1982年のエル・チチヨン火山の爆発のあとで北太平洋の亜熱帯の下部成層圏で異常昇温がみられた。30mb面の高温偏差はエル・チチヨンの火山雲とともに西方に流された。平年値からの有意な高温偏差がライダー観測による強い後方散乱比と同時に日本南部の各地で観測された。基準化された温度偏差 (
T'=(T-T)/σT)の高度-時間断面図には北太平洋の亜熱帯の東部および中部上空で
σT~2
σTの範囲の昇温が示された。一方、西部亜熱帯上空での昇温は驚くべきものであった。とくに、父島上空の30mb~20mbの間の気層は異常に暖められ、その最大値は7月の50mb面で5
σT以上、9月には20mb面で8
σTにも達した。火山雲の北方への移動を調べるために、140°E子后面に沿って平年値 (1964-1982年) からの気温偏差の高度緯度断面が5月から12月まで毎月作られた。
6月までは、高温偏差域は日本の上では40°N以南の地域に限られていたが、7月には40°N圏をこえて北へ拡がり、ソ連邦の直達日射量の月最大値の時間変化によると火山雲は10月には50°Nをこえ、さらに11月には60°Nを通過したことが分った。
最後に、過去3回の顕著なエル・ニーニョ現象のときの下部成層圏気温の偏差はいづれも1982-1983年のような著るしい昇温は示さず、むしろ負の偏差であった。従って1982年のエル・チチヨン爆発後の下部成層圏の昇温は1982-1983年のエル・ニーニョ現象が原因ではなかったと思われる。
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