AUDIOLOGY JAPAN
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60 巻, 6 号
December
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 「加齢と補聴器―社会交流における補聴器の役割―」
    内田 育恵, 杉浦 彩子
    2017 年 60 巻 6 号 p. 477-483
    発行日: 2017/12/28
    公開日: 2018/03/13
    ジャーナル フリー

    要旨: 高齢者の社会参加や交流の推進には, 多くの高齢者が直面する難聴への対策が緊要である。 難聴はさまざまな不利益のリスク要因であるとするエビデンスが蓄積され, 世界保健機構2017のレポートにおいては難聴者の雇用環境が危惧され, アルツハイマー病協会国際会議2017では, 難聴は認知症に関する9つの修正可能なリスク要因のひとつに挙げられた。 対策としての補聴器の効果については, 雇用や就労, うつや社会的孤立, 認知機能などの側面について, 米, 英, 豪, 仏など各国から多種多様な研究デザインで評価を行っているものの, 結果は必ずしも一様でない。 おそらく聴覚以外の機能に対する補聴器の効果を実証するには, 長期間の観察と数多くの対象者を必要とするのではないかと推察する。 しかし, 世界最高の長寿国であるわが国において, 高齢者の難聴対策, 補聴器活用は, 健康長寿社会実現のために, 優先性の高い国民的課題と考える。

原著
  • 中西 啓, 岩崎 聡, 遠藤 志織, 大和谷 崇, 水田 邦博, 峯田 周幸
    2017 年 60 巻 6 号 p. 484-491
    発行日: 2017/12/28
    公開日: 2018/03/13
    ジャーナル フリー

    要旨: アッシャー症候群 (USH) は, 感音難聴に網膜色素変性症を合併する常染色体劣性遺伝性疾患である。 われわれは臨床症状より USH タイプ1 (USH1) と診断した6家系7人を対象として MYO7ACDH23 の遺伝子解析を行い, 5家系6人において疾患原因変異を同定した。 変異を同定することができた患者は, 1~3 歳で重度感音難聴と診断され補聴器装用を開始したが, 口話を獲得できたものはおらず, 全員が意思伝達のために手話・筆談を用いていた。 USH1 患者では, 年齢とともに網膜色素変性症による視覚障害が進行するため, 手話・筆談による意思伝達が困難となり, 接近手話や触読手話を用いている患者もいた。 将来的には, さらに意思伝達が難しくなると思われ, このような患者を支援する社会的な体制作りが急務である。特に USH1 患者では,視覚情報に頼らない口話獲得が重要であり, そのためにも USH1 の早期診断・人工内耳埋込術が必要であると思われた。

  • ―軽中等度難聴例に関する検討―
    鈴木 恵子, 岡本 牧人, 鈴木 牧彦, 佐野 肇, 原 由紀, 井上 理絵, 梅原 幸恵
    2017 年 60 巻 6 号 p. 492-499
    発行日: 2017/12/28
    公開日: 2018/03/13
    ジャーナル フリー

    要旨: 『きこえについての質問紙2002』において評価点は, 素点で得られた結果を6つの下位尺度間で比較するために設定された。本研究では評価点の臨床的な意義を検討する目的で, 軽中等度難聴163例を対象として, 補聴に際して評価点に表れた変化を後方視的に分析した。その結果, 補聴前の評価点分布は概して均等であり下位尺度間で差がなく, ここをベースラインに補聴後の変化を尺度間で比較することの妥当性が示唆された。補聴後, 聞こえにくさ3尺度で対象の8割以上, 心理社会的影響2尺度で過半数において, 評価点が2以下に軽減した。コミュニケーションストラテジーでは変化がなかった。補聴後の評価点分布が下位尺度間で異なった結果は, 補聴器適合だけでは軽減しにくい問題への介入の必要性を示唆する。6つの評価点を結んでプロフィールを描くと, 主観評価の特徴を視覚的に呈示でき, 聴覚リハビリテーションに評価点プロフィールを活用する可能性は大きいと考える。

  • 冨澤 文子, 河野 淳, 野波 尚子, 鮎澤 詠美, 梅村 大助, 西山 信宏, 河口 幸江, 白井 杏湖, 斎藤 友介, 塚原 清彰
    2017 年 60 巻 6 号 p. 500-508
    発行日: 2017/12/28
    公開日: 2018/03/13
    ジャーナル フリー

    要旨: 人工内耳装用児の言語力に関する研究は本邦でも増加しつつあるが, 語彙力に関する詳細な研究は少ない。 今回我々は, 小学校就学前後期以前における人工内耳装用児の語彙力を, 良好群~不良群の6群に分類した。 88例中32例 (36.4%) が就学時期までに健聴児の生活年齢相当の理解語彙力を獲得していた。 一方で63.6%にあたる56例の装用児の理解語彙力は, やや不良~不良な状態であり, 健聴児との顕著な成績差が認められた。 手術時期に注目すると, 4歳時点で語彙発達指数が85以上になった群において手術時期が早い傾向がみられた。 他方, 補聴器開始年齢, 人工内耳装用閾値については, 各群で大きな差は認められなかった。 就学時期までの幼児期段階では, コミュニケーション方法として主に聴覚を使用する症例が多い傾向があり, 手話併用例は少なかった。 しかし, 小学校就学以降は, 理解語彙の不良例においては手話併用例が増加する傾向が認められた。 聴覚障害児の療育や教育の目的は幼児期の言語発達を促し, 就学以降の教科学習や社会生活に求められる書き言葉の獲得にある。 今後は語彙以外の言語の側面も含めた言語活動全体の発達を考慮し, 長期に渡って経過をサポートしていく必要がある。

  • 佐々木 美奈, 間 三千夫, 中原 啓, 宝上 竜也, 硲田 猛真, 河野 淳, 榎本 雅夫
    2017 年 60 巻 6 号 p. 509-514
    発行日: 2017/12/28
    公開日: 2018/03/13
    ジャーナル フリー

    要旨: 難聴児の療育に関わる問題として, 難聴発見の遅れ1), 療育経過中の難聴の進行1)2), 保護者の認識不足1)3) などの理由から難聴児が補聴器装用に至らないといった点が指摘され1), 難聴の早期発見, 早期療育の重要性は諸家により報告されている4)5)。 しかし, 児の聴覚補償の状態と言語発達状況との関係を詳細に述べたものは数少ない。 筆者らは WISC-IV 検査の言語理解指標 (VCI) と知覚推理指標 (PRI) に着目し, 聴覚補償の状態と言語成績との関係について調べ, 観察期間中の臨床例の実態を検討したので報告する。 対象は当センターで経過観察中の補聴器装用児のうち必要な評価が可能な12名とした。 聴取成績は標準純音聴力検査,補聴器装用閾値, 語音検査, 雑音負荷時の聴取能検査で評価した。 VCI と PRI の指標得点と聴取状態との間に関連はみられなかった。 WISC-IV 検査において PRI に比べて VCI の指標得点が有意に低い児が5例認められた。 VCI と PRI の指標得点が乖離していることは, 児の本来の能力程度に言語獲得が進んでいないことを示すものの, VCIの指標得点は平均の下限以上には達していることが示された。

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