42の国立大学病院すべてに救急部は設置されているが,救急医学講座が設置されているのは42大学のうち26大学,救命救急センターの設置は3病院である(2002年1月現在)。救急部等の専任教官数は平均4名程度で,独立した救急部の運営がなされているのは約1/3である。それぞれの救急診療形態の違いから救急対応は千差万別で,医師,看護師およびコメディカルスタッフ等のマンパワー不足,専用病床数の不足,救命救急センター化への課題や専門診療科との協力・連携など多くの問題点を抱えており,学生教育や卒後臨床研修等への負担も大きく,満足できる救急部の運営が実施されている施設は限られている。国立大学救急部における救急診療の質と適切な教育研修体制の確保を図るためには,各地域の救急医療体制における大学病院救急部の位置付けを明確にして,マンパワーの充実や専門診療科との連携などにより,各々の地域に貢献できる診療形態を模索していく必要がある。
脳幹成分が同定しやすいモンタージュ法を用いて,脳死判定中(厚生省脳死判定基準)に短潜時体性感覚誘発電位(SSEP)を施行した7例を対象とし,その有用性を検討した。モンタージュはCPc-Fz,CPc-REF,CPi-Ai,CPi‐C2sとした。SSEPはN18以降の脳幹,および皮質成分は出現しなかった。通常のモンタージュ法では脳幹,皮質由来のP13,N13を個々に同定することは困難であるが本モンタージュでは可能である。脳死例ではこれら脳幹成分は消失していた。脳死判定の際に聴性脳幹反応(ABR)を行うことが望ましいとされているが,鼓膜損傷や聴力障害患者では検査自体の信頼性に問題が生じる。このような場合もSSEPはABR検査を補完し,下部脳幹機能をも評価することが可能であるため脳死判定に際して有用であると考えられた。
胃十二指腸潰瘍穿孔の医療費について,治療法および施設間での差を検討した。対象は1998年1月から2年6か月間の関西医科大学高度救命救急センターと二次救急医療施設である市立豊中病院の症例で,合併症のない軽快症例とした。救命救急センターの手術群は5例,胃穿孔の保存療法群は5例,十二指腸穿孔の保存療法群は8例であった。一方,豊中病院の手術群は9例であった。保険点数は二次救急医療施設での手術群がもっとも低く,入院期間も短かった。救命救急センターでの保存療法群は救命救急センターの手術群より保険点数は高いが,入院期間に差はなかった。救命救急入院料,入院期間および抗生剤投与期間などが保険点数の差の原因と思われる。入院時のインフォームド・コンセントに際し,入院期間と医療費の提示が可能となった。
酸素加湿器における細菌汚染の現状把握とその対策を検討するために,実働している救急車の加湿水を24時間経時的に採取し細菌培養を行い,定期消毒前後の細菌数を比較した。また,実験室内で大腸菌を加湿水に入れ,酸素流量,大腸菌数および酸素管の形状を変化させ,酸素とともに噴出する細菌を測定した。結果:①定期的に次亜塩素酸系消毒剤で処理された加湿器では,加湿水交換後6時間まで,細菌は増殖せずに加湿水交換時の細菌数102cfu/mlを維持し,それ以後急激に細菌数は増加した。未消毒の加湿器では,加湿水交換後6時間ですでに細菌の増殖がみられ,加湿水交換時の細菌数102cfu/mlに比べ約10倍に増えていた。②加湿水の細菌数が104ch/ml以上になると酸素流量,酸素管の形状には関係なく細菌が酸素とともに噴出した。以上より,細菌学的に安全に救急車内で酸素投与を行うためには,加湿器の次亜塩素酸系消毒剤による定期消毒と6時間ごとの加湿水交換が有効な方法と考える。
救急隊員のバッグ・マスク手技の向上を目的として,その評価表を考案した。評価表はバッグ・マスク手技を行ううえで重要と思われる注意点を11項目に分け,なかでもとくに重要と考えられる項目の配点を大きくした。またAHAのガイドライン2000に基づくバッグ・マスク手技に関しての5項目の質問を加え,全体で100点満点とし,合格基準は80点以上と定めた。この評価表を用いて北総救命会が毎週1回行っている定期講習会の受講者を対象に,計6回の訓練を行った。はじめに受講者の手技を評価し(指導前評価),講義と個別練習を経て再評価する(指導後評価)形式で訓練を行ったところ,指導前評価の平均点は53±23点であったのに対し,指導後評価では86±13点と有意に上昇していた(p<0.001)。評価表を用いることで個々の手技の問題点が明確になり,短時間ながら有効なバッグ・マスク手技の習得が可能になると考えられた。
県立広島病院救命救急センターにおいて1996年5月の開設以来,1999年12月までの外傷症例総数は817例で,うち186例(22.8%)に顎顔面外傷を認めた。このなかで顎顔面骨骨折を認めた71例(38.2%)を対象に検討を行った。なお,当救命救急センターにおいては口腔外科医も外科系協力医師として積極的に救急医療に参画し,顔面外傷症例をすべて担当している。性別では男性52例,女性19例で男性が多かった。年齢は2歳~100歳にわたり平均33.1歳で,20歳代がもっとも多かった。ISSの平均は18.3であった。原因としては交通事故がほとんどで,57例(80.3%)を占めていた。観血的整復固定術は49例(69.0%)に施され,受傷後手術までの日数は平均7.0日であった。合併損傷では四肢・骨盤損傷(54.9%),頭部損傷(42.3%)が多くみられた。骨折部位については合併骨折と中顔面の骨折が大半を占め,下顎骨骨折は低頻度であった。治療経過は良好で,咬合障害を残遺した症例はなかった。
各地でメディカルコントロール体制構築に向けての取り組みが始まり,茨城県ひたちなか市でも救急活動の事後検証のために検証票が導入された。しかし,この検証票は一方通行で限られた内容の情報伝達であるために,重症や問題のあるケースの検証には不十分である。一方,従来の年1回の症例検討会では数例のケーススタディに限られてしまう。この二つの事後検証方法の間を埋める方策として,病院主催での事後検証勉強会を開始した。医師,看護師と救急隊員が月1回集まり,救急車搬送患者の経過を検討している。この結果,ひたちなか市では検証票と病院主催事後検証勉強会,そして従来の症例検討会といくつかの検証方法を組み合わせることで事後検証が幅広く詳細に行われ,救急隊にフィードバックされるようになった。
救急隊の現場での活動を検証する目的で救急車に医師が同乗した。また,救急隊が出動体制をとりつつ病院研修を行う場合の問題点を検証する目的で本研究を行った。名古屋市立大学病院に救急車および救急救命士3名(以下,市大研修隊)を常駐させ,救急救命士は病院研修を行い,同時に名古屋市瑞穂・昭和区内で発生した救急事故に対する正規の救急隊(以下,署所救急隊)出動にあわせて,医師を同乗させた救急車を名古屋市立大学から現場に出動させ,両救急隊の活動を検証した。市大研修隊の出動件数は31件であった。うち12例は市大研修隊が現着前に署所救急隊により搬送されたため検証できなかった。現着までの時間および出動距離はそれぞれ,署所救急隊は6分,2.6km,市大研修隊は10分,2.8kmであった。救急活動の検証では問診,理学所見,心電図モニター装着などが的確に実施されてないことがあり,医師同乗による現場での活動検証は今後とも必要であると思われた。
横紋筋融解症は,筋細胞の融解により腎不全などの続発症を引き起こす疾患で,その発生原因は多様である。今回,開胸手術後に横紋筋融解症を発症した症例を経験したので,診断治療に検討を加えて報告する。症例は18歳,男性で主訴は意識障害。先天性食道気管支瘻の再発症例で,開胸下痩孔閉鎖手術後13日目に急性循環不全,大腿部疼痛・腫大で発症した。発症24時間後,ミオグロビン(MG),CPKの著明高値で確診された。発症2日目より持続血液濾過透析(CHDF)を2日間施行,その後利尿薬を使用し腎機能障害なく軽快した。発症原因としては,術後創部保護のため使用したファモチジンの関与が疑われた。
症例1:囊胞腎による腎不全で透析中の66歳,女性。上気道炎後,心窩部痛を生じ入院した。囊腎,多発性肝囊胞,腹水,腹部板状硬で反跳痛を認め開腹術を施行した。肝左葉囊胞が破裂しており腹腔洗浄・誘導を行った。真菌・細菌血症,呼吸不全などを生じたが改善し,86病日転院した。症例2:糖尿病未治療の62歳,男性。腹痛を主訴に入院。囊胞腎,free air,肝左葉多発性小囊胞,腹水を認め開腹術を施行した。肝左葉被膜下囊胞が破裂しており,腹腔洗浄・誘導を行った。真菌・細菌血症,呼吸不全,DICなどを生じたが改善し,70病日退院した。結語:囊胞腎に伴う肝囊胞破裂はまれであるが,医療水準向上などによる患者の高齢化とともに増加すると思われる。術前診断は困難なこと,高齢,腎機能の低下,そのほかの合併症による免疫低下状態のために重篤となり,集中治療を要することから念頭におくべき腹部救急疾患の一つと考えられた。
宿便性大腸穿孔の2例を経験した。症例1は94歳,女性。腹痛で来院し,イレウスの診断により緊急手術を行った。症例2は88歳,女性。腹痛で来院し,第6病日にショック状態となったため緊急手術を行った。両症例ともS状結腸,直腸が穿孔し,多量の硬便が穿孔部から漏れ出ていたためHartmann手術を施行した。宿便性大腸穿孔は大腸に停留した硬便により腸管壁が圧迫され,粘膜の血流障害から壊死に陥り穿孔を来すものである。手術所見,病理組織学的所見より特発性大腸穿孔と鑑別診断しなければならない。憩室,腫瘍などの穿孔に比して発生頻度は低いが,腹痛・嘔吐・下血など非特異的な症状で発症し,その後,糞便性腹膜炎から重篤な状態に陥ることが多く,救急外来においても診断に十分注意を要する疾患である。
心肺機能停止患者の救命のためには,救命の連鎖が間断なく迅速に連携することが重要である。除細動を行うまでの時間短縮は自己心拍再開成功の大きな要素であり,救急救命士が救急現場で活動するうえでの課題でもある。今回,積雪のある高さ6mのアーケード上という特殊な屋外現場において心肺停止状態となったが,目撃者による早期通報,救急救命士による除細動,救助隊との円滑な連携により来院前に心拍・呼吸ともに再開し,無事社会復帰し得た1症例を経験した。本症例は心電図伝送が困難であった特殊な屋外現場から口頭のみでの除細動指示要請であったが,医師からの指示が円滑に得られ,早期に除細動を実施できたことが心拍再開の大きな要因であったと考えられた。当地域における救急救命士の就業前病院実習・生涯教育実習を通しての,救命救急センター医師との信頼関係の構築が功を奏した1症例として報告する。
初回自殺企図患者の社会的背景を調査し,予防・再発防止のための対策について検討した。対象は初回自殺企図患者37例で,信仰,宗教観,相談者の有無について前向き研究を行った。手段としては薬物・医用薬物,ガス,毒物・農薬,綸首,焼身,刃器・刺器,飛び降りの順に多くみられた。疾患分類は神経症圏・心因反応,躁うつ病圏,中毒精神病・物質依存の順に多かった。「信仰」ありはなく,「宗教観」があったのは1例,相談者がいたのは2例だけであった。自殺率全国1位が続いている秋田県の自殺者は高齢者が多いといわれているが,今回の検討では青壮年者が78.4%を占めていた。秋田県は親族や集落単位での意識が強く,相談が容易にできない雰囲気にあった。このことから秋田県では自殺防止対策のため精神科医だけでなく,警察,法医学教室,宗教家,ジャーナリストなどを含めて会合を行っている。
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