疾病及び死亡の季節変化の様相は,昔から現代に至るまで,さまざまな変遷をとげてきている.昔は比較的,気候の影響をそのまま反映して,これらの季節的分布が決定されていたが,人間社会の進歩とともに,季節的分布の様相は大きく変ってきた.
たとえば,赤痢の罹患をみても,昔は夏に著明な山をみせたが,現在では極めてゆるやかな山に変った.しかも,冬の赤痢患者の発生割合は,年々増加しているが,夏の患者発生割合は,むしろ減少しているといった具合である.
また,死亡率の季節変動の型式も,時代的に著しい移り変りをみせている.
死亡率の季節変動型式の移り変りから,“移行型”と“逆転型”の二つに分類できる.
移行型:がんがこれに入る.がんは明治,大正の頃には8月を中心に夏の山があったが,それがだんだん移行して最近では10月を中心に秋の山がある.季節変動係数は0.1位から0.04と最近では半分にちぢまって,季節変動が縮少してきた事を示す.
逆転型:逆転型“A”は昔は夏に山があったが,現在では山が消えて谷となり,冬の部分の低下がそれほど著明でないため,むしろ冬がクローズアップされて逆転したタイプである.腸炎,脚気,結核などがある.
逆転型:“B”は昔は夏と冬の2つの山があり,それが夏山の低下により完全に冬だけ一つ山を持つ型に変型した.成人病としての脳卒中,心臓病,老衰がこれである.
つぎに,季飾変動型式の時代的変化がなぜおこったかを考えてみる.たとえば,脳卒中や心臓病の場合,発病の問題はともかくとして,昔は夏の暑い時期に,暑さの影響をそのまま受けて患者の体力は消耗し,自然の力に抵抗できぬままに死に至る事が多かった.また,これら死因の中には感染症の混在も考えられる.それが医療技術の進歩,新薬の発見などで,夏に死ぬ筈の患者の生命を延長でき,冬にまで持ち越された結果ではないかと考えられる.
一方,疾病死亡の季節変化の変遷と必ずしも対応するわけではないが,人体機能の季節変化にも変遷がおきているようである.即ち人体の基礎代謝の四季にわたる変動カーブ,人体の血球比重の季節変動カーブは,何れも最近では季節変化が縮少してきている.
また,最近,あらたに登場してきた問題として“死亡率低下の停滞現象”がある. 戦後さまざまな疾病死亡率が低下したが,ある時点からは横ばい状態になっている.肺炎,腸炎,結核等の細菌性疾患は,どの季節においても停滞現象に近い傾向がみられる.
これとは逆に,脳卒中,心臓病などの成人病は,年令層の老令化にともなって,最近はその死亡率はますます高まる傾向にある.季節的には冬季に著しい.
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