全日本鍼灸学会雑誌
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61 巻, 4 号
全日本鍼灸学会雑誌
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巻頭言
会頭講演
  • 久光 正
    原稿種別: 会頭講演
    2011 年 61 巻 4 号 p. 378-391
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/06
    ジャーナル フリー
    血液流動性 (BF) と東洋医学において重要な証であるオ血との関連およびストレス負荷、 鍼刺激、 漢方薬投与、 交感神経作動薬投与の影響および作用メカニズムについて検討した。 その概要について述べる。 BFは血液流動性測定装置 (MC-FAN) あるいは血小板凝集能測定装置(PA20)を用いて測定した。 また、 一部の実験では血中ATPレベル、 酸化ストレス度、 抗酸化力についても測定した。 昭和大学病院漢方外来を受診したオ血証患者は非オ血証患者より有意にBFが低く、 1ヶ月の駆オ血薬投与によりBFが有意に改善した。 ラットに各種のストレスを負荷するとBFは有意に低下した。 また、 血小板凝集能の亢進、 血中ATPレベルの増加、 酸化ストレス度の増大、 抗酸化力の低下が生じた。 電気鍼刺激を毎秒1回、 60分間ラットの足三里、 合谷、 三陰交に加えるとBFは有意に亢進したが、 腎兪、 内関への刺激では有意差は認めなかった。 また、 足三里への電気鍼刺激はストレス負荷によるBFおよびその他の変化を有意に減少させた。 ナロキソン投与は足三里への電気鍼刺激によるBF亢進に有意な影響を示さなかった。 また、 α受容体作動薬およびβ受容体遮断薬投与ではBFが有意に低下し、 α受容体遮断薬およびβ受容体作動薬投与ではBFが亢進した。 オ血には血液流動性の変化が関わり、 また、 BFの変化に交感神経系の活動および血中ATPレベルの変化が影響している可能性が示唆される。 電気鍼刺激によるBF亢進作用にはオピオイド系の関与は少ないと考えられる。 また、 電気鍼刺激がストレス負荷によるBF低下やその他の血液変化に対し拮抗作用を示すことから、 電気鍼刺激にはストレスによる影響を抑制する作用がある可能性が示唆される。
シンポジウム
  • 浦山 久嗣, 戸ヶ崎 正男, 鳥谷部 創治, 石原 克己
    原稿種別: シンポジウム
    2011 年 61 巻 4 号 p. 392-410
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/06
    ジャーナル フリー
    1997年版の『厚生白書』では、未病という言語を「疾病の予防管理」という意味で記されている。一方中国では、2006年「治未病」政策5カ年計画、2008年「治未病」プロジェクトにおいて、生活習慣病改善と医療費削減のため、 方針は予防・養生・保健重視へと質的に変わった。
    「治未病」 につて、『素問』『霊枢』では予防・養生及び疾病の発病段階での初期・早期治療の意味で記され、 『難経』『金匱要略』では疾病の変化を予測し、病の伝変防止の意味で記され、一貫堂医学などでは体質改善の意味で記されている。
     今回のシンポジウムで私は、被災地ボランティア活動報告及び、 マクロ的視点から医学・医療の現況 (現代と健康問題)、「健康・病・自己治癒力の関係」「治未病」 「道・命の世界」、中国の「治未病」政策に触れた。シンポジストには「治未病」の史的究明、日本における「治未病」と「未病治」といった用語の問題及び「治未病」の臨床実践として、自己治癒力と全体治療をベースにした上での養生法の一部、 初期治療、 病の伝変防止、 体質改善への取り組み、 「人迎気口診」と「脈状と病態」から初期治療の成果を述べていただいた。
     これからの鍼灸界・人類一人一人の命の質、健康、幸福、医療経済などを考えた時、今回の「治未病」のシンポジウムの内容が医療・医学会並びに医療従事者、病む人など一人一人に大きな示唆を与えることが出来れば幸甚である。
原著
  • 臨床的有害事象を回避するために
    林 智成, 鈴木 信, 米山 榮, 尾崎 朋文, 芳賀 康朗
    原稿種別: 原著
    2011 年 61 巻 4 号 p. 411-419
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/06
    ジャーナル フリー
    【目的】鍼治療において最も深刻かつ重大な医療過誤である外傷性気胸を回避し、 安全な鍼治療を行う為に胸背部における体壁の厚さを計測し、 過去に行われた同様の報告と比較しする。 また、 身体測定によって得られる測定値の意義と問題点について検討する。
    【対象と方法】対象は生体187例 (男性90名, 女性97名) とした。 これを性別及び体格別に分類した後、 Computed Tomography (以下CT) の画像を用いて、 医療用画像処理ソフトOsiriX (ver3.0 32-bit) にて背部における胸壁厚の計測を行った。
    【結果】全187例の測定値の平均±標準偏差は、 気管部3.01±0.79cm、 肩甲部2.34±0.65cm、 最短部2.14±0.61cmであった。 なお、 最短部は肋骨角付近における体表から胸膜までの距離が最も短い部位とした。
     最小値は最短部の0.94cm、 最大値は気管部の5.56cmであった。 分散分析により部位間の平均値を比較した結果、 全部位の効果に有意差を認めた。 これを性別に検討すると、 男女ともに部位の効果、 および気管部と肩甲部では性別の効果に有意差が認められた。 また、 体格別に検討した結果、 体格の効果、 および部位の効果に有意差を認めた。 BMI値と測定値の間にはいずれの部位においても強い正の相関がみられ、 年齢と測定値との間にはいずれの部位においても弱い負の相関がみられた。 今回測定を行った3部位と経穴との対応では、 概ね、 気管部は膏肓穴、 肩甲部はイキ穴、 最短部は膈関および魂門穴の辺りに相当すると予想された。
    【考察】過去の報告および今回の検討では対象の条件に差異があるにも関わらず、 同様の結果が得られたことは、 過去の報告の重要性を改めて確認出来たこととして興味深い。 一方、 身体測定という方法を用いる際の対象は、 より臨床に近い条件に吟味すべきである。 今回の検討では、 体表-胸膜間の最短距離の計測には画像所見が有用であることが示唆された。 一方、 どのように精緻な計測や統計学的処理を駆使しても、 身体計測という方法論においては様々な不確定因子が混入する可能性は残されており、 計測によって得られた測定値を即、 安全な刺鍼深度と捉えることに対しては慎重にしなければならないと考える。
    【結論】体壁厚の計測を行い、 安全な刺鍼深度の目安を解剖学的根拠に求めることは、 科学的検討という意味で非常に重要であると考える。 今回の検討と過去の報告の間には様々な測定条件の不一致があり、 単純に比較検討することは困難であったものの、 結果として同様の傾向が示されたことは興味深い。 また、 身体計測を行う際、 実際臨床により近い条件を備えた対象を検討する必要がある。 一方で、 身体計測という方法論においては様々な不確定因子が混入する可能性は残されており、 身体計測の結果得られた測定値を 「安全深度」 ではなく 「危険深度」 と呼称する方が、 むしろ適切であると考える。
臨床体験レポート
  • 村中 僚太, 成島 朋美, 東條 正典, 野口 栄太郎
    原稿種別: 臨床体験レポート
    2011 年 61 巻 4 号 p. 420-424
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/06
    ジャーナル フリー
    【目的】耳管開放症は耳閉感、 呼吸音聴取、 自声強聴などの自覚症状を主体とした難治疾患で、 その多くは原因不明である。 そのため耳管開放症に対する鍼治療に関しては、 ほとんど報告されていない。 今回耳管開放症状を訴える希少な症例を経験したので報告する。
    【症例】43歳、 男性、 団体職員。
     主訴:呼吸音聴取、 自声強聴、 現病歴:X年10月突如自声強聴を自覚。 同月Y耳鼻科を受診、 聴力低下(-)、 通気療法、 薬物療法。 同月Z大学附属病院耳鼻科にてオトスコープ検査により耳管開放症と診断される。 同年12月より鍼治療開始。
     現症:ウェーバーテスト (中央)、 聴力正常。 頭板状筋の過緊張。
     治療方法:患者からの下顎の運動で開放症状が減少するとの訴えを参考に、 咬筋を支配する三叉神経領域の経穴および後頸部の経穴を治療穴に選択した。
    【経過】初診より週1回のペースで計25回の治療を行った。 初診時より耳管開放音をNRS (Numerical Rating Scale) によって評価した。 気圧の変化や精神的ストレスにより増悪緩解を繰り返したが、 症状は初診時の約50%に維持することが出来た。
    【考察とまとめ】顔面部の三叉神経領域および後頚部の大後頭神経を介する三叉神経系への鍼治療が耳管開放症状の軽減に有用であることが示唆された。
  • 校條 由紀, 杉浦 真理子
    原稿種別: 臨床体験レポート
    2011 年 61 巻 4 号 p. 425-428
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/06
    ジャーナル フリー
    【はじめに】内服療法 (抗ヒスタミン薬) と外用療法 (ステロイド薬) を行っても、 睡眠時の皮膚への掻破行動のため、 浸潤性の紅斑と掻破痕が長期間継続したアトピー性皮膚炎に対して知熱灸 (熱感のみで火傷をしない) を行い、 症状が改善したので報告する。 【治療】患部 (左膝窩、 両手掌および手背部) への知熱灸を2週間に1回、 11カ月間にわたり計25回行った。
    【結果】灸治療開始の翌日より患部の掻破痕が減少し、 皮疹の程度は、 左膝窩は1ヶ月後に 「中等症」 から 「軽微」 となり、 手掌および手背部は約9ヶ月後に 「中等症」 から 「軽微」 となった。 灸治療開始1ヶ月後に内服薬は半減し、 外用療法はステロイド薬から保湿薬のみとなった。 11か月後に良好な皮膚の状態が継続したため、 灸治療と内服薬は終了した。
    【結論】知熱灸が睡眠中の掻破行動を抑制しアトピー性皮膚炎の皮膚科治療を補足した可能性が示唆された。
論考
国際部報告
  • Blasejewicz Thomas
    原稿種別: 国際部報告
    2011 年 61 巻 4 号 p. 440-445
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/06
    ジャーナル フリー
    2011年5月13-15日オランダで行われたICMART (International Council of Medical Acupuncture and Related Techniques) World Congress on Medical Acupunctureを視察してきた。 ICMARTは西洋医の学会連合会で、 鍼灸や鍼灸に関連した代替医療的技術に関する科学的証拠を追求している。 当然、 科学的証拠に関する発表が非常に多かったが、 臨床や伝統的な概念を取り上げるものもあった。 しかし、 この科学的証拠は特定な話題、 例えば経穴は 「点」 か 「面」 かに関して同等の権限で正反対の結果を裏付けるので、 最初から 「目標設定」、 「適用した方法」 や 「結果」 には果たして意味があるのかどうかを疑わざるを得ない。 一方で、 伝統的な側面を取り上げている発表においては証拠を示すこともなく、 得られた結果の根拠を解説しないものもあった。
     また、 代替医療を主流の西洋医学にどう取り組むかに関してもかなりの議論が行われたが、 そこでは患者の利益よりも、 明らかに政治や金銭への配慮が重要視されていた。 しかし、 様々の努力でこれに関して進歩もあり、 将来的に更なる発展が期待出来る。
  • Blasejewicz Thomas
    原稿種別: 国際部報告
    2011 年 61 巻 4 号 p. 446-452
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/06
    ジャーナル フリー
    2011年5月30日-6月5日、 南ドイツにある小さな町Rothenburgで行われたTCM Kongressを視察してきた。 本学会はAGTCM (Arbeitsgemeinschaft für klassische Akupunktur und traditionelle chinesische Medizin e.V.) の主催で、 毎年6月上旬頃、 同じ町で開催されている。
     医者もいたが、 この学会はどちらかと言うと医者ではない治療家のためのようであった。 文字通り、 主に東洋医学の伝統的な側面が理論、 実技の両面で取り扱われた。 それぞれの発表は日本で言う勉強会のような小人数 (20-30人) 体制で、 3時間ずつ行われた。 これは議論が十分出来るもので、 そしてその議論が活発化した時予想外の方向に展開することもあった。 日本や韓国の鍼灸をテーマにした発表もそれなりの数はあったが、 理論や実技に関して中国のスタイルや特徴をテーマしたものの方が多かった。 中国風のスタイルは主に理論が先行し、 私は日本で普通に行われている患者ごとの特徴を触診などで捉える事が臨床現場でも二次的だと考えられている印象を受けた。
     学会全体を通して、 質疑応答は代替医療に関わる政治的要素、 標準化に関するものが大勢をしめていた。 その中で最高責任者の一人が次の発言をしたことは個人的にとても興味深いことであった:「鍼灸 (など) の発祥地は中国であったかもしれないが、 東洋医学の将来 (さらなる発展) は恐らく西洋にある。」
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