東京の市街部地表面温度観測を,夏の晴天日の午後,数種の航空機搭載リモート・センシングの方法を用いて,4回行なった.
第1回の観測(1971年8月30日,ナショナルER2001赤外放射温度計使用)では,次のことが明らかになった.すなわち,大量の水のある川の表面温度が最も低温で,自然林またはそれに近い林がそれについで低温であったが,多くの幹線道路のある市街部は緑地の多い郊外部に比べて高温であり,交通量の多い主要街路は最も高温であった.
第2回の観測(1972年8月4~5日,ナショナルER2002赤外線放射温度計使用)では,加熱された道路やビルについての,航空機搭載の記録上で+5~+10°Cの補正の必要な場合の多いことが判明した.複合した熱源地をいくつか検出したのが,第3回の観測(1972年8月11日, AGA thermovision 680を使用)の成果であるが,その地域は,成層風洞内に逆転層を作った場合の熱対流の実験に相当するものであった.さらに,加熱された市街部での街路樹の環境温度についての記録のとれたことも新しい成果であった.
第4回の観測(1972年8月19日, Daedalus 走査放射計:Digicolorを使用)では2枚の熱映像を解析することができた.第1は住宅地であり,第2は皇居地区のような大規模緑地をいくつか含む都心の人口密度の高い地区である.大きな緑地帯や広い川(隅田川と荒川放水路)の風下地帯の低めの表面温度がはっきり検出できた.
これらの観測結果によって,夏の晴天日中における発達した温度逆転のもとでは,種々の広がりで複合した加熱または冷却された地域のため,都市の気流は非常に複雑なものになることが示唆される.このような循環が,郊外地区でいくつかの汚染濃度の高い場所を形成する原因となる.
抄録全体を表示