日本臨床救急医学会雑誌
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1 巻, 2 号
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原著
  • 龍村 俊樹
    原稿種別: 原著
    1998 年1 巻2 号 p. 171-175
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    鈍的胸部外傷257例のうち,肺損傷を認めた142例(55.3%)について分析した。気胸が41例(28.9%),その他血胸26例(18.3%),血気胸19例(13.4%),緊張性気胸10例(7.0%),および肺挫傷46例(32.4%)がみられた。肺挫傷46例中にacute respiratory distress syndrome(以下ARDSと略す)の発症をみたものは7例で,2例が死亡した。死亡率は7.8%であった。肋骨骨折をみない症例が19例(13.4%)存在した。肋骨骨折が肺損傷の絶対必須条件ではないことを物語っている。76.2%の症例に最初から胸腔ドレナージによる持続吸引を行い,最終的に7.4%の症例に手術を行った。しかし,最初に胸腔ドレナージを行わなかった23.8%のうち,3例(12.5%)は経過中にドレナージを行う必要が生じた。症例の慎重なfollowが不可欠である。

  • —とくにhumoral mediatorの変動について—
    加瀬 肇, 高橋 知徳, 下山 修, 龍 雅峰, 小林 一雄, 吉雄 敏文, 五十嵐 正樹, 大石 知実, 斉藤 徹, 上嶋 権兵衛
    原稿種別: 原著
    1998 年1 巻2 号 p. 176-180
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    目的:重症急性膵炎に対するPMX+CHDF療法の有効性をhumoral mediatorの変動より検討した。対象と方法:1997年1月から1年間に当救命センターに入室した重症急性膵炎5例にPMX後にCHDFを行い,血圧,エンドトキシン,炎症性,抗炎症性サイトカイン,顆粒球エラスターゼ等のhumoral mediatorの変動を観察した。結果:血中エンドトキシン濃度はPMX施行後全例低下した。PMX施行後平均血圧は有意に上昇した。炎症性サイトカインのIL-6,-8はPMX施行前は全例上昇しており,施行後にやや減少し,GHDFの持続に従い低下した。抗炎症性サイトカインであるIL-10,-13の高値症例はPMX施行後やや上昇したが,その後CHDFにより徐々に低下した。顆粒球エラスターゼはCHDFにより低下した。結語:重症急性膵炎に対するPMX+CHDFはhumoral mediatorを除去し有効な方法と思われる。

  • 西本 泰久, 福本 仁志, 大野 正博, 秋元 寛, 金原 稔幸, 西原 功, 森田 大, 冨士原 彰
    原稿種別: 原著
    1998 年1 巻2 号 p. 181-184
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    大阪府三島救命救急センターは高槻島本地区(人口約39.3万人,平均年齢36.9歳)の中央からやや南西に位置し,この地区の多くの地域から15分以内に救急来院が可能である。地区内で発症した急性大動脈解離はCPA症例を含めほぼすべて当センターヘ搬入されていると考えられる。目的:1989年1月から1997年8月までに高槻島本地区で発症し当センターに搬入された急性大動脈解離の発生状況と転帰について検討を加えた。対象:平均年齢65.0±15.7歳,男性37例,女性28例であった。Stanford分類A型は40例,B型は25例であった。結果:A型のうち22例は来院時心肺停止状態(CPAOA)でありすべて死亡した。残りの18例のうち7例は手術にいたらず死亡し,10例に対し人工血管置換などの手術を行い,7例が生存し,3例を失った。結局救命したのは8例であった。一方,B型解離にはCPAOAはなく,24例中1例が死亡したのみであった。結語:急性A型大動脈解離は急性期の死亡率が極めて高く,治療成績向上もさることながら,成因の追求や予防法の確立が望まれる。

  • 向井田 春海, 鈴木 智之, 長沼 雄二郎, 栗城 聡, 柴田 雅士, 青木 英彦, 佐藤 紀夫, 谷口 繁, 水沼 吉美, 平盛 勝彦
    原稿種別: 原著
    1998 年1 巻2 号 p. 185-189
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    救急救命士制度導入と心肺蘇生法普及運動後の救急医療現場の変化を検討した。心疾患によるCPA(心臓性CPA)例のうち,救急救命士の特定行為開始前(’92.4~’95.3)の118例(A群)と特定行為開始後(’95.4~’98.3)の124例(B群)を対象とし,蘇生率,生存退院率,社会復帰率の比較を行った。さらに,心肺蘇生法講習会受講者数と内因性CPA例でのbystander CPR施行率,および心臓性CPA例の生存退院率との関係について検討した。B群での特定行為施行率は19.4%と低率であり,蘇生率はA群22.9%,B群24.2%,生存退院率はA群12.7%,B群12.9%,社会復帰率はA群3.4%,B群4.8%といずれも有意差はなかった。受講者数は1997年度に累計145,687人に達した。bystander CPR施行率は,1993年度13.2%,1997年度35.2%と有意に増加した(p<0.01)。しかし,生存退院率は1993年度5.1%,1997年度14.6%と有意な改善はみられなかった。未だに生命予後の改善はなく,救急救命医療システムのさらなる充実が必要である。

  • 中村 義博, 渡辺 謙介, 堀内 郁雄, 石丸 剛
    原稿種別: 原著
    1998 年1 巻2 号 p. 190-193
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    来院時心肺機能停止症例194例の蘇生術費用および入院費用について検討した。194例のうち151例に心肺蘇生術(以下CPR)を行った結果37例が心拍再開し入院となった。1週間以上生存したのは7例で,社会復帰を果たしたのは3例のみであった。蘇生術を施行した151例の総医療費は26,902,150円であった。推定心停止時間と予後を検討してみると社会復帰例の3例はいずれも10分未満であり,10分以上のものは最終的にすべて死亡した。推定心停止時間が10分以上の140症例の医療費は約2400万円,20分以上の118例だけでも1,700万円の医療費がかかっていた。これらの医療費は心肺蘇生術の適応非適応のガイドラインを設けることができれば節減できると考えられた。社会復帰率を向上させるためにはbystander CPRを市民に普及させる努力,救急救命士の技術向上のための病院実習や特定行為の拡大,搬送時間の短縮のためにドクターカーやヘリコプターの導入などを検討すべきである。

臨床経験
  • ウツタイン様式大阪版調査用紙導入後の奈良県下13消防本部・組合からの報告—(第1報)—
    畑 倫明, 今西 正巳, 村尾 佳則, 稲田 有史, 中井 寛明, 植田 史朗, 野坂 善雅, 酒井 利也, 福島 英賢, 宮本 誠司
    原稿種別: 臨床経験
    1998 年1 巻2 号 p. 194-199
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    目的:奈良県下の消防本部・組合において平成10年1月よリウツタイン様式大阪版調査用紙を導入した。これに基づいて奈良県の救急救命活動について検討を行った。対象:平成9年6~8月の間に報告された149例と,平成10年1~3月の間にウツタイン様式大阪版(新様式)で報告された225例の計374例を対象とした。結果:救急救命士による特定行為施行例(以下施行例)の覚知-病院到着時間は平均35.0分であり,非施行例の25.6分と比較し,有意に延長がみられた。さらに新様式での詳細な検討では,覚知-現着時間は施行例平均7.5分,非施行例6.0分,現着-現場出発時間は施行例16.0分,非施行例11.0分,現場出発-病院到着時間は施行例11.1分,非施行例8.3分と,それぞれ施行例が有意に時間延長していた。また,普段の生活,日撃者の有無,bystander CPRに関しても検討を行った。結論:新様式の導入により問題点が明確になり,詳細な検討が可能になった。

  • 石原 晋, 金子 高太郎, 土井 正男, 唐川 真二, 桑原 正雄
    原稿種別: 臨床経験
    1998 年1 巻2 号 p. 200-205
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    院内汚染事故防止のため,「病院における隔離予防策:CDC1996」を導入することにつき検討した。とりあえず救命救急センターと感染症病棟の2部署において隔離予防策のなかの「Standard Precautions」を3か月間実施した。その結果,経費的に十分実施可能,職員の意識改革に有用,針さし事故は減少するなどのことがわかった。また,このガイドラインを実施していくうえでの最大の難問は持続的啓発活動であり,そのため実践部隊であるinfection control team(ICT)を組織することが必須と考えられた。

  • 玉木 真―, 青木 眞晴, 渡辺 明良, 中村 彰吾, 先久 美穂, 上田 留美子, 近藤 司, 三橋 昭裕, 石松 伸一, 荻野 隆光
    原稿種別: 臨床経験
    1998 年1 巻2 号 p. 206-211
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    聖路加国際病院は,平成9年9月より救急医療センターを開設し,都内では唯一の民間三次救急医療施設となった。そこで今回当救急医療センター開設前後の経済的変化の調査を行い,その結果を考察する。方法:当院で実施している原価計算調査報告をもとに,平成8,9年の医療費収支を比較する。結果と考察:当救急医療センターは,収支で比較すると不採算部門となっていることがわかった。この大きな要因として,平均在院日数の長期化,診療報酬点数上の救命救急入院料が認められないことなどが考えられた。当院は高度医療機能病院として病院経営を行うことを目的にしていることから,救急診療部門は必要不可欠な存在である。以上のことから,今後は当院における経済的バランスを勘案した救急医療の運営について検討していく必要があると考えられた。

症例報告
  • 徳広 由紀夫, 願永 昭二
    原稿種別: 症例報告
    1998 年1 巻2 号 p. 212-215
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    心疾患でありながら主症状が意識障害である場合の救急現場での病態評価は非常に困難である。今回このような症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。症例は69歳女性で嘔吐後卒倒し,119番通報された。救急隊到着時の臨床症状は,意識障害・片麻痺・偏視等の中枢神経症状で,主訴も頭痛であった。しかし,心電図上Ⅲ度房室ブロックを認め心拍数も30台であった。さらに傷病者の家族が脳外科二次救急病院へ連絡済みであった。このような状況から現場判断に苦慮したが,心疾患が否定しきれないことから収容先を三次救急病院へ変更した。収容後検査にて右冠動脈閉塞による心筋梗塞と診断され,PTCAを施行し再疎通に成功した。なお頭部CT上異常は認めなかった。本症例は現場での的確な判断が奏功した事例で,今後の現場判断の参考となれば幸いである。

  • 清水 勝, 小林 成禎, 山内 治, 川瀬 光八郎, 渡辺 裕, 木全 崇之, 山田 昌夫, 山田 新尚, 笹岡 郁乎, 岩田 圭介
    原稿種別: 症例報告
    1998 年1 巻2 号 p. 216-220
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    分娩を契機に急性増悪した肝硬変症の2例を経験したので報告する。症例1:35歳,主婦,B型肝硬変症。■年■月■日,妊娠33週で帝王切開で分娩。分娩29日後黄疸と腹水で入院。安静と一般的肝庇護療法で改善した。改善後8.5年経過しているが,血清トランスアミナーゼは正常化,HBs抗原は消失,HBs抗体へseroconversionし,血清学的にはHBVキャリア状態は解消された。症例2:28歳,主婦,原発性胆汁性肝硬変症。■年■月■日帝王切開で分娩。分娩21日後黄疸で入院。PredonisoloneとUrusodeoxycholic acidの投与を行ったが無効。総ビリルビンは43.3mg/dlに達し,消化管出血,発熱を合併したので,生体部分肝移植を行い救命した。移植後1年を経過,黄疸を認めず通常の社会生活をしている。以上,肝硬変症患者の妊娠,分娩に対し注意が必要であると考える。

論点
  • —救急医療機関の提供の立場から—
    福西 健至, 丸山 克之, 植嶋 利文, 高橋 均, 丸山 次郎, 坂田 育弘
    原稿種別: 論点
    1998 年1 巻2 号 p. 221-224
    発行日: 1998/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    「臓器の移植に関する法律」が施行され,脳死による臓器移植が可能となった。しかし,これに伴い組織移植医療に変化と問題が生じている。そこで,本法律施行に伴う組織移植医療の変化と問題点を提供する救急医療機関の立場から報告する。変化および問題点は①法律自体に組織移植の記述がない,②意思表示カードに組織の項目がない,③組織と臓器摘出の承諾書が別々に必要となった,④コーディネーションは治療を行ってきた救命救急センター側が行っている,⑤使用されなかった臓器から組織への提供ができない,⑥個別の組織バンクに対応できない可能性がある,などである。これらは,ガイドラインには組織移植が「許容される」と記載されたものの,本法律は「組織の移植については対象としておらず」,「特段の法令はない」との記載もあり,本法律自体で組織移植を保護していないことに起因する。したがって早期に組織移植が法律により明確に保護されることを切望する。

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