日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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44 巻, 7 号
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原著
  • ストーマ早期合併症と術後ストーマケアへの影響
    目黒 直仁
    原稿種別: 原著
    2024 年44 巻7 号 p. 829-835
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    【背景】予定手術の術前ストーマサイトマーキングはストーマ関連合併症発生を減じ,ストーマセルフケア確立を促すとされる。緊急手術の術前マーキングに関する報告は少なく,本研究はその有用性の検証を目的に行った。【方法】当院で2019年1月~2022年3月の間に緊急でストーマ造設した78症例を対象とした。術前マーキングの有無で2群に分け,ストーマ早期合併症発生,セルフケア確立,ストーマ装具の便漏れ頻度(以下,便漏れ頻度),ストーマ装具の予定交換間隔<3日間(以下,装具短期交換)の症例の発生を比較検討した。【結果】マーキング群61例,非マーキング群17例であった。早期合併症発生とセルフケア確立は2群間で差がなかったが,マーキング群で便漏れ頻度が低く(P=0.0119),装具短期交換症例の発生が少なかった(P=0.0176)。【結語】緊急手術の術前マーキングは術後ストーマケアに対して有用な可能性がある。

  • 林 航輝, 島津 元秀, 向井 俊太郎, 殿塚 亮祐, 小澤 壯治
    原稿種別: 原著
    2024 年44 巻7 号 p. 837-842
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    急性胆囊炎に対するドレナージ法として経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage:以下,PTGBD)が標準ドレナージとして推奨されているが,近年は内視鏡的経乳頭的胆囊ドレナージ(endoscopic transpapillary gallbladder drainage:以下,ETGBD)も普及している。当院に急性胆囊炎で入院した131例のうち,PTGBD 80例とETGBD 11例の臨床経過を解析し,ETGBDの有用性について検討した。両群の患者背景や初回入院期間に有意差を認めず,ETGBD群では全例が生存退院していた。炎症消退後の待機的手術成績は同等で,ETGBD群では開腹移行や術後合併症は認めなかった。待機的手術非適応症例の1年累積再発率はETGBD群0.0%,PTGBD群23.7%と,有意差はないものの前者で低い結果であった(P=0.137)。ETGBDは炎症消退後の待機的胆囊摘出術を安全に施行でき,手術非適応症例の再発抑制効果も期待できる,有用な胆囊ドレナージ法と考えられる。

症例報告
  • 岡本 健司, 室屋 大輔, 金野 剛, 平松 俊紀, 岡本 好司
    2024 年44 巻7 号 p. 843-847
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性。軽自動車を運転中に意識消失し,ガードレールに衝突して左側胸部痛を主訴に救急搬入された。搬入時vital signは安定しており,腹痛も認めなかった。腹部造影CT検査で大動脈瘤と周囲の軟部組織影を認め,contained ruptureが否定できない所見だったため,血管外科の手術対応可能な施設に転院搬送し,緊急手術を施行された。開腹所見では大動脈瘤破裂は認めず,後腹膜腫瘍を認めたため組織生検と試験開腹術で終了した。当院に転院搬送された後は後腹膜腫瘍による両側水腎症に対して尿管ステントを留置し,術後20日目に退院となった。その後は後腹膜線維症の診断でステロイド加療が行われた。外傷エピソードを有し,CT検査では大動脈瘤破裂が疑われた症例において,身体所見や画像検査結果などを総合的に判断し,後腹膜腫瘍を鑑別疾患にあげる必要性があった1例を経験したため報告した。

  • 蔵谷 大輔, 倉内 宣明
    2024 年44 巻7 号 p. 849-851
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は96歳,男性。食欲不振,体動困難のため,当院に救急搬送された。腹部は全体に膨隆し,圧痛は軽度。明らかな腹膜刺激症状を認めなかった。CT検査で小腸の拡張とcaliber changeを認め,腸閉塞と診断した。保存的治療で改善なく,手術を施行した。Treitz靭帯から約150cmの小腸に壁肥厚と狭細化を認めた。同部位を切除し,機能的端々吻合で再建した。病理所見から腺扁平上皮癌の小腸転移と診断した。FDG-PETで甲状腺および頸部のリンパ節に集積亢進を認め,原発巣と推定した。術後15日目に自宅退院となった。

  • 柴木 俊平, 丸山 正裕, 横田 和子, 小嶌 慶太, 山梨 高広, 佐藤 武郎, 中村 隆俊, 内藤 剛
    2024 年44 巻7 号 p. 853-856
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    小腸憩室は,消化管憩室のなかで比較的まれである。小腸憩室穿孔や出血などの報告は散見されるが,憩室による消化管の圧排や捻転で腸閉塞をきたした症例はまれである。症例は60歳台,女性。主訴は腹痛,嘔吐。他院で癒着性腸閉塞と診断され保存的加療で軽快した。その後,腸閉塞を繰り返すため手術目的に当科を紹介受診となった。腹部単純CT検査で小腸にcaliber changeを認めた。小腸造影では,憩室を疑う造影剤の貯留を認めたが狭窄は認めなかった。繰り返す腸閉塞の診断で手術を施行した。腹腔鏡で腹腔内を観察すると腹壁との癒着や小腸に虚血性変化は認めず,Treitz靭帯から約200cm肛門側の小腸間膜側に限局した腸管拡張と捻転を認めた。憩室による捻転が原因と判断し憩室含めて小腸部分切除術を施行した。病理組織学的検査で小腸仮性憩室と診断された。本症例は,巨大小腸憩室による捻転で腸閉塞を繰り返したまれな症例と考えられた。

  • 進藤 博俊, 近藤 尚, 大野 幸恵, 須田 竜一郎, 西村 真樹, 片岡 雅章, 野口 寛子
    2024 年44 巻7 号 p. 857-860
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,女性。腹部膨満と腹痛で当院へ転院搬送された。腹部CTでは骨盤腔の小腸に口径差があり,閉塞機転を認めた。閉塞部に高吸収の異物が確認でき,CTでは異物がPTPの断面であることが推測されたためPTPによる腸閉塞,また周囲脂肪織濃度上昇,腹水があったため切迫小腸穿孔の診断で同日緊急手術を施行した。手術所見では小腸に異物を触知し,PTPが嵌頓していると思われた。PTPが嵌頓している部位は腸管壁に炎症所見を認めたものの,明らかな穿孔は確認できなかった。小腸部分切除を行い,手術を終了した。組織所見では,小腸に U字型の線状潰瘍を認め,虚血性変化あり,切迫小腸穿孔の診断となった。高齢化社会に伴って,PTP誤飲による消化管異物も増加傾向をたどると推測される。PTP誤飲を防ぐためには,服用方法を説明する際にPTPの誤飲により重大な障害が起こり得ることを認識させることが大事である。

  • 川合 毅, 宇治 誠人, 杢野 泰司, 松原 秀雄, 三浦 泰智
    2024 年44 巻7 号 p. 861-864
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は78歳の男性。腹痛,嘔吐を主訴に救急外来を受診した。血液検査,腹部CT検査から急性虫垂炎と診断したが,炎症所見は軽微であり保存的治療を開始した。入院翌日に炎症反応の増悪を認め,腹部CTを再検し虫垂根部周囲に膿瘍形成を認めた。虫垂根部より後腹膜側へ穿通する線状構造物をこの時点で認識し魚骨による虫垂穿通と考えた。腹膜炎は限局していたため保存的治療を継続し第13病日に退院となった。炎症の再燃はなく,初診より4ヵ月で腹腔鏡下盲腸部分切除術,異物除去術を施行した。盲腸背側で膿瘍腔を開放し,虫垂根部より後腹膜へ刺入する異物を同定した。異物を後腹膜から抜去した後,虫垂根部の膿瘍壁を切除するように盲腸を自動縫合器で切離した。異物は形態から魚骨と判断した。これまで魚骨による虫垂穿孔,穿通に対して緊急手術が多く行われてきたが,自験例では待機的手術を行い良好な経過を得たので報告する。

  • 福尾 飛翔, 濱野 玄弥, 安田 拓斗, 奥村 哲, 豊田 翔, 小川 雅生, 川崎 誠康
    2024 年44 巻7 号 p. 865-869
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,女性。左下腹部痛を主訴に当院を救急受診した。左側腹部から下腹部正中にかけて両手掌大の発赤を伴う膨隆を認めた。腹部造影CT検査では同部位に130mm大の腹壁膿瘍,近傍のS状結腸に壁肥厚を指摘された。S状結腸癌による腹壁膿瘍と診断し,切開排膿および,ドレナージチューブ留置を行った。間欠吸引を行い,感染徴候の改善,膿瘍腔の縮小を認めた後にS状結腸癌に対して腹腔鏡下S状結腸切除術,D3リンパ節郭清,膿瘍部分の腹壁デブリードマン,下行結腸単孔式人工肛門造設術を施行した。デブリードマン部分は腹膜筋膜のみ縫合し皮下を開放創とし,術後陰圧閉鎖療法で閉鎖を認め,術後第41病日に自宅退院した。直腸癌を除く大腸癌症例において腹壁膿瘍を形成する症例はまれであるが,間欠吸引ドレナージを先行し,一期的に腹腔鏡下に手術で切除した症例について文献的考察を含めて報告する。

  • 竹内 正昭
    2024 年44 巻7 号 p. 871-874
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は60歳台の女性。昼食後より腹部全体に痛みを認め近医受診し,左鼠径部ヘルニアを指摘され精査,加療目的で夕方に当科へ紹介となった。腹部全体に自発痛,軽度の圧痛を認め,左鼠径靭帯よりも尾側にやや弾性硬の鶏卵大の膨隆を認めた。前医での腹部単純CT検査では左大腿ヘルニア脱出および右大腿ヘルニアを認めた。臨床所見ともあわせて左大腿ヘルニア嵌頓および右不顕性大腿ヘルニアと診断した。明らかな腸管壊死を示唆する所見は認めなかったため,まず用手的整復を行った。整復後,腹痛は軽減し,翌日,開腹法や両側前方到達法と比較し低侵襲で同一創での修復が可能な腹腔鏡下ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal approach:TAPP)を施行した。術後経過は良好で,術後第5病日に退院となった。

  • 榎本 義久, 島﨑 猛
    2024 年44 巻7 号 p. 875-878
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,女性。右下腹部の膨隆,腹痛,嘔気を主訴に受診した。右下腹部には,幼少期に虫垂炎に対して開腹手術を行った手術痕があり,小児頭大に膨隆していた。用手還納は困難であった。腹部造影CT検査では,右下腹部の腹壁瘢痕ヘルニアから胃と十二指腸が脱出しており,手術の方針とした。メッシュは使用せず,開腹でのヘルニア修復術を行った。術後経過は良好で術後4日目に退院した。腹壁瘢痕ヘルニアは,開腹手術の合併症の1つであるが,胃が脱出した症例の報告は少なく,十二指腸が脱出した症例の報告は検索し得た範囲では認めなかった。今回,虫垂切除術後右下腹部の腹壁瘢痕ヘルニアから胃と十二指腸が脱出した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 木村 暁史, 河越 環, 古賀 麻希子, 井本 良敬, 村山 道典
    2024 年44 巻7 号 p. 879-882
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,女性。腰痛のため定期的に鍼灸院で治療を受けていた。鍼灸針が折損により体内に残置されたため,摘除目的で救急外来へ搬送された。局所麻酔下に鍼の抜去を試みたが経皮的に同定できず,当科コンサルトとなった。CTを施行したところ,鍼の先端が左傍結腸溝近傍にあることが判明し,ただちに全身麻酔下に摘出することとなった。腹腔からのアプローチが容易と判断し,鏡視下手術の方針とした。腹腔鏡下に腹膜を介して伏針が透見されたため,経腹腔的に摘出した。体内に遺残した針やその他の異物は他臓器への迷入・腐食や感染の危険性があるため,可及的早期に摘除すべきと考える。鏡視下手術は低侵襲であるうえ,拡大視効果により腹腔内精査が容易である。本症例のように腹膜近傍の後腹膜に達する針状の異物に対して,腹腔鏡下経腹腔的な除去を検討する価値がある。

  • 大津 周, 村尾 佳則, 森本 大樹, 堤 綾乃, 松岡 信子, 大田 修平
    2024 年44 巻7 号 p. 883-887
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は84歳の女性。繰り返す嘔吐を主訴に当院へ紹介となり,腹部CTで幽門から十二指腸にかけての壁肥厚があり,胃軸捻転もしくは胃重積が原因と考えられる通過障害を認めた。診断的治療目的に上部消化管内視鏡検査を行ったところ,胃体部の粘膜が幽門輪へひきつれ,胃重積を認め,整復困難なため同日に腹腔鏡手術を行った。腹腔鏡下に観察すると,胃腫瘍が先進部となることで胃-十二指腸重積をきたしていた。腹腔鏡鉗子の柄で腫瘍を包むように肛門側から口側へ押し出し,腫瘍を胃内に還納したうえで,内視鏡観察下での腹腔鏡下胃部分切除術を行った。病理組織学的診断は,粘膜下層浸潤の粘液癌であった。Ball valve syndromeをきたすと腫瘍の嵌頓解除が困難なことから,十分な精査ができず緊急手術となることが多い。腹腔鏡下に嵌頓解除した報告は少なく,診断と治療に腹腔鏡が有用なことが示唆されたため若干の文献的考察を含めて報告する。

  • 大塚 敏広, 尾方 信也, 松本 亮祐, 坂東 儀昭
    2024 年44 巻7 号 p. 889-893
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は85歳の男性で,臀部痛とショックで当院救急搬送された。左臀部に圧痛を伴う発赤と腫脹を認めた。腹部CTで魚骨と思われる細長いhigh densityな異物を認めた。直腸肛門左側に遊離ガス像と周囲の脂肪織濃度上昇を認めた。直腸内異物によるフルニエ症候群が疑われ,ICUに入室し,緊急手術を施行したところ,直腸背側に魚骨が刺入していた。魚骨を除去し,直腸肛門左側を切開,排膿ドレナージを施行した。膿瘍の細菌培養からEscherichia coliなどが検出された。第3病日にデブリードメント,ドレナージを追加した。その後洗浄,デブリードメントにより,肛門周囲の感染が制御され,全身状態が改善し,第39病日目に退院した。その後,残存する瘻孔に対する手術を追加し,第197病日目に治癒した。高齢であったが,集学的治療により,救命できた魚骨によるフルニエ症候群を経験した。

  • 白井 雄史, 大島 由佳, 伊藤 慎吾
    2024 年44 巻7 号 p. 895-898
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は84歳,男性。既往に高血圧・心房細動・僧帽弁閉鎖不全があった。胸痛を契機に発見された胸部大動脈瘤に対して緊急で胸部大動脈ステントグラフト内挿術が施行された。その後,残存する解離と僧帽弁閉鎖不全に対して再手術を予定していた。経口摂取不良のため内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:以下,PEG)を施行した。翌日から経管栄養を開始したが,嘔吐のため適宜メトクロプラミドを使用し改善していた。PEG後11日目,術前評価の造影CTで腸管・門脈気腫症を認め外科コンサルトとなった。発熱なく,採血データや腹部所見に乏しかったが,院内発生であり基礎疾患を考慮,試験開腹術を施行した。しかし,腸管壊死は認めなかった。術後心不全・肺炎を併発し再手術不能となり,施設へ退院した。PEG後に発生した腸管・門脈気腫症に対して,手術が過大侵襲であった1例を経験した。

  • 渡部 希美, 藤崎 洋人, 金子 靖, 葉 季久雄, 高野 公徳
    2024 年44 巻7 号 p. 899-902
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    患者は60歳,女性で,2週間前から持続する右上腹部の有痛性腫瘤を主訴に当院を受診した。腹部CT検査では,胆囊萎縮,壁の全周性肥厚,および胆囊底部から連続する腹壁膿瘍が認められた。以上より,急性胆囊炎,胆囊皮膚瘻,腹壁膿瘍と診断した。まずは胆囊と腹壁の2ヵ所に対して経皮的ドレナージを行った。炎症所見はすみやかに改善したが,腹壁膿瘍腔内に複数の落下胆石が認められた。そのため,入院23日目に腹腔鏡下胆囊亜全摘術,瘻孔切除術,経皮的採石を実施した。術後経過は良好で術後5日目に退院した。退院後も腹壁膿瘍や胆管炎の再発は認めていない。複雑な感染状態であったが,はじめに経皮的ドレナージを行い,その後待機的な腹腔鏡手術と経皮的採石を行うことで,安全かつ低侵襲な治療を完遂することができた。

  • 兼松 理彦, 岡田 禎人, 太平 周作, 鈴木 和志, 石田 陽祐, 秋山 荘二郎, 平出 康介
    2024 年44 巻7 号 p. 903-906
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は糖尿病,高血圧,うっ血性心不全を既往にもつ77歳,男性。2022年X月,右下腹部痛を主訴に当院の救急外来を受診した。腹部造影CT検査で回盲部腸管の壊死と診断され,同日緊急手術を行う方針とした。手術所見で終末回腸・盲腸・上行結腸の一部に限局した壊死を認めたが,そのほかの小腸・大腸には変色や壊死はなかった。回盲部切除を行い,上行結腸,回腸で二連銃式人工肛門を造設した。病理組織学的所見では明らかな血栓や血管炎を認めず,壊死が回盲部に限局していることから,盲腸枝のみに血管れん縮が起きたと考えられた。れん縮を惹起する急性疾患が指摘できず限局した壊死であることから非閉塞性腸管虚血症とは異なる病態であり,特発性の血管れん縮による腸管因子の関与のない壊死型虚血性腸炎と捉えることができた。

  • 安藤 崇史, 安達 光生, 松島 宏和, 菊池 雅之, 内田 香名
    2024 年44 巻7 号 p. 907-911
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    回腸子宮内膜症は腸管子宮内膜症の7%を占めるまれな疾患である。われわれは回腸子宮内膜症による腸閉塞に対し,緊急手術を施行した閉経後女性の1例を報告する。腸管子宮内膜症は腹痛,血便,腸閉塞などの症状を引き起こす。術前診断は困難で術中に診断されることも多い。子宮内膜症組織が経血を介して筋層や漿膜下層に存在するため,内視鏡検査では特徴的な所見が少なく組織生検による診断は困難である。診断にはMRI検査,マルチスライスCT検査,CA-125などの有用性が報告されているが救急外来での迅速な術前診断は困難である。子宮内膜症はエストロゲン依存性疾患だが,閉経後の女性の2~5%に子宮内膜症を認める。閉経後の子宮内膜症は機序が明らかでない。閉経後の腸管子宮内膜症の報告は1例のみで非常にまれである。原因が特定できない急性腹症例は,閉経後女性であっても腸管子宮内膜症を鑑別する必要があると考えられた。

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