交叉感染対策と術後感染予防の抗菌剤の手術臓器別指定によるMRSA感染対策の結果, 術後早期からMRSAが分離される機会は減少した。しかし, 術後感染が発症し, その治療の目的でさまざまな抗菌剤が投与され, その後にMRSAが分離されることが問題となった。今回, 術後感染症例をグラム陰性桿菌と黄色ブドウ球菌に抗菌力を有するcefuzonam (CZON) で治療し, 良好な臨床的効果と, MRSA感染の予防効果が得られた。対象症例34例の原疾患は胃癌18例, 大腸癌16例で, 胃癌症例の感染部位は, 縫合不全による腹腔内膿瘍8例, 呼吸器感染5例, ドレーン感染3例, 創感染2例であった。大腸癌症例の感染部位は, 骨盤膿瘍9例, 創感染4例, 尿路感染2例, ドレーン感染1例であった。術後感染症例で抗菌剤の投与時期と分離菌の変化をみると, 術後感染に対してCZONを投与している間はMRSAは分離されていなかった。しかし, CZONの無効例で
Bacteroides fragilisが分離され, その治療目的でpiperacillinとclindamycinを投与した症例でMRSAが分離された。CZON投与前の分離菌は
Escherichia coli 27.5%,
Klebsiella spp.21.6%,
Enterococcus spp.13.7%,
Enterobuter cloacae 11.8%,
Pseudomonas aeruginosa 7.8%などであった。CZONの治療効果は著効15例, 有効12例, やや有効1例, 無効6例で有効率79.4%(15+12/34) であった。無効例から
P.aeruginosa5株,
B.fragilis 4株,
Enterococcus spp.,
Serrata,
Citrobacter,
E.cloacae,
Morganella morganii各々1株が分離されたが, MRSAは分離されなかった。CZONの無効例でもMRSA感染はみられず, 次の治療薬剤の選択が容易であった。これらのことから, CZONは消化器術後感染治療の薬剤として有用であると考える。
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