和達と井上とは,いくつかの日本附近の地震の際に鳥島の石本式地震計および潮岬,室戸岬,清水などの深海に接した海岸の気象官署のウィーヘルト式地震計で得られた地震記象にT相が明瞭に記録されていることを既に報告した.
T相の深海を伝播する平均速度は 1.47 km/secであつて,日本附近の海洋のサウンド・チヤンネル(水中音の低速層)中を伝わる水中音の速度に等しい.且つ,T相は遠方によく云わる短周期波であることから,サウンド・チヤンネル内に圧力振幅が集中している自由波(境界波)であると考えると,分散性の波であることになる.
さて,0.5秒前後の短周期のT相附近に10秒前後の長周期の顕著な波群が観測されることがある.
この長周期の波群は群速度が水中音の速度に等しいのであるから,PEKERISの名付けたライダー波に相当するものであると考えられる.
PEKERISは海底を伝わるレーレー波の群速度の分散曲線に水中音速より小さい極小値があることから,群速度が水中音の速度と等しい波は水中音波と重なると考えて,その波をライダー波と名付けたのである.
なお,彼の理論によると,両波が重なつてから次第に水中音波の周期は延びレーレー波の周期は減少して,遂に極小群速度に相当する周期において両者の周期が一致する,且つ,振幅は次第に増大して最大の振幅をもつエアリー相が現われることが期待されている.
然し,観測事実はこれに反して,殆んど一定周期の長周期波群に周波数の限られた短周期波群が重なつているだけであつて,振幅が次第に増大して遂に顕著なエアリー相が出現するという現象はみられない.
従つて,ライダー波に相当する長周期波群はT相の波群とカツプルして,この波群だけが顕著に現われるのではないかと考えられる.
そこで,分散性の水中音波と分散性の海底レーレー波とはある条件を満足すればカツプルしうることを示した.
その条件は,
cT/
c-U =
c′T′/
vc′-U′′ 但し
U′= U′である.
此処に,
c′,
U′,
T′は夫々水中音波の位相速度,群速度および周期であり,
c′,
U′,
T′は海底レーレー波に関する夫々対応する量である.
周期が0.5秒前後のT相と周期が10秒前後の海底レーレー波とは以上の条件をほぼ満足しているため,両者の間にある程度のカツプリングが行なわれていることが期待される.
最後に,昭和8年3月3日の三陸大地震の銚子と柿岡との強震計の地震記象にライダー波に相当する長周期波群がみられることを示した.
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