日本の都市における気温の経年変化を、気象官署60地点における1891~1992年の月別資料 (日最低・最高気温) を使って求め、人口の関数 (対数および低次のベキ) およびその増加率との関係を調べた。人口増加率としては、合併等による市町村域の変化を補正しないで計算した名目上の増加率と、これを補正した正味の増加率 (=1990年時点の市町村域における増加率) をそれぞれ求めた。一方、夜間の冷え込みの強さを反映する指標として気温の日較差を取り上げ、これと気温変化率との関係を調べた。
日最低気温の上昇率 (T
↑min) は、大都市では2~5°C/(100年)、中小都市でも1°C/(100年) 程度の大きさがある。上昇率は戦前に比べて戦後に大きい傾向がある。一方、北海道の内陸域にある札幌・旭川・帯広では、冬を中心として日最低気温が戦前から大幅に上昇している。これは、これらの都市の発展が他の都市に比べて急激であったことに加え、夜間の冷え込みが強い気候特性によるものと考えられる。
T
↑minは、人口の対数やベキとの間に0.6~0.7の正相関がある。人口の対数でもベキ (0~1次) でも相関係数にはほとんど差がなく、都市気候の大ざっぱな特徴を見る上では都市規模の指標として人口のどういう関数を使うかは重要ではないことが分かる。しかし、T
↑minと人口の対数との関係においてはしばしば指摘されるように人口30万を境にして回帰直線が折れ曲がるのに対して、都市規模の尺度として人口のベキを使うとこうした折れ曲がりは必ずしも現れない。このように、都市気温と人口との詳細な関係は人口尺度のとりかたに左右される。
また、T
↑minは正味の人口増加率との間に0.3~0.5の正相関がある。しかし、正味の人口増加率は人口そのものと高い相関があるので、気温変化と人口増加との間に直接の関連があるとは言い切れない。一方、名目上の人口増加率については、T
↑minとの相関は小さい。
日最高気温の上昇率 (T
↑max) はT
↑minに比べて小さい。しかし、T
↑maxと人口の対数との間には弱いながら正相関があり、日最高気温にも都市化による上昇が起こっている可能性が考えられる。日最低気温と違って、日最高気温は戦前のほうが戦後よりも上昇率が大きい傾向がある。
一方、T
↑minは気温日較差とも正相関がある。これは、日較差が大きい場所ほど夜間の冷え込みが強く、そのため都市化による昇温が著しいことを反映するものと解釈される。ただし、これは気温日較差として1910年代の値を使った場合のことで、都市化によって日較差そのものが減少した結果、T
↑minと1980年代の気温日較差との相関は0.1~0.2に過ぎなくなっている。
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