高地温によるキュウリ個葉の光合成阻害機構を明らかにするために,葉の水分状態,葉と根のABA含量,光合成および種々の光合成関連パラメータを調査した.人工気象室(昼/夜気温30/25℃,光強度250μmol・m
-2・s
-1,相対湿度70/80%;日長14時間)において,地温30℃で水耕栽培したキュウリ苗('四葉')が第1本葉を完全展開したとき,地温30℃と38℃の2処理区を設け,10日間処理を行った.生育は高地温(38℃)で著しく抑制されたが,葉の萎れや黄化はみられなかった.高地温区では,処理4日目以降に,拡散伝導度の低下とABA含量の増加が起こり,拡散伝導度の低下とABA含量の増加の間に高い相関(R
2=0.946)が認められた.葉の水ポテンシャルは両処理区において処理6日目までに急激に低下したが,低下程度は高地温区の方が大きくその後も低く維持された.しかしながら,雨区の差は明確ではなかった.葉の光化学系活性は地温の影響を受けなかったが,CO
2交換速度(CER)は処理4日目から8日目にかけて直線的に低下した.処理8日目に葉の背軸側表皮を剥離して気孔の影響を取り除くと,高地温区の拡散伝導度は常温区とほぼ同じ値に高まったが,CERは有意に増加したものの常温区の値より低く,完全には回復しなかった.このことから,高地温下では気孔閉鎖のほかに葉肉細胞の炭酸固定活性の低下が起こっていると考えられたので,Rubiscoの初期活性と全活性を調べた.その結果,高地温区では初期活性が低く,Rubiscoの活性化状態が低下していることが明らかとなった.以上の結果から,高地温による光合成阻害には,ABA含量の高まりによる気孔閉鎖とRubisco活性の低下が関係していると考えられる.
抄録全体を表示