私は、1971年以来鍼麻酔の臨床応用として低周波鍼通電療法を実践してきた。この方法の基礎的考え方は、病態生理に対応した治療法を選択するところにある。選択における要素は、病態の存在する組織の選択と治療目的に対応した周波数および刺激時間の選択である。ここでいう病態とは、原因に関連する病態 (腰痛における、筋、神経根、椎間関節部周辺の軟部組織など) と、二次的・反射的に生じた病態 (腰痛における下肢筋の緊張アンバランス、痛み疾患における常道反応としての感覚閾値の上昇および精神緊張など) をいい、それぞれについて現実にそのような病態が存在するか否かを診察し、原因に関連する病態のみに治療する場合と、原因および二次的な病態を治療対象とする場合がある。この二次的、反射的に生じた病態に対しての治療も、その病態に直接関連する組織 (筋、感覚神経など) を治療対象としている。よって病態の存在しない遠隔部に刺激する方法とは、基本的に考え方が異なる。とくに遠隔部治療の機序として「経絡理論」を根拠とすることは、「経絡の存在についての証明」「治療効果についての証明」という二重仮説になり、不確実さの度合いは高くなる。このような不確実な治療を行い患者に対する責任がほんとうに負えるとは考えられない。
そこで今回は、このような考え方で進めてきた低周波鍼通電療法について、筋パルス・神経パルス・椎間関節パルスなど運動器疾患に応用している治療法について概説する。
遠隔部刺激による効果の生理学的機序としては、交感神経性分節性脊髄反射・上脊髄性副交感神経反射・広範囲侵害抑制・常同反応などが考えられる。しかしこの機序には、必ず感覚神経への刺激の入力が必要であり、多くのシナップスを経由して遠心路にはいり効果を発揮する。局所刺激に比較してこの方法では、多くのシナップスを経由することから、刺激による効果の再現性は低下する。臨床の現場において再現性の低い治療法を選択しなければならない必然性はどこにあるのであろうか?
薬物を含め治療に要求されることは、短い治療期間、少ない負担 (身体的侵襲、医療費) などである。このように医療経済から考えても、遠隔部治療を選択できる根拠は少ないと考える。
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