培養液のNO
3/NH
4比と温度がトマト‘TVR-2号’の生育, 収量ならびに尻腐れ果発生に及ぼす影響について検討するために, 実用規模に準ずる大型水耕装置を用いて実験した. 実験は2年間にわたり, それぞれ春~夏(春作) と夏~冬 (秋作) の2回ずつ行った. 1年目は2種類のN処理 (me/
l比でNO
3/NH
4=12/0と9/3) と5段階の液温 (15,20,25,30,35°C) を組合せた10区を設けた. また2年目はNO
3/NH
4=12/0, 10/2, 8/4, 6/6(me/l比) の4種のN処理と, 低温区 (18°C), 高温区(28°C) 及び液温を調節しない放任区の3種の液温を組合せた12区を設けた.
1. 1年目の春作における植物体生育は, 20°C以上では9/3区が12/0区を明らかに上回った. またいずれのN処理とも25°Cが最も生育良好であり, それ以下でも以上でも生育は不良となったが, 特に9/3区の15°Cでの生育不良は著しかった. 12/0区では液温が高くなっても尻腐れ果の発生率は5~7.5%と低く, 健全果収量は高かった. 一方9/3区の健全果収量は12/0区より例外なく低く, 特に25°C以上での両区の差が目立った. 9/3区の尻腐れ果発生率は20°Cまでは30%程度で, 25°C以上では液温が高くなるにつれて発生率も高くなった. これと関連して9/3区の葉中Ca濃度は12/0より明らかに低かったが, 特に25°C以上での低下が目立った. 秋作は初期収量のみの結果であるが, いずれの液温でも収量は9/3区が12/0区を明らかに上回った.
2. 2年目の春作における植物体生育は, 高温区ではN形態の影響がほとんど認められず, 低温区及び放任区では6/6でのみ生育低下が認められた. これに対し, 尻腐れ果の発生率は低温区, 高温区とも12/0では低く,NH
4の比率が高まるにつれて著しく高くなり, 健全果収量は逆に低下した. また放任区では6/6でのみ尻腐れ果の発生が多く, 収量低下が認められた. 秋作での植物体の生育は, 低温区の場合12/0が最も劣り, 両N併用はそれよりかなり良かった. しかし高温区ではNH
4の比率が高まるにつれて生育不良となり, 特に6/6で著しかった. また放任区では8/4まではNH
4の比率が高まるにつれて生育量も増加した. 秋作における尻腐れ果発生率は春作に比べると大幅に低下し, 低温区の6/6でのみ10%以上となったものの, 他の区ではほとんど発生が見られなかった. そのために健全果収量は植物体の生育と同様な傾向を示し, 両N併用がNO
3単用を上回る場合が多かった. 秋作における葉中Ca濃度は, 培養液中のHN
4の比率が高くなるにつれて明らかに低下したが,生育あるいは尻腐れ果発生との関連性は明らかではなかった.
3. 以上の結果より, 春作後半の気温•液温が高くなる時期のトマト栽培では, NO
3とNH
4の併用はNO
3単用よりも植物体の生育を多少促進するとしても尻腐れ果の発生を増加させるので, この時期にはむしろNH
4を全く含まない培養液で栽培するほうが尻腐れ果の発生を少なくできて良いこと, および秋から春にかけて尻腐れ果の発生しにくい時期の栽培では, 液温は余り高くせずに, NH
4をある程度積極的に施用することによって,植物体の生育を良くし, あるいは樹勢を維持して健全果収量を高めることができること, などが考えられる.
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