一歳ザクラ‘アサヒヤマ’の促成の基礎資料を得る目的で実験を行ない, 以下のような結果を得た.
1. 自然条件下の花芽形成時期は調査年度により多少異なったが, 1973-1974年には, 花芽始発期は8月下旬で, 10月上旬にはがく片, 10月下旬には雌ずいが形成された. その後翌年3月中旬までは, 小花の大きさや雌ずい長は連続的に増加したが, 花芽ステージはそれ以上進まなかった. 3月下旬に胚珠と花粉が形成され, 4月上旬に開花した.
2. 日長は一歳ザクラの花芽形成に影響しなかった.
3. 花芽始発の適温は20°C, その後雌ずい完成までの花芽発達の適温は10°Cであった. 花芽が胚珠, 花粉形成期を経て開花するためには, ほぼ雌ずい形成期の段階で一定期間の低温を受け, その後約15°C以上の高温におかれる必要があった. 低温要求は, 花芽が雌ずい形成期であれば0°C4週間以下であると考えられた.
4. 低温処理なしに促成するばあい, 花芽が雌ずい形成期に達して自然低温を受けた12月上旬以後に入室すれば, 正常に開花した.
5. 一歳ザクラを12月上旬以前に促成するためには, 入室前に人為的に低温処理する必要があった. そのぼあい.
(1) 花芽始発前の低温処理は開花を促進しなかった.
(2) 花芽形成初期に処理すると, 花芽は低温処理中にも徐々に発達して, 4~6週間の低温処理中に雄ずい形成期に近づき, その後温室に移されると比較的容易に開花した.
(3) 雌ずい形成期に処理すると, 低温中における花芽発達は観察されなかったが, 温室に移されるとより早く, よりそろって開花した.
花芽の低温要求は花芽ステージによって異なり, 花芽ががく片形成期であれば0°C6週間, 花弁ないし雄ずい形成期であれば0°C4週間, 雌ずい形成期であれば0°C2週間程度であった.
低温要求が満たされた花芽は, その後の温度が高いほど早く開花したが, 開花率や花の品質は20°C以上では低下した. 開花の早さ, 開花率, 品質などから考えて, 促成のための適温はほぼ15°Cであると考えられる.
抄録全体を表示