日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
ISSN-L : 0011-1848
83 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
研究論文
栽培
  • 磯部 勝孝, 黒瀬 知子, 佐々木 佑起, 染谷 友輝, 寺澤 章好, 肥後 昌男, 鳥越 洋一
    2014 年 83 巻 3 号 p. 195-202
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    近年,我が国のダイズの単収がアメリカの単収と差が拡大しつつある中,早播き栽培など耕種的な手法によってダイズの単収を向上させることは我が国のダイズ自給率を上昇させるためにも重要なことである.しかし,梅雨時期より早播きして子実収量が増えても莢先熟の発生が著しくなれば高品質なダイズを生産することが困難になると考えられる.そこで関東地方およびその周辺地域で作付面積の高いダイズ品種を用いて,早播きによる莢先熟の発生状況と子実収量の品種間差を明らかにすることを目的とした.圃場実験を2011年と2012年に日本大学生物資源科学部付属農場(神奈川県藤沢市)で行った.供試品種は2011年がエンレイ,タチナガハ,オオツル,ナカセンナリ,タマホマレの5品種,2012年がエンレイ,タチナガハ,ギンレイ,納豆小粒,タマホマレの5品種である.播種日は2011年が5月19日で,2012年が5月29日である.栽植密度は両年共に,畝間60 cm,株間15 cm,栽植密度11.1本/m2の1本立てとした.2011年は開花盛期,子実肥大盛期とも葉面積指数に品種間差が認められず,開花盛期から子実肥大盛期のCGRも品種間差がなかった.その結果,子実収量に品種間差が認められなかった.2012年は葉面積指数やCGRに品種間差が認められ,納豆小粒やタマホマレで高い値を示し,これらの品種では単位面積当たりの子実収量も高かった.成熟整合性程度は両年とも品種間差が認められ,両年ともタチナガハやエンレイでは成熟整合性程度が3.0以下で供試した品種の中では莢先熟の発生が著しかった.これらの品種は播種から成熟期までの日数が短く,特に5月に播種した場合,播種から開花盛期までの日数が短い品種で莢先熟が発生しやすいことが明らかになった.また,成熟整合性程度と主茎や分枝の節数および開花盛期までの日数と総節数,主茎節数および分枝節数との間にも高い正の相関関係が認められた.このようなことから,関東南部で5月にダイズを播種する場合,タマホマレのように播種から開花盛期までの日数が長い品種で収量が高くなり,しかも莢先熟があまり発生せず,高い品質の子実を得ることができると考えられた.
  • 古畑 昌巳, 原 嘉隆
    2014 年 83 巻 3 号 p. 203-209
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    全国で水稲直播栽培の普及面積が最も大きい北陸地方でも普及程度は地域によって異なり,内陸部では比較的定着傾向が認められるものの,沿岸部では定着しにくい傾向がある.一般に沿岸部では海風があり,海風によって日中の気温が上昇しにくいことから,平均気温が同じであっても,風が気温日較差を小さくすることによって湛水直播水稲の出芽・苗立ちおよびその後の生育経過に影響していることが考えられる.そのため,野外のポット試験で防風区と無防風区を設置して,出芽・苗立ちを比較した結果,防風区は,無防風区に比べて最高気温が高まって気温日較差が大きくなり,出芽・苗立ち率が向上した.次に,催芽種子と恒温器を利用して,異なる平均気温,気温日較差条件で出芽・苗立ちを調査した結果,気温日較差の影響は,播種後低温条件が播種後高温条件に比べて大きかった.また,播種後低温条件では,気温日較差が大きい区は気温日較差が小さい区に比べて出芽・苗立ちは早まり,茎葉部乾物重が大きい傾向を示した.さらに,出芽時における出芽率の実測値とアレニウス式 (温度依存反応式) による推定値はほぼ同様の推移を示した.
  • -低温条件下で異なるコーティング種子を用いた解析-
    古畑 昌巳, 原 嘉隆
    2014 年 83 巻 3 号 p. 210-215
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    前報では,催芽種子と恒温器を利用して,異なる気温,気温日較差条件で湛水直播水稲の出芽・苗立ちを調査した結果,気温日較差の影響は,播種後低温条件が播種後高温条件に比べて大きいこと,播種後低温条件では,気温日較差が大きい区は気温日較差が小さい区に比べて生育量が大きくなることを明らかにした.本研究では,過酸化カルシウムコーティング種子,鉄コーティング種子,無コーティング種子を供試して試験を行った結果,過酸化カルシウムコーティング種子は,鉄コーティング種子と無コーティング種子に比べて出芽・苗立ちが優れ,気温日較差の影響が小さいことが明らかとなった.また,播種後低温条件では,平均気温が同じであっても気温日較差が大きい区は,気温日較差が小さい区に比べて出芽・苗立ちが早まって出芽・苗立ち率が向上するとともに生育量を確保しやすいこと,出芽時における出芽率の実測値とアレニウス式 (温度依存反応式) による推定値はほぼ同様の推移を示すことが,供試したすべてのコーティング種子で確認された.
  • 藤田 与一, 服部 誠, 樋口 泰浩, 南雲 芳文, 細川 寿
    2014 年 83 巻 3 号 p. 216-222
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    新潟県において,耐倒伏性が強いダイズ品種「タチナガハ」を用いて,ダイズの被覆による抑草効果が期待される畝立て狭畦栽培の現地実証試験を行い,ダイズの生育,収量および雑草発生量について検討した.狭畦栽培における成熟期の生育は畝立て播種栽培 (慣行) と比べて主茎長は長く,倒伏程度は微から少程度で,収穫作業に支障のない程度であった.収量は慣行並に確保され,百粒重は慣行より大きかった.ダイズ群落内の相対光合成有効放射 (相対PAR) は,狭畦栽培では播種後50日頃から雑草発生が抑制される10%以下に近い数値を示し,畝間をダイズが早期に被覆した.雑草発生量は播種1ヵ月後に生育期除草剤を散布することによって,収穫時には中耕培土を行う慣行栽培並以下に雑草量の抑制が可能であった.以上のことから,「タチナガハ」の狭畦栽培では雑草が発生し始める,播種後10日~30日頃の生育期除草剤の散布のみにより,十分な抑草効果が得られ,慣行栽培での中耕培土の作業が緩和されることで除草作業が効率化し,大規模ダイズ生産において高品質安定生産につながると思われた.
  • 大平 陽一, 白土 宏之, 山口 弘道, 福田 あかり
    2014 年 83 巻 3 号 p. 223-231
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    漏生イネ防除技術の開発に資するために,インド型品種「タカナリ」と日本型品種「萌えみのり」の種子を,石灰窒素に水を加えて調製したシアナミドを含む水溶液 (CS) に浸漬し (CS処理) ,その後に発芽試験を行うことで,種子休眠性と発芽能力に及ぼす石灰窒素の影響を検討した.15℃条件で5日間のCS処理を施すと,両品種とも置床後20日目の発芽率は,CS中のシアナミド濃度が170~340 mg L-1の場合に高く,340 mg L-1を超えると次第に低くなった.また,CS中のシアナミド濃度が3140~3377 mg L-1の場合,置床後20日目の発芽率は,0.5~3日間のいずれかのCS処理期間で高く,その期間を超えると低くなった.これらのことから,石灰窒素は,処理量や処理期間に応じて水稲種子に対して休眠覚醒効果とそれに続く発芽阻害効果を持つことが明らかになった.こうした石灰窒素の特性から,水稲収穫後の石灰窒素散布は,圃場に残留した種子を休眠覚醒させて冬季に種子が死滅しやすくなる,あるいは種子の発芽能力自体を消失させる効果を有することが示唆され,漏生イネ防除に利用できる可能性が示された.CSの影響の程度には品種間差異があり,また同一品種でも用いる種子の生産年次や休眠程度によって差異があったことから,今後,圃場レベルの石灰窒素を利用した漏生イネ防除技術を検討する上で留意する必要があると考えられた.
作物生理・細胞工学
  • 中山 則和, 大野 智史, 細野 達夫, 関 正裕
    2014 年 83 巻 3 号 p. 232-241
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    縮緬じわが生じたダイズ品種「エンレイ」の種子について,吸水特性,冠水処理時の障害の発生程度,種子活力を,しわの生じていない整粒との比較で調査した.冠水条件下の種子の吸水速度に縮緬じわ粒と整粒で有意差は認められなかったが,冠水後の縮緬じわ粒にのみ外観に凹みや括れによる変形が見られたことから,縮緬じわ粒では種子の膨潤が不均等に起こっていることが示唆された.種子の臍部からの吸水速度は,吸水開始から3時間までは縮緬じわ粒と整粒に有意差は見られなかったが,3時間以降では縮緬じわ粒で有意に高くなり,6時間後の吸水量は整粒に比べて40%多くなった.一方,縮緬じわ粒の側面部と背面部からの吸水は,整粒に比べてそれぞれ12,16%低かった. 24時間の冠水処理を施した種子の出芽率は,縮緬じわ粒で整粒よりも有意に低かった.さらに,冠水処理した縮緬じわ粒の実生では,整粒に比して,子葉の損傷程度は大きく,生育量は小さかった.老化促進試験により評価した種子活力は,縮緬じわ粒が整粒よりも低かった.以上の結果から,縮緬じわが生じた種子は,外観品質が損なわれているのみならず,吸水特性が変化しているとともに,整粒に比べて冠水障害を受けやすいと判断された.縮緬じわ粒において冠水障害が重度に生じた原因の詳細は明らかではないが,種子の不均等な膨潤により種子組織の物理的な破壊が助長された可能性や,縮緬じわ粒の種子活力を低下させる何らかの要因が関与している可能性が考えられた.
収量予測・情報処理・環境
  • 松田 裕之, 中場 勝, 森 静香, 藤井 弘志
    2014 年 83 巻 3 号 p. 242-248
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    地球温暖化によるイネ生育期間の気温上昇は出穂期を前進させ,その程度は東北地方において県や都市により異なることが知られている.本試験は山形県の中で日本海沿岸部に位置する庄内地域および内陸部の盆地に位置する村山地域の試験場で栽培したイネ品種「ササニシキ」の作況試験結果 (1980年以降) を用いて,移植から最高分げつ期の気象条件 (平均気温,日射量) と最高分げつ期の生育の年次推移および気象条件と生育の関係を解析した.いずれの地域でも移植から最高分げつ期の気象条件が1980年以降変化しており,庄内地域では平均気温の上昇が,村山地域では日射量の減少が認められた.最高分げつ期の生育について,庄内地域では最高分げつ期の前進,最高分げつ期茎数の減少およびイネ体乾物重の増加が,村山地域では最高分げつ期茎数の減少が認められた.庄内地域における最高分げつ期と最高分げつ期茎数は平均気温と負の相関を示し,イネ体乾物重は平均気温と正の相関を示した.村山地域における最高分げつ期茎数は日射量と負の相関を示した.以上より,移植から最高分げつ期の気象と生育の年次推移,および気象条件が最高分げつ期のイネ生育に及ぼす影響は,同じ山形県においても立地条件により差があることが明らかとなった.また,両地域ともに最高分げつ期の茎数減少は,収量構成要素である穂数の減少に繋がった.
  • 中園 江, 大野 宏之, 吉田 ひろえ, 佐々木 華織, 中川 博視
    2014 年 83 巻 3 号 p. 249-259
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    茨城県つくば市において複数年次,複数作期で栽培した農林61号,シロガネコムギ (以上,秋播性程度II),さとのそら (秋播性程度IV) の発育データから,DVR (発育速度) とその積算値であるDVI (発育指数) を用いた方法により,出穂期,成熟期に加えて出芽期,茎立期,開花期を推定可能な発育予測モデルを開発した.茎立期には年次および品種による差が大きく現れた.播種期が早い場合,秋播性程度の高いさとのそらは他の2品種よりも茎立期が遅れ,播種期が遅くなると茎立期の品種間差は小さくなった.出芽期から茎立期の発育相では気温に加えて日長の影響も取り入れたDVR式がよく当てはまった.その他の発育相では,気温のみのDVR式で生育期間の変化を表すことができた.播種から成熟までを,出芽期,茎立期,出穂期,開花期で分割した発育モデルにより,関東地域および全国で行われた栽培試験の出穂期および成熟期を推定したところ,茎立期,出穂期および成熟期を二乗平均平方根誤差 (RMSE) 4から6日の誤差で推定可能であった. ただし,出穂期と成熟期のみを予測する目的では,播種期から成熟期を出穂期で2相に分割するモデルの推定精度のほうが高かった.
研究・技術ノート
  • 石川 哲也, 草 佳那子, 鈴木 保宏
    2014 年 83 巻 3 号 p. 260-266
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    イネ科作物の分げつ次位が,着生する穂の穎花数や粒重に及ぼす影響について,さまざまな研究が行われてきた.これらの調査結果を,分げつ構造をふまえて処理間で比較するため,イネの分げつ構造を模式的に図示し,個々の分げつについての調査結果を対応させて表示するプログラムを作成して,その有用性について検討を行った.イネの多様な分げつ構造は,リスト形式を用いて統一的に記述することが可能である.また,標準的な表記法により表形式で保存された分げつ構造の調査結果は,表計算プログラムの並べ替え機能と文字列操作関数を利用して,リスト形式に変換できる.描画プログラムの作成には,プログラム言語Logoを採用し,タートルグラフィックス機能と再帰的呼び出し機能を活用した.本プログラムでは,主稈と1次分げつを太い線で強調して描画することや,「長円形」で描画される穂を,分げつの次数に応じて描画面における位置を揃えることができる.さらに,定性的情報である分げつの有効・無効を示すだけでなく,定量的情報である着生葉数や1穂当たり籾数などを,任意に設定できる階層で区分し,描画した穂の内部を塗り分けることにより表示できる.本プログラムで描画された模式図は,分げつの長さや立体的配置は正確ではないが,分げつ間の相対的な関係は正しく表現され,栽培条件に応じて変動する分げつの構成や,個体内分げつ間の生育競合などを直観的に把握することが可能である.本プログラムは農研機構職務作成プログラムとして認定され,所定の手続きにより利用可能である.
  • 中道 浩司, 五十嵐 俊成, 高松 聡, 佐藤 三佳子, 柳原 哲司
    2014 年 83 巻 3 号 p. 267-272
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    2007,2008年に播種した「きたほなみ」の越冬前の主茎葉数と株当たり茎数を調査した.株当たり茎数は,主茎葉数の増加とともに指数関数的に増加した.主茎葉数と株当たり茎数との関係は,指数関数モデルが良く当てはまり,主茎葉数から株当たり茎数を推定することが可能であった.また,主茎葉数および株当たり茎数と播種日からの有効積算気温との関係を解析したところ,主茎葉数では7葉,株当たり茎数では14本を最大値とするロジスティック曲線を利用することで,播種後の有効積算気温から越冬前の主茎葉数と株当たり茎数とを推定することが可能であった.
日本作物学会ミニシンポジウム要旨
feedback
Top