有機合成における最大目標の一つは炭素炭素結合の生威反応であるといっても過言ではない。この目標達成のために既存の有機反応を組合せるのはたやすいことであるが, 一面既知反応の組合せに依存する以上, だれもが考えつき得るという懸念からまぬがれられず, 結局, 目標化合物の重要さが, その研究の価値を決めるということになりかねない。したがって, 有機合成を研究対象とする立場からは, 常に新しい合成手段を開発することが重要な意味をもつことになる。ここ数年をふり返ってみても, 光化学反応, 電極反応のような物理的手段を利用するもの, また, 遷移金属や有機金属化合物を利用する新しい合成反応など, 数多くの例が報告されている。一方, ヘテロ原子の反応特性を利用するC-C結合生成反応の研究も古くから盛んである。Mannich反応やエナミンの反応のように窒素原子を用いるもの, また, Wittig反応のようにリン原子の特性を利用するものなどが代表例であろう。ところで, 近年, イオウ原子の特性を利用しようとする試みが活発である。他のヘテロ原子の場合もそうであるが, イオウ化合物の特徴は, C-C結合の生成にイオウ特有の活性化作用が利用できること, かつ, 必要な反応が終了した後には, 活性化に用いたイオウを比較的簡単な手段で徐去し得ることにあるといえよう。本稿ではイオウ化合物を用いる有機合成のうち, 特にC-C結合生成反応に的をしぼって概観してみたい。イオウ化合物一般の分類にしたがって, スルフィド, スルホキシド, スルホン, スルホニウム化合物等に分けて紹介するが, 筆者の興味にしたがって選んだために, あるいは重要と考えられる研究例が落ちている可能性があることを, 最初におことわりしておきたい。
抄録全体を表示