日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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3 巻, 3 号
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総説
  • ―とくに民間ヘリコプターの活用について―
    益子 邦洋, 犬塚 祥, 小川 理郎, 工廣 紀斗司, 原 義明, 中村 敏, 丸山 正明, 田中 啓治
    原稿種別: 総説
    2000 年3 巻3 号 p. 309-314
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    われわれは1998年春,海外旅行傷害保険の加入者が海外で疾病・傷病等に見舞われた場合を対象に,重症者について帰国する空港から当院まで医師・看護婦が同乗するヘリコプターを利用した患者搬送サービスを開始した。その結果,患者の医療需要はさまざまであり,広域の病院ネットワークを構築してこれに対応する必要性が明らかになった。そこで関東地区の病院に呼びかけて検討を重ねた結果,10の医療機関と6社の企業が「救急ヘリ病院ネットワーク」を組織することに合意し,NPO法人設立の手続きを開始した。当初は参加病院と民間企業との間で業務提携契約を結んでヘリコプター搬送事業を実施し,本ネットワークは主として救急ヘリを利用した救急搬送の環境整備を行うこととした。将来的にはネットワークを全国的組織に発展させ,消防・防災ヘリとも緊密な連携を保つことにより,総合的な救急搬送体制を確立したいと考えている。

原著
  • 新井 千冬, 石川 雅健, 鈴木 忠
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻3 号 p. 315-325
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    肺感染症に対する治療は,気管支肺胞系への移行と対象菌種にあった抗生物質の選択がその効果を決定する。今回われわれはBALF(broncho-alveolar lavage fluid)を用い第4世代セファロスポリン系抗生物質であるcefepime(CFPM),cefpirome(CPR)を静脈内投与した場合の気管支肺胞系への移行を検討した。さらに,その移行を促進する可能性のあるbromhexineを使用し,その効果も検討した。対象は,重症度が同程度である肺炎患者20例。方法は,CFPM,CPRの抗生物質単独使用群(A群)とbromhexine併用使用群(B群)に分け,血中およびBALF 中の薬剤濃度を調べ,従来の報告と比較検討した。BALF中各濃度は,CFPMではA群平均1.706±0.337 μg/ml,B群平均2.459±0.549 μg/mlであった。CPRではA群平均1.558±0.308 μg/ml,B群平均2.138±0.461 μg/mlであった。その結果,肺感染症においてbromhexineを併用すると,CFPM,CPRの気管支肺胞系への移行がさらに上昇することが明らかになった。

  • 鈴木 昌, 堀 進悟, 篠澤 洋太郎, 藤島 清太郎, 木村 裕之, 堀口 崇, 中澤 堅次, 小林 健二, 佐々木 淳一, 相川 直樹
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻3 号 p. 326-332
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    救急救命士の誕生により,本邦のプレホスピタル・ケアは新段階を迎えた。救急救命士は年間約1,000名が養成されているものの,配置は都市圏に偏り,地域差が生じていると推測される。本研究では東京都と宇都宮市を取り上げ,救急救命士数と特定行為施行件数,および両地域で蘇生プロトコールを同じくする三次救急医療施設における院外心肺機能停止患者の転帰を比較した。東京都では,救急救命士数と特定行為施行件数が有意に多く,短期生存率が高かった。数量化理論Ⅱ類を用いた重回帰分析とMantel-Haenszelのχ2検定により,短期生存率はbystander CPRと電気的除細動の施行の有無が関与していると考えられた。bystander CPRの施行率は両地域間に差を認めないことより,短期生存率の差には電気的除細動の施行率が関与すると考えられた。したがって,特定行為を行う救急救命士の配置の地域差が短期生存率の差に関与していると考えられた。

  • 奈良 浩介, 河野 正樹, 安田 是和, 鈴川 正之
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻3 号 p. 333-337
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    へき地・離島に勤務する医療従事者は物理的にも時間的にも学会に参加することが困難であるのが現状だが,現場に勤務したままで学会に参加することができればへき地・離島勤務という制限も緩和される可能性がある。実際にそのような方法が可能かどうかを1998年10月に第2回へき地離島救急医療研究会で試験的に実施し,後日,参加者全員からアンケート調査を実施し電話回線や画像伝送装置を用いた学会参加形式がへき地医療に従事者の支援策となるかどうかについて検討を行った。アンケート調査の結果,へき地・離島などの現場で参加した医療従事者の多くが今回のような学会参加形式に対して賛同し,今後もこのような学会形式を望む回答が多く得られた。しかしながら,実際に学会会場に来場しないことによる種々のデメリットも散見され,今後のさらなる検討が必要であると考えられた。

  • ―軽症者搬送に着目して―
    藤橋 孝彰, 武藤 浩二
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻3 号 p. 338-344
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    目的:救急医療機関の機能分担,とりわけ軽症者と初期救急医療機関の関係に着目したQコール(協力医療機関に救急隊が直接収容を依頼する仕組み)が,救急搬送時間の短縮と救急医療機関の機能分担に果たす役割の確認を目的とした。方法:①1997年;仙台市における軽症者の救急搬送状況を分析した。②1998年6月から8月までのQコール試行による軽症者の搬送データ(97人)と1997年同時期,同条件下の軽症者サンプルの搬送データを比較検討した。結果:①全搬送人員の41.7%が軽症者であり,軽症者の収容先は二次救急医療機関が58.2%と最も多く,初期救急医療機関が13.3%と最も少なかった。②Qコール協力医療機関;市医師会のアンケートにより協力を表明した初期救急医療機関227施設。試行結果(前年比較);収容照会時間は3.0分,収容所要時間は6.8分の短縮化が認められた。結論:有用性が検証できたことから,1999年3月本格実施に移行した。

臨床経験
  • 久保田 芽里, 横田 順一朗, 福田 篤久, 石田 浩美, 小島 義忠, 溝端 康光, 八木 啓一, 田伏 久之
    原稿種別: 臨床経験
    2000 年3 巻3 号 p. 345-349
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    頭部外傷患者において,聴性脳幹反応(auditory brainstem response)に加え,40Hz聴性定常反応(40Hz auditory steady-state response)を併用し,予後推定における有用性を検討した。対象は,平成7年10月から平成11年3月に当センターに救急搬入された頭部外傷患者42例とし,搬入から48時間以内に測定したABRとASRの評価と転退院時の意識レベルとの相関,および48時間以降経時的に測定したABRとASRの推移を比較した。その結果,受傷早期に測定したASRはABRに比べ,転退院時の意識レベルをよく反映し,また経時的に測定することで,ASRはより一層転退院時の意識レベルを正確に反映することが明らかとなった。したがって,頭部外傷患者において,ABRに加えASRを受傷早期に測定することで,予後診断の信頼性を従来のABR単独測定時よりさらに高めることが可能と考えられた。

  • ―周術期管理と短期成績について―
    重光 修, 葉玉 哲生, 宮本 伸二, 穴井 博文, 迫 秀則, 卜部 省悟, 和田 朋之, 李 泰成, 岩田 英理子
    原稿種別: 臨床経験
    2000 年3 巻3 号 p. 350-356
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    80歳以上の心大血管緊急手術例14例を対象に,その短期成績と周術期管理につき検討を行った。年齢は80歳より92歳で,術前NYHA分類でⅢ度が4例,Ⅳ度が10例であった。疾患別では急性心筋梗塞が3例で,心室中隔穿孔(VSP)が1例,不安定狭心症が6例,A型急性解離が4例であった。VSPを除く虚血性心疾患(IHD)の9例は冠動脈バイパス術を行い,VSP例は閉鎖術を行った。解離例の4例に上行大動脈置換術などを行った。早期死は3例で,いずれも動脈硬化高度のIHD例であった。IABPを8例,経皮的補助循環を2例に用い各種血液浄化法を8例に行った。術後呼吸障害,せん妄,失見当識などが高頻度にみられた。14例中8例は退院時,自力歩行可能であったが,1例のみ意識障害が持続した。術前低心機能例,高度上行大動脈石灰化例は予後不良であった。高齢者では救命を第一とし必要最小限の手術がよいと思われた。精神症状の安定には抑制解除と家人らの面会が有用であった。超高齢者でも耐術例のQOLは良好であった。

症例報告
  • 有吉 孝一, 大野 城太郎, 金城 永治, 白鳥 健一, 山崎 和夫, 石原 享介, 立道 清, 上村 克徳, 西尾 利一
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻3 号 p. 357-362
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    1996年6月から1998年2月の1年8か月間に,当院で経験した被虐待児症候群の7例について検討した。症例は3か月から4歳までの小児で,全例女児であった。来院時の主症状は,痙攣2例,頭部打撲1例,嘔吐1例,腹痛1例,重症脱水2例であった。るいそうを5例で認め,養育放棄が疑われた。全例に何らかの外傷がみられた。虐待者は,継父2例,両親1例のほかはすべて実母で,平均年齢は24.9歳と若かった。また離婚歴があるものが2例あった。平均入院日数は34日で,1例が急性硬膜下血腫,脳挫傷のため死亡した。残りは,2例は転院,2例が乳児院へ退院,2例は自宅へ退院した。その後の追跡調査で,自宅に退院した1例が,他院で死亡したことが判明した。死亡例は児童相談所,警察へ通報していたが,解剖は行われず,虐待者に法的措置はとられていなかった。

  • 尾中 敦彦, 都築 貴, 樫村 重樹, 榮 博史, 当麻 美樹, 田伏 久之
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻3 号 p. 363-366
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    スミチオン®服用98時間後に中毒症状が発現し,その後の経過中に症状の再燃がみられた症例を経験した。本例のfenitrothion(以下FNTと略す),およびその代謝産物である3-methyl-4-nitrophenol(以下MNPと略す)の血中濃度を測定し,臨床経過との対比を行ったので報告する。症例は53歳の男性。スミチオン® 100mlをキッチンハイター® 100ml,焼酎300ml,ハルシオン® 8錠とともに服用し,他院で胃洗浄,pyridine-2-aldoxime-methiodine(以下PAMと略す)1gの投与を受け,服用より約12時間後に当センターヘ搬送された。当初は傾眠傾向を認めるのみであった。しかし,第4病日に入り初めて急性中毒症状(唾液分泌尤進,縮瞳,筋力の低下)がみられ,第9病日には再び症状の増悪がみられた。血中FNTおよび3-methyl-4-nitrophenolの血中濃度は,臨床症状の発現に一致した2相性の変化を示した。本例における中毒症状の発現機序は脂肪組織に吸収されたFNTの再分布および再分布したFNTがさらにfenitrooxonへと代謝されたためと思われた。

  • 高須 修, 坂本 照夫, 高松 学文, 吉田 晋介, 石川 律子, 廣橋 伸之, 明石 英俊, 藤野 隆之, 青柳 成明, 加来 信雄
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻3 号 p. 367-372
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    aortoenteric fistula(以下AEFと略す)による出血性ショック2救命例を報告する。症例1は41歳の男性。約1週間,出血源不明の消化管出血を繰り返した後,当センターに搬入。十二指腸水平脚の潰瘍と,軽度の発熱,炎症所見の上昇を認めたが保存的に加療。第17病日大量下血からショックに陥り手術施行。症例2は46歳の男性。腹部違和感のため近医入院中,腰部激痛と吐下血から一時はショック状態となる。腹部CTにおける人工血管周囲の異所性ガス像からAEFを疑い,麻酔鎮静下に搬送。搬入直後再度ショック状態となり手術施行。2例とも人工血管をwrappingした動脈壁に腸管が穿通し,吻合部離開を認めた。AEF救命のためには本疾患を認識することが重要であり,とくに人工血管置換術後の消化管出血や感染徴候の持続例に対しては,内視鏡による可能な限りの十二指腸水平脚までの精査と腹部CTによる人工血管周囲の精査を行い,機を逸することなく外科的治療を行うことが重要である。

  • 中瀬 有遠, 福田 賢―郎, 安岡 利恵, 増山 守, 加藤 誠, 米山 千尋, 渡辺 信介
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻3 号 p. 373-376
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    症例は85歳,女性。23年前に子宮癌にて子宮全摘を行い術後放射線照射を受けている。腹痛のため,近医で投薬などの治療を受けていたが腹痛が増悪したために当院を紹介された。来院時,腹部は膨満し全体的に自発痛,筋性防御を認めた。血液検査では炎症所見とBUNおよびクレアチニンの上昇を認めた。腹部CTにて多量の腹水と腹腔内遊離ガスを認めたため,消化管穿孔の疑いで緊急開腹術を行った。腸管に穿孔はなく,膀胱壁は蒼白で薄く一部に径5mmほどの穿孔を認めた。膀胱破裂と膿尿による汎発性腹膜炎と診断し,破裂部を縫合閉鎖し,手術を終了した。放射線性膀胱炎を原因とする膀胱自然破裂は比較的まれであり,若干の文献的考察を加え報告する。

調査・報告
  • ―救急隊員へのアンケート調査から―
    渋谷 正徳, 木村 真一, 鵜飼 勲, 道野 博史
    原稿種別: 調査・報告
    2000 年3 巻3 号 p. 377-382
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    救急隊員全員に対して,①資器材の使用と特定行為の実施状況,②各種疾患に対する重症度判断と緊急対応,③今後の救急のあり方,についてアンケート調査を行った。そして,一般隊員を経験年数により5年以下(16名)10年以下(31名)11年以上(25名)の3群に分け,救命士(8名)と比較検討した。その結果,救命士は特定行為の経験は少ないものの,聴診器やエアウェイ,喉頭鏡の使用頻度が高く,重症度判断,緊急対応に対する自信も一般隊員より高かった。一方,病態を理解することで不安を感じている割合も一般隊員より高く,疾患別では中毒や腹痛・胸痛といった内因性疾患の理解不足がうかがわれた。今後学ぶべきものとして,特定行為よりも確実な一次救命処置や観察判断能力といった基本手技の重要性を認識した回答が多く,教育の成果がうかがわれた。今後CPAの救命率のみにとらわれず,救命士の救急疾患全体への対応を評価し,継続的かつ定期的な研修体制を構築することが必要だと考えられる。

研究速報
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