日本臨床救急医学会雑誌
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4 巻, 5 号
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原著
  • 清村 紀子, 江島 伸興, 福井 幸子
    原稿種別: 原著
    2001 年4 巻5 号 p. 455-467
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    救急医療システムの地域較差を明らかにする目的で,救急救命士および救急隊員を対象に質問紙調査を実施した。救急医療システムの構造に起因し,搬送先選定に影響すると考える“医療機関関連要因”・“システム関連要因”・“地域環境的要因”・“救急車乗務員関連要因”の4要因を本研究の指標とした。質問紙調査から1,178名の有効回答(回収率70.4%,有効回答率98%)が得られ,職種および管轄地域の人口に関して,群間の回答差をχ2検定した。その結果,医療機関の受け入れ態勢などの“医療機関関連要因”や“情報伝達システム”などの“システム関連要因”,学習への自覚や機会に関する“救急車乗務員関連要因”で職種間および人口群間でそれぞれ回答に有意差があった。また,残差分析の結果,小・中規模都市では救急医療機関の段階的機能分担と情報伝達システムが未整備で,大規模都市では救急医療機関の量的不足と機能分担の非有効活用が示唆された。

  • 櫻井 淳, 雅楽川 聡, 木下 浩作, 渋谷 肇, 守谷 俊, 吉武 淳, 奥野 憲司, 林 成之
    原稿種別: 原著
    2001 年4 巻5 号 p. 468-471
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    従来よリエピネフリン(Epi),ノルエピネフリン(NE)の侵襲時の上昇については報告が多いが,内因性ドパミン(DA)の血中濃度の動態についての報告は少なく,その臨床的意義についても不明な点が多い。 この問題を解決するために心肺停止(CPA)群,非CPA群,およびボランティア群について血中カテコラミンの変動について検討した。この結果,非CPA群においてDAとNEは有意な正の相関を示し,NE/DAの比は22であつた。CPA群でもNE/DAは21であつたがDAとNEは相関を示さなかった。ボランティア群ではNE/DA比は54と他群より有意に高値であった。以上より,DAは生理的状態では血中放出はごく軽度であるものの侵襲時は大量に放出され,かつ非CPAではその放出はNAと正の相関を示していることが示された。

臨床経験
  • 岡田 保誠, 佐々木 徹, 寺田 泰蔵, 稲川 博司, 繁田 正毅, 坂本 哲也, 内潟 雅信
    原稿種別: 臨床経験
    2001 年4 巻5 号 p. 472-477
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    呼吸不全による意識障害を主訴に救急搬送され,その後の精査により運動ニューロン疾患であることが判明した症例を最近8年間に5症例経験した。このような発症形態はまれとはいえず,換気不全主体の呼吸不全患者を診察する際には,運動ニューロン疾患を鑑別疾患の一つとして念頭におかねばならないと考えられた。典型的症状を呈さない運動ニューロン疾患を正しく診断することは時に難しい。正しく診断するための端緒としては,現病歴の詳細な聴取と特徴的な他覚所見の把握が重要と思われた。

  • 井戸口 孝二, 横田 順一朗, 矢嶋 祐一, 東平 日出夫, 八木 啓―, 田畑 孝
    原稿種別: 臨床経験
    2001 年4 巻5 号 p. 478-485
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    気道狭窄に対するステント治療は,悪性狭窄を中心に確立された治療法であるため,救命救急センターではいまだ一般的ではない。われわれは,良性気道狭窄を認めた2例にステント治療を施行したので報告する。症例1は気管切開が原因と思われる後天性気管軟化症で,硬性鏡を用いた定型的手法によリステントを留置した。症例2は先天性胸郭変形による気道狭窄で,奇形のために硬性気管支鏡を使用できなかったため,気管支ファイバーと血管拡張用バルーンカテーテルを用いた方法を考案し,ステントを留置した。症例2は肺炎悪化により死亡したが,2例とも経過中にステントによる合併症は認めなかった。硬性気管支鏡が使用できない症例に対してもステントを安全かつ迅速に留置する方法を紹介した。

  • —肋骨接合材3種の使用経験—
    月岡 一馬
    原稿種別: 臨床経験
    2001 年4 巻5 号 p. 486-489
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    われわれは「フレイルチェストの治療は積極的な胸壁再建である」1)との原則から,病型別治療方針を作成して治療を行っている。この時われわれが用いている接合材3種(セラミック製肋骨ピン,チタン製の肋骨プレートおよびミニプレート)について比較検討した。まずX線透過性では,肋骨ピンが術後の胸部精査にまったくといっていいほど影響を与えない。また術中操作ではミニプレートはきわめて容易に装着し得るし,その型も多様で使用不能箇所はほぼなかった。一方,肋骨プレートは使用可能箇所が限定されるものの,接合部の強度はよい。なお,肋骨の機能として重要な“しなり(胸壁の動き)”は肋骨ピンが最もよい印象である。胸壁再建に際しては,これら接合材の特徴を生かし,より適した部分にそれらを組み合わせて使用することが肝要である。

  • —21例の治療経験とその問題点—
    小林 眞司, 安瀬 正紀, 清水 調, 千島 康稔, 荻野 浩希, 杉山 貢
    原稿種別: 臨床経験
    2001 年4 巻5 号 p. 490-496
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    車のタイヤが体の一部に乗り上げたり,乗り越すことで受傷するrun-over injury(轢創)の損傷形態は特異なdegloving injury(剥脱損傷)である。今回,平成2年4月から平成9年3月までに当救命救急センターに搬入された車のタイヤによる四肢蝶創患者21例25肢について検討した。症例を損傷の程度にしたがって,type Ⅰからtype Ⅴまで7つに分類した。治療に難渋するtype Ⅲa,Ⅲb,Ⅳ,Ⅴの平均入院期間は43.5日と長期の療養が必要であった。治療方針はdelayed primary closureを基本方針とした。剥脱皮膚は生死の判定が困難であり,安易に切除することなく24~48時間以内に再度,デブリードマンを行い,欠損部には創傷被覆材を用い損傷の状態に応じて再建方法の選択を決定した。

症例報告
  • 右田 貴子, 金子 高太郎, 田原 直樹, 安達 普至, 石原 晋
    原稿種別: 症例報告
    2001 年4 巻5 号 p. 497-500
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    外傷性脾損傷の経過中に脾内仮性動脈瘤を形成し,自然閉塞した症例を経験したので報告する。症例は33歳,男性。交通事故により受傷し,脾損傷(日本外傷学会脾損傷分類Ⅲa型)と左血気胸の診断にて保存的に治療を行った。受傷11日目に再検した造影腹部CTで仮性脾動脈瘤を疑い,脾動脈造影により確定診断したが,TAEを保留し経過観察した。受傷21日目の造影CTで仮性動脈瘤は 低吸収域を呈し,自然閉塞を確認した。仮性牌動脈瘤は遅発性牌破裂の発生機序として注目されているが,自然経過は知られていない。今回,経過中に血栓化して自然閉塞する可能性も示唆された。このため症例によっては,自然閉塞を待機的に観察することも検討する余地があると思われる。

  • 林田 哲, 岡本 育, 益崎 隆雄, 友尻 茂樹, 古川 保, 畑中 哲生, 最所 純平
    原稿種別: 症例報告
    2001 年4 巻5 号 p. 501-505
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    救急隊員・救急救命士がプレホスピタルケアにおいて救急車車載心電図モニターで急性冠症候群を観察する場合,ST変化をとらえることが困難なことが多い。今回,近似肢誘導ではST変化は認められなかったが,変形胸部誘導(MCL)法を施行することにより,明らかなST変化が認められた急性心筋梗塞4症例を経験した。症例1,2は急性心筋梗塞の診断後に転院搬送となった症例で,症例3,4は救急現場で救急救命士がMCL法を施行し急性冠症候群を疑い,専門治療施設の選定を行い搬送した症例である。従来からの近似肢誘導法にMCL法を併用することにより,プレホスピタルケアにおいてさらに詳細なモニター観察を行うことが可能となり,病院選定に難渋する地方都市において急性冠症候群症例の予後向上に寄与し得ると思われる。

  • 丹野 克俊, 山本 修司, 武山 佳洋, 猪股 英俊, 伊藤 靖, 森 和久, 吉田 正志, 奈良 理, 浅井 康文
    原稿種別: 症例報告
    2001 年4 巻5 号 p. 506-509
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    コンビチューブTM挿入による食道粘膜内血腫の合併を来した症例を経験したので報告する。症例:68歳,男性。餅を詰まらせ心肺機能停止状態に陥った。救急救命士がコンビチューブTMを挿入したが換気ができず,抜去してマスク・バッグ換気を行った。搬送中に心拍・呼吸が再開し,当院ヘ搬入され脳低温療法を開始した。第3病日に胃管から血性排液を認めたため内視鏡検査を施行,食道に血腫を認めた。経過からコンビチューブTMによる合併症と診断された。第79病日に患者は軽快し独歩転院した。考察:本邦では生存例のコンビチューブTMによる合併症は,われわれの調べた限りでは報告されていない。海外では食道穿孔,縦隔気腫などの重大な合併症の報告が散見されるため,本邦でも合併症症例が潜在している可能性が考えられる。コンビチューブTMの取り扱いには繊細な注意が必要であり,消化管出血が疑われる場合は積極的に内視鏡などにより検索すべきである。

  • 西森 武雄, 柳川 憲一, 天野 良亮, 韓 憲男
    原稿種別: 症例報告
    2001 年4 巻5 号 p. 510-513
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    症例は58歳,男性。右下腹部痛を主訴に当院へ入院した。急性虫垂炎の診断にて虫垂切除術を施行した。切除虫垂の基部がやや硬く触知され,その病理組織学的検査で固有筋層まで浸潤した中分化腺癌と診断された。そのため,リンパ節郭清を伴う回盲部切除を施行したところ,腸管には癌細胞の残存はみられなかったが,リンパ節転移が認められた。患者は術後,著変なく経過し虫垂切除後29か月現在,再発の徴候はみられていない。虫垂炎の診断下に手術を施行し,術後に結腸型の虫垂癌と診断した場合,固有筋層より深く浸潤している症例はリンパ節転移を伴っていることが多いため,リンパ節郭清を含む腸管切除術が必要であると思われた。

紹介
  • 栗田 高三
    原稿種別: 紹介
    2001 年4 巻5 号 p. 514-519
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    平成6年の名古屋空港における中華航空機墜落炎上事故の教訓から,愛知県医師会では災害救助法および災害対策基本法(航空機事故及び列車事故などを含む)に基づく災害発生時には,愛知県医師会救急医療情報センター内に災害対策本部を設置し,愛知県医師会長を災害対策本部長とし,災害の情報の収集と伝達,とくに医療救護班の派遣要請,負傷者の後方搬送ならびに県健康福祉部に医薬品,医療資器材などの要請を行う体制の整備を行った。また,阪神・淡路大震災の教訓から災害時の情報の収集と伝達が医療救護活動に最も必要なことから,愛知県医師会では,救急医療情報センター内に指令局を設置し,日本モトローラ社の広域無線通話システムによる名古屋JSMRと三河JSMRの2つの中継局を利用して愛知県全域の各郡市医師会ならびに県下の救命救急センター,三次病院群,大学病院,地域基幹病院,県健康福祉部,日赤愛知県支部に114台の無線機を設置し,災害時に対応することとした。なお,地震などで愛知県医師会館が使用不能の場合は,尾張地区の一官市医師会館および三河地区の岡崎市医師会館にサブ指令局を設置して対応することとし,平成10年以降,毎年9月1日の防災の日に地震や台風を想定し,広域災害・救急医療情報システムと愛知県医師会無線システムを利用して総合訓練を実施している。

  • 戸塚 和敏, 加藤 博之, 大串 和久, 伊藤 栄近, 川渕 久司, 永嶋 太, 蓋 雪峰, 瀧 健治
    原稿種別: 紹介
    2001 年4 巻5 号 p. 520-523
    発行日: 2001/11/30
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    救急業務に従事するものにとって,高齢者への対応は最も慎重を要するものの一つである。その理由は受診時の状態がすでに重篤となっている患者が多いこと,あるいは全身状態が比較的良好にみえても,実際には多岐の疾患が陰に隠れていることが多いためである。九州・沖縄の34施設で行った高齢者救急患者の実態調査では,65歳以上の患者は入院を要する症例が受診者の53%,心・血管系の病変ではそれぞれ86%・73%と高率であった。今後ますます高齢化社会が進み,高齢救急患者へ十分に対応できる救急体制の整備が必要に迫られている今日,その対策として高齢者の健康管理,疾病の早期発見の重要性が示唆された。また,発病時の救急診療体制はもとより,患者情報ネットワークのような病診連携や介護保険システムの活用を視野に入れた急性期と慢性期一体型の医療体制を押し進める必要性が考えられた。

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