日本消化器がん検診学会雑誌
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62 巻, 6 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
巻頭言
総説
  • 鎌田 智有, 村尾 高久, 勝又 諒
    2024 年62 巻6 号 p. 779-786
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    [早期公開] 公開日: 2024/08/29
    ジャーナル フリー

    「胃炎の京都分類」は19の特徴的な内視鏡所見からH. pylori 感染を未感染, 現感染, 除菌後を含む既感染に分類し, その組織学的胃炎の診断までをほぼ可能とした胃炎分類である。新たな胃粘膜所見の発見や, 内視鏡診断学における画像強調観察の普及, 内視鏡所見を裏付ける病理組織所見の重要性が指摘されるようになり, これらを踏まえた改訂第3版が2023年5月に発刊された。

    近年, 自己免疫性胃炎の診断基準が確立され, 逆萎縮像を典型像とする進行例に加えて, 縦走する偽ポリープ様の顆粒状隆起, 発赤を伴う胃小区腫脹などを呈する初期~早期像の内視鏡所見が明らかとなりつつある。Non-Helicobacter pylori Helicobacterは人獣共通感染症の一つで, H. pylori菌とは明らかに形状の異なる大型の螺旋菌である。H. pylori感染率の低下および除菌治療の普及に伴い, その頻度は高くなる可能性が予測されており, 今後注目すべき疾患の一つである。

  • 市原 真
    2024 年62 巻6 号 p. 787-804
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    [早期公開] 公開日: 2024/08/29
    ジャーナル フリー

    検診発見胃がんの6割前後がHelicobacter pylori(以下, H. pylori)既感染胃であり, H. pylori未感染胃腫瘍の発見数も漸増している現状においては, 現感染胃の精緻な検討により構築された胃癌形態診断学をアップデートする必要がある。未感染胃には多彩な胃型腫瘍や, 腺頸部に限局する印環細胞癌, 幽門前庭部に発生する低異型度高分化管状腺癌/腺腫が部位特異的に発生するが, これらの多くは患者生命には影響しない。ただし食道胃接合部癌や, linitis plastica型の低分化腺癌も低確率で発生しうることに注意する。H. pyloriの感染によって腸型形質の混在と消化性潰瘍の合併が生じ, 発生部位と組織型とが対応しなくなった現感染胃癌に対しては, 分化型・未分化型の二大分類によって正常胃粘膜からの「かけ離れ」を捉える古典的形態診断学は今なお有効であり, 癌の浸潤に伴う線維化と消化性潰瘍に伴う線維化を弁別する技術が求められる。H. pylori除菌により病変の表層に非腫瘍粘膜などが被覆することで, かけ離れ=異型が表出しづらくなることに十全の注意を払う必要がある。

  • 角水 正道, 小林 正夫, 丸山 恭平
    2024 年62 巻6 号 p. 805-817
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    [早期公開] 公開日: 2024/10/17
    ジャーナル フリー

    胃がん内視鏡検診が対策型胃がん検診と認められて10年が経過した。京都市では2017年に胃がん内視鏡検診が始まり, 2023年度より京都府内広域化に向けた管外受診制度が施行された。管外受診制度を施行する市町村の在住者は, 京都府内のどの認定医療機関でも検診を受診できる。またクラウド型二次読影システムを活用することで, 府内精度管理の一元化がより円滑となり, 検査医療機関や二次読影医が不足する地区を含めた府内全体での内視鏡検診が広がりつつある。クラウド型の特性として匿名性が担保され, 統計処理や画像管理の簡便性など多くの長所を持つ。一方, 検査医と二次読影医が個別で二次読影・判定を実施することによる解決すべき課題がある。京都府医師会消化器がん検診委員会での課題克服に向けた取り組みを紹介し, 今後の胃がん内視鏡検診のあり方について提言する。

  • 松田 一夫
    2024 年62 巻6 号 p. 818-826
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    [早期公開] 公開日: 2024/08/29
    ジャーナル フリー

    日本では1992年から免疫便潜血検査(FIT)2日法による逐年の大腸がん検診を開始し1996年から年齢調整死亡率が減少に転じたが, 主要7か国の他の国では日本以上に死亡率が減少している。

    日本の大腸がん検診が効果を挙げない理由は, ①地域保健・健康増進事業報告による2021年の精検受診率(40~69歳)が69.9%と低く, ②職域でのがん検診に法的規定がないこともあり国民生活基礎調査による2022年の受診率が45.9%と低いからである。一方, 英国では2年に1回のFIT1日法による組織型検診が行われイングランドの2021/22年における受診率(60~74歳)は70%, 米国では10年に1回の大腸内視鏡検査が大半を占め2021年の受診率(50~75歳)は72.2%と高い。また北欧でのNordICC studyでは内視鏡群の受診率が42.0%と低く, 非内視鏡群の累積大腸癌死亡リスクとの間で有意差を認めていない。

    日本の大腸癌死亡率を更に減少させるには大腸がん検診の周知と精検受診率向上が急務であり, 内視鏡検診を含めて誰もが受けられる体制づくりには職域におけるがん検診の法制化と組織型検診が必要である。

  • 保田 宏明, 阪上 順一
    2024 年62 巻6 号 p. 827-833
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    [早期公開] 公開日: 2024/10/17
    ジャーナル フリー

    わが国のがん検診は, 対策型と任意型に分けられ, 対策型として, 胃・大腸・肺・子宮頚・乳がん検診の5つがある。厚生労働省による「2021年の人口動態統計」の部位別がん死亡数では, 男性は肺, 大腸, 胃, 膵, 肝, 女性は大腸, 肺, 膵, 乳, 胃の順に多い。胃, 大腸, 肺, 子宮頸, 乳の5つの癌は, 対策型検診が普及し, 早期診断そして癌死亡率減少に寄与している。一方, 膵がんは男性で4位, 女性で3位にもかかわらず, 科学的根拠に基づくがん検診が確立されていない。また, がんの原因として, 胃がんとヘリコバクター・ピロリ, 子宮頸がんとヒトパピローマウイルス, 肝がんとB型・C型肝炎ウイルスとの関連が明らかとなり, がん予防だけでなく発がん高リスク群の囲い込みに有用だが, 膵がんにおいては, 様々な原因の関与があり, 囲い込みは困難な状況である。膵がんの検査法として, 体外式エコー, CT, MRI, 超音波内視鏡(EUS)があげられるが, MRIとEUSを組み合わせた膵がん検診が注目されており, 欧米では, 家族性膵がん家系などの高リスク群で, その有用性が示された。わが国では, 国立がん研究センター中央病院が主導する臨床試験の登録が始まり, その結果が待たれる。

原著
  • 山岸 史明, 小野寺 志真子, 菊地 博敦, 小田 丈二, 入口 陽介
    2024 年62 巻6 号 p. 834-845
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    [早期公開] 公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー

    【目的】タギングにバリウム(Ba)を使用した大腸CT検査にX線スペクトラム変調技術(TF法)が応用可能かを評価した。

    【方法】従来の撮影法(BF法)とTF法を比較した。物理評価として高コントラスト分解能とノイズを評価した。大腸CTファントムの模擬腸管内に空気のみと3つの異なる濃度(200HU, 560HU, 800HU)に調整したBa懸濁液を充填し, 各撮影法で管電圧120kV, CTDIvol 3mGy一定として撮影した。得られた画像からBa懸濁液部分のCT値(CT値Ba), 病変検出能の評価として模擬ポリープ部分(7mm, 5mm)の半値幅および, 直径と高さを計測した。

    【結果】高コントラスト分解能に有意差はなかった。ノイズはTF法で低下した。CT値BaはTF法で平均33%低下した。模擬ポリープはすべての条件で認識可能であった。半値幅はCT値Baが高い場合にTF法で大きくなった。模擬ポリープの計測は, CT値が高い場合に7mmの模擬ポリープで統計的な有意差を認め, その他条件では統計的な有意差を認めなかった。

    【結語】今回の検討条件では, TF法の病変検出能はBF法と比較して同等であり, TF法はタギングにBaを用いた大腸CT検査に応用できる可能性が示唆された。

委員会報告
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