1. 静岡県磐田市中大原地区にみられたメロンの生育障害は果実の肥大開始期ごろから根がしだいに褐色に変じ, 葉縁が巻き込み, 葉焼けを生じ, しだいに下位葉の黄化, 枯死へと進むのが特徴である。この原因を明らかにする目的で, 中大原地区のメロン栽培業者によつて用いられている掘り抜き井戸の水質, 植物体, 床土の化学分析を行なつた。
2. 中大原地区の掘り抜き井戸の水は635~2,393ppmの塩分を含み, そのうちNa
2O, Clはそれぞれ243~913, 292~1,114ppmを占めている。一方当学部の水道水はわずか35ppmの塩分を含むのみで, そのうちCaOは12ppm, SO
4は11ppm, MgOは9ppmを含んでいるにすぎない。中大原地区の掘抜りき井戸の水をかん水した植物体のNa
2O, Clおよび床土の電気伝導度は掘り抜ぎ井戸に含まれているNa
2O, Cl含量に比例していた。また中大原地区に近い豊浜地区の126の掘り抜き井戸のCl含量を調査した結果, 98点が300ppm以下, 113点が500ppm以下, 2点が1,000ppm以上であつた。以上の結果から本生育障害は海水が希釈された状態で混入している掘り抜き井戸の水をかん水するためにおこるものと思われた。
3. メロンの生育障害はトウガン台の接木により著しく軽減され, また土壌の物理化学的性質の差異あるいは土壌病害によつてもおこるかもしれないと栽培業者によつていわれてぎた。そこでこの原因を確かめるため, NaClの濃度0, 500ppm, 土壌 (Aは土壌病菌に汚染されていないと思われる水田の未使用土 Bは生育障害が常にみられた中大原地区の水田の未使用土で, 土壌病菌に汚染されていないと考えられる土壌) および接木(トウガン台の接木と接木しないもの) のそれぞれ2種類で, それらの組み合わせにより要因実験を行なつた。
4. 500ppmNaClのかん水は地上部, 地下部の乾物重, 果実の重量, 成熟日数, 5要素吸収量を減少させるとともに, 果実の外観を低下させ, 土壌の置換性Na, 電気伝導度, 植物体のNa
2O吸収量を増加させた。ここでとくに注目すべきことは500-A-M, 500-B-M両区の植物体の生育障害が中大原地区にみられたものと似ていたことであり, 一方トウガン台に接木した500-A-G, 500-B-G両区にはなんら生育障害がみられなかつたことである。
5. トウガンの接木は地上部, 地下部の乾物重, 果実の重量, 糖度, 成熟日数を著しく増加させ, 外観を良好にした。さらにまた5要素吸収量を著しく増加させたが, Na
2Oについては減少させた。
6. 本実験では, 床土の種類による差は地上部, 地下部の乾物重, 果実の重量, 糖度, 外観にほとんどみられなかつた。
7. 500ppmNaClのかん水は葉のNa
2O, Cl含量を増加させ, K
2O, SiO
2含量を拮抗的に減少させた。一方トウガン台の接木は葉のK
2O, SiO
2, Cl, N含量を増加させ, Na
2O, CaO, MgO, P
2O
5含量を減少させたが, 各処理区のそれらの含量は苦土を除ぎ葉になんらそれらの過剰または欠乏症状を示さなかつた。
8. これらの結果から, メロンの生育障害はNa, Cl の直接の害作用, あるいはそれらによつてひきおこされる植物体のカチオン, アニオン含量のアンバランスによるのではなく, 塩分増加によつてもたらされる高浸透圧によるものと思われる。したがつてメロンの生育障害に対しては塩害を軽減するような手段, たとえば塩害抵抗性のトウガン台を用いるとか, 塩分の少ない水道水を用いるとかの手段がとられるべきである。
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