太陽活動と大気環流との関係は古くから研究されているが,最近になつて太陽面現象の物理的意味が解明されはじめ,大気環流や超高層の構造も次第に分つてきたので新しい観点からこの問題が取上げられる傾向にある。1956年6,7月に米国コロラド大学で開かれたゼミナールによると微粒子輻射によつてオーロラ帯の上層では太陽常数に匹敵するエネルギーの授与があり,見積り方に問題があるが,1分間に1000℃の昇温の可能性が示された。また Solar flareが生ずると同時に紫外部輻射が強められ光化学的に生成されるナゾン層上部のオゾン量が変動する。このような一連の現象が80粁以上の大気環流を乱し,何らかの機構によつてこの影響が対流圏に伝播することが考えられる。SHAPIRO(1954,1956)は地上気圧を用い,WOODBRIDGE(1957)は300mbの天気図を用い,強い微粒子輻射があると地上では 10数日,300mbでは8日程度たつて影響があらわれることを統計的に確かめている。また,高橋(浩)博士は太陽活動によつてもたらされる温度変化を量的に説明するには太陽輻射の変化だけでは不充分で交換係数の変化を考えに入れる必要性を示した。熱の交換係数の変動は南北の乱れの度合によつて示すことができる。また南北の乱れの度合は緯度圏にそつて平均した南北流のエネルギー(A-index)や偏西風帯(50°N)の波数1,2の長波の振幅(A
1, A
2)によつてもあらわすことができる。太陽活動の指標として半旬平均地磁気活動度K-indexとC
iを用い,大気環流の指標として冬期(1946-56年,12月-3月)半旬500mb天気図のA-indexや,A
1,A
2を用いて相互の関係を統計的にしらべつぎの結果を得た。
強い微粒子輻射が太陽面から放出されてやく10日ないし15日たつと 1)A-index(Vg
2)は増大し2)波数1の振幅A
1は減少し 3)波数2の振幅A
2は増大する。
すなわち,強烈な微粒子輻射によつて上層にエネルギーがあたえられてやく10日もたつと対流圏の南北交換が旺になり,大気環流はいわゆる低示数型になる傾向が生ずる。かかる場合,半旬500mb天気図を用いて,key dayから10日後の高度傾向をしらべると,寒気の吹出しやすい東アジアや東部アメリカの高度は減少し,ブロツキング高気圧がしばしば発生するアメリカ西海岸と西ヨーロッパの高度は増加する傾向を示している。これも大気の流れが低示数型に変化することを物語るものであろう。
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