1986年以来、日本上空で航空機により高度7kmまでの対流圏空気試料の採集を行い、GC-FID法によりCH
4の鉛直分布、水平分布の観測を行った。
鉛直分布においても、水平飛行における南北分布においてもCH
4の混合比は大きい変動を示した。CH
4の発生領域であるアジア大陸中高緯度からの空気を採取したときは、CH
4の混合比は高かった。シベリア方面から来た気塊のCH
4の混合比は特に高かった。中国方面から来た気塊の混合比はこれより低かった。アジア大陸からの空気に成層圏からの空気-このことは高いO
3混合比から明瞭に分かるが-が混合しても、CH
4の混合比に明瞭な変化は現れなかった (1986年2月12日、1990年8月8日、1991年4月27日)。これはCH
4が光化学的に比較的安定で、上部対流圏から下部成層圏にかけて余り減少しないからである。しかし1993年12月17日に観測されたように、航空機が圏界面の折り重なりを直接横切ると、高いO
3の混合比と低いCH
4の混合比が観測された。成層圏空気の侵入場所から空気採取点までの空気の輸送距離がO
3及びCH
4混合比を左右する重要な因子と考えられる。洋上の空気は大陸の発生源の影響を受けていないので、海洋性気団の中で空気が採取された場合は、低いCH
4混合比が観測された。
1986年2月から1992年2月まで、月ごとに平均したCH
4混合比は着実に増加していた。11月から2月にかけてのデータを使用すると、最小二乗法により、12.0±7.0ppbv/年の平均増加率が得られた。1992年2月から1993年12月にかけて混合比は若干減少した。1986年2月から1996年2月までの平均増加率は、同じく11月から2月のデータを使用して、9.6±4.9ppbv/年であった。これらの結果は、日本上空において1980年代半ば頃の増加率が、1990年代のそれに比べて大きかったこと。従って増加率が減少したことを示している。
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