1. 2.7m四方のコンクリートわく (無底, 土壌は洪積性の壌土) に栽値されていた16年生温州ミカンを, 1樹あたりに年間0g (No), 200g (Nl), 400g (Nm), 800g (Nh) のN施用量を違えて4年間栽培し, この間の葉中Nの推移からみたN栄養の違いと果汁品質の変化をしらべた。N肥料には硫安と硝安を用いた。
2. 葉中のNは, 1年めには各区の間に有意な差がなく, 2年めの8~10月にはNhで3.2~3.3%, NmとNlで3.0~3.1%, Noで2.8%前後に変わり, NhとNmおよびNlとの間, NoとNlおよびNmとの間にはあきらかな差があり, NlとNmとの間には有意な差がなかつた。葉中のNには年度によつて高低があつたが, 以上の区間の差は, 3年めおよび4年めも同じであり, 2年め以降は, NhとNm•NlとNoとの間では, 樹体のN栄養レベルに違いがあることを示した。なお, Noの葉中Nは4年めの10月末には2.60%附近まで減少した。
3. 4か年の間に, Nhでとくに枝葉の生長が盛んになり, 反対にNoで樹の衰弱が極端に著しくなる状態はみられず, 4年間の収量は各区とも同じであつた。ただ, 葉色がNhで濃くなり, Noでかなり淡くなる違いはあり, NmとNlとの間には差がなかつた。
4. 果汁の糖度 (Brix) および可溶性固形物は, 1年めには各区の間に差がなく, 2年め以降はN施用が増すにつれて高くなつたが, とくに2年めと3年めにはNoとNmとの間, NlとNhとの間で有意な差があり, 4年めには各区間で差があつた。酸は, 1年めにはN増施につれて高くなる傾向があつたが有意な差がなく, 2年めには糖度または可溶性固形物と同じ傾向を示し, 3年めと4年めには各区間に有意な差を生じ, N増施につれて酸が増加した。
5. 果汁の甘味比 (可溶性固形物対酸の比) は, 4年めを除くと, N増施につれて小さくなり, N施用の増減あるいは樹体のN栄養レベルの違いは, 可溶性固形物よりも酸のほうに著しく影響することを示した。なお, N施用の増減は果皮の着色の遅速や橙色の色調にも変化をもたらした。
6. 着果量に多 (小果) 少 (大果) がある一部の樹の果実の品質には, 小果のほうにN栄養の強い影響があらわれた。また年度間の気象要因の違いによる品質差は, N栄養の違いによる品質差よりもはなはだ大きかつた。ただし, とくにN施用が過剰のため果汁の酸の増加が著しいときには (たとえばNhの酸), 気象要因の影響をあまり強調できなかつた。
7. 果汁品質には, 収穫よりかなり以前の時期からN栄養の違いによる差が認められた。また, N肥料の種類が品質に及ぼす影響については, とくに硫安と硝酸石灰施用の幼木のモデル試験からあきらかにし, 硫安と硝安連用によつてある程度の品質差があることを見出した。
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