中小規模現象,たとえば対流活動,地形効果などの影響を考慮に入れた大規模運動の数値解析,数値予報を実施するにあたっては,もちろん観測網の精粗によるが現在通常用いられている数百粁の格子間隔よりもさらに細い格子間隔を用いることが望ましい.それはまた切断誤差等などによる影響を消去することによって,大規模運動そのものを正確に記述する上にも必要であろう.
この研究はまずきわめて顕著な豪雨の発生しかける総観的状態を初期条件として,4層準地衡風近似の予報式を用い格子間隔の粗密による予報および解析上の比較を実施した.すなわち格子間隔を150粁とした場合と300粁にした場合について,24時間予報をこころみ,おもに両者の垂直流の分布について比較がなされた.格子間隔150粁の場合,垂直流の分布の一般的形相は格子間隔300粁の場合と定性的にはほとんど同様な分布を示すが,定量的には大規模運動にともなう気圧の谷の前後面の上昇流,下降流の大きさが後者の場合より大きい.また後者の場合にはとらえられない数百粁の中間規模擾乱が細かい格子間隔の場合にはとらえられる.なお細かい格子間隔を用いることにより大気下層の温位の分布の動静は地表の前線,この場合梅雨前線活動を表わす実測の水平温度傾度の動静とよく一致し,その対応はあらい格子間隔を用いた場合よりもはるかによい.
次に細かい格子間隔でとらえられた大気中層の中間規模擾乱の総観的状態について検討された.その中間規模擾乱は初期にはJet流にそううず度,温度の水平移流によって形成され,擾乱附近の気温は比較的冷たく,擾乱が東進する際,その擾乱の直下の700mb附近では南からの暖気移流によって比較的温暖であり,さらに地上附近には顕著な前線がある.その温度成層を安定度で示すと大気中層においては擾乱附近の安定度は他の地域に比し不安定,下層では安定である.
豪雨はこのような中層の中間規模擾乱と梅雨前線上面の上昇流と重合した地域に発生する状態を明らかにした.なお地表の前線活動と細い間隔を用いて予報された大気下層の温位の分布とは極めてよい対応がある.
しかしながらこの研究においては対流活動や大気境界層における物理量の輸送などの中小規模現象が考慮されてない大規模現象のみを取扱っている.将来上述したような中小規模現象を考慮に入れた細い格子間隔を用いることにより,さらに中間規模擾乱の物理的機構の解明,および予報精度の向上が期待されるであろう.
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