3ステージモデルをはじめとする既往研究のスケーリング則に関し,これまでMiyakoshi et al. (2018, 2020)により国内地震を主な対象として検証がなされてきた.本論文では海外の内陸地殻内地震の震源インバージョンの結果を用いて,より一般的に広い地震規模範囲(Mw4.5-8.0)でのスケーリング則の整合性に関する検討を行った.まず各種の手法による震源解析で得られた不均質すべり分布に周辺部のすべり量の小さな領域を削除するトリミングを施した.その後,地震モーメントと断層面積や長さ,平均すべり量等の各パラメター間のスケーリングを評価したところ,断層幅の頭打ちを仮定したモデル(Hanks and Bakun, 2008)や3ステージモデル(地震調査研究推進本部, 2020),あるいは自己相似則を仮定したモデル(Leonard, 2014; Thingbaijam et al, 2017)の既往のスケーリング則は抽出した断層パラメターに対して整合的な結果を示すことがわかった.アスペリティ総面積のスケーリングについてはSomerville et al.(1999)と同程度の断層面積の0.235倍となることがわかった.さらに,既往研究の断層面積のスケーリング則を強震動予測レシピに基づき0.22倍した結果,3ステージモデルが最もアスペリティ総面積のデータとよい整合性を示した.地震モーメントと断層面積及びアスペリティ総面積の関係において断層パラメターとスケーリング則との自然対数残差を求めると,地震モーメントが大きいレンジ(M0 > 1019 Nm)ほど残差の絶対値が小さい傾向が認められた.一方,標準偏差は3ステージモデルが最小となった.さらにインバージョンに強震動記録を用いた断層モデルのみに対し同様に残差を評価した結果,多様な観測記録を用いたインバージョンモデル(全インバージョンモデル)との残差に比べその絶対値は小さいものの大きな違いは見られなかった.また各スケーリング則の推定に用いられたデータセットや推定法の差異を鑑みると,3ステージモデルが断層面積やアスペリティ総面積の平均的性状をよく表現すること,Leonard (2014)の簡便なモデルでも同程度の残差で広い地震規模範囲を表現できること,などがわかった.
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