順天堂医学
Online ISSN : 2188-2134
Print ISSN : 0022-6769
ISSN-L : 0022-6769
52 巻, 2 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
Contents
目次
特集 九教授定年退職記念講演会
  • 福田 哲也
    2006 年 52 巻 2 号 p. 128-132
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    2003年以降高校では新しい指導要領にもとづく教育がおこなわれており, 大学としても入学者のうけてきた教育内容を十分に意識した講義, 実習のくみたてを行わなければならない. 指導要領の改訂はほぼ定期的におこなわれているが, 今回のそれはかなり大幅なものであった. 大学設置基準の大綱化がおこなわれてからひさしいが, その波が高校教育にも及んだとも考えられるほど大きな改変であった. また, 本学の入試も一部にセンター入試をとりいれるなど従前よりは複雑になった. そんななかで受け入れた学生の教育を最初に受け持つのは主として一般教育の担当者であるから, 入学者の間の学力のアンバランスを解消するための努力もおこなわなければならない.
  • 松本 道男
    2006 年 52 巻 2 号 p. 133-145
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    慢性膵炎は治癒しない疾患とされているが, 慢性膵炎にも再生があると考えた. 人体標本を中心に慢性膵炎の組織像の特徴を調べた. 動物実験で正常膵組織と再生膵組織の膵臓の形態および機能の違いについて比較研究を行った. 膵臓の破壊にはメチオニンの拮抗物質であるD1-エチオニンを用いた. 実験膵炎とヒト慢性膵炎に見られる病理組織学的類似点を比較した. 実験動物はラットおよびイヌで, ラットは主に膵臓の破壊と再生の研究に用い, イヌは慢性膵炎の作成, 線維の量的変化と実質の再生の観察に用いた. 膵臓を構成する各種細胞間に存在するマトリックスの変化は免疫学組織学的に調べた. 膵実質の再生における抗酵素剤の影響を検討した. 膵臓の破壊後におこる線維の量的変化を観察した. 目的は慢性膵炎における膵臓の実質の再生を妨げる原因を知ることにあった. イヌの実験膵炎では膵臓の実質の萎縮と線維化が明瞭で, ヒトの慢性膵炎に見られる組織像に近かった. ヒト慢性膵炎の線維組織はα平滑筋アクチンに強く反応した. 線維芽細胞は, その亜種である筋線維芽細胞となり膵再生を妨げると予測した. 実験膵炎では膵臓を構成する腺房細胞の周囲に存在する間葉系細胞は線維組織の促進や抑制を調節すると考えられる. 筋線維芽細胞は活性化すると様々な炎症を起こすメディエーターを産生すると考えられる. 慢性膵炎から膵臓の組織における再生を促進するためには筋線維芽細胞の増加の抑制が重要である.
  • 佐藤 信紘
    2006 年 52 巻 2 号 p. 146-151
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    生命は太陽の光エネルギーのもとに, 水と空気と地球を形成する種々のミネラルから誕生した. 光エネルギーを効率的に捕捉する種々な色素分子の誕生によって, 光合成が可能となり, 光合成細菌, 植物が誕生し, さらに植物の産生する酸素とでんぷんを利用したエネルギーの獲得系, ミトコンドリアを有する真核生物が誕生した. ミトコンドリアを有する生物の進化が人の誕生となった. ミトコンドリアは独自の遺伝子DNAを有し, 主に食物由来の炭水化物・脂質・アミノ酸をエネルギー基質として, 高エネルギー化合物ATPを産生する. 食物摂取の過剰やエネルギー利用不足は, ミトコンドリアへの負荷を増大し, 酸素の4電子還元, すなわち水生成, が不能となって, 電子はミトコンドリア内膜上のshuntを迂回して, TCAサイクルを回す結果, 酸化的ストレス (ROS) を産生する. このROSによって, ミトコンドリアのDNA異常が生じて電子伝達系が正常に作動しない状態が生じる. ROS産生の増大は核遺伝子をも傷害し, 癌化に関わる遺伝子異常を来たすことになる. 文明の進化した昨今の飽食時代にあって, 過剰食物摂取は消化管・肝臓軸に過剰負荷を与えて, 肝臓のミトコンドリア障害をきたし, 脂肪肝・脂肪肝炎non alcoholic steatohepatitis (NASH) を生み, 一方エネルギーの過剰蓄積の結果肥満・高脂血症・糖尿病・高血圧などの種々な生活習慣病を引き起こす. 本稿では, 筆者が長らく取り組んできた消化管・肝臓軸への過剰負荷・ROS産生がいかなるミトコンドリア障害を来たし, さらなるROS産生の結果, 種々な病変形成に進展するかについて, 概要を記したい.
  • 水野 美邦
    2006 年 52 巻 2 号 p. 152-162
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    孤発型パーキンソン病の発症機序, 家族性パーキンソン病の進歩について解説した. 孤発型パーキンソン病の黒質変性は, 遺伝的素因と環境因子の相互作用で開始され, その結果黒質神経細胞内にミトコンドリア機能障害と酸化的障害が生じ, これらが悪循環を繰り返しながら, 蛋白の異常凝集, 軸索輸送の障害, アポトーシスを惹き起こして神経細胞死を起こす. 家族性パーキンソン病については, 11の病型につき遺伝子座が判明し, 6つの原因遺伝子が同定されている. これらはα-synuclein, parkin, UCH-L1, PINK1, DJ-1, LRR-K2である. α-synucleinは孤発型パーキンソン病の神経細胞にも凝集体が沈着しており, 黒質変性に重要な役割を果たす. Parkinは, ユビキチンリガーゼ活性を持ち, 神経変性とユビキチンプロテアソームシステムの関係の重要性を指摘した. PINK1は, ミトコンドリア蛋白, DJ-1は強力な抗酸化作用を持ち, ミトコンドリアと酸化的障害の重要性を指摘している. LRRK2とPINK1は, 蛋白リン酸化活性を持ち, 蛋白リン酸化の異常も黒質変性に重要であることを示している.
  • -消化器癌の発癌実験と臨床研究-
    鎌野 俊紀
    2006 年 52 巻 2 号 p. 163-175
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    私は1966年順天堂大学卒業, 2006年定年. 入学以来46年間順天堂で育まれた. 2年間の病理学教室で研鑽後, 旧第一外科に入局, 主に発癌実験, 化学療法, 大腸癌の臨床病理学的検討について研究した. 発癌実験ではマストミスの自然発生胃カルチノイドでヒスタミンの他にセロトニンの存在を証明した. 当時のトピックであった動物に癌モデルを作成する事を試み, イヌに実験的にN-ethyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine (ENNG) を投与し胃癌・大腸癌・膵癌の作成に成功した. 化学療法に関しては, 5-Fluorouracil (5-FU) 投与後胃癌・大腸癌の組織内濃度, および術前術後の薬物動態を観察し, 併せて5-FU関連酵素についても検討した. 大腸癌の臨床病理学的検討では, 便中胆汁酸濃度を測定し, スクリーニングの可能性を示唆した. 切除標本を用いて免疫組織学的にDesmoplastic reaction (DR) ・Insulin growth factor (IGF) ・核分裂像・線維化などを検討し, 悪性度の指標になることを報告した. またComparative genormic hybridization (CGH) 法により, 網羅的に遺伝子異常を解析し, リンパ節転移・臓器転移・性差による異常を同定した.
  • -小児外科のidentityを求めて-
    宮野 武
    2006 年 52 巻 2 号 p. 176-181
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    昭和43年, 日本で初めての小児外科の講座として誕生した順天堂大学小児外科 (駿河敬次郎教授) に第1回の大学院生として入学以来, 定年で退任するまでの38年間を過ごした. このうち20年間2代目教授を務めた. この間, 『順天堂のみならず, 本邦における小児外科のidentityを確立する』が一貫したテーマであった. この間小児外科は驚異的な発展を遂げた, 新生児外科, 小児における泌尿・生殖器外科, 悪性固形腫瘍治療, 肝胆道外科, また内視鏡下手術等画期的に進歩した. 一方, 全国的に見ると小児外科の指導医, 専門医, 専門施設の数, 地域的分布は未だ十分満足できる状況になく, 小児外科の恩恵に浴せぬ患児が少なからず居ることは今後の課題である.
  • 前田 稔
    2006 年 52 巻 2 号 p. 182-196
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    脳神経外科入局後の臨床および基礎研究活動について記載した. 東大, ロックフェラー大, マックスプランク脳研究所で, 前庭性眼振の発現機構, cervico-ocular reflex, vestibulospinal, tectospinal systemの神経回路網の研究をそれぞれおこなった. 帰国後はヒトのeye-head coordinations, vestibular-compensationの解析, 臨床研究としてbasilar tip aneurysmの手術, severe head injuryの各種モニタリング, cerebral vasospasmに対するhypertensive・hyper-volemic・hemodilution theraphy: 3“H”療法, 頭蓋底手術, 巨大脳動脈瘤の手術法の開発, 脳低温療法mild hypothermia, 優位半球三角部やpineal regionへのアプローチを研究した. また頭蓋内圧力環境, 特に脳血管床の脳内動的制御機構の解析をおこない, コリン作動性受容性橋被蓋野, 青斑核複合体および内側延髄網様体ならびに背内側視床下部核を中心としたbasal forebrainが脳血管床の制御をおこなっており, またnitrix oxide (NO) 産生系が密に関与していることが判明した. Klotho老化抑制遺伝子欠損マウスでは多彩な老化症状を呈するが, Klothoマウスを使用した脳局所糖代謝率 (LCGU) の実験では, 4週齢Klotho群 (kl/kl) はWild群 (+/+) に比し新皮質では有意にLCGUの低下がみられたがThalamus, Caudate putamen, Inferior colliculus, Cerebeller cortex, Internal capselでは有意差をみなかった. 6週齢に達するとKlohto群では全脳にわたってLCGUの低下が観察された. 遺伝子操作でKlothoの働きが2-2.5倍となるマウスでは寿命が1.2-1.3倍に延びることが最近報告されている.
  • 宮崎 東洋
    2006 年 52 巻 2 号 p. 197-206
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    国際疼痛学会は, 痛みを“実質的あるいは潜在的な組織損傷に起因するか, もしくは組織損傷から派生する不快な感覚的および情動的体験”であると定義している. したがって, 痛みは個人によって様々であり, それを客観的に評価することは極めて難しい. しかし一方, 痛みを的確に評価することは, 治療法の選択や治療効果の判定にも有用である. 米国の臨床では, numerical rating scale (数値を示した尺度) を用いて痛みの有無や強弱を簡単に評価することが医師や看護師に薦められている. しかし, 痛みの発現機序は様々であり, 決して一つの尺度で評価できるものではない. 簡単な尺度のみで痛みを評価するために, 痛みに対する治療法が麻薬のみに偏ってしまうという傾向が認められる. 痛みの評価では, その強弱のみではなく, その様式, 性質を正しく把握しないと, 適切な治療はできない.
  • 木下 勝之
    2006 年 52 巻 2 号 p. 207-212
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    2001年4月に産婦人科主任教授に選任されて以来, 2006年3月に退任するまでの5年間の, 教室のあり方・理念・目標のもとに, 教室員が切磋琢磨して築き上げた研究・診療実績を述べ, 将来性のある産婦人科学教室のこれからの課題をまとめた. 教室の理念として, 自由・規律・挑戦を説き, 教室員のUnityを求め, 一致団結してことに当たることを目指した. その結果, 30名の新人の入局があり, 大学院生26名, 学位取得者29名となり, 現在医局員は94名である. 数多くの研究成果は論文として発表し, 教室独自の研究室を立ち上げた. 診療部門では, 腹腔鏡手術はわが国一の手術件数を達成し, 悪性腫瘍に対して, 骨盤臨床解剖にもとづく安全確実な手術を指導し, 現在では, 教室の全ての手術件数が年間1500件弱に達した. 分娩数も699件に達している. これからの教室は, 良医と良医の指導者輩出を目指すことを目標にすべきと思われる.
原著
  • -便中胆汁酸組成との対比-
    佐々木 森雄, 塚田 健次, 河井 健, 松田 光弘, 渡部 智雄, 冨木 裕一, 坂本 一博, 鎌野 俊紀
    2006 年 52 巻 2 号 p. 213-218
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 1, 2-dimethylhydrazine (DMH) 誘発ラット大腸癌モデルに対し高脂肪食を投与することで大腸癌の発生と, 増殖にどのような影響を及ぼすかを実験的に検討した. また, 高脂肪食投与と便中胆汁酸組成比deoxycolic acid/colic acid (DCA/CA) との関係についても検討した. 対象: 使用した動物は7週齢の雌性Wistar系ラット48匹である. 方法: コントロール群, 高脂肪食投与群, 普通食+DMH投与群, 高脂肪食+DMH投与群の4群に分けた. 発癌剤DMHは40mg/kg週1回, 計10回皮下投与, 実験投与開始後35週で犠牲死剖検した. 結果: DMH誘発ラット大腸癌は, 発生率, 発生個数に差は認められなかったが, 高脂肪食投与群で進行癌が, 組織型では未分化癌が多い傾向が認められた. 便中胆汁酸組成比は高脂肪食投与群で高値を示した. 結論: DMH誘発ラット大腸癌において, 高脂肪食の投与を行った場合, 便中胆汁酸組成比が高くなる傾向があり, 大腸癌の発育に大きく関与していることが示唆された.
  • 塚田 健次, 笠巻 伸二, 平井 周, 松岡 隆, 國井 康弘, 奥澤 淳司, 坂本 一博, 鎌野 俊紀
    2006 年 52 巻 2 号 p. 219-224
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 根治度A手術を施行したにもかかわらず, 予後不良であった結腸癌の特徴を検討するために, 深達度が漿膜下層までにとどまる (ss) 結腸癌の癌先進部における癌細胞核分裂数の面から検討した. 対象: 術後5年以内に癌死した予後不良例23例 (予後不良群) と術後5年以上生存が確認できた26例 (予後良好群) の2群 方法: 対象の2群に対し, (1) 臨床病理学的背景因子, (2) 腫瘍最大割面を表層・中層・深層の3層に分け, 各層の癌細胞核分裂数 (層別核分裂数), (3) 深層の中でも, 特に癌先進部における癌細胞核分裂数, (4) 術後経過年別の癌先進部癌細胞核分裂数, を比較検討した. 結果: 癌細胞核分裂数は浅層と比べ深層が, 予後良好群に比べ不良群が有意に高値を示した. 結語: 先進部癌細胞核分裂数の評価は簡便な方法で根治度A手術を施行した深達度ss結腸癌の予後不良予測に有用である可能性が示唆された.
  • 田中 美香, 飯田 行恭, 西村 裕之, 宮井 健太郎, 寺尾 泰久, 荻島 大貴, 吉田 学, 木下 勝之
    2006 年 52 巻 2 号 p. 225-230
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 上皮性卵巣癌は他の固形癌と異なり, 癌性腹膜炎などの進行例でも化学療法と手術療法の組み合わせにより一時的には寛解状態にできるが, 数年後に再発する症例が多い. 予後規定因子は, 進行病期分類, 組織型や分化度などの病理組織学的な評価によって規定されるものがあげられるが, 治療の反応性から見た報告は多様で統一見解はない. われわれは, 初回治療中の血清CA125の変化量と患者の予後との間に関係があるかを解析した. 対象と方法: 初回手術後にパクリタキセル, カルボプラチン療法 (Pac: 175mg/m2, CBD-CA: AUC5) を行った, 上皮性卵巣癌 (FOGO臨床進行期分類III. IV期) 症例で術前のCA125>35U/mlであった56名を対象とした. 解析は, CA125の検査開始日から検査日毎の値を追跡し, CA125が35U/ml以下に入った時点での検査値Aとその1時点前の検査値Bに対し, 変化量= (Log (B) -Log (A) ) / (正常値到達日と1時点前の検査日との間の日数) をとり, CA125が正常域にある月数の関係をPeasonの相関係数で求めた. 次に, 変化量の大小で2群に分類し, CA125が正常域にある月数に関してlog-rank検定を行い再検討した. 結果: CA125が正常化したのは56例中43例. 相関係数は0.40 (P<0.01) でCA125の変化量とCA125の正常域維持期間に相関を認めた. log-rank検定では, 43例の変化量を降順に並べ, 中央値を含む20-26位の値をカットオフとして2群に分け解析した. 24位をカットオフとした時の2群間で有意差 (P<0.05) を認めた. 結論: CA125が正常化する時点の変化量と, その後のCA125正常域維持期間との関係をPea-sonの相関係数およびlog-rank検定により分析した. これらに相関が認められ, 正常域に到達するCA125の変化量が大きい程, 予後良好であることが示唆された.
  • -術後肝転移との関係について-
    須田 寸実人, 笠巻 伸二, 渡部 智雄, 松田 光弘, 冨木 裕一, 坂本 一博, 鎌野 俊紀
    2006 年 52 巻 2 号 p. 231-238
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 2型糖尿病が大腸癌の危険因子とされ, 糖尿病を有する例は再発率が高く, 予後不良といわれており, その病態にはInsulin-like growth factor (IGF) -Iが関わっていると考えられている. とくに大腸癌細胞にはIGF-I受容体が存在することが知られており, IGF-Iとその輸送蛋白であるInsulin-like growth factor binding protein (IGFBP) -1, IGFBP-3について, 大腸癌手術症例で免疫組織化学的染色を施行し, 予後不良の肝転移群について無肝転移群と比較, 検討した. 対象と方法: 1995年1月から2000年12月までに当科で治癒切除が施行された単発S状結腸mp, ss癌 (組織型wel, mod) 45例 (術後肝転移症例15例, 無肝転移症例30例) を対象とし, 免疫組織化学染色を行った. 2群間の比較はχ2乗検定またはt検定, 多変量解析にはロジスティック回帰分析を使用し検討した. 結果: IGF-I染色陽性者は16例 (35.6%), IGFBP-1染色陽性者34例 (75.6%), IGFBP-3染色陽性者31例 (68.9%) であった. 臨床所見, 臨床病理学的所見において有意差はなかった. しかし肝転移の有無でIGF-I染色陽性, IGFBP-3染色陰性に肝転移が有意に多かった. 結語: 大腸癌におけるIGF-I, IGFBP-3の免疫組織化学的染色は肝転移予測因子として重要であるとおもわれた.
  • 田中 真伸, 寺井 潔, 須田 寸実人, 五藤 倫俊, 山口 浩彦, 松岡 隆, 笠巻 伸二, 坂本 一博, 鎌野 俊紀, 狩野 元成
    2006 年 52 巻 2 号 p. 239-246
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 1, 2dimethylhydrazine (DMH) 誘発ラット大腸癌に対するHericium erinaceum (HE) の腫瘍抑制効果について検討した. 対象と方法: 6週齢の雌性Wistarラットを用い, 1群: コントロール群, 2群: 0.01%HE溶液投与群, 3群: 0.1%HE溶液投与群, 4群: DMH単独投与群, 5群: DMH+0.01%HE溶液投与群, 6群: DMH+0.1%HE溶液投与群に分け, 実験開始後40週で犠牲死剖検, 腫瘍数, 腫瘍長径, 腫瘍発生部位, 病理組織学的検索 (組織型, 深達度), 免疫組織化学的検索 (p53, アポトーシス, PCNA) について検討した. 結果: DMH単独投与群に比べHE溶液投与群では, 腫瘍発生率に差はなかったが, 腫瘍数, 腫瘍長径で抑制傾向が見られ, PCNAが有意に低値であった. 結論: HE溶液の投与によりDMH誘発ラット大腸腫瘍の発育, 増殖が抑制される可能性が示唆されたが軽微であった.
第17回都民公開講座《高血圧と合併症――その予防と対策――》
  • 人生をエンジョイするための知識, 対策, 心構え
    田中 茂樹
    2006 年 52 巻 2 号 p. 249-256
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    脳はわれわれ自身であり, 人間性の本質そのものである. 脳と神経系を守り, 治療する事が神経学の本質である. 半世紀程前の国民の関心事の一つは, 「長生きをしたい」であったと思うが, 日本が長寿国として安定してからは, 「長生きをして何ができるか?」, 「生きていることの質QOL (quality of life) : すなわち人生の質」, に関心が移ってきているように思われる. 事実, 《健康寿命》という言葉が使われ, 寝たきりや認知症 (痴呆) になることなく健康で人の世話をうけずに暮らす事のできる年齢は2002年度で男性72.3歳 (平均寿命: 78.4歳), 女性77.7歳 (平均寿命: 85.3歳) 1) である. 逆に考えると平均寿命から健康寿命を引いた期間は, 健康ではない状態をしめしており, 国家プロジェクトとしてもこの差を縮め, 健康寿命を延伸する計画が練られている (図-1). このような背景の中, 今回の都民公開講座のテーマは『高血圧と合併症-その予防と対策-』ということで, まさしくこの《健康寿命》を延伸する効果が期待できる領域の啓蒙であり, 今そのトップバッターとして脳卒中のことをとりあげたい. 無事, 脳, 眼, 心臓, 腎臓のお話へと4番打者まで流れを繋げられれば幸いである. できるだけ簡易な言葉で説明をしようと思うが, 尾根の高いところのみを端折って話をして, 幾つかの例外や個別事象を省く危険を冒すことになるかもしれないので, その辺は是非, 信頼の置ける主治医と個別に相談することをすすめる. 本日は [A] 血圧と脳を知る [B] 脳卒中とは? [C] 脳を守る (予防・心構え) の順に話を進める.
  • -眼にも怖い高血圧-
    村上 晶
    2006 年 52 巻 2 号 p. 257-262
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    眼は体の微小循環を生涯にわたって容易に観察できる窓であるといわれている. 眼底検査は全身の微小血管障害の指標を得ることができ, 繰り返し行える非侵襲性の高い検査として広く用いられている. 特に血圧と網膜の血管の関係については古くから研究されている. 失明予防の意味からは, 高血圧網膜症, これに加えて視神経症と脈絡膜症は高血圧の患者の眼障害として重要なものである. また, 眼疾患においても高血圧は重要なリスクファクタであり, 網膜血管障害などの発症のリスクを高める. 良好な視機能を維持しての生涯にわたって質の高い生活を送るためにも血圧の管理は大切なことである.
  • -高血圧管理の重要性-
    代田 浩之
    2006 年 52 巻 2 号 p. 263-268
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    心臓病において高血圧はその原因であると共に増悪因子でもあり, その管理は大変重要である. 高血圧の心臓病への関与には, 圧負荷から左室肥大を起こし拡張障害から心不全に至る経路と, 動脈硬化が進行し心筋梗塞を起こして収縮障害から心不全に至る経路がある. 従って心臓病における高血圧の管理として両方の経路を考えた治療を行う事が必要である. 高血圧は, 心拍出量が増加 (体液量の増加や心収縮力の増強) するかまたは末梢血管抵抗が増加 (血管の収縮や血管壁肥厚) する事により発症する. 体液量・心収縮力・血管収縮・血管壁肥厚を起こす要因として塩分過剰摂取・腎臓機能障害・ストレス・交感神経過剰緊張・肥満・高インスリン血症・遺伝子異常・レニンアンギオテンシン系活性化などが関与している. 従って圧負荷の管理として, 減塩・ストレス解消・肥満の予防・適度な運動・適切な降圧薬による十分な血圧のコントロールが重要である. 動脈硬化は, 多くの疫学調査の結果から幾つかの発症要因 (危険因子) が解る. 遺伝的素因・過食・運動不足・肥満・加齢・喫煙・糖尿病・高血圧・ストレス・不眠・コレステロールなどが危険因子であり, これらの因子を多く持てば持つほど動脈硬化が起こる. 従って動脈硬化の予防はこれらの要因をできる限り減らす事である. 高血圧, 高コレステロール, 糖尿病に対して有効な薬剤が使えるようになったが薬剤のみでは解決されず, 喫煙・肥満・ストレス・運動不足などと共に生活習慣の改善が必要である. 動脈硬化の新しい危険因子としてメタボリックシンドロームという新しい概念が提唱されている. メタボリックシンドロームとは, 過食・運動不足によって内臓に脂肪が蓄積した状態で, 高血圧・糖尿病・高脂血症を高率に合併し動脈硬化を起こす. メタボリックシンドロームは, 過食・運動不足が原因でありその管理には食事管理と適度な運動が必要である. 薬学と医学の進歩により安全で効果的な幾つかの薬剤が使用可能になり心臓病の予防に役立つが, 心臓病予防の多くの要因の管理には不十分である. 心臓病から身を守る高血圧管理として生活習慣の改善が必要である.
  • 富野 康日己
    2006 年 52 巻 2 号 p. 269-275
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    高血圧は多くの臓器に障害を引き起し生命予後に大きな影響を与えるが, 腎臓も例外ではない. 現在わが国で末期腎不全により維持透析療法を受けている患者は, 25万人を超えたといわれている. わが国の透析療法は国際的にも大変優れており, 透析歴20年以上の方は1万6千人を超えている. しかし, 透析療法は, 腎臓のもつ働きを完全に補えるものではなく, またいろいろな面で負担も大きいことから透析導入を少しでも抑えたいと考えている. 透析導入の原因となる疾患は, 糖尿病腎症が最も多く, ついで慢性腎炎, 高血圧による腎障害 (腎硬化症) である. 高血圧と腎臓病とは密接に関連している. つまり, 高血圧が持続すると腎硬化症となり, 腎臓病が進行すると高血圧になる (腎性高血圧). 国際的な報告でも, 血圧が高いヒトほど透析になりやすいといわれ, 多量の蛋自尿が出続けることが腎機能の悪化につながるとされている. この悪循環が, 急激にあるいはゆっくりと腎機能の低下を招くため, この悪循環を断ち切ることが透析への進行を抑えることになると考えられる. また, 十分な降圧治療をすることによって予後は明らかに改善することから, 高血圧の腎臓に及ぼす影響を正しく理解し, 適切に治療することが大変重要である. 具体的には, 体重管理 (標準体重の保持), 食塩制限と降圧薬による血圧コントロール (一般的降圧目標: 130/80mmHg未満) が基本である. 腎臓病が原疾患である場合には, 腎臓病に対する治療 (蛋白尿・血尿の改善, 腎機能の保持など) も行う必要がある. 食塩摂取量は6g/日程度に制限する. 降圧薬は, 腎血流量を低下させずに, 十分な降圧と蛋白尿を低下させるような薬物 (ACE阻害薬, アンジオテンシンII受容体拮抗薬, カルシウム拮抗薬, 降圧利尿薬など) を選択するのが原則である.
抄録
順天堂医学原著論文投稿ガイドライン
順天堂医学投稿規程
編集後記
feedback
Top