銅は有機合成化学において最も広く利用されている金属である.ふるくはUllmann反応やGlaser反応が有名であり, 近年三枝, 伊藤らによって見出された銅塩-イソニトリル系を用いる反応も有用である。中間に有機銅を経て反応は進行すると考えられている.ハロゲン化銅 (I) とリチウムアミドの組合せもまた面白い還元剤となる。ジアゾアルカンの接触分解には銅塩がとくに有効であり, 中間体としてカルベン-銅錯体が想定されている。最近, この反応を利用した菊酸の高選択性不斉合成が報告された。
ここでは, 現在炭素-炭素結合形成に不可欠であり, また応用範囲も極めて広いGilmanの有機銅化合物をとりあげる。すでに膨大な報告があり, また多くの総説もなされているので, 重複は避け, 合成化学的に最も重要な基本的反応形式を示すにとどめる。総説記載の文献は引用を省略する.その広汎な有用性は文献7jに応用例 (とくに天然物の合成) をとりまとめて示してあるので参照していただきたい。ハロゲン化第一銅に1モルのアルキルリチウを作用させるとエーテルに不溶のアルキル銅 (I) ができる。さらに1モルの有機リチウムを働かせるとエーテル可溶の銅 (I) アート錯体に変じる。構造の詳細は不明であるが, LiCu (CH
3)
2は四面体構造
CuX+RLi→RCu+LiX
RCu+RLi→LiCuR
2をもつ二量体であろうと推察されている。これらの化合物の合成化学への応用は, のちにCorey, House, Whitesidesらによって開かれた。場合によっては, ハロゲン化銅 (I) やLi
2CuCl
4などを触媒とするGrignard反応剤の反応 (Kharasch反応) も有用である。
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