咬合の発達や加齢が下顎頭関節面の微細構造におよぼす影響を解明するために, 胎生後期から老齢期までのラット下顎頭線維層の構造変化を光学顕微鏡, 透過および走査電子顕微鏡で観察した。光学顕微鏡と透過電子顕微鏡用の試料は, リンタングステン酸切片染色でコラーゲン細線維の超微細構造を観察するものを除いて, 通法に従って作製した.走査電子顕微鏡用の試料作製には, 下顎頭線維層の基質線維構築を明らかにするために, 凍結割断法と界面活性剤一酵素処理法を施行した.ラット下顎頭線維層の厚径は, 10週齢まで下顎頭軟骨の厚径の減少に相反して約60μmまで増加したが, 20週齢以後は関節面の部位により非薄部と肥厚部が生じた.老齢ラットの下顎頭線維層の厚径は, 菲薄部では約30μm, 肥厚部では約280μmであった.下顎頭関節面の最表部には, トルイジンブルーに濃染し, 走査電顕的には均質な穎粒状あるいは微細線維状を呈する薄層が存在した・線維層の線維性基質を構成するコラーゲン細線維は, 幼若ラットでは直径40~60nmで約50~65nmの規則的な横紋を有し, 老齢ラットでは直径約100nmで約65nmの規則的な横紋を有していた.胎生後期のラットの線維層は, 関節面表層, 深層ともに線維芽細胞群が大部分を占め, 細胞間基質の構成線維は網状を呈していた.切歯の咬合接触が認められる1週齢ラットでは, 線維層関節面の最表層は大部分が密な細線維網によって占められていたが, 深層は細線維束で形成されていた.6週齢ラットの関節面最表層には, 細線維網のほかに細線維の小束や下顎頭の前後方向に走向する細線維が認められた.臼歯の萌出が完了する8週齢ラットでは, 細線維網は疎になり, 立体的に交錯する細線維束が出現した.成熟および老齢ラットの線維層関節面の細線維束は極めて密になり, より成熟した様相を呈していた.加齢によるラット下顎頭関節面の微細構造の主体的変化は, 網状から束状への細線維構築の変化と, 細線維密度の増加を伴う細線維束の成熟であると考えられる.成熟および老齢ラットでは, 極めて密な網状の細線維塊, 回旋, 捻転する細線維小束, 関節面の侵蝕を示唆する細線維の断裂や, 細胞の露出の特異的な構造が認められた.このような構造は, 関節面に加わる負荷による関節面緩衝構造の均衡の破壊と修復を示唆すると考えられる.
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