銅に対して強い錯化能力を有する天然有機配位子の錯形成と競合する反応の速度論的効果を評価する。本研究において海水から濃縮・脱塩した有機配位子の銅との錯形成に関する副反応としては、海水由来の銅以外の微量金属との錯形成反応及び試料操作 (Midorikawa and Tanoue, 1994) の際添加されたキレート試薬エチレンジアミン四酢酸 (EDTA) との置換反応について検討する必要がある。海水試料の前処理においてアルカリ土類金属は定量的に除去されているので、強い有機配位子とEDTAとの配位子置換反応に関する速度論的な問題はない。強い有機配位子の銅との錯形成反応を速度論的に考察すると、Midorikawa and Tanoue (1994) の平衡モデルにおける試料溶液中の銅EDTA錯体濃度に関する仮定は、強い有機配位子と銅との錯体の条件安定度定数の評価に対して内輪の見積もりを与えることが分かった。また、銅以外の微量金属が共存する場合、銅とEDTAとの錯形成反応に対するこれらの金属の競合効果が、測定の精度と同程度の過大評価をもたらすことを、モデル解析により見積もることができた。強い有機配位子自身への他金属の効果は、その配位子濃度の見積もりに対しては過小評価を与え、また条件安定度定数の見積もりに対しては大きな影響は与えないことを評価することができた。
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