園芸学会雑誌
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75 巻, 6 号
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原著論文(英文)
  • 山根 崇嘉, 柴山 勝利
    2006 年 75 巻 6 号 p. 439-444
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/27
    ジャーナル フリー
    着果量の異なるブドウ‘安芸クイーン’(Vitis labrusca L. × V. vinifera L.) 樹において主幹への環状はく皮処理が果実品質および根の伸長に及ぼす影響について調査した.少着果のはく皮処理区では,多着果のはく皮無処理区に比べ,果皮のアントシアニン含量が大きく上昇した.加えて,少着果のはく皮処理区では,果実糖度が他のいずれの区よりも高くなった.酸含量は処理の影響を受けなかった.一方,着果の多少にかかわらず,はく皮処理は新根の発生を約 2 週間停止させた.根の伸長は着果量の影響を強く受け,はく皮部がゆ合した後の新根の伸長は,少着果で旺盛であった.以上より,着果量が少ない場合,環状はく皮は果実品質を大きく向上させ,また,根の伸長量が大きいことが明らかとなった.
  • 潘 春香, 中尾 義則, 新居 直祐
    2006 年 75 巻 6 号 p. 445-449
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/27
    ジャーナル フリー
    ビワ根の内皮側の皮層細胞にみられる細胞壁の内部成長 (phi 肥厚)と内皮のカスパリー線の形成過程を検討した.phi 肥厚は根端から約10 mm の部位から出現し,30 mm 付近でほぼ最大に達した.内皮側の皮層の第 1 層目に出現した Phi 肥厚は中心柱を取り囲むようにほぼ一斉にみられ始め,根の齡が進むとともに第 2~3 層目にも出現した.Phi 肥厚が内皮を囲むようにリング状に発達した段階でも,カスパリー線の発達はその初期段階であり,内皮の細胞壁に点状に観察された.カスパリー線の発達は師部に面した部位の細胞壁から出現し,根の齡が進むにつれて,すべての内皮にみられるようになった.phi 肥厚とカスパリー線の形成過程の時間的な差異からみて,ビワ根ではカスパリー線の発達する前に phi 肥厚がみられた.カスパリー線が内皮全体に発現する段階になると,phi 肥厚をともなった皮層組織と内皮との間に離脱帯が形成され,次第に皮層が脱落した.根の齡が進むにつれて,内しょうの細胞層数が同心円方向に増加し,スベリンの蓄積と考えられる自家蛍光が観察できるようになった.カスパリー線の形成は褐色根においては白色根よりも根の先端に近い部位から発達した.phi 肥厚は土壌を乾燥させて生育させた根において,乾燥させていない根に比べて顕著であった.ビワ根にとって phi 肥厚の増大は土壌乾燥に対する防御機構の一つと考えられる.
  • 松本 和浩, 田村 文男, 千 種弼, 田辺 賢二
    2006 年 75 巻 6 号 p. 450-457
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/27
    ジャーナル フリー
    アジア原産ナシ台木種:Pyrus betulaefoliaP. pyrifolia および P. xerophila と地中海沿岸原産ナシ台木種:P. amygdaliformis および P. elaeagrifolia の耐塩性の差異を,75 mM および150 mM の NaCl 溶液を30日間処理し,調査した.地中海沿岸原産台木種は30日間の NaCl 処理期間中,いずれの処理区においても葉に障害は発生しなかった.一方,アジア原産台木種は NaCl 処理により葉に障害が発生した.根幹,細根および 1 個体当たりの Na および Cl 含量に原産地による大きな差異はみられなかった.しかし,葉の Na および Cl 含量は,いずれの NaCl 濃度においても地中海沿岸原産台木種の方がアジア原産台木種に比べ著しく少なかった.したがって,地中海沿岸原産台木種 P. amygdaliformis および P. elaeagrifolia は,根幹に Na および Cl の葉への移動を抑制する何らかの機構を備えているものと考えられた.Stem water potential 値および Ci/Ca 値は NaCl 処理に伴い原産地にかかわらず低下したため,光合成速度の低下要因のひとつは体内の水ポテンシャルの低下による気孔の閉鎖であることが示唆された.しかし,地中海沿岸原産台木種における NaCl ストレス下の光合成速度はアジア原産台木種に比べ高かったことから,地中海沿岸原産台木種の葉の Na および Cl 含量が低いことが光合成速度の低下抑制に寄与した可能性が示唆された.本実験結果は地中海沿岸原産ナシ台木種:P. amygdaliformis および P. elaeagrifolia はアジア原産ナシ台木種:P. betulaefoliaP. pyrifolia および P. xerophil に比べ強い耐塩性を持つことを示すものである.地中海沿岸原産台木種はニホンナシの耐塩性台木を育成する上で重要な遺伝資源となるものと考えられた.
  • 山根 崇嘉, 柴山 勝利
    2006 年 75 巻 6 号 p. 458-462
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/27
    ジャーナル フリー
    ブドウ‘安芸クイーン’ポット植え樹(3 年生)を供試し,成熟期における時期別の温度処理が果皮の着色および果実形質に及ぼす影響について調査した.温度処理は 2 つの温度条件(高温区:夜温,19:00–7:00,33℃および昼温,7:00–19:00,28℃,低温区:夜温23℃および昼温18℃)に設定したコイトトロンで行った.処理期間は 1 週間とし,着色開始後 4–11日目(ステージ I),11–18日目(ステージ II),18–25日目(ステージ III)および25–32日目(ステージ IV)の合計 4 時期の処理を行った.高温区ではステージ I の処理開始後数日を除き,すべての処理時期で着色が抑制された.低温の影響は処理時期により大きく異なり,ステージ I の処理開始後 5 日目からステージ III の処理開始後 3 日目までの間,低温により着色が大きく向上した.アントシアニン含量は,処理直後ではステージ II の低温区で最も高い値となった.これらの結果から,着色開始後 8~21日目が果皮の着色にとって温度の感受性が高い時期であることが明らかとなった.酸含量については処理時期により差が認められ,ステージ I の低温区で減酸が大きく阻害された.
  • ルット キプコリオニー L., 水谷 房雄
    2006 年 75 巻 6 号 p. 463-468
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/27
    ジャーナル フリー
    根への菌根菌の接種と活性炭処理がモモの根樹皮抽出物を処理したモモ実生の成長と栄養に及ぼす効果と菌根菌の感染率,土壌における菌根菌の胞子密度に及ぼす効果について温室内で調査をした.菌根菌を接種した実生は接種していない実生に比べて生育が優れ,生育量が多かったが,モモの根樹皮抽出物を処理した区では,菌根菌の接種の有無にかかわらず実生の成長を抑制した.活性炭処理は根樹皮抽出物処理による成長に対する負の効果をわずかに軽減したが,菌根菌共生の効果を減少させた.それは活性炭が宿主植物から出される感染を引き起こすシグナル物質を吸着することによるのではないかと思われた.菌根菌を接種した実生では,P と Ca 含量が高くなる傾向が見られた.菌根菌を接種した場合,菌根菌の感染率は処理間に差が見られなかったが,活性炭処理をしない場合,根樹皮抽出物は胞子形成を促進した.これらの結果は,モモ根樹皮抽出物による生育抑制を軽減するには,まず菌根菌の共生を確立させてから,活性炭を処理するのが良いことを示唆している.
  • 杉山 充啓, 小原 隆由, 坂田 好輝
    2006 年 75 巻 6 号 p. 469-475
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/27
    ジャーナル フリー
    スイカ緑斑モザイクウイルス (CGMMV) は,メロンモザイク病の主要病原ウイルスの 1 種で,接触伝染,種子伝染および土壌伝染する.しかし,CGMMV 抵抗性品種は育成されておらず,無病徴感染する ‘Phoot’ および ‘Kachri’ がみいだされているにすぎない.そこで,CGMMV 抵抗性素材をみいだすために,メロン遺伝資源152品種・系統の SH 株 (CGMMV-SH) に対する抵抗性を評価したところ,韓国のマクワウリ ‘Chang Bougi’ は CGMMV-SH に対して抵抗性を示すことをみいだした.本研究では,CGMMV-SH を接種した ‘Chang Bougi’ 植物の温度に対する反応およびウイルスの蓄積を調査した.24℃条件では,接種25日後においても病徴は認められず,12個体中 1 個体の接種上位葉から僅かにウイルスが検出された.一方,30℃条件では,接種後15日から20日で接種上位葉に退緑斑が出現し,12個体中 1 個体の接種上位葉からウイルスが検出された.また,平均室温27.3℃のガラス室内における条件では,接種30日後から接種上位葉に病徴が認められた.抵抗性 ‘Chang Bougi’ および罹病性 ‘Perlita’ の子葉の半分に CGMM-SH を接種して,接種部と非接種部でのウイルスの蓄積を調査した.接種部におけるウイルスの蓄積は ‘Chang Bougi’ および ‘Perlita’ で同様な傾向を示し,ウイルスは速やかに増加,蓄積した.また,‘Perlita’ の非接種部でも僅かに遅れるもののほぼ同様に増加,蓄積した.一方,‘Chang Bougi’ の非接種部では接種10日後までウイルスは検出されなかった.また,‘Chang Bougi’ に CGMMV-W および KGMMV を接種したところ,これらのウイルスに対して罹病性であった.以上の結果から,‘Chang Bougi’ に CGMMV-SH を接種した場合,30℃条件では病徴が発現しやすくなること,‘Chang Bougi’ の CGMMV に対する抵抗性は SH 株に特異的であること,また,抵抗性はウイルスの移行抑制に起因するものと考えられた.
  • 梁 修静, 北村 嘉邦, 細川 宗孝, 矢澤 進
    2006 年 75 巻 6 号 p. 476-480
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/27
    ジャーナル フリー
    セントポーリアの葉を 6~9 枚摘葉することで傷つけ処理を行った植物体では,通常は低温障害を発生しない温度である11℃でも葉に低温障害が発生した.傷つけ処理を施した植物体をすぐに異なる温度のインキュベーターに搬入し 1 時間の温度処理を行ったところ,温度が低い処理区ほど障害の発生が著しかった.また,摘葉枚数を変える傷つけ処理を行ったところ,摘葉枚数が多いほど,7℃条件下における低温障害の発生が著しかった.これら 2 つの実験から,セントポーリアは傷つけ処理によって温度に対する障害発生の感受性が増大すること,傷つけ処理の大きさが大きくなるほど低温に対する感受性が増大することが明らかとなった.さらに,傷つけ処理を行った植物体を様々な時間間隔をおいて低温環境下(7℃)へ搬入したところ,傷つけ直後の植物体では著しい低温障害が発生したが,傷つけ処理30分後の植物体では低温障害の発生はほとんど見られなかった.このことから,傷つけ処理による低温感受性の増大は一時的なものであり,時間とともに消失することが明らかとなった.以上のことから,植物体の低温感受性の評価には植物体に傷つけ処理をはじめとした物理的な刺激を与えない注意が必要であると考えられた.
  • 立木 美保, 遠藤 敦史
    2006 年 75 巻 6 号 p. 481-487
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/27
    ジャーナル フリー
    強力なエチレン作用阻害剤である 1-メチルシクロプロペン (1-MCP) は,エチレンにより制御されている果実の成熟を阻害する.1-MCP はエチレン受容体と不可逆的に結合し,新たなエチレン受容体が合成されることでエチレン感受性が戻ると考えられていることから,エチレン受容体様遺伝子の解析は 1-MCP の効果を考える上で重要である.リンゴ果実から 3 種類のエチレン受容体様遺伝子 (Md-ETR1, Md-ERS1, Md-ERS2) を単離し,1-MCP 処理および無処理の‘王林’,‘ふじ’果実におけるこれらエチレン受容体様遺伝子の発現様式を解析した.1-MCP 処理により両品種においてエチレン生成量が抑制され,Md-ERS1 および Md-ERS2 の発現が抑制されたが,Md-ETR1 はわずかに抑制されたにすぎなかった.リンゴにおいて 1-MCP が高い鮮度保持効果を示す理由として,1-MCP 処理を行うことによりエチレン生成が抑制され,Md-ETR1 の発現が完全に抑制されないことが考えられた.Md-ERS1 および Md-ERS2 の発現量は,貯蔵性の高い品種‘ふじ’において多かった.エチレン受容体はエチレン情報伝達系を負に制御していることから,‘ふじ’ではエチレンに対する感受性が低い可能性が考えられた.
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