デルフィニウムのがく片はエチレンの働きによって脱離するが,エチレン作用阻害剤を用いることでその脱離を防ぐことができる.しかしエチレンの作用を抑制しても,かく片が萎れ,雌ずいが発達して切り花品質が低下する.従って,かく片の萎れと雌ずいの発達にはエチレン以外の要因が考えられ,本研究では糖代謝に着目して検討を行った.STSで処理したデルフィニウム小花において,採花4日から9日後の間にがく片は顕著に萎れ,これには新鮮重の低下が伴った.またこの間,雌ずいは発達し続けた.かく片の可溶性糖を小花当たりでみた場合,採花4日から9日後にかけて水分音量と同様に1/2程度に減少していた.従って,可溶性糖の減少によるがく片の浸透圧の低下が萎れを引き起こした可能性が考えられた.デルフィニウムの転流糖はスクロースとマンニトールであると考えられているので,シンクにおいてこれらを代謝するスクロース合成酵素(SS),酸性インベルターゼおよびマンニトール脱水素酵素(MDH)の活性の小花の品質低下に伴う変動を調べた.その結果がく片においては,細胞壁インベルターゼ活性と,PCMBS感受性のスクロース吸収が萎れに伴って極めて低いレベルに低下した.また花柄から
14C-スクロースを吸収させ,小花の品質低下に伴うがく片と雌ずいへの分配率の変動を調べた結果
14C-スクロースのがく片への分配率は,萎れの最も著しい採花4日から9日後の間に71%から17%へと減少した.この変動は細胞壁インベルターゼ活性の変動と良く似ていた.よってかく片では,細胞壁インベルターゼ活性の低下によって引き起こされるシンク能の低下が,可溶性糖の減少による浸透圧の低下と萎れの原因である可能性が示された.また,シンクにおける重要な酵素として知られているSS活性も萎れに伴う低下を示し,
14Cスクロースのがく片への分配率の低下とも対応していたため,萎れとの関連が示唆された.一方雌ずいにおいては,MDH活性が雌ずいの発達に伴って上昇し,細胞壁インベルターゼとSSの活性が採花4日後以降高い値を保った.
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