1957年から1966年までの北陸地方の大雪例をしゅう集し,実際的解析法を研究し,豪雪時にみられる中規模じょう乱の中気候学的諸問題を北半球規模から局地的規模に至る各尺度のもとで明らかにした。その要旨は次のとおりである。
1.地形効果に起因しない平野部に降る里雪と山間部に降る山雪,平野・山間部に降る混合型大雪を定義し,統計的に検討した。1953-1961年の9冬の大雪の出現度数をみると,山雪は大雪の全例数のうち半分以上をしめるが,純里雪は約1割,混合型を含めても約2割で,純里雪は1冬に2.5日程度起るにすぎない。里雪は主として上層寒冷渦が日本海に位置したとき現われる地上等圧線型式の袋型のときに降る。袋型気圧配置は年間を通じてみられ,豪雨雪,雷雨,突風などの中規模じょう乱の発生しやすい場として重要な意味をもつ。
2.里雪時の中規模じょう乱の発生,発達に適合する広域場の特徴を研究した。このような広域場の特徴として北半球500mbでは,アラスカからカムチャッカにのびる切離高気圧,極東の寒冷低気圧に対応して90°Eに沿ってのびる尾根がみられる。日本付近の対流圏の寒冷低気圧は中部成層圏(30mb)での温暖な亜熱帯高気圧に対応している。極東500mb天気図では,里雪は谷が140°E以西に位置して,高緯度地方からの寒冷渦が日本海に南下し,東西指数が約10m/s以下のときに降りやすく(低指数循環),反対に山雪は谷が140°E以東に位置して,寒冷渦が日本の東海上や高緯度地方にあって東西指数が14m/s以上のときに降りやすい(高指数循環)。
3.中規模じょう乱による里雪現象を11例抽出し,4種類に分類し,個々のじょう乱の実態を明らかにした。
(1)日本海低気圧に伴なう不安定線,寒冷前線による降雪。寒冷前線に先行する不安定線(Prefrontalsquall line)の通過によって強雪が降ることがある。解析例では気圧急変(0.7-1.Omb),突風(23m/s),最大降雪強度(3.0-7.6mm/hr),最大収束量(-6×10
-4sec
-1)が観測され,これらのじょう乱系には移動性の線状エコーが対応する。
(2)局地的な収束線(北陸不連続線)による降雪。上層寒冷渦が日本海に位置し,気層が不安定になると,内陸から海上に向う南風,沿岸海上からの北西風,山陰地方から沿岸沿いに吹く西風が観測され,これらの3風系は北陸沿岸沿いに収束線を形成し,強雪をもたらす。なお上層寒冷渦を伴なわない移動性高気圧後面での南風北風による小範囲の安定性の里雪現象がみられる。
(3)小低気圧による降雪。上層寒冷渦が日本海に位置するとき,寒冷渦の中心や周辺で垂直不安定に基因して沿岸海域に強い収束線が形成され,これに沿って小低気圧が発生,発達することがある。さらに寒冷渦や谷が高緯度から朝鮮方面に移動してくるとき,傾庄不安定効果によって日本海西部で小低気圧が発生,発達することもある。これらの小低気圧の通過による風雪は激しく雷電を伴ない,降雪強度22mm/3hrに達することがある。小低気圧の水平規模,寿命は100-300km,5-20時間で移動速度は20-50km/hr程度である。
(4)中規模のうず状じょう乱による降雪。レーダー観測によって豪雪時に顕著なスパイラルバンドをもったうず状じょう乱がしばしば現われることをみいだした。これらのじょう乱は,通常沿岸海上で発生,発達し平野部を経て山間部で消滅するが,じょう乱の経路に沿ってしばしば集中強雪(例えば4mm/hr)が降り,気圧上昇,突風などを伴なう。丹後半島沖や能登半島付近のような地形収束のある地域で,強い下層収束の大気成層の効果が加わったときに数多く観測され,じょう乱の水平規模,寿命は50-100km,数時間以内で10
-4sec
-1の収束値によって特徴づけられる。
4.降雪現象のレーダー解析を行ない,豪雪時の線状エコー(降雪帯)の特性について研究した。線状エコーは,間隔30-50km,幅10-20kmで山雪時はNW-SE,里雪時はW-Eの方向に配列する。線状エコーの出現位置は地理的に限定され,その走向は統計的に1000-500mbの風のシヤーの方向に配列するが,シヤーが小さくなるとセル状のランダムなエコーが卓越する。また線状エコーの間隔は,大気成層の逆転層の高さが増すにつれて拡大する。さらにレーダー工コー域は,実際の降雪域とは必ずしも一致しないでかなり一致する場合とずれの大きい場合がある。これらのずれは雪片が生成層から地上に落下する場合風によつて流される効果によるものと考えられる。
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