脳はわれわれ自身であり, 人間性の本質そのものである.
脳と神経系を守り, 治療する事が神経学の本質である.
半世紀程前の国民の関心事の一つは, 「長生きをしたい」であったと思うが, 日本が長寿国として安定してからは, 「長生きをして何ができるか?」, 「生きていることの質QOL (quality of life) : すなわち人生の質」, に関心が移ってきているように思われる. 事実, 《健康寿命》という言葉が使われ, 寝たきりや認知症 (痴呆) になることなく健康で人の世話をうけずに暮らす事のできる年齢は2002年度で男性72.3歳 (平均寿命: 78.4歳), 女性77.7歳 (平均寿命: 85.3歳)
1) である. 逆に考えると平均寿命から健康寿命を引いた期間は, 健康ではない状態をしめしており, 国家プロジェクトとしてもこの差を縮め, 健康寿命を延伸する計画が練られている (図-1).
このような背景の中, 今回の都民公開講座のテーマは『高血圧と合併症-その予防と対策-』ということで, まさしくこの《健康寿命》を延伸する効果が期待できる領域の啓蒙であり, 今そのトップバッターとして脳卒中のことをとりあげたい. 無事, 脳, 眼, 心臓, 腎臓のお話へと4番打者まで流れを繋げられれば幸いである. できるだけ簡易な言葉で説明をしようと思うが, 尾根の高いところのみを端折って話をして, 幾つかの例外や個別事象を省く危険を冒すことになるかもしれないので, その辺は是非, 信頼の置ける主治医と個別に相談することをすすめる. 本日は [A] 血圧と脳を知る [B] 脳卒中とは? [C] 脳を守る (予防・心構え) の順に話を進める.
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