日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
ISSN-L : 1884-6246
21 巻, 5 号
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論文
  • ―ハザードマップに常時微動を適用するための一考察―
    落合 努, 荏本 孝久, 松田 磐余
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_1-5_12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    地形発達史の異なる地形区を対象に,常時微動H/Vスペクトル比の卓越周期と工学的基盤上の堆積層厚を整理した.得られた回帰式は地形区毎に特徴があり,地形発達史が反映されていることが明らかになった.回帰式と地震観測記録を用いて,地盤の卓越周期の推定値と実測値を比較すると,両者はほぼ一致し地形区での区分の意義が確かめられた.地盤のハザードマップを作成する場合,ゾーニングの基礎資料として地形発達史を考慮した地形区に区分し,常時微動H/Vスペクトル比と堆積層厚で地形区内を細分することを提案する.

  • 篠原 魁, 羽場 一基, 渡辺 和明
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_13-5_26
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    原子力発電所のような重要構造物に対する地盤安定性評価では,2次元FEM解析により地震時の地盤の応力を評価し,事前に設定したすべり線上の滑動力と抵抗力からすべり安全率を算出することで,地震時の地盤の安定性を評価する.しかし,すべり線の設定は多くの事前検討を必要とし,技術者の判断が必要となる.そのため,複雑な地盤モデルでは,すべり安全率最小のすべり線である臨界すべり線を設定することは困難である.そこで,本論文では,FEM解析で評価した地盤の応力から,粒子群最適化を用いて臨界すべり線を探索する手法を開発した.開発手法は岩盤だけでなく,断層等の単一の不連続面を通る臨界すべり線も探索することができる.また,本論文では,開発手法の妥当性と有効性を確認するため,複数の地盤モデルに対して臨界すべり線探索を実施し,既往研究との比較と結果の分析を行った.その結果,開発手法は複雑な地層構造や不連続面を含む地盤にも適用可能であり,FEM解析結果から臨界すべり線を適切かつ効率的に探索できることが分かった.

  • 戸澤 謙弥, 劉 ウェン, 丸山 喜久, 堀江 啓, 松岡 昌志, 山崎 文雄
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_27-5_40
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,地震により被災した建物を対象に実施される住家の被害認定調査の効率化を目的とし,深層学習のアルゴリズムの一つである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を適用した建物の被災度判別を試みた.まず,2016年熊本地震後に実施された被害認定調査における建物の外観画像からデータセットを作成した.そのデータセットにCNNを適用し,対象建物の全壊・非全壊を判別するモデルの構築に向けた検討を進めた.画像数の不足に伴う過学習を抑制するために,他の地震で被災した建物の画像データを追加し,判別モデルの精度向上を図ることができた.

  • 河辺 賢, 堀江 啓, 松岡 昌志, 井ノ口 宗成, 山崎 文雄
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_41-5_57
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    地震により人の生存空間が失われる建物被害パターンである層破壊を精度よく推定できれば,人的被害の推計や迅速な災害対応の実施に役立つ.本研究では,2016年熊本地震における熊本県益城町の住家被害認定調査結果に基づいて,層破壊建物を抽出し被害分析を行うとともに,推定地震動分布と組み合わせて層破壊被害関数を構築した.被害分析の結果,木造建物の層破壊率は非木造と比較して大きく,建築年代が古くなるほど大きくなる傾向がみられた.また,益城町の層破壊被害関数は,1995年兵庫県南部地震の西宮市の結果に基づく経験式と比べて,同一の最大地表速度における層破壊率が低くなる傾向がみられたが,1982年以降に建てられた建物を対象とする関数においては,層破壊率が同等の水準であると考察された.

  • 毎田 悠承, 益田 一毅, 坂田 弘安, 前川 利雄, 服部 翼
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_58-5_78
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    RC造建築物の地震後の修復性向上のためには,部材の損傷範囲は小さい方が望ましい.損傷範囲を抑制する方法の一つとして主筋の付着除去がある.主筋の付着を除去したRC梁部材では,付着を除去しない通常付着性状の梁部材に比べて,損傷範囲を抑制できるものの,耐力やエネルギ吸収性能が低下する.本研究では,復元力特性を確保しつつ,損傷範囲を抑制するために,主筋の付着を除去し,そのスパン中央部は定着した逆対称曲げを受けるヒンジ位置保証型RC梁の力学挙動を検討した.まず,付着を除去する主筋の位置,スパン中央部の主筋の定着方法,スラブの有無をパラメータとしたRC梁部材の有限要素解析を行った.解析から,四隅のみの主筋の付着を除去し,スパン中央部で鋼板により定着する方法を用いることで,通常付着性状の梁と同等の復元力特性を確保でき,且つ損傷範囲を抑制できることが分かった.次いで,その付着除去,中央部定着方法を採用したスラブ付きRC梁の実験を行った.実験ではヒンジ想定位置にひび割れが集中し,損傷範囲を抑制できた.梁の残留最大ひび割れ幅は,小規模な補修で建築物を継続使用できる損傷であった.

  • ―実大5層の鉄骨造制振建物を例として―
    安井 譲, 前田 寿朗, 井口 道雄
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_79-5_97
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    震動台の回転の影響を受けた鉄骨造制振建物の実験結果から層剛性と層減衰を同定することを試みた.同定は,著者らが提案しているサブストラクチャーモデルの1次のモード応答を近似させる方法によった.まず,層せん断力と層間変形の関係について,観測値と同定値を比較することにより,本手法の妥当性を確認した.また,回転補正を行わない場合は行う場合に比べて,層剛性は小さく,層減衰は大きく評価されることを示した.さらに,1階に対するR階の周波数応答倍率を考察したところ,複素減衰と仮定する方が粘性減衰と仮定するよりも2次モード付近の観測値をよく説明できることがわかった.

  • 鳥澤 一晃, 松岡 昌志, 堀江 啓, 井ノ口 宗成, 山崎 文雄
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_98-5_118
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,2016年熊本地震の熊本県益城町および宇城市における罹災証明データを統合し,推定地震動分布と組み合わせて,構造別・建築年代別の建物被害関数を構築した.相関係数はすべての分類で0.9前後の強い正の相関を示し,広範囲の地震動で熊本地震の実被害率を説明可能である高精度な被害関数が得られた.木造建物を対象として,既往の被害関数と比較を行ない,被害関数構築に使われた被害調査データの違いや地震が発生した地域の違いなどに基づき,予測結果の傾向の違いやその要因を考察して,本研究で構築した建物被害関数の妥当性について検証した.

  • 桑原 光平, 髙宮 奎志朗, 松岡 昌志, 翠川 三郎
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_119-5_139
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    日本全国の地盤の揺れやすさを評価することを目的に,深さ30mまでの地盤の平均S波速度(Vs30)を地理的指標から予測した.その際に可能な限り多くのデータを使用するために,深さ30m未満のデータからVs30を予測しデータの拡張を行った.これらの予測には近年注目されている機械学習を用い,既往の方法より精度の高い予測結果が得られた.また,得られたモデルを分析することで機械学習により得られた結果の解釈について検討し,山地や丘陵の微地形区分以外については,学習モデルは物理的な堆積環境等の背景と矛盾しないことを確認した.

  • 長嶋 史明, 川瀬 博, 伊藤 恵理
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_140-5_160
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
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    3ステージモデルをはじめとする既往研究のスケーリング則に関し,これまでMiyakoshi et al. (2018, 2020)により国内地震を主な対象として検証がなされてきた.本論文では海外の内陸地殻内地震の震源インバージョンの結果を用いて,より一般的に広い地震規模範囲(Mw4.5-8.0)でのスケーリング則の整合性に関する検討を行った.まず各種の手法による震源解析で得られた不均質すべり分布に周辺部のすべり量の小さな領域を削除するトリミングを施した.その後,地震モーメントと断層面積や長さ,平均すべり量等の各パラメター間のスケーリングを評価したところ,断層幅の頭打ちを仮定したモデル(Hanks and Bakun, 2008)や3ステージモデル(地震調査研究推進本部, 2020),あるいは自己相似則を仮定したモデル(Leonard, 2014; Thingbaijam et al, 2017)の既往のスケーリング則は抽出した断層パラメターに対して整合的な結果を示すことがわかった.アスペリティ総面積のスケーリングについてはSomerville et al.(1999)と同程度の断層面積の0.235倍となることがわかった.さらに,既往研究の断層面積のスケーリング則を強震動予測レシピに基づき0.22倍した結果,3ステージモデルが最もアスペリティ総面積のデータとよい整合性を示した.地震モーメントと断層面積及びアスペリティ総面積の関係において断層パラメターとスケーリング則との自然対数残差を求めると,地震モーメントが大きいレンジ(M0 > 1019 Nm)ほど残差の絶対値が小さい傾向が認められた.一方,標準偏差は3ステージモデルが最小となった.さらにインバージョンに強震動記録を用いた断層モデルのみに対し同様に残差を評価した結果,多様な観測記録を用いたインバージョンモデル(全インバージョンモデル)との残差に比べその絶対値は小さいものの大きな違いは見られなかった.また各スケーリング則の推定に用いられたデータセットや推定法の差異を鑑みると,3ステージモデルが断層面積やアスペリティ総面積の平均的性状をよく表現すること,Leonard (2014)の簡便なモデルでも同程度の残差で広い地震規模範囲を表現できること,などがわかった.

  • 高尾 誠, 佐藤 浩章
    2021 年 21 巻 5 号 p. 5_161-5_183
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
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    我が国の原子力施設の耐震設計において応答スペクトルに基づく方法で入力地震動を作成する場合,水平成分については1つの目標応答スペクトルに対し直交する2成分の模擬地震動を作成する.その際,両者の特徴は一様乱数によって与えられた位相のランダム性や観測記録における異なる2成分の位相特性の違いによって区別されている.一方,米国の原子力規制委員会の基準では,3成分を同時入力して原子力施設等の地震応答解析を実施する場合は,入力する3成分が互いに統計的に独立であることを示すべきとされており,基準値としてChen (1975)による相関係数の絶対値を導入している.本論文では,Chen (1975)による相関係数に着目して,我が国の2000年以降の強震動加速度記録を対象に直交2成分間の相関係数を求め,統計処理を行うとともに地震に関する各種パラメータが相関係数に与える影響を分析した.また,一般的な応答スペクトルに基づく方法により模擬地震動を作成した上で相関係数を解析した.

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