日本作物学会紀事
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82 巻, 1 号
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研究論文
栽培
  • 鈴木 崇之, 岩堀 英晶, 安達 克樹, 小林 透
    2013 年 82 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    サツマイモ栽培において,4月挿苗の透明ポリマルチ栽培,5月挿苗の黒ポリマルチ栽培および6月挿苗の無マルチ栽培の三つの作型がネコブセンチュウ害に及ぼす影響を比較したところ,遅い時期の作型では挿苗時の線虫密度および線虫害が減少した.次に線虫密度条件が同一である同一作期でマルチの種類が線虫害に及ぼす影響を検討したところ,透明ポリマルチ栽培および黒ポリマルチ栽培に比べ,地温が低い白黒ダブルポリマルチ栽培や無マルチ栽培で線虫害が軽減され,線虫害の発生に地温が影響していることが示唆された.またダイコンの作期はダイコンの線虫害に影響を及ぼすが,ダイコン-サツマイモ体系におけるダイコン栽培の有無・作期は,後作サツマイモ栽培前の線虫密度およびサツマイモの線虫害にはほとんど影響しないことが示された.
  • 服部 誠, 南雲 芳文, 佐藤 徹, 藤田 与一, 樋口 泰浩, 大山 卓爾, 高橋 能彦
    2013 年 82 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    新潟県では近年,ダイズ収量の変動が大きく,従来よりも収量や品質が低下しているという指摘がある.そこで,本研究は新潟県におけるダイズ収量の変動要因,特に収量と作付履歴との関係,地力窒素の変化や気象要因が収量に与える影響について検討を行った.現地調査では,4年以上の連作圃場の比率が高まると収量低下が顕著となった.また,作況試験においては,有効莢数を主要因とした粒数の低下が収量低下の原因であった.長期田畑輪換圃場では水田圃場に比べてダイズ生育期間の可給態窒素量が少なく,特に開花期以降に少ないことから,着莢数や子実の肥大に影響しているものと考えられた.さらに,近年の気象傾向として,開花始~着莢始(R1~3) にあたる8月上旬の高い日射量は,莢数の増加に作用しているものの,着莢盛~粒肥大始(R4~5) にあたる8月中旬の多雨が一時的に湿害を招き,窒素固定の低下や落莢を引き起こしている可能性が示唆された.
  • 大平 陽一, 佐々木 良治, 竹田 博之
    2013 年 82 巻 1 号 p. 18-27
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    低グルテリン米水稲品種LGCソフトと低グルテリン・26 kDaグロブリン欠失米水稲品種エルジーシー潤および一般食用水稲品種ニホンマサリを供試して,4カ年延べ8~9作期を設定し,米粒のタンパク質組成と総タンパク質含有率 (TP) の変動要因やその品種間差を検討することで,タンパク質変異米水稲品種の米粒の易消化性タンパク質含有率 (DP) を低レベルに制御するための栽培管理上の要点を明らかにしようとした.重回帰分析の結果,DPは,TPと総タンパク質に占める易消化性タンパク質の割合 (DP/TP) の両者に影響されるが,DP/TPがDPに及ぼす影響の程度は,LGCソフトやエルジーシー潤の方がニホンマサリよりも大きいことが明らかになった.いずれの品種も,DP/TPは出穂後0~15 日間の気温と正の相関関係を示したが,LGCソフトとエルジーシー潤では,DP/TPは特に出穂後0~10日間の気温と高い正の相関関係を示し,登熟過程でDP/TPに気温が影響する時期はニホンマサリよりも若干早いことが示唆された.したがって, タンパク質変異米水稲品種のDPを抑制するためには,登熟初期が高温にならないような作期設定が重要と考えられた.DPにはTPも影響し,TPは出穂期の茎葉部窒素含有率・含有量と正の相関関係,登熟歩合と負の相関関係を示した.このことから,出穂期の窒素栄養状態と登熟歩合に留意する作付け計画や栽培管理が重要と考えられた.
  • 大角 壮弘, 平内 央紀, 松村 修
    2013 年 82 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    石灰窒素の基肥施用は稲こうじ病の発生抑制に効果があるものの,肥効が長いとされる石灰窒素がその後の水稲の生育や収量・品質にどのような効果を示すのか十分には明らかではない.本研究では重粘質土壌水田において2010年より2か年にわたり,速効性窒素肥料の分施区 (慣行区) と石灰窒素を全量基肥施用した区 (石灰窒素区) を設け,収量性および玄米外観品質を比較・評価した.施肥窒素量はいずれの区も4 g m-2とし,品種はコシヒカリを用いた.重窒素標識した石灰窒素の吸収量を調査したところ,石灰窒素の肥効は少なくとも幼穂形成期までは持続することが明らかとなり,穂揃い期までの施肥窒素利用率は9.1~17%であった.石灰窒素区では両年とも有意な登熟歩合の低下がみとめられ,低日射により登熟期乾物生産量の小さかった2011年には玄米外観品質の低下が観察された.登熟歩合と玄米外観品質の石灰窒素区での低下は,いずれも幼穂形成期以降の窒素吸収量が慣行区に比べ小さく,穂揃い期の栄養状態が良好でなかったことが要因と推察された.このことから,重粘質土壌で石灰窒素を基肥施用した条件で,慣行の施肥体系と同等の生育・品質を確保するためには,適切な時期に穂肥を施用する必要があると考えられた.
  • 佐藤 徹, 東 聡志
    2013 年 82 巻 1 号 p. 34-41
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    鉄コーティング湛水直播栽培の収量特性を調査するため,播種様式および播種後の水管理の影響について,過酸化カルシウムコーティング種子の条播栽培 (苗立ち密度57本/m2) を比較として検討した.鉄コーティング種子の播種様式は条播 (苗立ち密度57本/m2および30本/m2) および点播 (株間17 cmおよび24 cm) とし,播種後の水管理は湛水区と落水区とした.播種様式が収量に及ぼす影響は,鉄コーティング直播栽培は過酸化カルシウムコーティング直播栽培に比べやや減収する傾向がみられたが,鉄コーティング直播栽培の点播 (株間17 cm) 区は鉄コーティング直播栽培の中で最も収量が多く,過酸化カルシウムコーティング直播栽培との有意差は認められなかった.その要因として,点播栽培は条播栽培に比べ,受光態勢が改善され,出穂後の乾物生産が旺盛となったため,収量が増加したと考えられた.収量に対する播種後の水管理の影響は落水区が有意に湛水区に比べ多かった.その要因として落水区の押し倒し抵抗値が大きくなり,倒伏指数が小さくなったため倒伏程度が小さく推移し,その結果,登熟度 (登熟歩合×千粒重) が高くなり収量が増加したと考えられた.以上より,鉄コーティング直播栽培の播種様式は点播 (株間17 cm)とし,播種後の水管理は落水で管理することにより倒伏が軽減され,収量が高まると考えられた.
品質・加工
  • 長田 健二, 佐々木 良治, 大平 陽一
    2013 年 82 巻 1 号 p. 42-48
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    高温登熟条件下における米粒の胴割れ発生の品種間差異を明らかにする目的で,夏期が高温となる瀬戸内地域において多数品種を供試した圃場試験およびポット試験を行った.水稲20品種を2008年からの3年間で計7回圃場で栽培し,胴割れ率を調査した結果,過去の報告と同様に登熟初期の気温が高い条件で胴割れ率が高まることが確認された.品種間で発生程度を比較した結果,双葉,ヤマヒカリ,藤坂5号はいずれの年次・作期においても胴割れ率が高かった.また,はなの舞,ハナエチゼン,にこまる,ひめのまいは,登熟初期の気温が比較的低い条件では胴割れ率が低かったものの,高温条件となった年次・作期では発生が大きく増加した.一方,中国由来の品種である塩選203号は,高温条件となる年次・作期においても胴割れの発生が少なかった.出穂期以降の気温推移を品種間で同一条件とし,登熟初期に高温処理を行ったポット試験を2009年に行った結果においても,塩選203号は胴割れ率が他の品種と比較して有意に少なかった.以上の結果より,塩選203号は高温登熟条件下でも高い胴割れ耐性を発揮することが明らかになった.
  • 中道 浩司, 足利 奈奈, 来嶋 正朋, 佐藤 三佳子, 吉村 康弘
    2013 年 82 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    本研究は,北海道の春まきコムギ優良新品種「はるきらり」を上川農業試験場 (北海道上川郡比布町) にて3年間栽培・試験し,収穫物である子実の製粉特性ならびに小麦粉の製パン性といった品質特性について,基幹品種「春よ恋」と比較することで評価したものである.品質特性は,子実については子実タンパク質含有率,子実灰分含有率,製粉工程でのミドリング粉量に対するブレーキ粉量 (BM率) で,小麦粉については小麦粉タンパク質含有率,小麦粉灰分含有率,生地吸水率,グルテンインデックス,パン体積で評価した.小麦粉タンパク質含有率ならびに小麦粉灰分含有率は,それぞれ同じ子実タンパク質含有率,同じ子実灰分含有率であれば,「春よ恋」が「はるきらり」よりも高かった.BM率は,両品種とも子実タンパク質含有率と正の相関を示し,同じ子実タンパク質含有率であれば,「はるきらり」が「春よ恋」よりも高かった.さらに,小麦粉タンパク質含有率は,吸水率,パン体積,可溶性ポリマー含有率 (EPP),可溶性モノマー含有率 (EMP) および不溶性モノマー含有率 (UMP) と正の相関を示し,グルテンインデックスと負の相関を示した.一方で,「はるきらり」は,「春よ恋」よりも吸水率が低く,グルテンインデックスが低く,パン体積が大きく,EPP と EMP が高く,不溶性ポリマー含有率 (UPP) が低かった.
品種・遺伝資源
  • 森下 敏和, 山口 博康, 出花 幸之介, 清水 明美, 中川 仁
    2013 年 82 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    アキウコン11系統,ハルウコン6系統,ガジュツ3系統を供試して関東 (茨城県)で2004年と2005年の2年間,クルクミン類 (curcumin, monodemethoxycurcumin, bis-demethoxycurcumin) の含量と抗酸化能を調査した.アキウコンは国内産と台湾産を中心とした8系統から成る総クルクミン含量が200~700 mg/100 g乾物重 (DW) のグループ (アキウコンI) と,東南アジアの3系統から成る1800 mg/100 gDW以上のグループ (アキウコンII) に分けられた.ハルウコンは6系統とも総クルクミン含量が50~100 mg/100 gDWでアキウコンIより低かった.ガジュツ3系統のうち2系統はクルクミン類を含まなかったが1系統は約1500 mg/100 gDW含んでいた.またクルクミン類の各成分の含有比はアキウコンIとIIで異なっていた.大部分の系統は2004年よりも2005年の方がクルクミン類の含量と抗酸化能が高かったが,年次相関は有意であり,年次変動は大きくてもグループ間の序列は安定であった.色彩値からはクルクミン類の含量が推測可能となる精度は得られなかったが,グループの区別は可能であった.
収量予測・情報処理・環境
  • 鈴木 利和, 江口 香織, 一家 崇志, 森田 明雄
    2013 年 82 巻 1 号 p. 63-68
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    チャの樹体内デンプンの簡易定量法としてヨウ素呈色法 (以下,ヨウ素法) の抽出条件と有効性を検討した.ヨウ素法における最適測定波長および熱水抽出時間を検討した結果,測定波長をチャの中根デンプンの最大吸光波長である600 nmとし,抽出時間を10分以上とするのが適当であると考えられた.デンプン含量の異なる中根,太枝,成葉の試料を用いて定量を行った結果,ヨウ素法の測定値と対照法 (過塩素酸抽出・フェノール硫酸法) の測定値との間には,高い相関関係 (r=0.98) が認められ,ヨウ素法の有効性が明らかになった.ただし,デンプン含量が低濃度 (概ね30 mg g-1以下) の試料に適用する場合には,ヨウ素法の測定値は対照法よりも低くなることから留意が必要であると考えられた.一方,ヨウ素法では,対照法に比べ分析時間が1/3程度に短縮され,コストが1/90に削減された.以上のことから,ヨウ素法はチャの樹体内デンプンの定量として適用が可能であり,特にデンプン濃度の高い枝や根での信頼性の高いことと,また安全性,操作性,簡便性およびコストの点で優れた方法であることが明らかになった.
研究・技術ノート
  • 古畑 昌巳
    2013 年 82 巻 1 号 p. 69-75
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    北陸地域において「北陸193号」の疎植栽培を確立することを目的として,2009~2011年の3ヶ年にわたって,早期 (4月末~5月初め) および標準時期 (5月中下旬) に1株植えつけ本数を減らす,または株間を広げて疎植栽培した「北陸193号」の生育,収量および収量構成要素について調査を行った.疎植区は,標準区に比べて,茎数が少なく,LAIが小さく推移する傾向を示した.また,疎植条件において早期移植は,標準時期移植に比べて生育量は小さく推移したが,籾わら比が高まった結果,収量は同程度となった.疎植栽培での収量は,個体密度の低下に伴って減収傾向を示したが,同程度の個体密度であれば,1株植え付け本数を減らした疎植区は株間を広げた疎植区に比べて減収程度は小さいことが示唆された.
  • 石川 哲也, 草 佳那子
    2013 年 82 巻 1 号 p. 76-80
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    稲発酵粗飼料用品種夢あおばを,茨城県と千葉県において2005年から2011年まで多様な条件で栽培し,生育特性を調査した.直播栽培試験は,不耕起播種を含む乾田直播3事例と,過酸化カルシウム粉剤を用いた湛水直播6事例で,4月上旬から6月上旬にかけて播種した.機械移植栽培試験は,ロングマット水耕苗1事例,中苗2事例と稚苗6事例で,4月下旬から6月中旬にかけて移植した.牛糞堆肥の連用圃場など,現地調査は7事例のうち6事例が無化学肥料栽培であり,所内圃場では化成肥料と被覆尿素肥料を併用した.直播栽培における苗立ち率は,5月中旬以降の耕起乾田直播で60%を超え,5月下旬以降の湛水直播ではさらに高かった.出穂期は,4月下旬の稚苗移植区が7月下旬ともっとも早く,6月上旬の耕起乾田直播区が8月下旬ともっとも遅かった.黄熟期の地際刈り乾物重は,窒素施肥量17.8 g m-2の移植区で1686 g m-2に達し,目標とする1500 g m-2を上回るには,稈長が85 cm以上かつ穂数が250本 m-2以上となるような管理技術を要することが示唆された.また,多収区を除くと,黄熟期が遅くなると地際刈り乾物重が小さくなる傾向が認められた.稈長は,もっとも長かった試験区でも96.3 cmで倒伏程度は小さく,収穫作業への支障はなかった.黄熟期の穂数は,移植栽培では窒素施肥量の多い試験区で多く,疎植条件で少なかった.直播栽培では苗立ち数が多い試験区の穂数が多く,90本 m-2以上の苗立ち数を確保する必要性が示唆された.
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