表面科学
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17 巻, 6 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 吉川 研一
    1996 年 17 巻 6 号 p. 302-307
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    多種類の化学物質からなるシステムの状態は,一般的には「自由エネルギー最小の原理」によっては決まらず,過去の時間的経過(履歴)が重要である。長鎖DNA分子の折り畳まれ方が操作手順(時間的順序)により異なることを例にあげて,操作手順がどのように系の最終状態(定常状態)の決定に関わるのかを説明する。そして,化学反応系では,一般に著しい非線形特性が内在していることを解説する。非平衡下,「詳細釣合の原理」は成立しなくなることを示し,この「詳細釣合」の破れる条件を知ることが,「時間的リズム」や「空間パターン」の発生,さらには,「スカラー的な化学反応から,ベクトル的な仕事を直接取り出すことのできる系」の設計にもつながることを述べる。まとめとして,非平衡開放系において,非線形特性を活用することが,“生物らしさ”を示す化学システムの創造にとって本質的な意味を持つことを強調する。
  • 山口 智彦
    1996 年 17 巻 6 号 p. 308-313
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    非線形性の強い化学反応と拡散が共役した反応拡散系には,多様な空間パターンが出現する。この中でも,チューリング構造と呼ばれる時間に依らない空間パターンは,生物の模様との類似性から古くから注目されていた。チューリング構造が実際に化学反応で実現されたのは,チューリングが数理モデルを提案してから実に40年後のことである。この間に,反応拡散系の数理モデルの研究や化学パターンの研究は飛躍的に進歩した。チューリング構造は反応拡散系に現われる安定な波動解の特別な場合に過ぎない。最近ではバクテリアのように,分裂し増殖する化学パターンが数理モデルから予測され,また実際に観測されている。一方ではこのような数理モデルと実験のきれいな対応関係は,白金単結晶表面上での化学反応でも同様に見いだされている。自己形成・自己修復する化学パターンはダイナミックな生命現象のアナロジーを表面科学の領域へ適用できる格好の例であろう。
  • 米山 満
    1996 年 17 巻 6 号 p. 314-320
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    近年,化学振動反応を利用した並列演算処理の研究が盛んである。特に光感受性のBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応は,視覚系類似の画像処理を自動的に行うシステムとして注目を集めている。振動反応液上に光感受性単分子膜を形成すると,その光学イメージの直接観察から反応系表面における画像処理過程やパターン形成のダイナミクスについての情報を得ることができる。この技法を用いた最近の研究により,BZ反応液表面では化学波の断片化や周期2倍化といったバルクでは見られない非線形性が現れることが明らかとなった。さらに,単分子膜と反応液組成物質との光化学反応を利用して化学波の時空間特性を光制御する可能性が示された。このような分子組織体と非線形化学媒体との組み合わせは複雑な生体情報処理のモデル系として今後の展開が期待される。
  • 高野 吉郎
    1996 年 17 巻 6 号 p. 321-327
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    歯の表面を被うエナメル質は,水晶に匹敵する硬さを持つ,生体で最も高度な石灰化組織である。エナメル質は顎骨の中で歯がつくられる過程で,成熟期と呼ばれる長い期間を経て,ゼリー状の組織からリン酸カルシウム結晶の固まりのような鉱物的組織へと変貌する。エナメル質の高度な石灰化は,成熟期エナメル芽細胞によって制御されるが,エナメル芽細胞はエナメル質の成熟過程を通じて幾度となく形態変化を繰り返す。この時,エナメル芽細胞層には形態の異なる2型のエナメル芽細胞群が交互に配列して,縞状の見事なパターンを形づくる。このエナメル芽細胞の形態変化のリズムとそこに発現するパターンは,特殊なカルシウム染色により成熟期のエナメル質上に鮮明な赤い縞模様として染め出される。カルシウム染色で染め出される縞模様は,動物種,歯種に固有で,並行な縞模様から同心円,ラセン模様と多彩な形態を示し,非平衡化学反応系の非線形現象の代表例であるBZ反応にみられる動的なパターンと酷似している。本稿では成熟期エナメル芽細胞層および成熟期のエナメル質表面に発現するリズムとパターンを紹介し,その制御機構を推察する。
  • 熊沢 紀之
    1996 年 17 巻 6 号 p. 328-334
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    細胞膜の基本構造は,脂質の二分子膜である。脂質分子の集合体は,二分子膜構造以外にも様々な形態をとることが可能であることが知られている。本稿では,人工的に二分子膜を作り出す実験法のノウハウとして伝えられてきた技術を,時間軸上の自己組織化過程と捉えて再検討した。このような自己組織化過程を利用することは,蛋白質を膜に対して方向性をもって組み込む際にも有用であることを示した。さらに,リン脂質の自己組織化機能を利用した実例として,細胞サイズの巨大リン脂質小胞体(リポソーム)内部にDNAを封入する新たな方法を紹介する。
  • 加藤 陽
    1996 年 17 巻 6 号 p. 335-340
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
     動的非線形情報を活用する新しいタイプの化学センサーについての研究を紹介する。従来の考え方では, 専ら線形平衡量のみを計測し化学種を判断しようとしていたと思われる。それに対し, 動的非線形な時系列情報を用いると, 情報次元が拡大し, 単一のセンサーであっても複数の化学種を識別できる。その一例として, 半導体ガスセンサーのヒーター部分に周期的な温度変化を加え, その応答を定量的に解析することにより, ガスの定性・定量が同時に行う実験系を紹介する。また小型で熱に対する温度追従性が著しく良いセンサーを用い, 0.1sec以下の短い時間でもガスの定性・定量が可能であることを示す。
  • 馬籠 信之
    1996 年 17 巻 6 号 p. 341-345
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    本稿では,水・油・界面活性剤から成る系における自発的な界面運動について記述している。化学種の濃度が水相と油相間で非平衡である時,界面で様々な自励振動が見られる。今回は,その自励振動のうち,特に界面張力の周期的な増加に注目し,界面張力変化と界面運動との相関について説明した。界面張力が急激に増加すると接触角も急激に変化し,その結果界面張力間のバランスが崩れて運動が起こることを明らかにした。また,油水系では界面運動の駆動力は水相と油相間での界面活性剤の濃度勾配である。すなわち,等温条件下で化学的なエネルギーから機械的な運動を直接取り出している系であると言える。これは,例えば筋肉におけるエネルギー変換の機構と比較すると1)非平衡状態で起こり,2)熱エネルギーを介さない化学→機械エネルギーの直接変換系であり,3)空間的に非対称性を取り入れることによって運動方向の制御が可能である,といった点などにおいて共通性があり,生物の運動のメカニズムを探索する上で有効であると考えている。
  • 辻 幸一, 広川 吉之助
    1996 年 17 巻 6 号 p. 346-351
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    We have developed the Glancing-Incidence and -Takeoff X-Ray Fluorescence (GIT-XRF) method. X-ray fluorescence intensity depends on both the incident angles of primary x-rays and the takeoff angles of detected fluorescence x-rays. Since the observed depth depends on the two angles, nondestructive-depth profiling is possible by changing the two angles in the GITXRF measurements. In this paper, the GIT-XRF method was applied to the analyses of Au-Si interface reaction and the surface oxidation of Fe-20% Cr alloy.
  • 試作と実験のノウハウ(II)
    富取 正彦
    1996 年 17 巻 6 号 p. 352-355
    発行日: 1996/06/10
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
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