, 家田 仁
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_533-I_546
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    インバウンド観光は,今後の日本にとって重要な役割を担うものである.近年では,台湾,韓国,中国からの訪日外国人旅行者に加え,東南アジア諸国からの旅行者も急増している.観光行動の多様化が進む中,ニーズを十分に捉えた観光政策が求められている.しかしながら,彼らがどのような地域を訪問し,どのような観光活動を好むかを観光統計データに基づき複合的かつ定量的に分析された研究はこれまでにない.本研究は,訪日外国人消費動向調査の個票データを用いて訪問地傾向と観光活動を組合せて分析し,個人属性による差や時系列変化を定量的に示したものである.分析結果より,訪問地傾向と観光活動を組合せて分析することの重要性を示すとともに,近年増加する個人旅行者は,都市部を中心に多様な観光活動をする傾向にあることを明らかにしている.
  • 今野 悟, 福本 潤也
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_547-I_558
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    都市内農地をめぐり,都市的土地利用への転換を図るべきとの意見と,多面的機能を維持するため農地として保全すべきとの意見が対立している.この議論に対し,本研究では農地政策が都市内農地の宅地転用と生物生息に与えた影響を実証的に明らかにする.具体的には,1991年の農地政策の見直しに着目し,以下の二つの分析を行なう.第一に,複数の農地政策シナリオを想定し,それぞれのシナリオ下での都市内農地の残存確率を推計する.シナリオ間の比較より,農地政策の見直しが宅地転用に与えた影響を推計する.第二に,土地利用と環境指標生物の生息確率の関係を推計し,第一の分析結果を組み合わせることで,農地政策の見直しが環境指標生物の生息確率に与えた影響を推計する.
  • 松田 泰明, 岩田 圭佑, 井上 利一
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_559-I_570
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    我が国の沿道には多くの電線電柱が存在し,景観の魅力を低下させ,観光振興にも影響を与えている.さらに,近年の通信需要への対応により通信線が増加し,新たな電柱も設置され,さらなる景観悪化を招いている.特に自然域や田園域など,開放的な沿道景観ではその影響は大きい.しかし,高額な整備コストなどから,市街地以外での無電柱化事業の事例は極めて少ない.一方,通信線は配電線に比べて無電柱化のコストが安く,地上機器も必要ないことから整備のハードルは相対的に低い.
    本稿では,現在増加している通信線を対象に,ルーラルエリアにおける景観への影響や,通信線のみを埋設する単独埋設の有効性について考察し,この手法に一定の効果があることや,大幅なコスト縮減の可能性があること,さらに効果的な対策箇所選定の考え方などを示した.
  • 古屋 秀樹, 劉 瑜娟
    2016 年 72 巻 5 号 p. I_571-I_583
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究は,観光・レジャーを旅行目的とした訪日外国人旅行者の都道府県への訪問の組み合わせである訪問パターンの特性把握を目的としている.分析では,観光庁が実施した「訪日外国人消費動向調査」データを用いながら,潜在クラスモデルによって類似性から集約される訪問パターン導出を試みた.複数設定したクラス数それぞれの推定結果におけるモデル全体の説明力をAIC値,BIC値によってチェックした結果,24クラスの設定が最も妥当と判断できた.さらに,導出されたクラス別構成比率と主要国籍・地域,旅行形態,旅行時期,訪日回数などの各要因との関連性について一般化χ2乗検定によって明らかにするとともに,訪問地からみた主要マーケットの特徴について明らかにした.
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