園芸学会雑誌
Online ISSN : 1880-358X
Print ISSN : 0013-7626
ISSN-L : 0013-7626
55 巻, 3 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
  • 中村 正博
    1986 年 55 巻 3 号 p. 251-257
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    クリの雌花の柱頭突出時から果実の収穫期に至る間の, 子房•果実の外部及び内部形態の変化を観察, 調査した.
    1. りん片で覆われた雌花の中心子房から柱頭の突出が見られたころ, その子房内では胚珠はまだ形成されておらず, 子室と突起した胎座だけが認められた.
    2. 雌花のりん片の間から刺毛が発生し始め, 真っすぐ立っていた花柱が開き始めたころ, 将来胚珠を形成する各胎座の分裂組織は発達途中であり, その後1週間ほどして外珠皮, 内珠皮, 珠心及び珠柄から成るほぼ完成した胚珠が認められた.
    3.‘丹沢’,‘伊吹’,‘大和早生’,‘筑波’の中果の子室数は約8~9で, 側果は中果より約1室多かった. 胚珠は1室内に2個存在しており, 主として供試した‘大和早生’の中果では8室で16個の胚珠が認められた.
    4. 7月下旬, 刺毛の発達が著しくなり, 柱頭に褐変が見られるようになったころ, 果実内でも胚珠の珠心部に褐変が生じた.
    5. 8月上旬, 果実内のほとんどすべての胚珠の珠心に褐変が認められるようになり, 8月中旬, 1個だけ肥大した胚珠が認められた. 8月下旬から, 肥大胚珠は子室内を上部から下部に向かって急速に伸長•肥大し, 子室内のすきまを埋めていった. この肥大胚珠の生長に伴い, 退化•褐変した残りの胚珠は毛茸が密生した果皮の側壁に押し付けられた.
  • 伴 野潔, 林 真二, 田辺 賢二
    1986 年 55 巻 3 号 p. 258-265
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    ニホンナシの花芽分化の機構を探る目的で,‘二十世紀’の短果枝における花芽の分化•発達過程を形態学的及び組織学的側面から検討した.
    1. 芽の節数の増加は5月30日から6月20日にかけて一時停止し, その後急激に増加した. 6月20日には, りん片がほぼ12枚形成され, 6月25日には花芽分化の兆候が観察された.
    2. 6月15日から6月20日にかけて芽の頂端分裂組織の直径は, 細胞分裂と肥大により約1.5倍にも増加した. さらに, 外衣の細胞層数が減少し, 逆に内体の細胞層数は著しく増加した.
    3. 内体の細胞数が増加する結果, 6月25日から30日にかけて頂端分裂組織が盛り上がって肥厚しはじめると同時に, 周辺分裂組織で包葉の原基とその葉腋に小花(側花) の原基が分化しはじめた.
    4. 7月10日には花そうの原基が完成し, がく片の原基の分化が認められた. また, 7月20日には花弁の原基が, さらに7月30日には雄ずいの原基の分化がそれぞれ認められた.
    以上の結果から, ニホンナシの花芽分化は, りん片が12枚形成された後, 頂端分裂組織に組織的変化 (組織的分化) が生じ, 特に内体層において細胞の分裂活性が増大し, 引き続き芽の節数が増大するか否かによって決定されるものと推察される.
  • 加藤 忠司, 山県 真人, 塚原 貞雄
    1986 年 55 巻 3 号 p. 266-272
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    23年生ウンシュウミカン樹の葉, 2年生枝の皮質部及び木質部より0.1Mトリス緩衝液 (pH8.0) 可溶及び0.2M水酸化ナトリウム可溶たんぱく質を抽出した. またトリス緩衝液可溶たんぱく質について, DEAEセルロースカラムクロマトグラフィー及びゲルろ過法によってそれぞれ6種類及び5種類のたんぱく質画分に分別した. これら各種たんぱく質画分の消長を3月から7月にかけて調べた.
    各器官より得られた可溶たんぱく質及び分別たんぱく質のほとんどがこの時期, 程度に差があるものの明らかに減少した. ただ葉においては, 分子量約55,000のたんぱく質の減少割合が他に比べて大であった. 皮質部よりトリス緩衝液で抽出し, DEAEセルロースカラムで分別した6種類のたんぱく質画分のアミノ酸組成には明白な違いはなく, 特異なアミノ酸組成のたんぱく質は存在しなかった.
    これらの結果から, ミカン樹の各種たんぱく質のほとんどは程度に差があるが, 窒素貯蔵の役割を持つと考えられる. また葉中窒素の貯蔵的役割を論ずる場合, データは濃度単位でなく, 葉1枚当たりで扱う必要があると考えられた.
  • 水谷 房雄, 廣田 龍司, 門屋 一臣
    1986 年 55 巻 3 号 p. 273-279
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    果実の成熟あるいは傷害に伴うエチレン生成に関連して, β-シアノアラニン合成酵素の活性, ACC及びCN-含量の変化を調査した.調査した果実のうちで, エチレン生成の著しいリンゴ果実で, β-シアノアラニン合成酵素活性が最も高く. 早生ウンシュウミカンの果皮で活性が最も低かった. 樹上で成熟しているリンゴ果実では, β-シアノアラニン合成酵素の活性は11月29日まで徐々に増加し, その後活性が急に増加した. エチレン生成量とCN-含量は11月29日を境に, その後増加する傾向が認められた. リンゴの果肉切片では, エチレン生成量は切断後24時間目にピークに達したが, β-シアノアラニン合成酵素の活性とCN-含量は36時間後にピークに達した. リンゴの果肉切片から発生するCN-量を測定したところ, 2.67±0.41ng/g F.W./hr (1.71±0.26pmol/g F. W./min) であった. 25°Cで貯蔵したカキ及びキウイフルーツ果実でも, 成熟過程において, ACC及びCN-含量, エチレン生成量, β-シアノアラニン合成酵素活性は付随的に変化した. 成熟果実や傷害を受けた果実で見られるシアン耐性呼吸の発達は, β-シアノアラニン合成酵素活性の増加と密接に関係しているように思われた.
  • 垣内 典夫, 森口 早苗, 福田 博之, 市村 信友, 加藤 豊, 馬場 良明
    1986 年 55 巻 3 号 p. 280-289
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    リンゴの香気にかかわる品種の育成や利用加工上の指針を確立するため, 主要リンゴ5品種の生鮮果実の香気成分の検索と品種特性について, 丸ごと果実のヘッドスペース法と破砕果実 (生鮮果汁) の高真空蒸留法により香気成分を回収して検討した.
    1. ヘッドスペース法による香気の回収結果から, 70~80の成分がガスクロパターンとして検出され, そのうち39成分をガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフ•質量分析計により同定した.
    2. 同定された39成分の内訳は, エステル類27, アルコール類6, アルデヒド類2, 炭化水素類2, フェノール類1及び酸類成分であった.
    3. ヘッドスペース法による全香気成分のうち, エステル類は全品種とも80%以上を占めた. また, 全香気成分含有量は‘はつあき’(1.889ppm)>‘紅玉’(1.531)>‘ゴールデン•デリシャス’(0.196).‘陸奥’(0.187)>‘ふじ’(0.055)の順であった.
    4. 高真空蒸留法に基づく香気成分組成もヘッドスペース法によるそれとほとんど同様であった. しかし, 高真空蒸留法による香気成分組成はアルコール類が最も多く, ‘はつあき’の53.3%から‘ふじ’の75.5%に及んだ.
    5. 高真空蒸留法による全香気成分の回収量は, ‘紅玉’(9.415ppm)>‘はつあき’(8.936)>‘ゴールデン•デリシャス’(5.964)>‘陸奥’(3.711)>‘ふじ’(2.273)の順であった.
    6. 以上の結果から, ‘紅玉’やその血縁の‘はつあき’種の香気成分は, 香気の回収方法を問わず, 他の3品種より著しく多く, 香り立ちの良い原因であることが判明した.
  • 金浜 耕基, 斎藤 隆
    1986 年 55 巻 3 号 p. 290-295
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    キュウリの子房の曲がりが発生する仕組みについて器官配列の面から検討した.
    1. 主茎の第3葉が左の株と右の株とが認められた. それぞれの出現率はほぼ1対1であった. 葉序2/5, 開度144度で, 第3葉が左の株では左回り, 右の株では右回りに回転していた.
    2. 主茎の葉序が左回りの株では, 第一次側枝の葉序は右回り, 第二次側枝の葉序は左回りであった. 主茎の葉序が右回りの株では, それぞれ左回り, 右回りであった. また, 主茎, 側枝を問わず, 巻きひげは葉序が左回りの茎では葉の左側に, 葉序が右回りの茎では葉の右側に発生していた.
    3. 節間の横断面の形態は五角形状で, 左右性が認められた. 五角形状の節間は, 葉序が左回りの茎では左回りに, 葉序が右回りの茎では右回りに, 1節間上位に移るごとに144度回転していた.
    4. 雌花はがく片5枚, 花弁5枚, 柱頭3対, 心皮3枚のものが最も多かった. それぞれの開度は均一でなく, その大きさに一定の偏りと左右性が認められた.
    5. 子房の周辺部の花托部を縦走する維管束が10本観察された. それぞれ5枚のがく片と5枚の花弁の中央基部に連絡していた. がく片, 花弁と同様に, それらの開度にも一定の偏りと左右性が認められた. 特に, 心皮の場合, 巻きひげ側の心皮が最も小さく, 巻きひげと反対側の心皮が最も大きかった.
    6. 子房の曲がりは, 巻きひげの左右性に従って, ほとんどの場合, 巻きひげ側に認められた.
    以上の結果, キュウリの子房の曲がる方向と器官配列の左右性との間に密接な関係が認められた.
  • 稲垣 昇, 前川 進, 寺分 元一
    1986 年 55 巻 3 号 p. 296-302
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    カブの生育及び光合成速度に及ぼす紫外線の影響と調べるため, 処理区として紫外線を除去するビニールフィルムを被覆した区, 対照区として紫外線を透過するビニールフィルムを被覆した区の2区を設けて実験を行った. 実験期間は4~6月までの約2か月間であった. 結果は以下のとおりである.
    1) 生育期間中の処理区のUVエネルギーは対照区の約3~4%であった. また処理区と対照区のトンネル内の温度はほぼ等しく, 生育期間中の日平均気温は約19°Cであった.
    2) 紫外線の影響は調査した形質すべてに認められ, いづれの形質についても紫外線を除去した区が勝っていた. とくに草丈は調査開始から終了まで, また全重は播種後30日目の調査日から最終調査日まで統計的な有意差が認められた. 各形質の生長パターンは処理区と対照区の間でほぼ共通しており, 指数的生長の期間の相対生長率において処理区が対照区を上回っていた.
    3) 光合成速度に及ぼす紫外線の影響を調べるため, 葉面積及び個体当たりのみかけの光合成速度を測定した結果, 紫外線の除去による光合成速度の促進効果は認められなかった.
  • 高橋 秀幸, 斎藤 隆
    1986 年 55 巻 3 号 p. 303-311
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    ヘチマ属及びユウガオ属植物の花の性表現に対する日長の作用を詳細に検討した.
    1. ヘチマでは, 性表現のみならず花芽の形成•発達にも日長感受性がみられ, 短日条件が花芽の形成•発達を助長し, 雌花発現を著しく増加した. また, ヘチマの主茎上の性表現は茎の基部節より, 花芽を着生しない栄養生長相-不発育雄性相-雄性相-雌雄混性相-雌性相と展開し, 混性雌性型のキュウリ品種に類似し, 軸上に沿った性表現の変化が認められた. 短日による雌性化の促進はこの栄養生長相, 雄性相の短縮によるものであった. ‘大長ヘチマ’と‘太ヘチマ’ではその日長反応に大差はみられなかった.
    2. ヘチマでは, 12時間以下の短日条件によって雌花発現が誘起され, 12時間から4時間まで日長の短くなるに伴って雌花発現が増加した. 本実験条件下では12時間から16時間の間に雌花発現に対する限界日長が存在することを示唆されたが, これは量的なものであり, 温度条件等によっても変異するものと考えられる.
    3. ヘチマでは, 8時間日長の短日処理4回以上によって雌花発現が誘起され, 短日処理回数の増加に伴って雌性化がより助長された.
    4. ヒョウタン及びユウガオでも, 花芽の形成•発達は短日条件下で助長され, 長日条件で逆に抑制された. しかし, 主茎上における雌花発現は極めて少なく, また性表現では日長に対する反応性も小さく, 日長不感受性の混性型のキュウリ品種やメロン類に類似する性表現特性をもつものと考えられる.‘大ヒョウタン’と‘千成ヒョウタン’では日長反応に大差は認められなかった.
  • 衛藤 威臣
    1986 年 55 巻 3 号 p. 312-319
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    ニンニクは従来不稔とされてきたが, ソ連産1系統で稔性が認められたことから, 1983年中央アジアを主に, ソ連で系統を収集し稔性を調査した.
    モスクワと中央アジア6都市 (タシケント, サマルカンド, ドゥシャンベ, フルンゼ, アルマアタ, アシュハバード) のバザールで, 31系統のニンニクを収集し, 鹿児島で栽培し, 花粉母細胞の減数分裂と花粉稔性を調査した. その結果, 観察した全25系統で正常な減数分裂がみられ, さらに14系統で稔性花粉がみられた. 花粉稔性は90.3%から19.6%まで系統により異なった. また, フルンゼの1系統は稔性花粉こそ生じなかったが, 稔性花粉を授粉したところ, 多数の発芽力ある種子を生じたので, 胚珠は十分に発達しているものと認められた. この雄牲不稔系統を含めると, フルンゼ, アルマアタ両都市の収集全系統は稔性であり, アシュハバードの全系統が不稔であったのと比べ対照的であった. 発見された稔性系統は, 葉身長, 花軸長等の点で系統による変異がみられ, 中央アジアには明らかに異なるいくつかの稔性系統が存在することが認められた. これら稔性系統は, 交雑育種あるいは種子生産のための紀材として極めて重要である.
    ニンニクは稔性から不稔性へ, さらに完全抽だい型から不完全あるいは無抽だい型へと進化していると推定されるが, ソ連領中央アジアでも中国寄りの天山山脈北面の山麓にあるフルンゼ, アルマアタで収集された系統が全て稔性を示し, しかも現地で完全抽だい型のみが観察されたことは, 未確定のニンニク起源地を考える上で非常に興味深いものといえよう.
  • 大久保 敬, 白石 真一, 上本 俊平
    1986 年 55 巻 3 号 p. 320-325
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    暗黒処理もしくはアンシミドール処理によりチューリップ花茎の最上節間の伸長は抑えられ, 花蕾から最上節間への拡散性オーキシン量も減少した. GA3処理は暗黒及びアンシミドール処理による最上節間の伸長抑制並びに拡散性オーキシンの減少を回復した. 花蕾の切除もまた最上節間の伸長を抑制した. IAAは切除処理による伸長抑制を回復したがGA3は効果がなかった. あらかじめ暗黒処理もしくはアンシミドール処理をしておくと, 花蕾切除後のIAA処理による伸長回復効果は認められなかったが, IAA+GA3処理により効果が認められた. 以上のことから, 最上節間の伸長もまた, 最下節間の場合と同様, ジベレリン及びオーキシンの双方によって制御されていることが示唆された.
  • 細木 高志, 寺林 敏, 浅平 端
    1986 年 55 巻 3 号 p. 326-331
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    春咲き品種5系統•5品種の成立過程を文献的に調べるとともに, 形態及び化学組成を明らかにし, 系統相互の類縁関係を考察した.
    1. 春咲き品種は, 夏咲き品種に比べ, 小型で草丈が低く, 葉幅, 花径, 花粉, 及び気孔も小さかった. しかし‘Elvira’や‘Comet’は夏咲き品種に近く, 大きい値を示した. 球茎のでんぷん粒は‘Robinetta’と‘Albus’が大型で長円形を示し, 他の品種は小型で円形であった.
    2. 葉組織より抽出したフェノール様物質は‘Comet’ と‘Charm’,‘Elvira’と‘Charm’, 及び‘Robinetta’と‘Albus’の間で共通のスポットが多く,‘Albus’と‘Robinetta’ は, 他の3品種と相関が少なかった.
    3. 花被より抽出したフラボノイド様物質は‘Elvira’, ‘Charm’,‘Robinetta’の間,‘Elvira’と‘Comet’の間, 及び‘Robinetta’と‘Albus’の間で相関が強く, ‘Albus’は ‘Elvira’や‘Charm’と関係がうすかった.
    4. アイソザイムバンドパターン (エステラーゼ, パーオキシダーゼ, 全たんぱく) をみると,‘Robinetta’と‘Albus’が極めて類似していた. また,‘Charm’,‘Elvira’, ‘Comet’の間でも類似点がみられた.
    5. 以上の結果より,‘Robinetta’と‘Albus’は化学組成が似ており,‘Comet’や‘Elvira’のグループとは共通点が少なく,‘Cham’はそれぞれのグループに対して中間的な位置にあった. これらの結果は形態的データーとも矛盾が少なく, 前報(4)の生態的分類の結果とも一致した.
  • 松尾 友明, 米田 敏幸, 伊藤 三郎
    1986 年 55 巻 3 号 p. 332-338
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    老化や生理障害の初期に見られるリーケージ現象の発生機構に関する知見を得るために, 赤ビート切片を生理的条件下でtert.-ブチルヒドロパーオキシド (t-BHP) で処理することにより, ベタシアニン色素のリーケージを起こすモデル実験を確立し, その諸性質を検討した.
    1. 赤ビート切片 (サイズ: φ13mm×1.5mm) を0.2Mマンニトールとストレプトマイシン (0.5μg/ml) を含むMES-NaOH緩衝液 (pH 5.8) に浸漬し, 20°Cで暗所中4日間放置しても, ベタシアニンのリーケージ (OD 540nmの増加) は全く認められなかった.
    2. この実験で, t-BHPの処理濃度 (2-10mM) と処理時間 (2~8時間) を変えることにより, 任意の時期にリーケージを起こすことができた.
    3. ベタシアニンのリーケージに前後して, カリウムイオン•還元糖•UV 260nm吸収物質•タンパク質も漏出したが, その漏出順序は分子サイズに関係していると考えられた.
    4. このベタシアニン リーケージは顕著なpH依存性を示し, 中性付近に比べてpH 5.8以下ではより早くリーケージが発生した.
    5. カルシウムイオン•スペルミン•グルタチオンが処理時期によって効果的にベタシアニン リーケージを抑制したが, それらの作用様式は異なっていると推測した.
    以上のように, この赤ビート切片を用いたモデル実験は, リーケージを様々な観点から研究する上で極めて有用なことが明らかとなった.
  • 金 〓, 大垣 智昭
    1986 年 55 巻 3 号 p. 339-347
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    収穫後の果実のエチレン生成には酸素を必要とし, 果実を窒素で満たすような嫌気的条件におくと, エチレン生成は速やかに停止する. エチレン生成をとめておいた果実を空気中に戻すと, 直ちにエチレン生成を開始し, その生成速度は果実を空気中にそのままおいておいたもののエチレン生成速度よりも一時的に大きな値を示すとされている.
    本報告では, 減圧すなわわち酸素分圧の低い条件においても, 貯蔵果を常圧へ戻した時に上記と同様のエチレン生成をするかを検討したものである. 一時上昇型クリマクテリック呼吸を営むニホンナシ及びトマトについて, 190, 285 Torr でそれぞれ36日間, 40日間貯蔵した果実を, ほぼ1週間ごとに常圧に戻し, その0~3, 3~6, 6~12, 12~24時間内の二酸化炭素とエチレンの生成量を測定した. 常圧で貯蔵していた果実と比較して明らかにエチレン生成量が多く, 一方呼吸量は低い傾向であった. 非クリマクテリック呼吸を営むオレンジ果実は,常圧に戻した後のエチレンの生成量も呼吸量も少なかった. ニホンナシとトマト果実については, 果実品質に及ぼす減圧の好影響が認められたが, オレンジは190 Torr 下でも98%RHのように高湿で貯蔵すると, 常圧に移したあとの二酸化炭素とニチレンの生成量が, 1901 Torr•75%RH及び760 Torr•85%RHで貯蔵した場合より大きな値を示し, また変質と腐敗とが多かった.
  • 稲葉 昭次, 中村 怜之輔
    1986 年 55 巻 3 号 p. 348-354
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    バナナ果実の成熟誘導に必要なエチレン処理の最少時間と濃度及び温度との関係を調べた.
    果実の炭酸ガス排出量は, 成熟誘導に必要な最少限度のエチレン処理時間でも, それ以上連続して処理したものと変わりなく増加し続けた. 成熟誘導時間以上のエチレン処理により, 果実のエチレン生成能力が閾値以上に高められるように思われた.
    エチレン処理により, 果実のEFEとACC Synthase 活性が促進されたが, その場合EFEの方が先に活性化されるようであった.
    成熟誘導に必要なエチレンの処理時間は, 果房によってかなり異なった. しかし, 同一果房内の果実にみられる処理条件に対する成熟誘導時間の差は, 果房が異なってもほとんど一定であった. これらのことから, バナナ果実の成熟誘導に必要なエチレン処理の最少時間は, 温度が一定ならば処理エチレン濃度の対数の1次関数として, また一定濃度下では温度の2次関数として表すことができるように思われた.
  • 山内 直樹, 飯田 修一, 南出 隆久, 岩田 隆
    1986 年 55 巻 3 号 p. 355-362
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    本研究は, 収穫後における葉菜類のクロロフィル分解機構を明らかにするため, ホウレンソウを用い, 貯蔵中の葉の黄化に伴う極性脂質及び構成脂肪酸組成の変化にっいて検討した.
    ホウレンソウの総糖脂質含量は. 25°C貯蔵に伴い急激に減少し, 特にモノガラクトシルジグリセリド (MGDG) 並びにジガラクトシルジグリセリド (DGDG) の減少が顕著にみられた. 一方, 総リン脂質含量は, 25°C貯蔵に伴い糖脂質とは異なり徐々に減少した. リン脂質中では, 特にホスファチジルグリセロール (PG) の減少がみられた.
    このように, 25°C貯蔵におけるホウレンソウの極性脂質の減少は, クロロフィル分解の開始より以前に生じ, 特にクロロプラストに局在しているMGDG, DGDG及びPGの減少が顕著に認められた.
    次に, 構成脂肪酸組成の変化について検討したところ, MGDGに含まれるヘキサデカトリエン酸及びPGに含まれるパルミトレイン酸並びにリノレン酸の含有割合は, 25°C貯蔵に伴い減少した. 逆に, MGDG, DGDG及びPGに含まれるリノール酸の含有割合は増大した. しかしながら, すべての極性脂質の不飽和脂肪酸の割合は, 25°C貯蔵中ほとんど変化が認められなかった.
    以上の結果から, クロロフィルの分解は, クロロプラスト脂質であるMGDG, DGDG及びPGの分解によって生じた脂肪酸の過酸化物が関与しているものと推察した.
feedback
Top