「粘性流体の解析力学」〔気象研究所研究報告第42巻51-63〕への補遺として、粘性流体内において粘性ストレステンソル及び流体の温度の対数の勾配が一定値であるような特定の運動形態を仮定した時、エントロピー増大法則
s=φにおいて散逸を現す状態量
φが存在することが示される。
前論文においてエントロピー流密度をエントロピー密度で割った量の時間積分として理論に導入された量
yはそれがフーリエの熱伝導法則を破るために不適切であることが示される。単位質量当りエントロピー流の時間積分及び歪みテンソルを
φが依存する変数とするのが妥当である。粘性ストレステンソル及び温度の対数の勾配がそれぞれある一定の値を保つような、特定の運動形態の集まりが存在することを仮定する必要がある。なぜならこの仮定が満足される場合にのみ
dφは完全微分となるからである。本論文で定式化される解析力学を厳密に適用できるのはこの特定の運動形態だけである。これ以外の一般の運動形態に解析力学を厳密に適用することは不可能である。粘性流体の運動が充分ゆるやかであれば、ストレステンソル及び温度の対数の勾配は分子衝突の緩和時間程度の間充分良い近似で一定値を保つとみなせるから、本論文で定式化される解析力学は、現実の流体のゆるやかな運動に対して良い近似となっていることが期待できる。しかしながら、上に述べた特定の運動形態が存在するという仮定を証明すること自体は将来に残された問題である。
地球物理学の分野においては、大気、海洋及び固体地球は全て散逸系であるから、解析力学を粘性流体のような散逸系に拡張することは地球物理学の進歩に貢献することであろう。
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