園芸学会雑誌
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62 巻, 3 号
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  • 小池 洋男, 牧田 弘, 塚原 一幸
    1993 年 62 巻 3 号 p. 499-504
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    M. 9台木が潜在感染しているACLSVウイルスを温熱処理によってフリー化し, この栄養系個体をM. 9-と命名して, その台木の特性について穂品種に'ふじ'中間台木としての特性については'世界一', 'つがる'ならびに'ふじ'を用いてM. 26との比較を行った.
    1.M. 9-台木リンゴ樹では, 本試験期間中の9年間に, 従来のM. 9の場合のような枯死樹の発生を認めなかった. 台木として用いた場合, M. 9-はM、26よりわい化効果が高く, 果実の生産効率も高いことから, 1.5×4m~2×4.5m程度の栽植距離の密植栽培で利用性が高いと判断された.
    2.マルバカイドウN1台木と組み合わせた4年生のM. 9-中間台木樹は, わい化効果と早期結実性に優れ, バーノットの発生が少ないため, M. 26より高い実用性が認められた. M. 26の中間台木部にはM. 9-より多くのバーノットが発生して偏平状となり, 樹勢は衰弱して果実も小果となった.
  • 北島 宣, 大下 義武, 中野 幹夫, 石田 雅士
    1993 年 62 巻 3 号 p. 505-512
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    カキL富有の結果母枝, 主枝および樹体ごとに無核果実の結実や果実発育および収穫果実の品質を調査し,一般的な栽培条件下における単為結果と無核果実生産の可能性について検討した.
    1.人工受粉果実と花粉遮断果実が混在する結果母枝において, 基部の結果枝の花粉遮断果実は結実率がやや劣るとともに, 人工受粉果実に比べて果実発育第2期から発育が低下した.
    2.すべて花粉遮断した結果母枝では, 果実発育は結果枝の着生位置に関係なく優れ, これらの無核果実の大きさは, すべて人工受粉した結果母枝の基部の結果枝の果実に比べて優れた.
    3.同一樹内の3主枝において, それぞれ入工受粉,放任受粉および花粉遮断を行うと, 主枝基部の環状剥皮処理の有無にかかわらず, 花粉遮断果実の結実率は高く, 果実重も優れた.
    4.樹体ごとに人工受粉, 放任受粉および花粉遮断を行うと, 花粉遮断果実の結実率は比較的高く, 収穫果実の果形はやや偏平になるものの, 果実重や糖度は人工受粉果実と同様に優れた.
    これらのことから, 結果母枝上の異なる結果枝に着生する果実は同化産物の競合関係にあり, その競合関係は果実発育第1期の終わりごろから強くなることが示唆された. また, すべての果実を無核にすると結実や果実発育は優れ, 通常の栽培条件下でも樹体の全果実を無核にすることにより, 有核果実と同様に品質の優れた無核果実生産の可能性が考えられた.
  • 福田 博之, 瀧下 文孝
    1993 年 62 巻 3 号 p. 513-517
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    強勢台木 (マルバカイドウ) およびわい性台木(M. 26) に接いだ'ジョナゴールド'樹について, その生育特性と乾物生産の状況を比較調査した.
    1.マルバカイドウ台利用樹の生体重は, 穂木部(T) が平均220.8kg/樹, 台木部 (R) が93.4kg/樹に達し, M. 26台利用樹のそれぞれ14.2倍, 12.6倍の大きさであった. しかし, T/R率には両台木による有意な差異は認められなかった.
    2.全樹体重量を葉重で除した数値はマルバカイドウ台利用樹のほうが1.5倍高かった. この結果から,マルバカイドウ台利用樹では樹体生育及び維持のための葉の負担がM. 26台利用樹より大きいことが推察された.
    3.果実と葉の重量比から算出したM. 26台利用樹の着果程度がマルバカイドウ台利用樹の約2倍に達していたのにもかかわらず, 1果重および樹体の容積肥大率は台木間で統計的な有意差が認められなかった.これらの結果には, M. 26台利用樹において樹体/葉,すなわち (T+R) /Bの値が小さかったことが関係していると推察した.
    4.M. 26台利用樹は, 着果程度の増大によって果実への乾物分配率が高まり, 枝幹部への配分率が低下した. しかし, 根部への乾物分配率の低下は, 枝幹部ほど大きくはなかった.
  • 新居 直祐
    1993 年 62 巻 3 号 p. 519-526
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    1樹当たりの着果数を変えたモモ樹の小さい個体を用いて, 着果が葉の形質と光合成速度および根の生長に及ぼす影響を検討した.
    無着果樹に比べて, 着果樹では果実数が増加するにつれて, 葉は薄く, 着生角度もほとんど水平になるとともに, 濃緑色を呈した. すなわち, 葉面積当たりのクロロフィル含量は着果によって高くなった. I-KI染色法や透過型電子顕微鏡, デンプン分析などの手法から, 果実成熟期における葉緑体中のデンプン蓄積は,無着果葉の方が着果葉に比べて顕著であった. 果実成熟期における単位葉面積当たりの光合成速度は着果葉で高く, 果実肥大の第II期ではその差異は明白でなかった.
    果実の発育期間における新根の伸長は着果数の増加に対応して低下した. これに対して無着果樹では, 樹の発育期間を通じて新根の伸長は顕著であった. 果実の収穫期では, 無着果樹の根量は着果樹に比べて大きく, 根中のデンプン含量も高かった. 着果樹では果実収穫数日後に新根は伸長し, 落葉期における根のデンプン含量も高くなった.
  • 鈴木 登, 王 心燕, 井上 宏
    1993 年 62 巻 3 号 p. 527-531
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ウメの冬芽の発達と新梢の生長に及ぼす温度の影響を環境制御施設の各種の温度室と露地で観察した.
    1.1年生実生苗と水挿しした切り枝を10月中旬から翌年2月中旬まで, 1か月ごとに, 15°Cまたは25°C室に露地から搬入して, 自発休眠完了期を観察した. 両者とも12月中旬に休眠が完了した.
    2.'南高'の挿し木苗を1月上旬から0°~25°Cで温度処理して, 葉芽と花芽の発達を比較した. 15°C以上では, 開花日が葉芽の発芽日より早かったが, 10°C以下では両者にほとんど差がなかった. 0°Cでは花蕾はほとんど発育せず, 葉芽は発芽したものの, 展葉しなかった.
    3.共台の'南高'の1年生苗木を3月1日より10°-25°Cで温度処理して, 新梢伸長 (1樹当たり新梢数を10本に制限) を観察した. 3,4月を10°C, その後を15°Cとした処理区で最も伸長量が優れた.20°~25°Cの高温区では新梢伸長が早期に停止した.
  • 鉄村 琢哉, 田尾 龍太郎, 行永 壽二郎
    1993 年 62 巻 3 号 p. 533-538
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    カキ (Diospyros kaki Thunb.) '西村早生'の茎頂培養より得たシュートを用い, 鉢上げ•順化に関する諸条件の検討を行うと同時に, 一部の個体を圃場に移植しその生育状況を調査した. 順化時の温度は28°Cが最も良く, 多くの個体が生存したが, 22°Cあるいは34°Cではほとんどの個体が枯死した. 連続照明で順化した個体の方が16時間日長で順化した個体よりも生育が優れていた. 人工気象器内の光合成有効光量子束を高めることは, 個体の生存および生長に有効であった. IBAによる発根促進処理直後に鉢上げするとすべての個体が枯死した. 発根培地においてある程度発根を誘導してから鉢上げを行うとほとんどの個体が生存したが, 発根培地で20日間培養してから鉢上げした個体の生長が最も良かった. 屋外に搬出した鉢上げ個体は順調に生育したが, 鉢植えしたものよりも圃場に直接植え付けたものの方が生長が優れた. 鉢植え個体の一部に雄花および雌花の着花が認められ, 茎頂培養によるrejuvenationは起こらなかったことが示された.
  • 鈴木 登, 王 心燕, 片岡 郁雄, 井上 宏
    1993 年 62 巻 3 号 p. 539-542
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ウメ'南高'の共台の幼樹を1月中旬から4月中旬まで環境制御施設の昼夜恒温の5°, 10°, 15°, 20°C室内および露地で栽培して, 開花期, 花器の充実および花粉発芽に及ぼす温度の影響を観察した.
    1.高温区ほど開花は早く, 開花期間も短くなった.5°C区では露地区より開花が抑制された. 満開期の花器は子房を含め低温区ほど大きかった.
    2.各処理区の満開期の花の花粉を採取して, 寒天1%としょ糖20%の培地上で4時間, 0~30°Cの発芽温度で発芽率と花粉管の伸長量を調査した. 10°C以上で高温ほど発芽が著しく良くなった. 0°Cでもわずかに発芽したが, 発芽最適温度は各区とも20°~25°Cであった. 花粉管の伸長量は25°Cまでは発芽温度が高くなるほど長くなったが, 15°C区で最長で, 5°C区で最も劣った.
  • 荒川 修
    1993 年 62 巻 3 号 p. 543-546
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    甘果オウトウ'佐藤錦'果実のアントシアニン生成に対して,蛍光灯による312nmに最大強度を持つ紫外光(UV312)は,その光強度は低いにもかかわらず,同じく蛍光灯による白色光より著しく効果が大きかった.アントシアニン生成量はUV312の照射時間,照射後の暗黒の時間およびその光強度に比例して増加した.UV312に紫外域を除去する種々のフィルターを組み合わせて照射した結果から,280-320nmのUV-Bの波長域がアントシアニン生成に対する効果が最も大きいことが判った.このUV-Bは'佐藤錦'果実の樹上における良好な着色に大きな役割を持っていることが推察された.
  • 新居 直祐, 加藤 真樹, 平野 友紀, 船隈 透
    1993 年 62 巻 3 号 p. 547-554
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    モモの未結実樹を用いて,窒素施肥量の差異が葉の形質,特に葉緑体中のデンプン蓄積とアミラーゼ活性ならびに光合成速度に及ぼす影響を調査した剤葉内窒素含量(対乾重%)は無窒素区(N-0区)で2.5%と最も低く,1.5g区(N-1.5区)2.9%,3.0g区(N-3.0区)3.4%,6.0g区(N-6.0区)3.8%と窒素施肥量の増加とともに高まった.多窒素区と比較して,N-0区の葉は薄く,小さく,葉は黄色がかっていた.単位葉面積当たりのクロロフィル含量は窒素施肥量の低下とともに減少した.葉内デンプン含量は多窒素区に比べて,無窒素区で顕著に高かった.アミラーゼ活性は葉のデンプン含量と対応しており,デンプン含量の低い多窒素区(N-3.0区とN-6.0区)がデンプン含量の高い無窒素区より明らかに高かった.無窒素区の葉緑体の核様体は,葉緑体内にデンプンが蓄積するとともに葉緑体の周辺部に局在するのに対し,デンプン粒の小さい多窒素区では核様体は葉緑体中に一様に分布した剤単位葉面積当たりの光合成速度は無窒素区が最も低く,窒素施肥によって増加したが,窒素施肥区間での相違は認められなかった.
  • 古澤 氏由児, 桝田 正治, 小西 国義
    1993 年 62 巻 3 号 p. 555-560
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    トマト台木品種'KNVF-R'の胚軸切片の不定芽形成に及ぼすPEG-6000の効果について試験した.実生を光照度3~15klxの条件下で胚軸長2~8cmに育成し,その胚軸を4mmに切断して,50g•liter -1のPEG-6000を添加した1/2MS培地で振とう培養することにより,ほぼ100%の不定芽形成が認められた.しかし,培養切片の密度が高くなると不定芽形成率が低下し,40ml当たり50切片程度が限界であった.
    マンニトール添加およびPEG-1500添加では不定芽形成が促進されなかったことから,PEG-6000の不定芽形成促進作用はそれが高分子化合物であることに関係しているのではないかと考えられた.またABA添加によっても不定芽形成が促進され,0~10mg•liter -1の範囲では10mg•liter -1が最も良かった.
    不定芽が2皿m程に伸長した胚軸切片の基部側を切除し,8g•liter -1の寒天を添加した1/2MS培地に植え出したところ,2週間で発根し,バーミキュライトへの移植により順化した.
  • 胡 開林, 松原 幸子, 村上 賢治
    1993 年 62 巻 3 号 p. 561-565
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    花粉1核期を含む未成熟なニンジン病を,16組み合わせの植物ホルモンを添加したMS固形培地で培養した.カルスは,0.01~1mg•liter -1の2,4-Dと0~1mg•liter -1のカイネチンを添加した培地に植え付けた葯より得られた.最も高いカルス形成率は12%で,1mg•liter -1の2,4-Dと1mg•liter -1のカイネチンを添加した培地で得られた.また胚様体は,1mg•liter -1の2,4-Dと0~0.1mg•liter -1のカイネチンを添加した培地上に植え付けられた葯より直接得られた.最も高い胚様体形成率は15.5%で,1mg•liter -1の2,4-D単用培地で得られた,これらの胚様体は,植物体となり,さらに順化して鉢植えとし根端の染色体数を観察した.染色体数を調査した18植物体の内,16株が半数体(2n=9)であり,残りの2株が異数体(2n=10,11)であった.
  • 城島 十三夫
    1993 年 62 巻 3 号 p. 567-574
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    劣性ホモtt型の橙色および黄橙色系トマトのシスおよびトランス型カロテン類をミクロレイヤー薄層クロマトグラフィー(m-TLC)を用いて定量分析した.
    1.栽培品種および育成系を8系統,すなわち,榿色系(RRtt)の3系統,黄橙色系(rrtt)の2系統,赤色系(RRtt)2系統および黄色系(rrtt)1系統を供試した.
    2.RRttおよびrrtt系のカロテン類はMgO:アルミナ:セルロース:CaSO4(10:6=2:2,w/w/w/w)のm-TLCによって11のスポット(J1~J10およびJ5-2)に分離した.これらのカロテン類は,フィトエンとフィトフルエンの混合体,β-カロテン,ζ-カロテン,プロニュウロスポレン,プロリコピン,ニュウロスポレン,プロ-γ-カロテンおよび4種の異なるリコピン,ポリ-シス-リコピン(b),ポリ-シス-リコピン(a),ネオリコピンおよびトランス-リコピンと同定した.
    3.これらの11種のカロテン類はヨード触媒による異性化反応によって,6種のカロテンに変化した.異性化したこれらのカロテン類の諸性質は赤色系トマトから単離したカロテン類,すなわち,フィトエンとフィトフルエンの混合体およびトランス型のβ-,ζ-およびγ-カロテン,トランス型のニュウロスポレンおよびリコピンとほぼ一致した.
    4.m-TLCによって展開したカロテン類はクロマトスキャナで直接計測し,標準曲線を用いて定量した.橙色系(RRtt)のトマトは生体果実g当たり総カロテン量130~142μgを含有していた.これは赤色系(RRtt)(71~75μg)の約2倍,黄橙色系(rrtt)(15~26μg)の5~10倍であった.
    5.劣性同型接合体tt系トマトは種々のシス型カロテンを含み,シスおよびトランス型のζ-カロテン(19~44%),ニュウロスポレン(18~22%)およびリコピン(20~48%)を高い比率で含有するのが特徴であった.さらに,プロ-γ-カロテンをβ-カロテンとほぼ同量含んでいた.これはβ-カロテンの生合成経路においてプロ-γ-カロテンを経由する新しい経路の存在を示すものと考えられる.
  • 山根 健治, 阿比留 聡子, 藤重 宣昭, 崎山 亮三, 尾形 亮輔
    1993 年 62 巻 3 号 p. 575-580
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    グラジオラス小花のしおれに影響を及ぼす生理学的要因を求めるために,可溶性糖の輸出,エチレン生成および生体膜の透過性の変化を,切り花の穂状花序下部で完全に展開したあとの花被片について検討した.
    1.花被の完全展開後3日目に花被片の新鮮重および乾物重が著しく減少し,花被片のしおれが始まった.
    2.2日目に花被片の可溶性糖含量が低下し始め,3日目に花被片の可溶性糖が最も著しく低下した.この低下の大部分は花被からの可溶性糖の輸出によると推定された.可溶性糖の輸出の急激な増加は,花被片のしおれの時期と一致し,両者は密接な関係があると考えられた.
    可溶性糖の輸出に伴い,花被組織からのイオンの溶出が増加した.膜透過性の変化は,花被片のしおれに影響を及ぼすと考えられた.
    3.花被の完全展開後に花被片から発生するエチレンは,しおれには関係しなかった.
  • 長島 時子
    1993 年 62 巻 3 号 p. 581-594
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    47種のラン科植物を供試し未熟種子の胚発生過程と発芽の様相との関係について追究した.
    1.供試材料47種における初発芽能を示す種子の胚発生段階は,4細胞期以前から中間期までの範囲にあり,ほとんどの種において発芽率が低く,発芽後の発育が不良で,平均発芽日数も長くなる傾向がみられた.クマガイソウは例外的で,初発芽能を示す種子がもっとも発芽率が高く,平均発芽日数も短かった.
    2.鮫高発芽率を示す種子の胚発生段階は,16細胞期から胚発生完了以降に及ぶ範囲にあったが,胚発生完了前後の段階において最高発芽率を示す種がほとんどで(クマガイソウおよびキンランを除く)あった.最高発芽率は,0.8%から100%の範囲にあり,この段階にある種子はいずれの種も(クマガイソウを除く)発芽後の発育が良好であった.とくに洋ランの種(Phal.schillerianaを除く),エビネ属の熱帯産落葉性の種およびエビネ属に近縁とされる5種において発芽率が著しく高く,一方,この段階ではとくに発芽率および発芽後の発育が不良だったのは,クマガイソウおよびキンランであった.
    3.初発芽能や最高発芽率を示す種子の胚発生段階と開花期の子房の発育程度との間には密接な関係は認め難かった.
    4.最高に達して以降の発芽率の様相は,a型:観察した最終の齢において最高発芽率を示し,子房が黄変裂開直前のもの,b型:観察した最終の齢において最高発芽率を示し,さらに齢が増すことにより発芽率が変化する可能性があるもの,c型:発芽率が低くなる傾向が認められたもの,およびd型:観察した最終の齢まで最高発芽率が持続していたものの4型に分けられ,c型がもっとも多かった.
    5.平均発芽日数は,3日から305日の範囲にあり,齢および種による変動がきわめて大きかった.
    平均発芽日数と齢との関係は,a型:齢が増すにしたがって平均発芽日数が短くなる傾向が認められるもの,およびb型:平均発芽日数がもっとも短かった齢を境に,それ以降再び平均発芽日数が長くなる傾向が認められるものの2種類の型がみられ,a型に属する種が多かった.
    6.培地としては,一般的にはHyponex培地がすぐれたが,オニノヤガラおよびホウサイランに対しては,Murashige and Skoog培地が発芽率および発芽後の発育に対して好適な結果をもたらした.
    7.供試材料47種における胚発生段階と発芽との間には上記した諸関係のいずれにおいても,亜科の特性が現れているとは認め難かった.
  • 窪田 聡, 米田 和夫
    1993 年 62 巻 3 号 p. 595-600
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    本実験はファレノプシスの花成誘導前の生育期間中の光強度が,温度処理による花成誘導に及ぼす影響について,植物栄養生理学的な側面から明らかにしようとしたものである.
    糖含有率と窒素吸収量は強光区で増大したが,逆に全窒素含有率は最も低くなった.展開葉数,根の生育および乾物生産量は強光下で最も旺盛となった.
    花茎誘導のための温度処理前に,強光条件下で生育した植物は,23°/18°Cでは花茎発生割合が増加し,28°/23°Cでは花茎発生時期が早まった.したがって,花成誘導に対する温度感応性は,C/N率が高く乾物生産量が多い株で高くなる傾向が認められた.
    したがって,ファレノプシスの花成誘導の温度感応性を高めるためには,植物体内の糖含有率を高くし,円滑な窒素代謝を促進するように,比較的強光下で栽培する必要があるものと考えられた.
  • 窪田 聡, 加藤 哲郎, 米田 和夫
    1993 年 62 巻 3 号 p. 601-609
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    本実験はファレノプシス栽培における合理的な潅水•施肥方法を確立するための基礎資料を得るために,ミズゴケの理化学性およびミズゴケ培地から素焼鉢への養水分の移動を調査するとともに,ファレノプシスの生育におよぼす鉢の材質と施肥濃度の影響について検討したものである.
    ミズゴケのpF1.8~3間の保水量は,ミズゴケを採土管に固く詰めることにより多くなった.ミズゴケのpHは強い酸性を示した.pH7.0でのミズゴケのCECは100~120me/100gと高かったが,pHを調整しない実際栽培条件のCECは,pH7.0の時よりも大きく低下し,約26me/100gと推定された.ミズゴケの理化学性は,産出場所による違いはほとんど認められなかった.
    培養液の施用後,ミズゴケ培地溶液の硝酸態窒素は,1回の潅水により鉢底から多く流出したが,培養液を連続施用してもミズゴケ内に蓄積する傾向はみられなかった.これは素焼鉢外壁からの水分蒸発にともない施用した硝酸態窒素の約80%が素焼鉢へ移動し,培養液を連続施用してもミズゴケ内に蓄積しないためと考えられた.また,カルシウムはミズゴケ内に陽イオンとして保持され,ミズゴケ内に残存する割合は硝酸態窒素に比べて高かった.
    ファレノプシスの生育におよぼす施肥の効果は,養分が鉢壁へ移動し,ミズゴケ内の養分量が著しく少なくなる素焼鉢よりも,鉢への養分移動がないと考えられるプラスチック鉢で顕著であった.そのため,プラスチック鉢では素焼鉢よりも低い施肥濃度で生育に好適な水準に達した.
  • 河原林 和一郎
    1993 年 62 巻 3 号 p. 611-618
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ササユリを用い,液体通気培養における子球増殖に影響を及ぼすいくつかの要因について検討を行うとともに,安価で簡易な培養槽を利用して,組織培養による子球生産の実用化を試みた.
    1.培養に供する無菌子球を得るためのりん片培養の期間は,3か月程度が適当であり,これより長くなるにつれて,得られた子球の切片から分化する子球の数が少なくなる傾向があった.また,りん片基部切片からの子球の分化は,先端部切片での場合と比較して2~3週間程度早く,その数も多かった.
    2.子球全体を切断して得た切片を培養した場合,子球からりん片を分離して切断した切片を培養した場合と比較して,子球の分化時期はやや遅れるものの,培養切片の総数が増加した結果,球根増殖倍率は向上した.
    3.無菌空気を通気できるように加工した市販のポリプロピレン製のコンテナーボックスを簡易培養槽に転用し,培地量1.5liter,供試子球数90~100個で培養を行った.培養16週間で,約2,000個の子球(平均球径4.9mm,平均球重109mg)が得られた.
    4.約2mmの間隔でカッターナイフの刃を並べた用具で子球を切断することによって,培養材料となるりん片切片を作成するプロセスの省力化を試みるとともに,簡易培養槽の容積を10liter,培地量を5liter,供試球根数を300個として,培養のスケールアップを行った.培養10週間での球根増殖倍率は9倍であったが,培養が進むにつれて分化する子球の数が増加した.培養24週間での球根増殖倍率は15倍となり,約4,500個の球根が生産でき,その平均球径は5.9mmであった.
    5.以上の結果から,簡易球根切断用具や簡易培養槽を利用し,液体通気培養を行うことによって,組織培養によるササユリ子球の大量生産を実用的に行える可能性を見出せた.
  • 朱 玉, 竹本 哲行, 矢澤 進
    1993 年 62 巻 3 号 p. 619-624
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    カラジウム (Caladium × hortulanum Birdsey)'フレイダヘンプル'の葉身の赤色部分,緑色部分と'C.R.5'の葉身の赤色部分,白色部分と緑色部分および'ピンククラウド,の葉身のピンク部分,白色部分,緑色部分を外植体として,不定芽原基集塊を経由して幼植物体を形成させた.不定芽原基集塊の形成率は'フレイダヘンプル'では100%で,外植体の葉色別による差が認められなかった.'C.R.5'と'ピンククラウド'では緑色の部分が最も高く,赤色あるいはピンクの部分が最も低かった.
    'フレイダヘンプル'と'C.R.5'では,葉色別の外植体から得られた再生植物体に葉色の変異個体は認められなかった.一方,'ピンククラウド,では,葉色の変異個体が認められた.葉脈が白色から緑色に変化した変異個体については,葉色別の違いによる変異率の差が認められ,緑色部分由来の再生植物体は変異率が4.4%であり,ピンク部分由来の再生植物体は変異率が22.9%であった.
  • 矢野 昌充, 長谷川 美典
    1993 年 62 巻 3 号 p. 625-632
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    収穫後のキウイフルーツに20°Cでエチレン処理し,追熟関連の諸性質を誘導するのに必要な時間•濃度を調べたところ,自己触媒的なエチレン生成にな18時間以上の処理が必要であったのに対し,他の諸性質は15時間以下でも促進された.低温,低濃度の条件(5°C,0.1~10ppm)でのエチレン処理の効果を調べたところ,果肉の軟化,呼吸の上昇および酸含量の低下は明らかに生じたにもかかわらず,自己触媒的なエチレン生成は誘導されず,1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸含量,エチレン星成酵素活性および果実内エチレン濃度の増加は極めてわずかであった.果実を10ppmエチレンで1週間処理後,20°Cに移すと移行直後から急激なエチレン生成の増大が認められたが,濃度が低い場合には移行後エチレン生成の増大は見られなかった.
    以上の結果から,自己触媒的なエチレン生成が他の追熟関連諸性質よりも誘導されにくいことが,キウイフルーツの追熟生理の特徴となっていると考えられた.
  • 〓 紅, 上田 悦範
    1993 年 62 巻 3 号 p. 633-639
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    '宝交早生','とよのか'および'女峰'を急速凍結し,-20°C,-40°Cおよび-80°Cで6か月間貯蔵し,風味の変化とその変動要因を調べた.-20°C貯蔵では,凍結方法および加糖処理の風味への影響についても調べた.
    1.3品種のイチゴとも-40°Cおよび-80°Cで6か月間貯蔵した冷凍イチゴなほとんど生果と同じ風味を保持したが,-20°Cでは,速やかに風味が低下した.-20°Cの冷凍イチゴの風味低下な急速凍結あるいな糖液浸漬処理によって若干抑制されたが長期凍結貯蔵では効果はなかった.
    2.6か月間の-20°C貯蔵において,糖,酸含量,Brix値に変化な見られず,ビタミンCなやや減少したが凍結処理条件による違いはみられなかった.しかしアントシアニン含量な-80°C貯蔵においても約1/2以下になった.
    3.イチゴ果実の香気成分であるエステルの含量の滅少な,急速凍結および糖液浸漬処理によって抑制される傾向が認められたが,-20°C貯蔵では貯蔵開始3か月まで著しく低下した.しかし,食味テストの結果と同じく,-40°C,-80°Cではエステルの低下は緩慢で,6か月間ほとんど貯蔵初期の値を保持した.
    4.エステル水溶液をイチゴ切片に添加し,凍結貯蔵中のエステル分解程度をみたところ,-20°Cで分解が大きく,エステラーゼ活性の存在が示唆された.凍結貯蔵中の物理的な揮発性成分の拡散は,-20°Cにおいてな-40°Cに比べて激しかった.『
    以上の結果,冷凍イチゴの風味保持な,凍結処理条件よりも冷凍貯蔵温度に依存しており,-40°C以下での貯蔵が望ましいことがわかった.
  • 白木 功浩, 前澤 重禮, 秋元 浩一
    1993 年 62 巻 3 号 p. 641-645
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    本研究は種々の時刻に収穫したシイタケ'秋山567'について,収穫時の品温と収穫後の呼吸量の関連性を検討した.
    1.収穫時のシイタケの品温は,気温に対応して変化する傾向を示した.しかし,収穫時の品温に及ぼす気温の影響は単純ではなく,午前(5,9時)に収穫したものは午後(1,5,9時)に収穫したものに比べて気温と品温の差が大きかった.
    2.収穫後の品温は,恒温装置入庫1~2時間後にいったん上昇し,設定温度の25°C以上になったが,その後徐々に低下してほぼ設定温度で一定となる傾向を示した.
    3.収穫直後の酸素吸収量および炭酸ガス排出量は収穫時間ごとに異なり,午後1時,午前5時,午後5時,午後9時,午前9時の順で小さくなった.そして,各サンプルとも時間経過とともに呼吸量は減少したが,午後1時および午前5時収穫サンプルの呼吸量の減少率が比較的大きかった.
    4.全体的に,収穫時の品温が高い場合に,呼吸量も多い傾向がみられた.しかし,午前5時収穫のものについては収穫時の品温が低いにもかかわらず,呼吸量が比較的多くなった.
    以上の結果から,シイタケの品質を維持させるにな気温が低く呼吸速度が遅い時に収穫することが望ましいことが示唆された.
  • 前澤 重禮, 山田 初男, 秋元 浩一
    1993 年 62 巻 3 号 p. 647-653
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    トマト果実の流通技術システムの開発の一環として,完熟型トマト'桃太郎'を用いて収穫後における着色異常(黄変)や品質に及ぼす収穫熟度と追熟温度の影響を検討した.
    1.収穫後6段階の温度条件(15°~35°C)で追熟させたところ,黄変は収穫熟度3以上の未熟果を25°C以上および15°C以下で追熟した区で観察された.
    2.追熟後の硬度および屈折計示度は収穫熟度および追熟温度にかかわりなく,同程度の硬度および屈折計示度を示した.
    3.追熟による糖含量の変動は小さく,収穫熟度による差も小さかった.一方,追熟によるクエン酸含量は減少傾向を示したが,リンゴ酸含量はほぼ一定のままであった.
    以上の結果から,トマト'桃太郎'流通中の品質•食味変化を考慮し,かつ黄果発生を軽減するには,熟度3の果実を収穫し約20°Cで流通させることが望ましいことがわかった.
  • 武田 裕子, 與座 宏一, 野方 洋一, 太田 英明
    1993 年 62 巻 3 号 p. 655-660
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    カイワレダイコン子葉中のポリアミン類の挙動を明らかにする目的で,発芽および生育中のポリアミン含量を測定し,あわせてアルギニン脱炭酸酵素(ADC)の阻害剤difluoromethylarginine(DFMA)およびオルニチン脱炭酸酵素の阻害剤dinuoromethylornithine(DFMO)が実生および子葉のポリアミン含量に及ぼす影響を調査した.
    1.カイワレダイコン種子の発芽において,実生のアグマチンおよびプトレシン含量の急速な増加と減少が観察され,スペルミジン含量の増加が認められた.
    2.実生•子葉のプトレシンおよびスペルミジン含量は発芽後の生育中徐々に減少した.
    3.DFMAを処理したカイワレダイ•コン実生のプトレシン含量は蒸留水中で発芽させた対照の約27%まで抑制された.一方,DFMOの処理は実生中のプトレシン含量に作用を及ぼさなかった.
    これらの結果から,カイワレダイコン実生および子葉中のプトレシンはアルギニンからアグマチンを経由して主に合成される可能性があると推察される.
  • Francis M Mathooko, 外川 哲夫, 久保 康隆, 稲葉 昭次, 中村 怜之輔
    1993 年 62 巻 3 号 p. 661-667
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    20°C下での高濃度CO2およびMA(Modified Atmosphere)環境によるイチジク(Ficus carica L.cv.Masui Dauphine)果実の鮮度保持効果を検討した.5~80%CO2環境はイチジク果実のエチレン生成を抑制し,果実軟化及びカビの発生を遅らせたが,エタノール生成を促進した.60または80%CO2(20%O2)下で2日間保持した果実は,大気下に移した1日後でも商品性を維持していた.密封ポリ袋に保持した果実は,有孔ポリ袋の果実に比較して,カビ発生が促進された.密封前にポリ袋に80%CO2または100%CO2を導入すると,空気または100%N2を入れた場合と比較して,カビの発生が抑制され,袋中のエチレン濃度もやや低く推移した.
    これらの結果から,高濃度CO2を封入した密封ポリ袋包装はイチジクの流通中の鮮度保持技術として利用できる可能性が示された.
  • 小机 信行, 土田 廣信, 水野 進
    1993 年 62 巻 3 号 p. 669-673
    発行日: 1993年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    本実験は,光の照度および照射時間がバレイショのクロロフィル(Chl)およびグリコァルカロイド(PGA)含量に及ぼす影響を調べるとともに,市販バレイショに照射されている照度ならびに貯蔵温度の実態調査を行ったものである.
    1.バレイショ皮層部のChlおよびPGAの生成量は光の照度の増大につれて増加するが,ある程度以上の照度では逆に低下することがわかった.本実験の結果から,両物質の最大生成量の照度は約8,000~12,500lxの範囲内であった.
    2.光の照射時間による両物質への影響を調べたところ,15°Cで1日3時間以上,7日間の照射(3,000~3,900lx)で緑色化が観察されたが,PGAでは30分の照射でも影響することがわかった.
    3.姫路市内の大型スーパー店で,バレイショ塊茎に照射されている照度ならびに貯蔵温度の実態調査を行ったところ,塊茎はかなり高い照度(2,200~8,000lx)を受けていた.また,貯蔵温度もかなり高く設定されていた(9~15°C).したがって,販売にあたっては極力光の遮光に努めるとともに,貯蔵温度を10°C以下に設定することが肝要である.
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