日本臨床救急医学会雑誌
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3 巻, 5 号
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第3回日本臨床救急医学会総会会長講演
原著
  • 谷川 攻一, 武田 卓, 後藤 英一, 田中 経―
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻5 号 p. 465-471
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    一般市民を対象とした心肺蘇生法に関して36項目からなる実習指導用チェックリストを作成し,その有用性について医学部学生を対象として調べた。5~6名を1グループとし,11グルー プを対象にこのチェックリスト各項目に基づいて約90分の講義と実技講習を行った。チェックリストに基づいた実技テストでは,講習終了時には全員が全チェック項目で満足できる結果が得られたものの,10日後のテストにおいて気道確保と胸骨圧迫時の正しい手掌の位置の確認など,CPRにおいて重要な技能の維持の困難な項目が明らかとなり,講習会での手技習得上の要点が明確にされた。チェックリストに基づいた心肺蘇生法指導は,①受講者にとっては習得すべき重要なポイントが明確にされる,②指導者にとっては受講者の習得困難な手技を客観的に評価することを可能とする,③実技指導を効率的に,かつ異なった担当指導者による格差を回避できるなどのメリットがある。

  • ―通常量の薬物服用が原因となった16例の経験から―
    峯村 純子, 村山 純一郎, 山之内 晋, 山本 武史, 安部 博昭, 三宅 康史, 弘重 壽一, 秋田 泰, 杉本 勝彦, 有賀 徹
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻5 号 p. 472-476
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    意識障害やショックなどの重篤な症状で救急医療センターに搬送される患者のなかには,その原因が葉剤による場合がある。過去2年間に当院二次救急施設に受診した患者を対象に,薬剤の関与を調査した。全症例の8.8%が薬剤に起因し,そのうちの87.4%が自殺企図や誤飲による薬物過量服用患者だった。その他12.6%の内訳は通常量の薬物服用によりアナフィラキシーショック,低血糖発作,意識障害,心肺停止を主訴として来院した。アナフィラキシーショック症例の多くは,過去にアレルギー歴がなく,予期せぬ発症に注意が必要であった。病態の変化が起こりやすい高齢者や基礎疾患のある症例が多く,血中薬物濃度が上昇し,薬の作用が増強されることが病態に関与したと考えられた。また,心肺停止患者1名は禁忌薬を服用していた。以上より,個々の患者薬剤処方および服薬指導にあたっては重大な副作用の初期症状などについての情報を提供することの重要さが示された。

  • 菊地 充, 村田 厚夫, 山口 芳裕, 井上 哲也, 三島 史朗, 山本 明彦, 島崎 修次
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻5 号 p. 477-481
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    高齢者の術後肺炎発生因子として身体能力と免疫能の重要性について検討した。緊急手術を施行した70歳以上の高齢者(36例)を対象として,術前日常生活動作能力(N-ADL)を評価し,正常(A)群:22例と低下(B)群:14例の2群に分けた。この両群間で術後肺炎の有無,術前leuko index(LI),術前の小野寺式予後判定指数(NSRI),P/F比を比較検討した。B群14例のうち9例(64.3%)で肺炎を併発していた(p<0.05)。LIはA群12.0±5.7,B群20.6±12.6と両群間で有意な差がみられた(p<0.05)。しかし,NSRIはA群34.0±4.9,B群33.9±6.7であった。酸素化機能に関して,術前P/F比はA群290.3±80.5,B群236.2±46.9であった(p<0.05)。以上から,術後肺炎合併はADLの低下による喀出力低下や免疫機能,とくにLIの結果から,細胞性免疫が低下していることが考えられ,これらが肺炎合併のriskを増加させると考えられた。

  • ―画像所見と予後との関わりを中心に―
    熊田 恵介, 福田 充宏, 山根 一和, 堀内 郁雄, 奥本 徹, 青木 光広, 小林 良三, 小濱 啓次
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻5 号 p. 482-487
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    1994年5月から2000年6月までに当センターに入院し,集中治療を要した20例の脳炎患者を対象とし,予後に関わる因子について検討した。完全回復12例,後遺症残存8例に分類して検討した結果,後遺症残存例では痙攣の併発が高い傾向にあり,意識障害が遷延化する傾向にあった。画像上,異常所見の出現頻度は両群とも,CTよりMRI,MRIよりSPECTのほうが高かった。SPECTの所見では,急性期での片側性に高集積を呈する症例よりも,全般的な血流低下を示している所見の症例が,後遺症を認める傾向にあった。また,脳血流量の回復不良は,意識障害の遷延化に関係しているものと考えられた。以上,脳炎の予後に関わる因子について検討したが,臨床症状では痙攣の併発,意識障害が5日以内に回復しない患者,画像所見ではSPECTによる全般的な脳血流量の低下を認める症例は,後遺症を認める傾向にあった。

臨床経験
  • ―腹部外傷が妊娠経過と胎児に及ぼす影響―
    三宅 徹郎, 西中 徳治, 加藤 博之, 瀧 健治
    原稿種別: 臨床経験
    2000 年3 巻5 号 p. 488-491
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    妊婦の交通事故における腹部打撲が与える影響と,その流・早産の予防策について検討した。乗車中の交通事故で腹部打撲を負った妊婦10例を対象とし,受傷時の状況と受傷時以降の観察内容をretrospectivcに調査した。シートベルト非装着の6例は,来院時の内診と児心音の所見や母体の重症度から,子宮の緊張亢進による胎盤早期剥離の危険性を考慮して緊急入院となった。入院中はCTGモニターで胎児心拍と子宮収縮状態を観察し,胎児の予後は良好であった。一方,シートベルト装着の4例はすべて入院を必要としなかった。シートベルト装着4例はいずれの症例も,何ら打撲の痕跡が認められないほど軽度と思われる腹部打撲であったが,シートベルト非装着の妊婦では子宮や胎児への影響が認められており,その対策は妊娠継続に重要であった。妊婦の交通事故において腹部打撲がたとえ軽微であっても,受傷後の経過観察およびその流・早産の予防対策が重要であることが示唆された。

  • 箱崎 恵理
    原稿種別: 臨床経験
    2000 年3 巻5 号 p. 492-498
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    高齢者(80歳以上)緊急手術の現状を調査し,看護の役割を考察した。対象は平成5年〜平成10年の5年間に入院した680例中緊急・待期手術例179例。方法は来院者名簿・看護記録・カルテ・手術記録から検索した。結果高齢者が緊急手術に至る疾患は限局しており,重症度は高いものの,経過は良好であった。来院から手術室入室までの時間は短く,術後はせん妄が多発していた。初療室での経過中,患者は苦痛と強いストレス下にあり,適切な情報収集と看護介入のあり方が重要になっていた。術後は看護者の術後せん妄に対する戸惑いがみられた。高齢者の緊急手術における看護者の役割は初療場面と術後管理において重要である。前者ではADLに関する適切な情報収集と患者の意思決定を尊重する環境作り,後者では術後せん妄に対する適切な看護診断とアプローチである。進行する高齢化社会に向け,加齢に伴う特徴を踏まえた包括的な看護の構築を求められている。

症例報告
  • 横山 真也, 北川 喜己, 大川 洋史, 徳山 泰治, 河野 弘, 松浦 豊
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻5 号 p. 499-504
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    症例は67歳男性。既往歴は平成■年,心筋梗塞で冠動脈バイパス術を施行。平成■年■月■日,心不全で当院循環器科入院となった。■月■日,腹痛を訴え3日後,■月■日腹部レントゲン写真で腹腔内遊離ガス像認め当科紹介となった。上部消化管造影で十二指腸潰瘍穿孔性腹膜炎と診断したが,患者の心機能および冠動脈バイパス術時,右胃大網動脈を用いていることなどを考慮し,経皮的ドレナージを施行して保存的治療を行った。状態は一時落ち着いたが■月■日より全身悪化し,人工呼吸管理となった。また喀痰,ドレーン挿入部よりMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出され,その治療にも難渋した。結局,全身状態が改善して経口摂取を開始したのは■月中旬であり,内科転科後第120病日目に軽快退院した。冠動脈バイパス術の普及に伴い同様の症例も増加するものと思われ,緊急時いかに患者の状態を適切に評価し,治療方針を選択するかが重要であると考えられた。

  • 湯本 正人, 森田 正人, 大久保 一浩, 棚橋 順治, 中村 不二雄, 勝屋 弘忠
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻5 号 p. 505-508
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    樟脳中毒により,徐脈と高血圧を呈した2症例を経験したので報告する。症例1は16歳男性。樟脳含有のジュースをコップに一杯飲んだ。20〜30分後に救急外来受診時,40bpm前後の徐脈と収縮期血圧200mmHgを超える高血圧を認めた。胃洗浄施行中に突然痙攣が起こり,意識レベルがJCS Ⅲ-200に低下したため,ICUに収容した。原因薬物が不明で,意識レベルが不良のため血液吸着および血液透析を施行した。その後,意識は順調に回復したが,徐脈と高血圧は3日間持続した。症例2は15歳男性。症例1と同じジュースを一口飲んだ。救急外来受診時,症例1と同様の徐脈と高血圧を認め,16時間持続した。樟脳は一般に『カンフル剤』として知られているが,その循環器系に及ぼす薬理作用は文献にも詳述されていない。今回の症例の場合,非常に強い血管収縮作用と反射性徐脈,ないし心臓に対する抑制作用などが絡み合い,このような徐脈と高血圧を来したものではないかと推定した。

  • 文野 誠久, 市川 大輔, 栗岡 英明, 上島 康生, 城野 晃一, 濱島 高志, 池田 栄人, 菅田 信之, 久津見 弘, 藤本 荘太郎
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻5 号 p. 509-514
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    十二指腸壁内血腫は,交通事故などの腹部鈍的外傷に起因する比較的まれな疾患であるが,報告数は年々増加している。治療法としては,近年では保存的治療が選択されることが多く,施設により超音波ガイド下血腫ドレナージ,内視鏡下ブジーなど,さまざまな非観血的治療が施行されている。今回われわれは,20歳男性の外傷性十二指腸壁内血腫を経験し,保存的治療にて14日間経過観察したが,血腫の縮小傾向が認められず,通過障害の改善を得られなかったため,内視鏡的に血腫ドレナージを行った。術後13日目より経口摂取可能となり,術後16日目には腹部CT上血腫の消失を認め,とくに合併症を認めず治癒せしめた。内視鏡による血腫ドレナージは十二指腸潰瘍の形成および穿孔の危険性などがあるものの,患者の負担が少なく有効な方法であると思われたので,若干の文献的考察を加えてこれを報告する。

調査・報告
  • 内田 敬二, 森村 尚登, 安瀬 正紀, 杉山 貢
    原稿種別: 調査・報告
    2000 年3 巻5 号 p. 515-522
    発行日: 2000/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    ドイツではプレホスピタルケアは医療であるという認識のもと,医師が積極的に現場に出動し(全一次救急の57%),公的救急組織から派遣される救急車(移動集中治療室)・救急助手と協力して高度な初期診断・治療にあたる。医師の現場出動,病院選定,搬送までのすべてが救急指令センターの指示のもとに円滑に行われる。救急に要する費用はすべて医療費として健康保険で支払われる。救急医は各地域中核病院に勤務する麻酔科,外科,内科などの医師であり,勤務表により交代で救急業務にあたる。救急ヘリコプターも以上の原則と同様に運営され,より早く医師を現場に派遣できる手段として頻繁に利用される。ドイツの高度な救急医療を可能としている要因を,法的な救急の枠組み,救急を担う医師,公的救急組織,救急助手,救急車の種類,救急指令センター,さらに健康保険制度に分けて概説する。

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