シリコンウェハーをフッ酸水溶液中で適当な条件下で陽極溶解すると,表面に多孔質層(porous silicon layer, PSL)が形成する。この層中には水素が含まれ,また非常に微細な構造をとる。生成する多孔質構造を利用してシリコン上への絶縁層の形成やヘテロ接合など,電子デバイスへの応用の可能性が検討されている。さらに1990年,微細孔径を持つ多孔質シリコン層による室温での可視発光現象が報告され,多くの研究者にこの材料に対する関心を引き起こし,発光素子への応用と発光機構の解明を中心に,数多くの研究者が取り組んでいる。この興味ある材料の特徴は,ナノメーターサイズを含む多孔質構造と含有される水素にある。本稿では,多孔質シリコンの研究の経緯を紹介し,その後,機能発現に関与すると考えられる水素の存在状態を赤外吸収スペクトルと量子化学計算を用いた振動解析により検討した結果,および酸化による多孔質シリコン中の水素の状態変化について紹介する。
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