1956年4月1日,東京附近に降つた降雪は巨大な雪片を交えており非常に興味のある例で,雪片の粒度分布の解析を,気象の資料とレーダー観測結果を利用して試みた.利用できる細かい気象観測資料が少いために解析は不十分なものであるが,しかし暗示的な又重要な問題を含む結果が得られた.先づ4月1日の綜観気象的な解析を行い,関東平野に降つた雪の主な原因は地表面の寒冷な北東流であることがわかた.融解雪片による空気層の冷却効果はこの場合二次的な原因でしかなかつたようで,関東地方におつける雨と雪の境界線と降水量線との間にはあまり相関はみとめられず,みぞれの領域は0℃~3℃ であった.
RHIレーダー写真より降水発生セルの構造を調べると,この対流性セルは丁度温暖前面上に発生し,ちようど風の強い日に目視で観察される所謂動乱積雲のように回転していることがわかつた.セルのエコーの部分をトレースしてみると上昇気流の最大上昇速度は約5 .5m/sと推定された.
RHIに影ったエコーの強さとエコーの上昇速度を考慮すると氷晶及び雪片の生成速度はかなり速いものであると推測され,簡単な概算で当つてみるとHOUGHYONの理論によるよりももつと早く,むしろ磯野等の実験結果を裏支持するように思われる.次に雪片の観測の方法とおこり得る誤差について述べると,一般に大粒においては空間密度が小さいために採取上の誤差が大きいがスペクトラムの巾は非常に広く大粒の融解直径の最大は7.3mmまであった.
スペクトラムの大粒側の切断直径の変化と地上気温の変化をしらべると,大粒は0~1.3℃ の狭い範囲内で生じており,これは通常の大気で約250mの高度差に相当し,普通のBright Bandの300mに近いことほ注目される.
スペクトラムを平均してみるとMARSHALL&PALMERの与えた式よりもかなり長い尾をもっているがこれは融解層内で作られたものと推定される. 雪片の型と綜観的な気象状態との関係について他の研究報告と,今回の結果と比較すると雪粒のつかない雪片は温暖前面のElevated cellによつて生ずると云える.
雪片のスペクトラムの時間的変化については,今回の場合でも他の観測結果をみても雨滴の場合と異る点が明かになつた.雨滴の場合は弧立したElevated cellからの降水尾流中では“ 大粒→小粒へ” の分離現象が大なり小なり観察されるが雪片の場合にはそれが全くみとめられない.この原因は雪片の落下中における相互の衝突が非常に頻繁であることに帰せられるようである.これらの雪片の相互の衝突という特有の性質を説明するために適当な仮定を設けて雪片相互間の衝突頻度を概算してみると,同じ降水強度の雨滴に比して単位落下距離の問に乾燥雪片-423倍,雲粒付樹枝状雪片-126倍となつた.これらの大きな衝突頻度からして,若しこの何分の一かが雪片の併合や分裂をおこしたとしても,スペクトラムの変化は大きな値となりうることが想像される.
最後に,レーダー反射係数Z(=ΣND
6)について計算した.融解層における巨大雪片が表面の半融解状態が形成されることを考慮すればもはやRayleigh散乱でない,と推定される.従つてKERKER,LANGLEBEN&GUNNの結果を考慮してこのような巨大雪片を含む降雪からのレーグー反射を概算した結果Bright bandには巨大雪片の存在よりも中~小粒が主に寄与していると推定される.
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