全日本鍼灸学会雑誌
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60 巻, 4 号
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巻頭言
解説
シンポジウム
パネルディスカッション
  • 小川 卓良, 金井 正博, 黒川 胤臣, 福田 文彦, 真柄 俊一, 山口 智, 小内 愛, 中村 辰三
    原稿種別: パネルディスカッション
    2010 年 60 巻 4 号 p. 693-706
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
     今回が3回目の 「がんと鍼灸」 のパネルディスカッションである。 西洋医学のがん或いはがん患者に対しての攻撃的で深刻な副作用を伴い、 かつ免疫能を減退させる医療が適切か否か多くの医師・識者より疑問視されている現状がある。 それに対し副作用が無く、 QOLを高め、 免疫能を賦活する鍼灸治療はがん患者の予防から緩和ケア・再発防止までのあらゆる場において有用性は高いとの期待があり、 その成果は蓄積されつつある。
     第1回で緩和ケアでの有用性を、 第2回では内外の文献調査結果を報告した明治国際医療大学の福田氏は今回がん化学療法による末梢神経障害に対し鍼治療の安全性と有効性について報告した。 防衛医科大学校の黒川氏は大学病院での補完療法としてがん患者の身体・精神症状の改善、 QOLの改善、 副作用の軽減、 術前・術後の障害対策等に鍼治療を行いその有効性について述べた。 埼玉医科大学の小内氏は、 大学病院での併療治療としての鍼治療の有効性と有効性の背景因子に言及された。 森ノ宮医療大学の中村氏は非摘出のがん患者の化学療法の副作用に対し長期に灸治療を行い、 その有効性について報告した。
     以上は、 化学療法と放射線療法を併用した状態での鍼灸治療の有効性、 特に副作用の軽減とQOLの改善に鍼灸治療は有効であるという報告であったが、 第1回より一貫して主に術後の再発予防を目的とした西洋医学的治療を一切含まない鍼治療を含む自律神経免疫療法で報告された素問八王子クリニックの真柄氏は、 免疫に関わる種々のサイトカインの増加等による免疫力の改善や、 時に非摘出の進行癌でさえ縮小が可能であること、 今回は特に自身の臨床例における再発率を現代医学のそれと比較して数段再発率が低いことを報告し、 癌の再発予防に自然治癒力に関する研究に、 今迄以上の関心を持つべきであると強調した。 今回は更に今迄以上がんの鍼灸治療の大規模研究が望まれた結果になった。
原著
  • 池宗 佐知子, 大田 美香, 町田 正直, 武政 徹, 高岡 裕, 宮本 俊和
    原稿種別: 原著
    2010 年 60 巻 4 号 p. 707-715
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    【目的】鍼通電刺激が、 身体の不活動にどのような影響を及ぼすかは不明である。 本研究の目的は、 骨格筋の不活動モデルである後肢懸垂後からの再接地による筋萎縮の回復過程において、 鍼通電刺激が筋量や筋線維横断面積の回復に及ぼす効果の解明である。 さらに、 マクロファージ による筋衛星細胞の活性化の可能性も検討する。
    【方法】ICR雄性マウス(8週齢)を非処置群(NT群; n=5)、 後肢懸垂群(HS群; n=5)、 コントロール群(CT群; n=5)および鍼通電刺激群(EA群; n=5)の4群に分けた。 HS群、 CT群、 EA群は14日間の後肢懸垂を行った。 さらに、 CT群とEA群は再接地後14日間飼育した。 後肢懸垂は、 マウスの尾部を固定し、 飼育ケージから吊す方法を用いた。 EA群は、 再接地直後から2日に1度、 下腿三頭筋へ2本の鍼を刺入し、 10Hz、 5-7Vで30分間の鍼通電刺激を行った。 そして、 ヒラメ筋の筋量、 筋線維横断面積およびマクロファージ浸潤数を解析した。
    【結果】筋量及び筋線維横断面積は、 NT群と比較してHS群で低下した (P<0.01)。 また、 筋量はHS群と比べCT群とEA群で増加した (P<0.01)。 さらに、 EA群の筋量はCT群と比較し高値を示した (P<0.01)。 そして筋線維横断面積は、 EA群がCT群よりも高い傾向を示した (P=0.068)。 再接地2週間後の骨格筋内へのマクロファージの浸潤は、 CT群と比較し、 EA群で有意に高かった (P<0.01)。
    【結論】本研究は、 鍼通電刺激には不活動による筋萎縮からの筋の回復促進作用がある可能性を示した。 また、 鍼通電刺激によりマクロファージ浸潤数が増加したことから、 筋萎縮の回復促進は、 マクロファージによる筋衛星細胞の活性化が関与する可能性が 示唆された。
報告
  • 中部地方の開業鍼灸師を対象としたアンケート調査
    新原 寿志, 角谷 英治, 谷口 博志, 日野 こころ, 北出 利勝
    原稿種別: 報告
    2010 年 60 巻 4 号 p. 716-727
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    【目的】国内の鍼灸臨床における感染防止対策の現状と問題点を明らかにするとともに、 その方策について検討するために、 前年の近畿地方に引き続き、 中部地方の開業鍼灸院を対象としたアンケート調査を行った。
    【方法】対象は、 iタウンページに登録された中部地方10県 (愛知県、 静岡県、 長野県、 新潟県、 岐阜県、 三重県、 富山県、 石川県、 福井県、 山梨県) の開業鍼灸院1,000件とした。 アンケート項目は (1) 回答者プロフィール、 (2) 手指衛生、 (3) 施術野の消毒、 (4) 鍼具の滅菌と保管およびディスポーザブル製品、 (5) ディスポーザブル鍼 (以下、 ディスポ鍼) の使用、 (6) 押手、 (7) 感染性廃棄物の処理、 (8) 感染防止対策に対する意識と取り組み及び自己評価、 (9) 感染防止対策および本調査に対する意見と感想、 とした (平成20年11月実施)。
    【結果】アンケート回収率は22.2%、 「手洗い時間30秒未満」 31.1%、 「布タオル使用」 67.7%、 「ベースン法による手指消毒」 18.9%、 「50%イソプロピルアルコール使用」 19.8%等であった。 鍼灸における感染症発生の可能性について、 回答者の26.6%が 「非常に低い」、 50.9%が 「低い」 と回答する一方で、 自院の感染防止対策については 「十分である」 と回答したのは27.0%に留まった。 (社) 日本鍼灸師会あるいは (社) 全日本鍼灸学会などの鍼灸関連団体に 「所属している」 は回答者の72.5%であった。
    【まとめ】前年の調査と同様に、 ディスポ鍼や紙タオルの使用率の増加など一部の対応は改善する方向に向かっているものの、 不十分な手洗い、 交差感染の怖れのある布タオルの使用やベースン法の実施、 低濃度アルコールの使用など、 感染防止対策上、 適切とは言えない状況が散見された。 これらの結果は、 これまで感染など起こったことがないという施術者の経験、 あるいは今後もないであろうとする施術者の希望的観測に起因すると推察され、 施術者の意識および知識の向上に向けた継続的対策が必要であると考えられた。
  • 顎機能に関するアンケート調査と鍼治療の効果に関する臨床試験
    浅井 紗世, 伊藤 和憲, 浅井 福太郎, 今井 賢治, 北小路 博司
    原稿種別: 報告
    2010 年 60 巻 4 号 p. 728-736
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    【目的】若者に顎関節症が多いとされているが、 その実体は不明である。 そこで、 大学生を対象に顎機能に関するアンケート調査を行うとともに、 その中で顎機能に障害が見られたものに対して偽鍼 (sham鍼) を用いた鍼治療の臨床試験を試みた。
    【方法】明治国際医療大学の学生に顎機能に関するアンケートを回答選択式で行い、 その中で顎機能に障害をもつ学生16名(21.5±1.7歳;平均±S.D.) を対象に鍼治療を行った。 患者をコンピューターにより無作為に鍼治療群 (鍼群) とsham鍼治療群 (sham群) の2群に群分けし、 それぞれ週1回の間隔で計5回の施術を行った。 鍼治療の効果判定には、 (1)主観的な苦痛の評価 (Visual Analogue Scale;VAS)、 (2)開口距離 (mm)、 (3)咬合力計にて健側および患側の最大咬合力(kN)をそれぞれ用いた。 各評価は治療開始前に行うこととし、 治療の効果は1週間後の治療効果として評価するものとした。
    【結果】顎機能に何らかの異常をもつ大学生は全体の50%以上におよび、 最も多い障害は関節雑音であった。 一方、 鍼治療の効果に関しては施術前の鍼群67.1±19.1mm、 sham群65.6±15.2mmであった痛みが、 5回の施術により、 鍼群9.3±7.8mm、 sham群40.5±16.7mmと両群とも軽減傾向を示したが、 その効果は鍼群の方が高かった (p=0.0152, Mann-Whitney)。 一方、 開口距離と最大咬合力に関しては両群とも大きな変化はみられなかったが、 もともと病的なものではなかった。
    【考察】顎機能に異常を持つ大学生は意外に多く、 早期の治療が必要であると考えられた。 一方、 顎機能に異常を持つ被験者を対象に鍼治療の効果を検討したところ、 痛みに関してはsham群に比べて鍼群に有意な改善がみられた。 このことから、 鍼治療は若者の顎関節治療に有効であると考えられた。
  • 澤田 和代, 北川 善保, 坂口 俊二, 郭 哲次
    原稿種別: 報告
    2010 年 60 巻 4 号 p. 737-743
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    【目的】アスペルガー障害は、 関心と活動の範囲が限局的で常同的反復的であるとともに、 自閉症と同様のタイプの相互的な社会的関係の質的障害によって特徴づけられる。 今回、 アスペルガー障害と診断された女児に対して、 その背景にあるうつ症状を抱える母親との共生関係に着目し、 母子ともに鍼灸治療を行うことで、 双方の身体症状の改善が得られたので報告する。
    【症例】小学生女児、 12歳。 [主訴]全身倦怠感。 [愁訴]頸肩のこり感、 頭頂部から側頭部の痛み、 腹部不快感、 寝汗、 手足のほてり。 [現病歴]X年5月より全身倦怠感を訴え不登校となり、 その後、 家族以外との接触ができなくなった。 X+1年5月より、 心療内科での治療と市の教育カウセリングを受けながら鍼灸治療開始した。 またこれに先立ち、 X年9月より掌蹠膿疱症による関節痛とうつ症状を訴える母親の鍼灸治療を開始した。 [女児の鍼灸治療]補益心脾、 督脈通陽を目的に左神門 (HT7)、 右三陰交 (SP6)、 大椎 (GV14) に円皮鍼貼付、 背部、 前腕と下腿の陽経、 および頭部と手足井穴に接触鍼、 督脈上の圧痛点に八分灸を三壮行った。 治療は1-2週に1回の間隔で行った。 [評価]女児と母親からの詳細な聴き取りを行い、 特に女児には身体のだるさ、 熟睡感、 手足の火照り、 頭痛、 便通について3件法で回答してもらい得点化した。
    【結果】11カ月間に28回の鍼灸治療を行ったところ、 女児の身体症状は30-50%改善した。 さらに女児は、 自治体が行う不登校児のための適応指導教室にも通学可能となり、 学校行事にも出席できるようになった。 また、 母親の身体症状も女児とほぼ同様に推移し安定した。
    【考察および結語】女児の身体症状は、 女児自身の思春期を迎えた心身の不安定さに母親の病状が関連して表出した可能性が示唆された。 今回は、 母子の共生関係に鍼灸師 (による鍼灸治療) が介在することで、 鍼灸治療そのものの効果に加え、 支持的・受容的対応が奏効したものと考えた。
臨床体験レポート
  • 加用 拓己, 鈴木 雅雄, 竹田 太郎, 福田 文彦, 石崎 直人, 北小路 博司, 加藤 久人, 山村 義治
    原稿種別: 臨床体験レポート
    2010 年 60 巻 4 号 p. 744-751
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    【目的】機能性腹痛症候群 (Functional Abdominal Pain Syndrome : FAPS) は機能性dyspepsiaや過敏性腸症候群と異なり、 食事や排便とは関係しない腹痛を特徴とする。 薬物治療によりコントロール不良であったFAPS患者に対して鍼治療を行い、 症状の改善が認められた1症例を報告する。
    【症例と方法】症例:75歳女性。 X-2年9月より、 左下腹部痛の増悪と寛解のため入退院を繰り返していた。 X年6月、 症状が再燃・増悪したため明治国際医療大学附属病院内科に入院となり、 同時に腹痛症状の改善を目的に鍼治療を開始した。 方法:鍼治療は1週間に5回、 13週間行い、 配穴は中医弁証に基づき行った。 評価:左下腹部痛はVASにて評価し、 消化器症状のQOL はGastrointestinal Symptom Rating Scale (GSRS) を用いて評価した。
    【結果】鍼治療開始直後より左下腹部痛のVAS減少を認め、 治療開始4週目以降は左下腹部痛が消失し、 退院まで再燃しなかった。
    【考察】増悪・再燃を繰り返していたFAPS患者に対して鍼治療を行った結果、 症状の改善を認めた。 本症例に鍼治療が有用であったと考えられた。
国際部報告
  • 若山 育郎, 形井 秀一
    原稿種別: 国際部報告
    2010 年 60 巻 4 号 p. 752-756
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    2010年5月18日、 中国北京の世界鍼灸学会連合会 (WFAS) 本部ビルで、 International Symposium for Developing Acupuncture Standard of WFAS (WFASによる鍼灸標準化シンポジウム) が開催された。 WFASによれば、 この会議の目的は鍼灸の産業的な標準化を行い、 次の段階としてより国際的な標準化に持っていきたいとのことである。
     全日本鍼灸学会 (JSAM) からは、 形井 (参与) と若山 (当時の国際部長) が非公式に参加した。 非公式参加になったのは、 WFAS執行理事会並びに標準化委員会におけるWFAS執行部の拙劣な議事運営および議事承認のため、 議決事項に関するWFAS側とJSAM側の理解に大きな開きがあったためである。 ただ、 事前のWFASとの話し合いにより、 非公式参加ではあるが発言権のある参加ということになった。 JSAMは最終的に3つのワーキンググループのうち灸ワーキンググループに参加し、 日本で用いられている灸とその手技について発表した。
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