2, 6-ジフルオルアニリンの誘導体のなかには生物学的に活性をもつと期待される化合物があるが, その合成1ま容易でない。かって著者らの1人は, 発ガン性物質の合成研究の-環として3, 5-ジフルオルアニリンの4-位に
p-ニトロフェニルジアゾニウムクロリドをカップルさせ, 得られたアゾ色素を還元分解して2, 6-ジフルオル-1, 4-フェニレンジアミンを得, さらに4-アミノ-2, 6-ジフルオルアセトアニリドの脱アミノ化により2, 6-ジフルオルアセトアニリドをはじめて合成した。
いっぽう, きわめて最近Roeらは2, 6-ジフルオルアニリンの新しい合成ルートを報告している2) 。これは
m-ジフルオルベンゼンを原料とし, そのリチウム化物である2, 6-ジフルオルフェニルリチウムを炭酸化して2, 6-ジフルオル安息香酸とし, クルチウス反応を適用してそのアジドを硫酸中で分解してアミンに変えるものである。
著者らはこれと別個に, 2, 6-ジクロルベンゾニトリルを原料とし, そのフッ素化, ついで部分的加水分解による2, 6-ジフルオル安息香酸アミドの合成, さらにそのホフマン転位反応による2, 6-ジフルオルアニリンの合成について検討し, よい結果をえた。
Cl-CN-Cl→F-CN-F→F-CO
2H-F→F-CONH
2→F-NHCO
2CH
3→F-NH
2-F
原料の2, 6-ジクロルベンゾニトリルは除草剤として工業的に製造されており3), またそめハロゲン交換によるフッ素化も知られている4) 。著者らは2, 6-ジフルオルベンゾニトリルを60%硫酸と煮沸するとカルボン酸にまで加水分解されるが, 90%硫酸と70℃に加温するだけでは加水分解は部分的にとどまり, 定量的にアミドが得られることを知った。またこのアミドのホフマン転位反応も常法によって円滑に進行して収率よくアミンがえられ, このルートによる2, 6-ジクロルベンゾニトリルから2, 6-ジフルオルアニリンの通算収率は55~60%であった。なおホフマン転位をメタノール中でおこなわせると, 2, 6-ジフルオルフェニルカルバミン酸メチルがこれもよい収率でえられた。
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