Papers in Meteorology and Geophysics
Online ISSN : 1880-6643
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44 巻, 4 号
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原著論文
  • I. 銅濃度定量及び銅滴定の両測定に基づいた錯形成能の熱力学的評価
    緑川 貴, 田上 英一郎
    1993 年44 巻4 号 p. 105-118
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
     海水中から濃縮・脱塩した有機配位子について2通りの測定を行ない、得られた実験結果を熱力学的平衡論に基づいて解析することにより、銅に対して強い錯形成能を有する有機配位子の錯体化学的挙動を調べた。モデル解析の際の各パラメーターは、公表されている論文のデータセットから引用した。解析の結果、強い錯形成能を有する有機配位子は、2つの実験を通して、定量的に銅と錯形成した状態に保持され、その銅錯体が非常に安定であることが分かった。2つの実験結果を相補的に組み合わせることにより、各海水試料中の強い有機配位子と銅との錯体の条件安定度定数の値が1014.9-1016.4の範囲にあることを試算することができた。
  • II. 銅と天然有機配位子との錯形成に対する競合反応の速度論的評価
    緑川 貴, 田上 英一郎
    1993 年44 巻4 号 p. 119-134
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
     銅に対して強い錯化能力を有する天然有機配位子の錯形成と競合する反応の速度論的効果を評価する。本研究において海水から濃縮・脱塩した有機配位子の銅との錯形成に関する副反応としては、海水由来の銅以外の微量金属との錯形成反応及び試料操作 (Midorikawa and Tanoue, 1994) の際添加されたキレート試薬エチレンジアミン四酢酸 (EDTA) との置換反応について検討する必要がある。海水試料の前処理においてアルカリ土類金属は定量的に除去されているので、強い有機配位子とEDTAとの配位子置換反応に関する速度論的な問題はない。強い有機配位子の銅との錯形成反応を速度論的に考察すると、Midorikawa and Tanoue (1994) の平衡モデルにおける試料溶液中の銅EDTA錯体濃度に関する仮定は、強い有機配位子と銅との錯体の条件安定度定数の評価に対して内輪の見積もりを与えることが分かった。また、銅以外の微量金属が共存する場合、銅とEDTAとの錯形成反応に対するこれらの金属の競合効果が、測定の精度と同程度の過大評価をもたらすことを、モデル解析により見積もることができた。強い有機配位子自身への他金属の効果は、その配位子濃度の見積もりに対しては過小評価を与え、また条件安定度定数の見積もりに対しては大きな影響は与えないことを評価することができた。
  • III. 環境の異なる試料への応用について
    緑川 貴, 田上 英一郎
    1993 年44 巻4 号 p. 135-144
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
     天然水中の錯形成に関する反応系は大変複雑であり、その反応系の条件下で、天然水中に低濃度で存在し、強い錯化能力を有する有機配位子の固有の性質を調べることは困難である。強い有機配位子に特有の性質について、熱力学的平衡論及び速度論の両面にわたる十分な考察をした上で、有機配位子本来の錯形成能が変性・修飾されることなしに測定できる実験条件を整えることが、特に望まれる。単純な系で蓄積された強い有機配位子の錯体化学に関する情報は、より複雑な天然の反応条件下における金属のスペシエーションの評価やそのモデル化に大変有益なものとなる。本研究では、試料操作において、天然水からの有機配位子の濃縮・脱塩及び有機配位子と結合して存在する金属の除去を行なった。これらの試料操作により、天然水試料の液性及び共存イオンの種類や濃度に関わりなく、試料中の有機配位子の性質を一定条件下で測定することが可能となった。その結果、天然水中の非常に複雑な平衡系の影響を受けることなく、性質の異なる試料間の有機配位子の錯形成能を直接相互比較することや、既知の合成錯化剤及び文献値等との比較を、同一基準のもとに行なうことができる。本法のこれらの特徴は、多様な環境中の天然有機配位子のキャラクタリゼーション並びに金属のスペシエーションの研究に大いに効力を発揮すると考えられる。異なる海洋環境から採取した海水試料に本法を適用した結果、ほとんどの試料中に強さの異なる3種の天然有機配位子の存在が確認され、これらの配位子が海洋起源であることが分かった。また、水平及び鉛直分布から、海洋中におけるこれら3種の配位子の代謝は決して活発ではないことが示唆された。
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