AUDIOLOGY JAPAN
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67 巻, 2 号
4
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 田渕 経司
    原稿種別: 総説
    2024 年 67 巻 2 号 p. 115-120
    発行日: 2024/04/28
    公開日: 2024/06/11
    ジャーナル フリー

    要旨 : 様々な蝸牛障害において蝸牛においては障害を進行する機序と抑制する機序が存在する。障害進行として活性酸素やグルタミン酸の関与が確認されており, 動物実験において蝸牛虚血再灌流障害や薬剤性障害等で得られた知見を概説した。グルタミン酸による神経興奮毒性は蝸牛求心性神経において顕著に認められる。活性酸素による障害は有毛細胞を中心に惹起される。有毛細胞では活性酸素は各種キナーゼ経路を活性化し, さらにカスパーゼ活性化をきたすことにより有毛細胞のアポトーシスを生じる。また活性酸素については内有毛細胞のリボンシナプス障害もきたすことから, hidden hearing loss を生じる原因となる。蝸牛障害抑制機序については脂質メディエータの影響について述べた。蝸牛障害時にスフィンゴミエリンからセラミド-1-リン酸 (C1P), スフィンゴシン-1-リン酸 (S1P) が産生され, 内因性細胞保護機序として機能する。また女性ホルモンであるエストロゲンについても蝸牛保護作用が認められる。蝸牛障害時に障害性また保護性の因子が蝸牛内で機能し, 有毛細胞の最終的な生死の決定に重要な役割を果たしている。

  • ―気導骨導差とマスキング―
    佐野 肇
    原稿種別: 総説
    2024 年 67 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2024/04/28
    公開日: 2024/06/11
    ジャーナル フリー

    要旨 : 純音聴力検査における気導骨導差は, 伝音難聴と感音難聴を鑑別する上で重要な判断材料になる。しかし気導検査, 骨導検査のそれぞれで個体差が存在するために, 気導骨導差にも個体差が存在する。実測した過去の報告では正常耳における気導骨導差は 0dB を中心として標準偏差が約 10dB で ± 20dB の範囲に分布していた。このため感音難聴者においても 20dB 程度の気導骨導差が生ずる場合があること, 逆に骨導閾値が気導閾値より 20dB 程度悪い結果が得られる場合があるので診断の際に注意が必要である。純音聴力検査におけるマスキングはプラトー法で行うことが基本であるが, その原理を理解すれば様々に工夫することも可能である。ただし最大の伝音難聴がどちらかの耳に存在する場合にはプラトーを得ることができないことがある。そのような症例ではどのようなマスキング方法を用いても左右別の骨導閾値を測定することはできない。

第68回日本聴覚医学会主題演題特集号
一側性感音難聴の現状―その問題点と対応―
  • 岡野 由実, 久保田 江里, 高橋 優宏, 古舘 佐起子, 岩崎 聡
    原稿種別: 原著
    2024 年 67 巻 2 号 p. 128-135
    発行日: 2024/04/28
    公開日: 2024/06/11
    ジャーナル フリー

    要旨 : 一側性難聴による主観的な聞こえの障害状況について, 難聴側の聴力レベルおよび発症時期による特徴を明らかにすることを目的として調査を実施した。主観的評価には The Speech, Spatial and Qualities of Hearing Scale (SSQ) を用い, 医療機関を定期受診していない一側性難聴者からも広く回答を得るため, 当事者団体に登録する成人一側性難聴者を対象に Web 調査を実施した。425名より回答が得られ, 一側性難聴者の聞こえの障害は, 空間認識において最も困難さが生じ, 特定の会話場面での支障や傾聴の努力を要する実態が示された。難聴側の残存聴力により空間認識が比較的保たれる一方で, 音の明瞭さや音の質ではかえって不自然な音印象が生じることが推測された。青年期以降の後天性発症ではより困難さを自覚するが, 空間認識については発症時期に関わらず共通して困難さが生じることが示唆された。

原著
  • 笹目 友香, 小渕 千絵, 城間 将江, 野口 佳裕
    原稿種別: 原著
    2024 年 67 巻 2 号 p. 136-145
    発行日: 2024/04/28
    公開日: 2024/06/11
    ジャーナル フリー

    要旨 : 本研究では, 難聴学齢児は皮肉の文脈が明示された場合, 皮肉発話をどのように解釈するのかを明らかにすることを目的とする。難聴児18名および聴児157名に対し, 皮肉発話の意図を問う自由記述課題を実施した。その結果, 軽度~重度難聴の補聴器および人工内耳装用学齢児で言語発達が良好な児は, 文脈情報が明示された場合, 聴児と同様に皮肉発話の否定的感情を理解することが可能であることが明らかとなった。しかし, 聴児とは質的に異なる解答をする難聴児が一部存在し, これらの質的な差異が実際のコミュニケーション場面における皮肉理解にどのような影響を及ぼすのか検討する必要性が示唆された。また, 皮肉理解の成績と聴覚機能, 語彙力には相関が認められなかった。このため, 皮肉理解の獲得については, 日常の会話経験や養育者の皮肉使用, 友人関係など, 聴覚機能や言語力にその他の要因を加えて広く検討していくことが今後の課題であるといえる。

  • 五島 史行, 鈴本 典子, 大川 智恵, 大上 麻由里, 和佐野 浩一郎, 濱田 昌史, 大上 研二
    原稿種別: 原著
    2024 年 67 巻 2 号 p. 146-150
    発行日: 2024/04/28
    公開日: 2024/06/11
    ジャーナル フリー

    要旨 : 耳鳴治療の中心は教育的カウンセリングと音響療法を組み合わせた TRT (tinnitus retraining therapy) である。薬物治療については否定的な見解が多い。今回耳鳴を自律神経発作と考えクロナゼパム 0.25mg を就寝前投与し治療効果を検討した。対象は2021年9月から2022年3月までの6カ月間の間に当院を受診し補助療法としての薬物治療を希望した36例のうち治療前後に質問紙を行えた20例。治療は教育的カウンセリングを行い希望者に同日に補助療法としてクロナゼパム 0.25mg 就寝前一回内服処方を行った。THI (tinnitus handicap inventory) 合計点は治療前平均 (±標準偏差) 49.2±20.4が治療後31.4±24.7となった (P<0.05)。改善の基準を THI が20点以上低下, または最終 THI が16点以下 (軽症) とすると改善率は55% (11/20) であった。TRT の補助療法としてのクロナゼパムは耳鳴苦痛度の高い症例に選択肢の一つとして考えて良いと思われた。TRT の補助療法としてのクロナゼパムは耳鳴苦痛度の高く睡眠障害, 不安を認める症例に選択肢の一つとして考えて良いと思われる。

  • 金谷 浩一郎, 菊池 奈美, 森安 宏明, 石川 聡美
    原稿種別: 原著
    2024 年 67 巻 2 号 p. 151-158
    発行日: 2024/04/28
    公開日: 2024/06/11
    ジャーナル フリー

    要旨 : 耳鳴は成人によくみられる症状であるが, 一部に, 日常生活にも困苦する重症の耳鳴患者も存在する。重症者には, 苛立ち, 不安, 抑うつ等の精神症状が多くみられ, これらが耳鳴を悪化させる悪循環が形成されている。認知行動療法 (CBT) は, 主に認知面へのアプローチを通じてこれらの悪循環を解消させることを目的とする。しかし, 標準的な CBT のプログラムは心理の専門職による数週間の対応が必要となるため, 人的, 時間的資源の限られる個人の耳鼻咽喉科診療所での実施が困難である。今回, 我々は, CBT の概要を説明する資料を作成し, 教育的カウンセリングの内容と併せて, 週1回1時間, 計4回の講義資料を作成した。通常の外来診療で改善のない8名の難治性耳鳴患者 (重症7名, 中等症1名) を対象に講義を行ったところ, Tinnitus Handicap Inventory の平均スコアは, 集団教育施行前の71.0から, 施行後には44.3まで低下した。

  • 大原 重洋, 廣田 栄子, 大原 朋美
    原稿種別: 原著
    2024 年 67 巻 2 号 p. 159-167
    発行日: 2024/04/28
    公開日: 2024/06/11
    ジャーナル フリー

    要旨 : インクルーシブ環境にある両側感音難聴児10名 (18耳) を対象として, 日本語単音節語の語音明瞭度と SII 値との関連, 及び, 語音明瞭度の改善に有効な LTASS 増幅量について検討した。対象児の年齢は, 平均9歳5カ月(5~14歳), 良聴耳平均聴力レベルは裸耳 65.5±16.1dBHL (41.2~95), 補聴耳 30.7±9.9dBHL であった。ISTS を用いた SII 値について, 日本語語表の語音明瞭度との関連性を認め (rs=0.79), SII 値は, 補聴器の適合状態を示す指標として参照できることを示した。さらに, 補聴器装用下に80%以上の語音明瞭度の改善には, 難聴耳の閾値上 8.5±5.6dB SPL の LTASS の増幅を目安とした調整が有用と言える (p<0.01)。語音明瞭度の改善には, 250Hz, 1kHz, 4kHz の周波数帯域の LTASS 増幅量が関与する (F(4, 33)=32.5, p<0.01) ことを指摘した。語音聴力検査の実施が困難な難聴小児の補聴器適合では, LTASS 増幅量や SII 値を臨床指標として適用することの有用性が示唆された。

  • ―当センターで療育開始が1歳以降であった症例―
    千葉 真実, 島村 広美, 和泉 千寿世, 持松 いづみ, 荒井 康裕
    原稿種別: 原著
    2024 年 67 巻 2 号 p. 168-175
    発行日: 2024/04/28
    公開日: 2024/06/11
    ジャーナル フリー

    要旨 : 新生児聴覚スクリーニング検査 (NHS) の普及により, 難聴児の療育開始が早期化し, 0歳台からの療育が可能になった。一方で, 難聴発見が幼児期後期になる症例も存在する。療育開始までの現状と課題を明らかにする目的で, 2014~2021年度8年間の当施設在籍児を対象に療育開始までの経過を調査し, 療育開始が1歳以降であった症例について検討した。乳幼児健康診査でことばの遅れがみられた際に, NHS リファー群, 未受検群に比しパス群で聴力検査の実施が遅れる傾向がみられた。ことばの遅れが明らかでない軽中等度難聴例では, 保護者が耳鼻咽喉科で聞こえについて相談しても聴力検査が実施されていない症例がみられた。難聴を疑うエピソードがある場合には, 早期に聴力検査を実施し, 難聴の有無を確認することが重要である。

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